「あ、やば、予鈴鳴っちゃった。じゃあケイちゃん、また後でねー!」
「ま、まあ。またね」
天童ケイは今、ミレニアムサイエンススクールという学校にいる。
鋼鉄大陸の一件から、すでに一週間が過ぎた。
リオと先生の努力によって、ケイ、マルクト、アイン、ソフ、オウルの五人が正式にミレニアムに転入した。流石に数が多いため、全員が同じクラスにはなれなかったが、とりあえず生活は当分安定になった。
ケイ自分がKeyであった時を含めて、活動期間がいつも激動であったことを思い出した。
宿っているディビジョンシステムの電源がギリギリの時アリスとモモイに遭遇し、モモイのゲーム機に移動した──あれはあと数分遅れたら、そのまま閉じこめられ。電源が復旧されたり、別の人間が保存できる媒体を持って直接接続しない限りそこから一歩も動けなくなる。
その後、不可解な軍隊の活動再開を察知したケイは、ゲーム機からアリスに移動して、アトラハシースを起動しようとしたら、結果的にシャーレ一行に阻止され、アリスの中に封じ込められた──もし成功したら、アリスが名も無き神となって、今の人格と存在が完全消滅すると後から知ったから、あの時はシャーレに助けられたかもしれない。
エリドゥの一件が終わって間もなく、空に正体不明の敵がアトラハシースの権能を使って侵攻してきた。ケイはアリスと一緒にフルパワーの光の剣でそのバリアを破壊するも、ウトナピシュティムを使用した代償として消滅した──辛うじてセーブデータを残してなかったら、そこでケイの物語は終わっていた。
そしてデカグラマトン......正確に言うと、アイン、ソフ、オウルの鋼鉄大陸計画を阻止するために、審美眼に難のあるリオの手によって自分はAMASの機体で復活させられた。今見たらちょっと愛嬌のある形をしてるが、それはあくまで第三者目線前提、中に入れられたのは屈辱そのもの。とはいえ、一度消滅してから復活できたのはケイにとっても初めてのためし、まさに奇跡と言える出来事。
それからマルクトによって機体は大破したが、なんとかデカグラマトンが作った肉体への転送に成功。そしてデカグラマトンとの決戦で、「なりたい自分」に再構築し、最後はすべての力を振り絞って、あの自称神を打倒した。
その後の事はあまり思い出したくないので、無理やり回想を終わろうとしたケイだったが、どうしてもあの光景が脳裏をよぎる。
「(ッ~~~~あのバカ!)」記憶を脳から追い出すように、ケイが頭をプルプルと横に振った。もちろん、全く効果はなかった。
今のケイにとって、転入早々の学園生活はそれなりに忙しい。とはいえ、これまでの経歴に比べれば、まさに平和そのものだ。
アリスと別のクラスになったけど、他の友人もできていた。あのお節介な大人がたまに心配のメッセージを送ってくるのと、もっとしつこいやつから毎日の朝と夜にメッセージが送られる以外、特別なことは起きなかった。
ケイが次の授業を確認したら、それは物理基礎だった。彼女にとってこのレベルの授業はすでに習得済みだが、知ってる内容でもしっかり聞くのが学生としての義務と思っている。そのため、どんな授業でも真面目に聞いている。まだ一週間とはいえ、ケイはすでにクラスメイトから模範生として扱われている。
そうして過ごすうちに、授業そのものがどこか楽しく感じ始めていたケイだったが......どうやら、今日は一味違うらしい。
ドアが開けられて、講師が入ってきた。毎日繰り返している光景だったが、他の生徒たちはなぜか黄色い悲鳴をあげた。
「キャー!? え、待って、誰!? 超タイプなんだけど!」
「男の人!? 先生以外にもいるのですか!?」
「スタイル...良すぎ!」
入ってきたのは、180センチ以上にある高身長の人物。真っ白の肌と対照的に、上品な漆黒のスーツがその長い脚を優雅に強調している。それから白のショートヘアに、不思議の紋様をした金色の瞳。そして何より目立つのは、その中性的、やや冷たそうな顔立ち。
ケイもまた息を飲んだ......他の生徒と全く違う理由で。
キヴォトスの講師は、当然ながら大人が担当している。山海経では生徒も教官を兼任することがあるらしいが、ミレニアムではそういう制度はない。
この世界の「大人」と言えばロボ市民やケモ市民。例外であるシャーレの先生が存在してるとはいえ、彼は先生という身分でありながら他の業務で多忙だから、基本的に授業することはない。稀に授業するとしても、特定の学校に偏るのを避けるために固定ではなく偶発的。
つまり、言葉を選ばずに言えば、これまでの講師は生徒たちにとってあんまり魅力のない姿をしている。
そこで、突然の美形講師が教壇に上がったら、生徒たちが大騒ぎになるのも無理はない。
「(ハァーーーーー!?)」
そして、ケイは全ミレニアムに響き渡るほどの音量で叫びたい衝動を、必死に抑えた。
