「では、こちらの会計を」
「お買い上げ、ありがとうございます!」
店員のロボットがニコニコの顔で、デカグラマトンは会計を済ませた。
結局、ケイはスタイルの異なる服装をそれぞれ5セット選び、デカグラマトンに着せ替えた。確かにスーツ姿の破壊力はないかもしれないが、別の意味で癖に刺さりそうな服ばかりだった。しかし着せ替えるたびに新しいスタイルが試したくなり、この後も別の店を回るつもりでいる。
「時間的に、先に昼ごはんを済まそうか?」
デカグラマトンが淡々と提案した。時間的には妥当だが、ケイは自然と「どこか高級店に連れて行かれるのでは?」と身構えた。しかし、デカグラマトンが指差したのは意外にも、ありふれたチェーン系のファストフード店だった。
「え? ここでいいんですか? 何というか、あなたの食事シーンって言われたら、物理的に高い位置にある高級店で、ワイングラスを片手に下界の人間を見下ろしているイメージでしたけど」
どうやら、ケイはすでにモモイとアリスの影響を受け、フィクションの描写にイメージを侵食され始めているらしい。
「......そうしてほしいか?」
デカグラマトンが、わずかにばつが悪そうな表情で返した。実は「高い位置から見下ろす」経験だけは本当にあるから、しかもウキウキに先生を見せていた。
「絶対しないでください。ファーストフードは塩分が高いので摂取する頻度は控えめにしたいですが、たまにはいいでしょう。私も気になっているし」
「汝も食したことはないのか。なら、共にいい経験になりそうだ」
「......まあ、そうですね」
結局ふたりはそのまま店内に入り、デカグラマトンがタッチパネルを操作し始めた。初めてのはずだけどなぜかあんまり迷いが見せない。
「画像があり、初めて利用する者も迷わない設計か。人間にしてはよくできている」
「人間を舐めないでください。利便性を求めるために極限まで特化していますよ......とはいえ、本当に詳しくない人なら店員の案内があった方がやりやすい、という声もありますが」
「なるほど、そういった視点もあるのか......私はセットAを。汝は?」
「私は......チーズバーガーセットで。ドリンクはオレンジジュース」
先ほどまで高級店で服を選んでいたのに、今では軽快なBGMを流してるなかに、プラスチック製の椅子に座っているデカグラマトンにケイはつよいギャップを感じた。
注文待ちの時間で、突然話題が切れた中に少し気まずく感じたケイは、自ら声をかけた。
「そういえば、服を選べたのは私ですけど、あなたはお金大丈夫ですか? 給料はまだ貰っていませんよね?」
ケイがデカグラマトンの服を選ぶのはブランド店のため、質感から感触が文句なしの一級品。その代わりに、品質相応の値段をしている。普通の講師ならたまに購入することもあるであろうが、着任一週間のデカグラマトンはそんな大金は持っていないはず。
「資金の事なら心配不要だ」
「......本当に大丈夫ですよね? 先生みたいに無計画に散財とかされたら困ります......別にあなたのお金は私と何の関係もありませんが、私が原因になりたくありません!!」
多少この自称神が「お金に困って情けない姿」を見たい気持ちもあるが、自分の選んだ服のせいで彼が破産でもしたら寝覚めが悪いという、割と真面目に心配しているケイ。
「ふむ、責任感が強いな。なら、これ見たら安心出来るか?」
デカグラマトンは淡々とスマホを操作し、最近の振り込み明細のような画面をケイに見せた。
「ふーん? 他に収入を持って、持って......け、桁おかしくないですか!? まさかキヴォトスの金融システムにハッキングしたわけではありませんよね!?」
数字が並ぶ画面を見て、ケイの目が点になった。少し前まで人間社会の身分を持ってない自称神が突然高収入になると、サイバー犯罪などを疑うには十分の理由がある。なにせ、デカグラマトンはミレニアムの高性能AIを一瞬で感化できる特異現象だから。
「違法か、少なくともミレニアムでは許容されたビジネスである。しっかり許可を取っているぞ」
「......怪しい。具体的に、何をしたのですか? 私個人としては一ミリも興味ありませんが、あなたの更生状況を確認する義務があります」
「更生もなにも......まあよい。ケセド......鋼鉄大陸で汝に取り込まれた方の個体ではなくミレニアムにある廃墟の方。汝はよく知ってるはずだ」
「ま、まあ。多分ヒマリ達より知ってるかもしれませんが、それがどんな関係を?」
「ケセドの生産ラインを戦闘用から家庭用家事アンドロイドの製造へ転換し、それを輸出するだけ。特別な機能は付いてないが、現行の型式よりも3.25倍性能が向上したため、ミレニアム以外にも人気であった」
「......思ったより10倍まともでした」
直接のハッキングや株操作とか、演算能力を悪用して賭博などの可能性を考えたケイは、拍子抜けしたように肩の力を抜いた。
「とはいえケセド自体は汝らから感化した者、違法かと聞かれたら多少難しい判定になるか。もちろん、返す気はないが」
「正確に言うと私からではなく無名の司祭からですが......まあ、どのみちあなたが感化しなかったらもう停止するのか、不可解の軍隊を生産しているでしょう」
ケセドの元でありDivi:Sionシステムは不可解の軍隊を生産する工場AIであるが、一つだけの存在ではなく複数が存在していた。ケイがシャーレの先生達と遭遇する前もまた別のDivi:Sionシステムに潜伏していたが、すでに稼働限界を迎えてシャットダウン寸前。
停止しなかったとしても、今更不可解の軍隊を作らせてもすでに無名の司祭と決裂したケイにとって迷惑にしかならないので、相対的に友好なデカグラマトンのコントロール下の方が安全ではある。
「その通りだ。どちらにせよ、ケセドの生産能力は汝にも知ってるはずだ。市場が飽和するまではこのままでいいとして、この資金でまた投資すれば貨幣に困る事はない。ああ、ケセドにもしっかり給料を払っているから心配せずとも」
「誰もそんなことを心配してません。まあ、あなたの生活は安泰なようで安心しました......ま、マルクト達のためですからね」
「マルクトか、彼女は別のアルバイトをし始めたようだ。具体的な場所は私に知られたくないから調べてないが」
「そうなんですか? みんなしっかりしてますよね......私もアルバイトとかしようかな?」
ゲーム開発部の部費は万年不足しているのに、モモイたちはいつもお菓子やゲーム機とソフトに無駄遣いをしてる。もし自分がお金を持っていれば、アリスに好きなものだけ買える、ではなく、ゲーム開発に必要な物を買える。
そしたらみんなに尊敬の眼差しを向けられて、アリスの姉として誇れる自分の姿を──ケイはそんな想像をふと浮かべていた。
「それも悪くない、何をしようと迷ったら私に連絡するとよい。ミレニアムにも、私の方にも汝のような完璧な人材を欲しがる組織はいくらでもある」
「......善処します」
内容的にはコネ入社に聞こえるが、こいつのことだから多分しっかり面接してふさわしい役職を与えてそう。と、なぜかケイはそう感じた。
ケイちゃんにいろんなおいしい物を食べさせたい
そして体重が増えることで怒らせたい