自販機がケイにメロメロになった場合   作:十文字マトン

6 / 17
体調不良でケイに介護されるという神シチュエーションが出来ないということを気づいて、何とかできないかを考え出す作者


6 謎のアプリ「10チャット」

「チャイムの一分前だ。もうすぐ汝らの自由時間ゆえ、授業はこれで終いとしよう。次からは本格的な講義を始める。その心に刻んでおくがいい」

 

 チャイムが鳴る直前、授業中のデカグラマトンは唐突にそう宣言し、自ら片付けを始めた。日直の生徒が手伝おうとしたが、彼女の手によって制止される。

 

 そしてデカグラマトンの言葉通り、一分後にチャイムが鳴ると、彼女は一秒も足を止めることなく教室を去った。

 

「ちょ、教授! 待ってください!」

「もっとお話聞きたいですー!」

 

 数人の生徒が廊下まで追いかけようとしたが、扉を開けた瞬間にはもう誰もいなかった。

 

 デカグラマトンが去ったことを確認したケイは、ようやく緊張から解放された。同時に、なんとも言えない感情が湧き出した。

 

 ──デカグラマトンの授業、普通に上手かった。

 

 言葉遣いはどう見ても講師のそれじゃないのに、説明の流れは無駄がなく、核心を突くポイントを的確に押さえてくる。しかも適切なタイミングで雑談や豆知識を挟むことで、生徒たちの集中力をコントロールしていた。

 

 その授業は、すでに内容を知っているはずのケイにとっても面白く感じ、思わず聞き入ってしまったほどだ。しかし数分ごとに、ふと相手が誰かを思い出しては警戒モードに戻り、そしてまた変哲もない授業に聞き入れる......というループ状態。そのせいで普通の授業よりも何十倍も体力を使った。

 

 しかし、蓋を開けてみればその警戒は全くの無駄だった。

 

 デカグラマトンは授業中ありえない程真面目だった。ケイを特別扱いすることも、不適切な発言をすることも一切ない。かといって露骨に無視するわけでもなく、質問タイムで皆がメモを取るのを待つ間など、何度かケイと目が合うこともあった。

 

 主観的にも客観的にも、自分を「普通の学生」として扱われたことで、ケイはまるで「たまたま知ってるやつと、顔と名前と声と言葉遣いが同じだけの他人」が講師をやっているのではないかとすら思えてくる。

 

「ケイちゃん! 新しい講師、めっちゃかっこいいよね!!!」

「呼ばれたとき、マジでドキッとしたんだけど」

 

 そして、ケイと同じクラスの友達もやはり、デカグラマトンの話題に夢中になった。

 

「そ、そうですか? 私は別に興味ないですけど? 確かにちょっと顔がかっこいいだけで、服装のセンスがそれなりに良くて、声がまあまあ聞きやすくて、動作にも無駄がなくて、授業が少しだけ上手かもしれませんが。私は全然、興味なんかありませんよ」

 

 ケイは頑張って言葉を選んで返事した──本当に相対的に興味がないとはいえ、講師として見たら確かに優秀ではある。ここで変に反論とかしたら不正当な評価になるし、逆に周囲から不自然に思われるかもしれない。そうして絞り出したのが、先ほどの内容だった。

 

 もちろん、その言葉はどう見ても興味がない人からの発言ではなかった。

 

「おお、これは......」

「うむ、これ以上言うのは野暮ですね」

 

 友人の二人が、意味深に頷き合っている。

 

「? な、何ですか? あの生温かい視線は?」

 

「なら、私はサポートに回しますか。推しと推しのカップは王道ですからね」

「おけ、私も乗った。まずはデカグラマトン教授の連絡方法をゲットしよう」

 

 と、ケイを置き去りにして、二人は作戦会議を始めた。

 

「でもプライベートを大事してるらしいですね、交換してもらえるかな~」

「あ、いいこと思いついた。次の授業でデカグラマトン教授をクラスのグループに誘いましょう! 業務連絡のためと言えば彼、彼女? も拒絶しないはず! どう思いますかケイちゃん?」

 

「え? い、いいと思いますよ。かなり自然の流れでモモトークを交換できると思います。でも、その後個人的にフレンド申請が通るかどうかは分かりません......私は全然、フレンドになるつもりなんてないので関係ありませんけど」

 