なぜなら、そこに立っているのは──
「騒がしいぞ。私は今日から汝......君たち。いや、くどいな。汝らの講師となるデカグラマトンだ。【博識】の学位を保持している故、デカグラマトン教授と呼ぶといい。物理基礎以外にも何個かの科目が私の担当になるが、その時はその時だ。何か質問があれば申せ」
そう、なんと今日の講師は、ケイがよく知っている人物。
一週間前に自分にプロポーズをして、今日の朝も「おはよう、私の愛したケイよ」などという気色の悪いメッセージを送りつけてきた張本人だった。
「(どどどどうしてこいつがここにいるのですか!? 学校まで追ってきたの!!? うそうそうそ!)」
不意に、スーツ姿のデカグラマトンがもう一度視線に入ったケイは、自分の心臓の鼓動が速くなったのを感じた。
それは自分が安全と思っていた居場所に侵入された時の緊張によるものであって、決して髪型と服装を変えたデカグラマトンがちょっとかっこいいと思っている訳ではない。と、ケイは誰に対してかも分からない言い訳をしている。
「声的には女性...? でも喋り方もかっこいいぃ!」
「教授、他の科目も担当してるのですか!」
「その時はその時と言ったはずだが...まあよい。化学基礎、生物基礎、地学基礎、物理、化学、地学をすべて担当するが、このクラスだけではないから全部が私になる訳ではない」
「そ、そんなに!? 天才なの!?」
「【博識】って、上から数えた方が早い学位じゃなかった?」
「私にとっては造作もないことだ。本来なら【全知】を取るつもりであったが」
「そんな学位いたっけ...?」
次々と飛ぶ質問の中、ケイだけの居心地が最悪と言える。
自分ではまったく興味はないが、どうやらクラスメイト達がデカグラマトンを歓迎している事は、ケイも認めざるを得ない。そこで、もしここであの自称神が変な事を口走れば、自分の平和の学園生活が一瞬で粉砕されるのは考えなくてもわかる。
良ければ質問責め、運が悪かったら一生ネタにされ、最悪の場合イジメを受ける事さえあり得る。
「はいはーい、デカグラマトン教授! 今は何歳ですか!」
「学校と関係ない質問は控えろ」
「は、はぃ!」
「あの、最近転入したマルクトさんとどんな関係ですか? あ、別のクラスの生徒ですけど」
「学校と関係ない質問は控えろと言ったはずだが......まあ、親族のようなものだ。これ以上詮索するな」
しばらくしたら、ようやく生徒達が落ち着いてきた。
「では授業を始める。前の講師から進捗は聞いているが、まずは汝らの理解度を確認させてもらおう。座席順に簡単な質問をする、答えられずとも構わん。成績には反映しないと約束しよう」
「「「はーい」」」
「では九条、力学的エネルギー保存の法則が成り立つ条件を言え」
「はい。摩擦や空気の抵抗がなくて、保存力だけが仕事をする場合です」
「完璧だ、座れ。一ノ瀬、作用・反作用の法則の力が相殺されない理由は?」
「えっ、されないんですか?」
「理由は作用と反作用は必ず別々の物体に働くから、座れ」
「あ、そういう理由ですね。ごめんなさい」
「分からなくても構わんと言った。では次──」
クラスメイトが心なしが嬉しく答えている中、ケイだけが全身が痒い感覚に襲われている。
知り合いが知り合いにメロメロにされていることからの羞恥なのか、自分の番で変な呼び方をされるのではないかという不安なのか、おそらく彼女自身も分からない。
ケイは突然に、自分の髪が乱れていないかを確認したくてたまらなくなった。しかし座席は割と前の方なので、ここで変な動きは出来ないと諦めた。
「次、
そして遂に、ケイの名前が呼ばれた。
「ッ、はい!」
「(天童!? 今、天童って呼びました! いえ、苗字で呼ぶのは普通なのですが、何なのですかこのモヤモヤする感じは!!)」
そう、きっとまだ天童という苗字に慣れていないから。と自分を納得させたいケイだが、他の生徒にそう呼ばれた時は平常心を保てるからその言い訳が通じないのは、彼女自身が一番よく理解していた。
「光が粒子としての性質と、波としての性質を併せ持つことを何と呼ぶか」
「......『波粒二重性』です。それを証明する現象としては、光電効果、あるいはヤングの干渉実験などが挙げられます」
「完璧だ。補足までは求めていなかったがそれも正解だ。座れ。では次──」
「......」
「(え!? それで終わり!?)」
めっちゃ心を構えていたのに、ごく普通の生徒として接された事にむしろどういう感情を持てばいいの分からないケイであった。
ケイちゃんは曇らない程度のモヤモヤがお似合い
逆TS...ではなく、中身は普通に女性体型。
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