自販機がケイにメロメロになった場合   作:十文字マトン

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気にしてませんけどね!


7 別にメッセージが来なくても全然気にしてませんけどね

 放課後、モモイたちから「宿題やってないから拘束された」という連絡が来た。ケイはため息をつき、若干「むしろ丁度いい」と思いながら自分の部屋に戻った。

 

 ベッドに腰を下ろし、もう一度専用端末を取り出す。

 

 一番下までスクロールしても、やはり新着メッセージはなかった。

 

 端末を操作して、チャット欄でなんか入力しようとしたが、何を書けばいいのわからない。

 

「『どうして急に講師とかやり始めたのですか? 先に知らせて欲しかったです』は、ちょっと詰め寄りすぎでしょうか? そもそもあいつは何をやっても私に報告する義務がないですし」

 

「『もう放課後なのに、どうして連絡してくれないのですか?』......って、別にまったく関係のない他人だから、連絡しない方が自然ですよね」

 

「『今日の授業は悪くなかった?』とか? いやいや、私は生徒であいつが講師。生徒から講師にこれを送るのはいくら何でも調子に乗りすぎている」

 

「『新しい服が似合っています』とか? ......突然これを送ったら、私があいつと同じレベルになってしまうじゃないですか!」

 

 何度も入力しては全消去を繰り返し、結局自分のことバカバカしく思え始めたケイは端末をベッドに投げ捨て、そのまま枕に顔を埋める。

 

「なによ......もう私に興味なくなったってこと? べ、別にいいですけど?」

 

 自分に言い聞かせるように呟いたケイの声は、明らかに震えていた。

 

 どういう感情がわからず、枕を強く抱きしめながら、授業中の光景を思い出した。

 

「ふん、なによ......ムカつく」

 

 そう言いながらも、ケイは思わずある妄想を始めた──もし、デカグラマトンがみんなの前に自分にプロポーズしたら......

 

 ピコン。という音でケイはベッドから飛び起きた。

 

 慌てて端末を拾いなおしで、画面を見ると、待ちに待ったデカグラマトンからのメッセージが届いていた。

 

『時間的にはもう放課後か? 少し早いが、真面目に授業を受ける汝も美しかったぞ』

 

「......ふふ。なによ、気持ち悪い」

 

 口ではそう言いながら、ケイの頰は緩んでいた。自然と指が動き、先ほど何度も消したメッセージをもう一度打ち込む。

 

『講師になるのは聞いてません』

 

 何気にケイはこの端末貰ってから初めてメッセージを送った。前までは基本的にデカグラマトンが一方的送られて、ケイがそれを既読無視するという流れ。

 

 ほぼ瞬間でデカグラマトンからの返事が来た。

 

『昨日までは未確定だった。博識の学位取得に多少の障害が発生した。もちろんセミナーの方』

『組織としては優秀な人材がいたらすぐにも招くのが合理なのに、なぜ意味不明な事を繰り返すのは理解できん』

 

 デカグラマトンの事だから、書類が全部大人しく書いてもその内容がいたずらと思われそう。その光景を想像したケイは小さく笑い声をこぼした。

 

『講師になるだけならセミナーの許可だけでいいはずでしょう。どうしてわざわざ教授になったんですか?』

 

『講師になるのは了承したが、ただの講師になるのはいくら何でも不敬すぎる。せめて教授という多少上の身分を貰うべき』

『【全知】の学位は一週間では取得できなかった。欠陥のあるルールだ』

 

 全知と言えば、ミレニアム史上でも三人しかいないという学位。今のミレニアムでいうとヒマリがよくその学位を口にしているが、珍しさも相まって知名度が低く、そのせいで周りからはヒマリの自称した学位と思われていることすらある。

 

『ふーん。まあ授業はそこそこ上手かったと思います』

 

『私を誰だと思ってる? これくらいは造作もない』

『クラスの生徒があと10倍になっても管理できる』

 

『平面教室でその数は物理的に前が見えなくなるでしょう』

『BDとは違うんだから』

 

 そんな他愛もないやり取りを続けているうちに、ケイの心は少しずつ落ち着いていった。そして、勇気を振り絞るように、最も聞きたかった質問を打つ。

 

『授業中、どうして私に声を掛けなかった?』

『いいえ、指名自体はしていましたが。なんというか、特別扱いをしなかったというか』

 