 確かにモモトークはフレンドはなっていない。が、すでにデカグラマトンと直接連絡する方法を持ってることは、この地が鋼鉄大陸に浸食されたとしても、ケイは絶対絶対言わないことにした。

 

「ガード固そうだもんね、教授」

「そもそも、すでに彼女がいたらどうしよう? まずは偵察から始めるか?」

 

「(あいつが()()彼女が出来る訳がないですよ)」

 

 話の内容を心の中でツッコミながら、ケイは鞄の奥底にある、あの「専用端末」の存在を意識し始めた。

 

 鋼鉄大陸の一戦で、キヴォトス最高峰の天才二人が手を組んでも、物理的な制圧しないとハッキングが不可能と言われた。そこだけでも、デカグラマトンの技術力の高さが窺える。

 

 その本人が特定の相手のためにわざわざ作った専用端末となれば、もちろん意味不明なくらいの高スペック──例えば、外見とOSが好みの型式に変更出来るという謎の機能。間違いなく正当なルートでライセンスを貰ってないから、どう見ても非合法。

 

 とはいえ、その機能のおかげで普通のスマホに偽装できるから、普段から使ってもいいという点では役に立つかもしれない......が、どんな機種に変換しても、アンインストールできない「10チャット」という謎の専用チャットアプリが存在している。

 

 それを目にするだけで本人の存在を思い出すという理由で、ケイは必要の時以外その端末を触れないようにしていた。

 

 ──と言いつつも、ケイは毎日寝る前と目覚める瞬間、必ずメッセージを確認しているし、その端末も常に持ち歩いてる。トイレに行くときですらポケットに忍ばせている。「これは重要な連絡を見逃せないために!」と、ケイは毎回自分に言い聞かせていた。

 

「あ、かのぴっぴから連絡きた。ちょっと失礼~」

「私も他のクラスの友達に自慢しようっと。あーあ、写真を撮ればよかったのに」

 

 と、休憩時間がまた残っているのに、ケイは一人の時間が出来てしまった。

 

 普段ならアリス達に連絡するか、次の授業の予習をするか、あるいはネットやショッピングサイトを見るところだが、今のケイはある事をしたくて仕方がなかった。

 

 気づけば、手が勝手に例の端末を鞄から取り出して、慣れた手付きで10チャットを起動していた。

 

「(あいつのことですから、ぜっっったい何か変なメッセージを送ってくるに決まっています。あ、あんまり見たくはありませんが、一応何を言ってきたのか確認しておかないと......)」

 

 必死に言い訳をしながら、ケイは周りから注目されないのを確認してから、恐れ恐れと端末の画面を覗いた。

 

 そこには──新着メッセージ、なし。

 

 一番下にスクロールしても、今朝送ってきたキモいメッセージしかない。

 

 一度アプリを落として再起動しても、その画面は全く変わっていない。

 

 回線不良と疑っても、この端末は普通の電波がない鋼鉄大陸でさえ正常に作動できるため、その可能性は皆無。

 

「(もーー! 何なんですかあいつ!!)」

 

 予想を裏切られた怒りと、なぜか胸の奥に名状しがたい気持ちになったケイは端末を雑に鞄に投げ捨て、急いで教科書を取り出して勉強してるふりをした。

 

 が、文字が全然頭に入らない。

 

 そして、次の授業。

 

 この時間は有人の講師がなく、個人でBDを使って勉強するという自習に近いが、これはキヴォトスによくある授業形式。

 

 当然ながら、生徒たちは先程の熱量が収まれず、むしろ講師が居ないからもっと熱烈に「討論」した──私語の代わりに、みんなが授業ではなくスマホに夢中になっている。

 

 ケイは周囲とは違い、スマホには触れず、両目をしっかりと目の前のモニターに向け、映し出される映像だけを凝視している。いつも通りの優等生らしい振る舞いだ。

 

 しかし、その内容がまったく頭には入ってなかった。

 

 それは、ケイが「生徒」としてこの学園に入学して以来、初めて経験する「不真面目な」授業時間だった。

 

 そしてそのことについて一番信じられないのまた、ケイ自身であった。




デカグラマトン「そうだ、アプリの名前は10Keyしたらどうだ」
オウル「ちょっとその、嫌かも?」
デカグラマトン「そうか、汝は正しい。彼女はもうKeyと呼ばれたくないからか」
ソフ「おそらく問題はそこじゃないと思います」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。