自販機がケイにメロメロになった場合   作:十文字マトン

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14 今日の当番は天童ケイ

「"ではケイちゃん、今日よろ──"」

 

「ケイちゃんではありません......その前に一つ確認させてください。先生はいつもこんな環境で仕事をしているのですか?」

 

「"? そうだよ"」

 

「こんなゴミ屋敷に平然と住めるのは、私の知る限りでは先生とゲーム開発部、そしてリオ会長くらいのものですよ」

 

「"ケイちゃんの知り合いの、それもう半分以上を占めてないかな!?"」

 

「ふふん、こう見えても私は、すでに学校でたくさんのお友達ができましたから......って、先生、どうして泣いているのですか!?」

 

「"あのケイちゃんが......学校でお友達が!!"」

 

「大袈裟すぎです!! ......まあ、言いたいことは分かります......いえ、やはり泣くのはおかしいです」

 

 場所は、シャーレの勤務室。今日はケイが当番になる日。

 

 シャーレの当番は基本的に先生の業務を協力するのが仕事だが、当の先生はそもそも特定の仕事がないのに多忙という訳の分からない状態のため、生徒によって......正確に言うと日によって当番の内容が全く変わる。

 

 書類仕事が苦手な先生の代わりに事務処理を片付けることもあれば、有事の際の戦力として待機することもある。時には「先生のストレス解消」という名目で、ただ一緒にゲームをして遊ぶだけの場合もあるが、それらすべてが立派な「当番」の仕事として扱われていた。

 

 そもそも当番のスケジュールは先生の完全な独断で決まっており、シャーレ所属の生徒であっても必ず当番をしなければならない義務はない。それでも先生が交流を深めたい生徒とは、数回程度は呼ばれるのが通例だった。

 

 逆に、先生が「仲良くなった(先生基準)」と判断した生徒については、その後の近況確認だけですむようになり、呼ばれる頻度が大幅に減っていく。

 

 それは、先生が仕事が本当にやばい時以外は生徒の時間を奪うのを好まない──のは、一部の理由に過ぎない。

 

 実のところ、先生は生徒から好意を寄せられている自覚も多少あるため、本当に先生と生徒の境界線を越えないための調整......という噂もあったりなかったり。

 

 しかしキヴォトスでは「一線を越えた」としても法的にも倫理的にもセーフなのに、先生が頑なにそれを守ろうとする姿勢は、生徒たちからすると少々もやもやするのも仕方ない。とあるアリウス生徒の言葉を借りるなら、「釣った魚に餌をやらないタイプ」という表現が、先生を最も的確に表しているだろう。

 

 その中でもケイは、鋼鉄大陸で復活し、その後連続の戦闘を経てミレニアムに入学した生徒だ。鋼鉄大陸攻略戦の合間で多少話したことはあるものの、他の生徒と比べて交流はまだ少ない方だった。

 

 シャーレの当番に呼ぶタイミングはなくはないが、彼女に配慮して先生はまずキヴォトスを慣れさせるのを優先した。つまり、先生にとってはまだ「もっと仲良くなりたい」生徒の筆頭──他には、マルクト達デカグラマトン一行もそのリストに入ってる。

 

 そして、ケイの生活もある程度安定したと判断した先生は、彼女を当番に呼んだ。特に任せたい仕事があるわけではないが、困ったことや学校生活の状況を把握したいという意図の方が強い。

 

 しかし、シャーレに到着したケイは、先生の仕事環境に驚愕した。仕事の量でもなく、基本的に一人で使うには無駄に高くて広い建物でもなく――雑然と極まりないその室内環境に。

 

 一応先生のために弁明しておくと、ケイは「ゴミ屋敷」と言っているが本当にゴミが散らばっているわけではない。

 

 確かに先生が一人暮らしをしたら、食べ残しや空き缶が放置されているような環境に居ても平然と過ごすかもしれないが、すでに何回か怒られた経験があるため、その類の「ゴミ」は一応片付けられている。