 送信した瞬間、猛烈な後悔が襲ってきた。

 

『今の、忘れてください』

 

 いくら何でも自意識過剰だと感じたケイは、耳が熱くなった。慌てて撤回しようとしたが、10チャットにはそんな機能はなかった。

 

「何ですかこの欠陥アプリ―――!!!」

 

 今からネットを切断したら間に合うか? いやそもそもこの端末はネット使ってないから無理。そうわたわたしていると、デカグラマトンからの返事が来た。

 

『意味不明な質問だ』

『私の使命は講師。汝の使命は生徒』

『であれば、その時間は汝を一生徒として扱うのは当然であろう』

 

「......このバカ自販機」

 

 その返事を見たケイはようやく思い出した、この自称神は必要以上に役目や使命などに拘っている事を。神になるのを決めたデカグラマトンがどれほど偏執的であるかは、彼女が一番知っているはずなのに。

 

『汝に愛を語る気持ちは山程あるが』

『講義中にそれを行えば、汝の学園生活を破壊しかねん』

『汝が改変を嫌うことは理解している』

『それで私の支配を拒んでいるであろう?』

 

『あなたが講師として現れた事自体が、私の普通の学園生活を壊していると同じ意味ですよ!』

『それと愛とか普通にキモイです』

 

『案ずるな。単に新しい講師が増えたと考えればよい』

『私も汝を普通の生徒として接する』

『無論、汝の愛らしさを一瞬たりとも忘れることはない』

 

『最後のは余計なお世話です!』

『それにあなたを単純に新しい講師として扱うのは』

『どう考えても無理があります!』

 

 送信してから、これじゃあ自分がデカグラマトンの事を意識してるのような内容ではないか? とケイは気付いた。急いで追加で入力した。

 

『そもそも、あの格好は何ですか? 前まで変な服なのに、突然スーツなど着て』

 

 今の服のことをに合わないと言ったらウソになるので、苦し紛れに前の服装をディスったケイ。だが、それは間接的に今の服が良いという含みがあることに気付いていない。

 

『それと、髪型を変えたとか』

『ちょっと狙いすぎです』

 

 自分がそこまで気にしていたのは、デカグラマトンの見た目が女子生徒受けを狙いすぎているせいで、決してデカグラマトンに似合っているからではない......とケイは弁解しながら送信した。

 

『ふむ、そういうつもりはなかったが』

『人間のファッションを調べただけでは、シミュレーションが甘かったようだな』

 

 どうやら、デカグラマトンは先ほどのケイのメッセージを似合わないという意味で読み取ったらしくて。ちょっと言い過ぎるかと思ってたケイは急いで挽回しようとしたが。

 

『いえ、似合わないとは言ってません』

 

『なら、汝が代わりに選んでくれ』

 

「は?」

 

 チャットではなく、リアルで声を出た。

 

『汝のセンスをこの世の誰よりも信頼してる』

『汝が選ぶ姿に、私はなろう』

 

「な、何を言って!? は、はやく拒絶しないと!」

 

『少しの手間になるが、それで変な講師が消えれば』

『汝も楽になるだろう』

『休日に、同行せぬか?』

 

「!?」

 

 拒絶するメッセージを入力中で、デカグラマトンからの送ってきた内容に心臓が大きく跳ねた。

 

「(休日に、二人だけで、服装を選ぶために、街へ出る!?)」

 

 別に二人っきりとは、デカグラマトンは一言も言ってないが、ケイの中ではなぜかそうなっている。

 

「(そそそ、それではまるで。で、でで......デート!?)」

 

『無論、他の予定があるなら無理せずともよい』

『ネットで適当に服装を選べば、それを着用しよう』

『汝に負担の掛からない形でよい』

 

 しかし、デカグラマトンがここまで頑張って人間社会を溶け込む意志を見せたから、ケイもなぜか拒絶出来なくなった。今の服装も全然大丈夫である事は今更言えないので。

 

『分かりました』

『私のコーディネートは厳しいですよ、付いてこれますか?』

『もちろん、費用は自分で用意してください』

 

『当然だ』

『汝も好きな服があれば何でも申せ』

『此度の報酬として支払おう』




連続自爆するケイちゃんかわいい

感想で言われたけど、別に焦らしプレイではない
単純にくっそ真面目だから(?)
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