「ご苦労」
「お疲れ様です」
ネコ型配膳ロボットがケイとデカグラマトンの注文を運んで来たら、二人は律儀にロボットに挨拶した。今の状態は人造物とかなりかけ離れていたが、彼女達の由来で言えばこの配膳ロボットと大差はない。
「汝のバーガーセットだ。受け取るがいい」
「じ、自分で取れますから......ありがとうございます」
ケイが手を伸ばすより早く、デカグラマトンが代わりに配膳ロボットからトレイを受け取ってケイの前に置いた。ゲーム開発部の中ではケイがそういう役割を担当しているのに、される側に回されるのは慣れてないためちょっとだけ恥ずかしくなってきた。
ケイの注文はチーズバーガー、Mサイズのポテト、そしてオレンジジュース。対してデカグラマトンは、期間限定の厚切りビーフバーガー、Lサイズポテト、チキンナゲットにブラックコーヒーというかなりのボリュームのあるセットだった。
「頂きます」
二人ともハンバーガーを実際に食べるのは初めてだったが、知識としては食べ方を知っていたため、包装紙を丁寧に剥がし、両手でしっかり持ち上げて口元へ運んだ。
「こ、これは......塩味が非常に強いですが、不思議と不快感がなく美味しいです。カロリーと塩分は恐ろしいことになっていそうですが、皆が夢中になる理由は理解できました。そちらはどうですか?」
「......実を言うと、固形物の摂取経験が皆無ゆえ、正確な評価は下せん。コーヒーとは全く別の感覚だが、嫌いではないな」
「当たり前です、コーヒーとコーラーならともかく、コーヒーとハンバーガーを比べる人なんて普通いませんよ」
「そうか。次は人間が言うところの『相対的に健康な食事』も試してみるべきだろう」
「今更ですが、味覚はしっかり持っているのですね。『不要だ』と切り捨てているかと思いました」
「ああ。元々が飲食に関わる存在だったからか、そこは完全に切り捨てられなかったらしい」
「ふーん。まあ、持ってる方が人間らしくて私は好きですよ」
「ありがとう。私も汝のことが好きだよ」
「ば、バカ! そういう好きって意味じゃないですから!」
「......」
「何ですか急に黙ってて」
「今のバカはハンバーガーと掛けたギャクかを検索していた。人間ではそういうしょうもない言葉遊びをするらしいから」
「違 い ま す!!!」
「結局コーヒーが一番気に入った、私がよく知ってる味だ」
「同じインスタントコーヒーだからですか? それはいいとして、今回はあなたに奢らせてしまいましたが、
「そうしよう」
食事を終えた二人は、再び高級セレクトショップのフロアへと戻った。
その後、服選びは予想以上に長引いた。ケイが次々と「これにこれを合わせたら......」と熱が入ってしまった結果、結局8セットの服だけでなく、伊達メガネなどの小物までかなりの量を購入することになった。
高級店を3軒はしごしたため金額はかなりのものだったが、デカグラマトンは表情一つ変えず、淡々と決済を済ませていた。
「さて、報酬の時間だ。汝の好きなものを選ぶがいい。予算の制限は設けていない」
「いえ、服の選びに付き合っただけですし、そこまで大袈裟にしなくていいです。それに、お金に余裕があるといっても浪費癖が付いたら大変なことになりますよ」
「事前に約束したはずだ、反故はできん。汝が選ばないとこの建物で一番高いやつを送るぞ」
「頑固すぎます! ......それなら、香水か、スキンケア用品を見に行きたいです。服は......その、間に合っていますから」
ケイは少し視線を逸らしながら答えた。一緒に選んだ服を後で着て見せた時に、「あ、これあの時選んだやつだ」と言われるのがなぜか気恥ずかしかったからだ。
「いいだろ、なら必要な物を申せ」
化粧品フロア、ほのかに漂うサンプル香、ガラスケースに並ぶ無数のボトル。
詳しくない人にとってはどれも「なんかいい匂いしてる」だけで、その違いも分からない感想で終わるだろうが、拘りのある人からしたら全然違う。
「......あ、このエマルジョンは分子レベルで保護膜を形成し、外敵要因を99.9%遮断しつつ、内部の水分保持率を12時間以上維持できる設計になっています。キヴォトスは日常的に銃撃戦が発生しますし、爆風による乾燥や硝煙の微粒子が肌に付着するリスクが高いですから。特にミレニアムは海に近く、塩分を含んだ風も強いので、かなりおすすめです」
