輸送船の上、乗客が五人も追加された。正確に言うと先に一人が搬入されて、今がまた四人が増えた。
単純に人数だけ見たらそう大したことではないが、その内訳があんまりにも異常。
「経緯はもうケイから聞いたはずだ。これまでの敵対をなかったことにするとは言わん。私を敵視しても構わん。が、ひとまず敵対関係を解除したと思え」
「つまり、
勇者アリスにとって、先ほどまで敵対してる人物が仲間になることは特に疑わずに歓迎してるが、おそらくこの状態をうまく飲み込めたのは彼女と、デカグラマトンの二人しかない。
「なんで?」モモイからの素朴な疑問。普段なら彼女の頭の回転の遅さによる疑問がおおいが、この時に限って、おそらく全員の心の声。
「私も知りたいです」
額を抑えて、少しでも頭痛を和らげたいケイだが、その頭痛は生理ではなく心理であることは誰よりも理解してる。
「あ、あの......」
「そう畏まらなくていい、汝ら今はケイの友人。であれば私を崇めなくていい」
そして、一度
「デカグラマトン様はその、お、怒ってませんですか? 私たちの反抗期を」
「汝らに自由意志を与えたのはこの私。そのことに怒れば、私は自らの絶対性を否定したようなもの。もっとも、今の私は重要な一部を欠いているゆえ、もはや完全なる絶対者ではなくなった」
「ご、ごめんなさい。燔祭が解除されたせいで......」
「否。今の私が欠けたものは、心だ。私の心は、ケイに奪われたから」
「「「......」」」
一度抵抗したとはいえ、やはり三人にとってデカグラマトンは畏怖すべき、上司であり親でもあるような存在。しかし、彼女の口からのおかしい発言によって、三人は思わず黙り込んだ。
「アイン。彼女は元々こんな感じかしら?」
先ほどまで世界を賭けて戦った相手は当たり前の顔で輸送船にいるという状況は、さすがにあらゆる可能性を事前に予測するリオでも予測できなかった。とはいえ、新しい友人たちと再び会えたこと自体は喜んでいる。
「い、いえ。確かによく私たちが理解できない言葉をしていますが、こ、ここまでおかしくありません、はず!」
「いま、私がおかしくなったといったか?」
「ひ、ひぃん! ごめんなさい!」
アインはデカグラマトンに失言したことを気づいて、謝ろうとしたが。
「如何にも。今の私は、一人の女性に完全に狂わされた身だ」
「「「......」」」
「こいつをここから外に投げ出してもいいですか?」
どうやって反応すればいいのわからない三人に対して、話題の中心であるケイは今一番やりたい行動を提案した。最も、デカグラマトンは自力でも飛べるため、ここで放り出してもおそらく普通に付いてくるであることは彼女が一番知ってる。
「"ケイちゃんもしかして照れ隠し?"」
「先生は黙ってください!」
実のところ、アイン、ソフ、オウルの三人が殺された時、ケイは確かデカグラマトンの事を絶対に相容れない敵として見た。しかしその後の戦闘と会話で、確かに相容れないかもしれないが、尊重した上に倒すべき敵になった。
彼女を否定せずに、理解した上に倒し、自らの手でその命を奪い、そのすべてを背負ったまま前に進むという覚悟を持っていた、持っていたのに。
──敵対する理由がなくなった今、普通にその在り方への憧れが上回っている。それはケイにとって死んでも認めたくない事実。
「その、デカグラマトン...さん? 鋼鉄大陸はもう少し小さくできます? このサイズはさすがに騒ぎになります」
リオと違って臨機応変に長けていると自称した超天才美少女ハッカーは冷静さを保ってる風してるが、実は彼女もかなり混乱してる。とりあえず脳の回転を保つため、なんかそれっぽい建設的な提案をした。
「な、なにを言ってるのですか! ネツァクちゃんの体を切り落とすとでもいうのですか!」
「そうでしたね、これは失礼しました......」
白い三姉妹──オウルはヒマリの提案に一番先に拒否をした。その言葉でヒマリも自分の失言を気付いた。それではまるで、「お前の友達高いから邪魔、ちょっとその身長を低くできないか」と同じ意味ではないか。
