書く時顔が変(?)
土曜日の朝、D.U.地区にある巨大ショッピングモール。
ミレニアム近隣にも同等の施設が存在しているが、万が一にもクラスメイトに自分がデカグラマトンと一緒にいる光景が見られたら人生が終わる。そう危惧したケイは、わざわざ学校から遠く離れたD.U.のモールを指定した。
天童ケイは、約束の三十分前に到着していた。
服装はいつもの制服ではなく、落ち着いた紺色のワンピースに、歩きやすさと上品さを兼ね備えたローファー。
「......別に、気合を入れたわけではありません。適当な服を着てきただけです」
実際、クローゼットにはもっと華やかな選択肢もあったが、彼女はあえて装飾の少ないこの一着を選んだ。
今日の目的は、あくまで「ミレニアムの講師として相応しくない格好をしている自称神」を矯正すること。そのためには、同行する自分もそれなりの身なりでなければ、ミレニアムの生徒としての品位を疑われかねない。だから最低限を保てば、それ以上のオシャレが必要としない──
というのは建前で、実際にはメイクや髪のセットには十二分の精力を入れた。むしろ謎に努力してないように見える努力してるせいで、普段以上に手間がかかっている。
「......そうです、これは義務です。アリスの仲間として培った審美眼を、新しい講師に授けるための、極めて事務的な作業です」
アリスの仲間とオシャレと全く関係ないという事実を無視して、ケイは一人でぶつぶつと正当化しながら、鏡代わりのショーウィンドウに向かって、服と髪型に乱れはないかを何度も確認した。寮を出る前にも数十回はチェックしたはずなのだが、どうしても安心できない。
「ケイ、待たせた」
突然、隣からよく知る声がした。心の準備ができていなかったケイは全身をびくりと震わせ、ゆっくりと振り返った。
そこに立っていたのは──白いレースの付いたブラウスに黒のロングスカートを着たデカグラマトンだった。授業の時で見たカットしたはずの髪もなぜか元の長さに戻っており、後ろでポニーテールにまとめられている。
「...? どうした、この服もいかんかったか?」
凝視するケイの視線に気づき、デカグラマトンが自らの身なりを検める。
「......いえ、なんでもありません」
予想外に女性的な装いで現れたデカグラマトンを見て、ケイはこれなら緊張しなくて済むと安堵した。しかし同時に、あの「男物のスーツ姿」ではないことに、ほんの少しだけ失望している自分に気づく。
「(失望!? どうして私が!?)」
ケイは即座にその雑念を思考のゴミ箱へと叩き込んだ。
「そうか。ケイがそう言うのなら、そうしておこう」
「......その髪、どうなっているのですか? 短くしたはずでしょう?」
講師として現れたデカグラマトンはショートカットになっているが、なぜかその髪が長くなったことに注意力に転移したケイ。
「この体は有機生命体のそれでないため、再生成や切り落とした髪を繋ぐことができる。汝の元々の体もそれが出来たはずだが、再構築した後は私もしらん」
ケイは一度デカグラマトンと見た目が違うだけでその由来が同じ体を使っていたが、アリスの力によって再構築したため、今のケイ実はアリスよりも人間に近い。もちろん、今更その体は有機なのか無機なのかを気にする人は誰にもいないであろう。
「試したことはありませんが、おそらくできないと思います。というか、する必要もありません」
「ああ、汝のこの姿がすでに完璧だ。私が保証する」
「ッ! またそんな、変なことを──」
「今日の汝もまた美しい。個性を抑えようとした服装が、かえって美貌を強調する現象もあるのか、私の不勉強だった。この服は如何に似合ってるのかを人間の単語で描写するのが難しいくらい......いや? 汝だからこそ、どんな服装でも美しいのか」
「......ありがとうございます。何よ、普通に褒めるじゃないですか」
また変な事を言い出したデカグラマトンに対して、怒ろうとしたケイだが、その言葉は雑に全肯定ではなく、しっかり今日の服装の目的を言い得ていた。ケイはなぜかちょっと嬉しいように、恥ずかしいようになってきた。
「ああ、私的にはもう少し華麗な装飾をした方が汝にふさわしいと思うが。ネックレスを付けたらどうだ?」
「装飾は過剰にしたら逆効果です。それと、今日のコーディネートは私からやるから、あなたの意見は聞いていません」
「汝が正しい。が、これだけ言わせてもらおう、とっても似合う」
「さ、さっきも言ってました!」
「しかし、汝一人か。これは少々意外だな」
「? どういうことですか?」
「汝はまだ私の事を警戒してる事は理解している。であれば私と二人だけになる状況を避けると思っていたが......どうやら、すでに警戒が解いたようだ、私は嬉しいぞ、ケイ」
「はぁー!? そんなことは......!」
ケイも指摘されて気付いた。自分は戦闘力に多少自信はあるが、あの時みんなの力を合わせてようやく倒せた敵とそう簡単に会いに来る事は、客観的にすでにデカグラマトンを敵として見ていなかったと同じ意味。
「......ま、まあ。そちらも誠意は見せているようですから。敵ではなくなったことくらいは認めてあげなくもないです」
「そうか、なら良かった」
デカグラマトンは知らない。そしてケイもまた気づかないふりをしている。敵ではないからといって、休日に二人きりで買い物をすることが、かなり高い信頼関係じゃないと成立しないことを。
「もういいです、さっさと始めましょう」
「ああ、汝の貴重な休日だ、無駄にはできん。ゆこう」
「いえ、休日だからではなく......? いえ、私の休日だからでしょうか? とにかく行きますよ!」
なぜかデカグラマトンがこの日は自分の休日だから大事という言い方に多少引っかかっていたが、理由も分からずにそのままリードして、先日調べた店へ足を運んだ。
高級セレクトショップの一角。ケイは次から次へと服を選んでは、デカグラマトンに押し付けていた。
「次はこれです。もっと柔らかい印象の......そう、カーディガンとかを着て、少しは威圧感を減らしてください。あなたは神を自称する変な人ではなく、講師なんですから」
「承知した。汝の望むままに」
デカグラマトンは文句一つ言わず、試着室へと入っていった。
デカグラマトンは髪型のおかげで一応女性寄りの風貌ではあるが、男物を着用するとやはり破壊力が抜群だった。カーテンが開くたびに、他の客や店員からの視線とざわめきが集まる。そしてケイはその度に周囲を睨み付けて威嚇するという繰り返しだった。
「......まあまあですね」
そして着替えをしたデカグラマトンを見て、ケイはこれまでと同じく厳しい評価を出した。
実のところ、デカグラマトンのスタイルと容姿をもってすれば、何を着用しても「正解」になってしまうことを、ケイは認めざるを得なかった。
しかし、単に「何でも似合う」というレベルで満足したくなかったケイは、デカグラマトンという素材が持つポテンシャルを最大限に引き出し「究極の一着」を探し出すまで、一切の妥協を許さないと心に決めていた。
それはあくまでデカグラマトンの依頼を完璧に遂行するためだけであって、一番魅力のあるデカグラマトンを見たいという思いは一つもない。とケイはそう決めつけた。
──なお、そもそもデカグラマトンに男物を着せる必要は全くなく、女性用の服でその完璧に該当する可能性は、なぜか最初からケイの頭から消滅した。
ケイちゃんかわいい
お前もケイちゃんかわいいと言いなさい