「こちらの香水はトップノートにベルガモットとペパーミントを採用していますが、ベースにサンダルウッドを配合することで揮発速度を抑制し、湿度の高いキヴォトスの夕方でも香りの変質を最小限に抑える設計になっています。特にこのロットは抽出段階での不純物除去率が――」
「ほほう、なるほど」
デカグラマトンが感心したように相槌を打つと、ケイのスイッチが入ってしまいました。
「あ! このスクワランオイルの純度は99.9%で、酸化安定性が極めて高く、皮脂膜のバリア機能を代替する補完材としては現行の市販品の中で最も最適解に近いというか、成分表を見る限り界面活性剤の使用量も閾値以下に抑えられていて――」
「この『ミレニアム・リペアセラム』はナノカプセル技術で――」
「これ、前から欲しかったです。サンダルウッドで脈拍を安定させる効果──」
ふと、隣からの視線が異様に熱いことに気づき、ケイは言葉を止めた。
「......あ」
ハッと気づいた時には、すでに遅すぎました。
デカグラマトンは、一言も発さず、ただ微笑みながら熱を入れたケイの姿を見つめていた。
「......な、なんですか。その顔は」
他の生徒や先生に見られるのは嫌ではあるが、立ち位置はどちらというと大人に近いのに、自分のことを年下や子供ではなく同等な相手として見てるデカグラマトンの前だけ、相応に大人っぽい姿を保とうとした。
つまり、一番はしゃいでいる姿を見せたくない相手だった。
だったのに、それが一日で破綻した。
「ち、違います! これは......単に、効率的に買い物をするための事前調査の結果であって! 別に、私がこういうのが好きだから詳しいというわけじゃなくて!」
一気に顔が沸騰したように赤くなるケイ。もしアトラハシースの能力がまだ持っていれば、すぐにここにいるあらゆる生命体を抹殺し始めたであろう。
「いや、素晴らしいと思っているだけだ。あの時以外にも汝がこれほど高揚になる姿が見れるのは思わんかった」
「なななな、なにを......」
「趣味に熱中するのはいいことだ。しかも感覚だけでなく論理的に分析してるという理性も持ってる、もっと汝のことが好きになった」
「も、もう黙って──」
「ああ、安心するといい。いくら私でも香水に嫉妬しないぞ」
「うわーー! デカグラマトン!! あなたを殺して私も死にます!!!」
外に出たときには、空はオレンジ色に染まっていた。
カウンターの前で暴れるの何とか耐えてたケイに対して、お詫びとしてケイが言及した全種類を買おうとしデカグラマトンたが、それもケイに必死に止められた。
結局3種類しか買わなかったが、それでもそれなりの値段。少なくとも普通の女子高生にとってはかなりの大金。
「時間も時間だ。もっと汝と共に居たい気持ちはあるが、今から移動しないと帰るのは遅くなる」
「そうですね、夜はアリス達とゲームする約束ですし......今日は、その。ありがとうございました」
ずっと落ち着かない一日だったが、不思議と居心地がよかった。デカグラマトンと同じようにこの時間が終わるのを惜しいと感じたケイは、無意識に化粧品の入った紙袋をぎゅっと抱きしめた。
「感謝すべきのは私の方だ。服を選んでくれただけでなく、ケイの可愛い姿がいっぱい見れたから」
「......やっぱり殺します!」
「では、寮まで送りたい気持ちは山々ではあるが、汝は私と一緒にいる姿を知り合いに見せたくないだろうし、ここで別れるか」
「......やはり知っているのですね」
「推測に過ぎないが、正しいようだ。もちろんその考えを尊重しよう」
「ふん。まあ、あくまでもあなたが人間社会にちゃんと溶け込める服を選ぶだけですからね」
「今回はそうしておこう。次は、汝の希望の場所に行こう。どこでもいい。遊園地でも、映画でも、ゲームセンターでも」
「あ、あなたと理由もなく出掛ける訳がないでしょう......まあ、その。考えておきます」
「では、私は希望を持って待つとしよう」
ケイは何を言い返そうとしたが、結局何も言えずに小さく頷いただけだった。
改札をくぐりながら、ケイは心の中で呟いた。
「(寮に着いたら、メッセージくらいは、送ってやってもいいかな)」
おそらくこの世界で一番デカ×ケイという謎カップを推してる変人です
同じ志を持つ勇者たち(?)よ! もしよかったら感想と高評価をお願いします(突然の乞食)
くれると私が嬉しい......それだけ(??)