 

 が、床の上には資料や書類、雑務に関するものが所狭しと積み上げられており、まるで小さな山脈のように連なっている。

 

 書類の山には「緊急対応用」「保留中」「参考資料」とラベルが貼られている。先生にとってはこれが「一番まとまっている」状態なのだろう。他の生徒も勝手に整理したら逆に迷惑になると考えて放置した結果、見える範囲では不快になるほどの乱雑さはないものの、整理整頓とは到底呼べない勤務室になっていた。

 

 しかし、几帳面なケイにとってこの状態は到底許容できる環境ではないため、シャーレに足を踏み入れた瞬間に「この環境をどうにかする」と心に決めた。

 

「先生。一応確認しますが、これは『ゴミ』ではないのですね?」

 

「"それは大事な書類!"」

 

「でしたらフォルダーに整理してください」

 

「"いやその、こっちの方が必要な時どこにあるのすぐ見つけ──"」

 

「フォルダーに、整理してください」

 

「"......はい。すみません"」

 

 先生は素直に頭を下げたが、その表情はどこか嬉しそうだった。ケイは小さくため息をひとつ吐き、目の前の書類の山に改めて向き合う。

 

「わかりました。では、私が整理します。先生はそこで座っていてください。動かないで」

 

「"え、でもケイちゃんだけ......"」

 

「動かないでくださいと言いました」

 

「"その、えーと"」

 

「......そうですね、では床の掃除でもしてください」

 

 ケイはきっぱりと言い切り、近くにあった空の段ボール箱を引っ張り出した。

 

 データの整理に関してはケイの得意分野、この程度の散らかりを整理するのは造作もない......はずだった。いざ手をつけてみると、この「書類の山脈」はデカグラマトンの預言者たちよりも手強いことが判明した。

 

「......先生。どうして『東マーケット再整備予算修正案』の隣にゲヘナの『給食部の今日の献立(試作版)』が混ざっているのですか?」

 

「"どっちも食べ物関係だから?"」

 

「......連邦生徒会での書類と他学園の書類を分けてください。そもそもどうしてこんな内容がシャーレに回されているの疑問が持っていますが、言えば社内機密です。他の学校のための手伝いとの扱いは違います」

 

「"うぅ......はい"」

 

「エナドリは箱のまま放置されてる理由は?」

 

「"すぐ飲めるからわざわざ箱からとる必要がないと思って......"」

 

 ケイは無言で段ボール箱を一つ引き寄せ、中を覗き込んだ。開封された箱が三つ並んでいて、それぞれ半分ほど残っている。

 

「では、複数箱にどれも微妙に残ってる理由は?」

 

「"足りなくなったと思って注文したらなんかまた残っていて......"」

 

 先生の声が少し小さくなる。

 

「先生......注文する前に残量を数えてください。いえ、そもそもなぜシャーレの勤務室にこんなに大量のエナドリが必要なのですか? 戦闘時に飲むものではありませんよね?」

 

「"いや、だって夜更かしで書類見てる時とか、集中力切れちゃうんだよ......"」

 

「他人の生活に口を出したくありませんが、エナドリで夜更かしは体に悪いですよ」

 

「"......ごめんなさい。以後、気をつけます"」

 

「聞き飽きました。反省しているなら、まずは棚の上にあるフィギュア達を棚に戻してください。趣味に関わる保管方法は流石に先生に任せます──」

 

「"ごめんケイちゃん! これはモチベに関わる大事な儀式なので、これだけ片付けるのやめて!!"」

 

「......なら、せめて種類で並んでください」

 

「"違う! これは同じ監督の作品で、こちらは同じ年分で上映したので、こちらは精神的な続編で──"」

 

「はぁ......先生って、もしかしてモモイと同じタイプですか?」

 

「"純粋な心を持ってるってこと?"」

 

「ポジティブさが致死量を超えています」




珍しくデカグラマトンの話ほぼ出てきてない
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