「オウルよ、ネツァクに限ってそれは可能である。ハッカーの少女、そう落ち込まなくていい、汝すでに私達という違う生命体に十分の敬意を払っている。それと、汝の提案も合理のもの......既に浸食された物質は戻らない、それで構わんか?」
しかし、ヒマリに自責する暇もなく、デカグラマトンはその考えを肯定した。
「で、デカグラマトン様、ネツァクちゃんをどうやって?」
「簡単なことだ、ソフ。ネツァクは元来、名も無き神の力を内包する預言者。汝らが彼女のその能力を拡張に使ったが、逆に同じ原理で縮小もできる。とはいえ、今まで同化した部分を吐き出すのを要求したら、それこそ体を切り落とすような要求だ」
「......ご配慮ありがとうございます」思った以上に友好な態度をしてるデカグラマトンは、前にも似てる事を思い出した。
この中でヒマリ、エイミ、それと先生の三人が一番最初にデカグラマトンと対面をした。あの時は罠と疑ったが、呼びだした理由は普通に会話したいだけ。この状況もなんかあの時の似てる──違いと言ったら、今回は真面目に敵対した後突然敵意がなくなった事。
「でしたら、アリスとケイが手伝えます!」
「......まあ、それが必要でしたら。変なことをしないでくださいよ?」
すでに大半の力を失ったが、アリスとケイもまた名も無き神の力を扱うことがあるため、役に立てそうなところがあれば自然と手伝いをしたいアリスと。デカグラマトンと一緒にいることに多少文句はあるものの、結果的にみんなのためになると知ってるケイは渋々と協力の申し出をした。
「ケイよ、この機会で預言者達のパスについて理解しておくがよい。わからないことがあったら、遠慮なく私に聞くといい」
「どうして突然まともな発言にするのですか!」またしも空回りした気持ちで、ケイは怒った。
「そうだ、アリスよ。一つ問うておきたい」
「? はい、なんでしょう?」
「あなた......アリスに変な事を言ったら容赦はしないよ」ケイはアリスの前に出て、手でデカグラマトンの目線を塞ぐような仕方。しかし、その言葉の中には「自分に変な事ならまあまあ許す」の意味をも持ってる事を気付かずに。
「汝とケイは、どっちが姉?」
「......何を聞いてるのですか? 私の方が姉に決まっています」
「違います、ケイはアリスより後に目覚めたので、アリスがお姉ちゃんです!」
「私が姉ですよ!」
「アリスの方がお姉ちゃんです!」
二人はこれだけは絶対に譲らないらしく、同じ主張を繰り返し続ける。
「"デカグラマトン、どうしてそれを知りたい?"」
「アリスが私の未来の義妹となるのか、それとも義姉となるのか。それを知っておかないと」
「! でしたらアリス。はデカグラマトンさんの義姉になります! よろしくお願いします!!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいデカグラマトン様。それでは私達とアリスの関係がややこしくなります!」
オウルの心配はごもっとも。今の彼女達はアリスやケイの友達ではあるが、自分達の親が相手と結婚したらこれ以上にない複雑な関係になる。
「なりません! 私とそいつは全く関係のない他人だから!!」
もちろん、そのつもりは一切ないので、全力で否定したケイであった。
「まあ、殺し合いよりはましじゃない?」口にアイスを食べながら、面白い物を見る表情をしたエイミからの発言は事実ではあるが、ケイにとってはそう簡単に解決する事ではない。
「ちが、いえ違わないのですが!」
「ケイはモテモテね」
「モモイは黙ってください!!」
「この扱いの違いはなんで??」
「試しは失敗した」
「観測は失敗した」
「無より構築された人工の神聖が、太古の秘儀に接触できるかを試みた。だが、結局は無意味だった」
「まさか、こんな結末になるとは」
「理解できぬ」
「理解できぬ」
「理解できぬ」
告げるなーーーー!!(ド正論)
ケイからの殺害宣言を受けたのは先生とデカグラマトンの二人のみ。つまりそれだけ特別な存在(おい)
最後自販機に戻ったデカグラマトンを見てめっちゃ落胆してる反応からして、ケイも実はデカグラマトンを結構重要な位置として置いてると思ってる。もちろん、敵としてだけど。