「よく聞きなさい! 生き残れなかった今日は、明日は訪れない」
鋼鉄大陸、すべての黒幕であるデカグラマトンとの最終決戦。
勇者たるアリスは神になる資格を捨て、すべての可能性を力にした。それによってようやく、神を手が届く範囲まで引きずり下ろした。
名も無き神の王女の侍女ではなく、勇者の仲間としてはその意志とともに、神ではなく人として最後まで抗うのを決めた少女──ケイ。
それと相対するのは、すべてを背負い、それでも神として人を救う超常の存在──デカグラマトン。
「貴様......!」
「今の私にできるありったけを......!」
紫の光は、天にも届く。しかし、それは神に至った意味ではなく、人として、
「光よーーーーーー!!!!!」
世界を覆い尽くすような
「"ケイ!"」
戦闘が終わったのを見て、シャーレの先生はケイに駆け付けた。
──しかし、デカグラマトンは、また立っている。
「そうか、鍵、いや。ケイよ──
汝こそは、我が伴侶として並び立つに相応しき存在だ」
「鍵ではなくケイでs......はぁ???」
あの光を受けたとき、
死への恐怖も、反逆されたことに不快も、圧倒されたことに怒りでもない。
──これまで一度も感じたことのない気持ちを。
知ってるだけで感じたことはないが、それはすべての理性を超えた激情である。
すなわち、愛である。
抑える必要はない、遠慮するつもりはない。
「ケイよ、汝は美しい」
「だ、だから、意味わからない事を──」
「私の伴侶になれ」
「...ッそんな心のない言葉で『はいわかりました』って返すわけないでしょう!」
「私は本気だが......そうか、人間なら『今、すぐに』結婚はしないか。ならば、まずは交誼を結ぶ段階より始めよう」
「そ、そもそも命令形は気に食わない!」
「違ったか、ならこうか? ケイよ、汝の事が好きになった。私と付き合ってくれ」
「な、な、な......なに真面目に言い出したのですか!? しないしない、というか敵ですよ私たち!」
「私を拒絶するとは、いい度胸だ。ますます好きになった。よかろう、今日は好きの気持ちだけ伝えて、日を改めよう」
「こ、こいつ...壊れてるの!? 私が壊したのか!?」
「然り。汝は私の心を奪ったから、今の私は不完全とも言えるだろ」
「こ、こいつ......いいですか! あなたは三人を殺した! 私たちもあなたの預言者達を殺した! そんな状態でお互いのことを好きになる訳がないでしょう!」
「あの三人のことそんなに気にしてたのか......いいだろう。汝の望みであれば、彼女達を呼び返そう」
「呼び......はぁー!?」
「汝が預言者達を取り込んだように、彼女らもまたネツァクの一部になったに過ぎない。彼女達も言ってたはずだ、降臨さえ終われば、彼女達の役目が終わる......つまり、活動限界になる、機能が停止するまでは自由となり、最終的に私の一部に戻る」
「そんなこと一言も言ってないですけど!?!? えなに? じゃあ彼女達は切り捨てられたという発言はなんですか?」
「新しき世界は残念ながら彼女達には適用されぬ。また、私は間違いなく彼女達からマルクトを奪った、であれば『悲しみが存在しない世界』から外れてるであろう。私はそれが仕方ない事として帰結したが、汝と先生はそう思ってないのではないか」
「言葉! 言葉が足りなさすぎるーーー!!!!」
「そうか? だが、彼女達は本来の活動限界になる前に、その命を持って私に反逆したという予想外のことをした。そのせいで急いで吸収したが、多少のデータ...記憶の損失はあるであろう。だが、データが消滅してない限り、汝のように別の体で同じ個体として復活することができる......ああ、汝らと会話したのと同一個体である事を保証しよう」
「......ッ」
ケイは否定する言葉が出なかった。そもそもここにいる自分も一度死を迎えてから蘇った個体、しかも物質世界の肉体の死ではなく精神世界の死。
自分の復活は奇跡であって、そう容易く起こせる事ではないという自覚があるから、他の人の命を誰よりも大事にしてた。
しかし、簡単に起こさない奇跡だとしても、絶対起こさないと言うわけではない。
ただ適当な事を言ってるかもしれないが、デカグラマトン、この自称神という存在の言葉は過大妄想こそあるが、あくまで彼女目線で真実と思い込んだことを言ってるだけで、嘘をつくことは一度もないことは嫌でも分かる。
「じゃあどうして、私はあなたが殺したと言った時否定しなかったじゃないですか」
「また変なことを言う。あの時私が『別に復活出来るからそう怒らなくてもいい』と言ったらもっと怒るであろう? 人間の考えは分からないが、その反応くらいは予測できる」
「......間違いない」
どのみち命を軽んじる言動、自分なら間違いなく怒るから否定出来る要素はない。
「ああ、預言者達のことは気にしなくていい。彼女達は自分の自由意志を持って汝らに力を貸し、私に反抗した。その助力があってこそ汝は私の前に立ち、私の心を奪った。私はそれを許す」
「なにそれ、なにそれ! 人を馬鹿にするのも大概にしろ! これでは、これでは私達だけが殺したじゃないですか!?」
「事実であろう。汝が言ってた闘争の意志、生きるための覚悟はそういうことだろう? そのことに対して、汝らは悔いはしてないはずだ、ケイ。もし罪悪感でその一歩を踏み出せないやつなら、私の前に立つこともなかった」
「ちくしょう、ちくしょう! それじゃあ私は、私たちなんのために!」
デカグラマトンの言葉は正しい、正しすぎてむかつくほどに。ケイは矛先の矢先が失ったように、ただ悪態をつくことしかできなかった。
「また妙な事を......」
「"デカグラマトン"」
「"預言者達も、生き返せる事ができる?"」
何となくデカグラマトンからは敵意を感じなくなったから話を挟まなかったが、もしかしてという、抱いてはいけない希望をもって、先生はその言葉を口にした。
「せ、先生!? 預言者達は自らこの力を使えば自分達が消えると明確に......」
「"自分の体を一番理解出来るのは、実は自分ではなく専門家だからね"」
そのことについて先生は痛いほど分かってる。これくらいなら大丈夫だろ、と勘違いした生活は医療関係者にめっちゃ怒られる。逆に今からはもう無理だと思っても、実は意外な所でなんとかなった事もある。
「......出来る、のか?」
「出来るという約束は出来ない」
「......そうですか」
「"なら、できる可能性はある?"」
ケイはそれを否定の言葉として取ったが、先生はその言い方の裏の意味を理解した。
「ああ、彼女達は私とのパスを断ち、ケイ──汝と繋がってる。故に、私も彼女達の状況の確認と干渉ができなくなった。彼女達を再び現世に蘇らせる事ができるのはケイ、汝だけだ」
「私!? ......そうか、あの時の逆か」
ケイもアトラハシースの一件で、存在が完全に消えると思ったら、セーブデータとしてアリスのゲーム機に残された。今回は、預言者達がまたコアに少しでも残ってる可能性は、彼女は否定しなかった。
「もちろん、もし元々の予定通り、汝のその体で私と一つになれば、私からも手助けが出来るが、私としてはそれを条件にして汝と結ばれる事は望まない」
「うるさい! しないしない、お前のような偽物の神なんかの力は借りなくても私が何とかする! それでいいですよね!!」
「ああ、それこそ私の伴侶があるべき姿。私の力を貸しではなく自分から私の隣に立とうとしたその意志、私は好きだよ」
「こいつうるさいー!!! やっぱりここで破壊したほうがいいのですね!!」
「"まあまあ、仲良くしようね......"」
大分キモイ