元魔王は怪盗レディ・パンサーとなって、お宝を華麗に奪いたい! 作:底辺作家
アジトとコスチュームを手に入れたアークは、次に予告状作りを始めた。予告状をただの紙切れだと甘く見てはいけない。実行前に読まれないといけないからだ。
盗んだ後に予告状が見つかるなどナンセンス。日光や雨でボロボロになるのも論外。文字がにじむなど問題外。
「あらゆる問題を乗り越え、予告を事前に伝えることが求められる」
取り出したのはコーティングされた紙。ツルツルの表面は水気を弾くため、雨にも強い。一方、普通に文字を書いたのでは簡単に落ちてしまう。
「ゆえにこれ。殲滅光線(デストロイレーザー)!」
指先からほとばしる光線で紙に文字を書いていく。なぞった部分が焦げて黒くなることで、まるでインクで書いたように見える。
だが制御が難しい。少しでも力加減を間違えれば裏に写ってしまうしコーティングごと焦がしてしまうこともある。すでに何度も練習していたおかげで、精密な力加減で予告状を書ききった。
「よし、あとは切り取って出すだけだな」
上下左右のマージンが同じになるように慎重に切っていく。もちろん角を丸くするのも忘れてはいけない。
「完成だ」
初めて予告状を作り上げた喜びはひとしお。出来上がった時は、嬉しくて高く掲げてしまった。このまま額で飾っておきたい気持ちに蓋をして、さっそく出しに行くことにした。
領主の屋敷を取り囲む壁の上に立って、予告状に相応しい場所を見定める。ベストは頻繁に死角に入りながらも、巡回が見つけやすい場所。予告状に手裏剣を刺して狙いを定める。
ナイフの方が良かったが、例のコスチュームを買った店で手裏剣が二束三文で売られていたため、急遽そちらに変更した。
その場その場に応じて臨機応変に対処できる。それこそが一流の証だ。
「なかなか距離があるが──元魔王の私に不可能はない」
意を決して手裏剣を投げる。魔王の腕力で投擲された手裏剣は、物凄いスピードで窓ガラスを割り、ターゲットに突き刺さった。命中率99.99%を誇る魔王が狙いを外すことなどありえない。
「ちょ、何で巡回している兵士に当たってるんだよ!」
壁ではなく、兵士へのヘッドショット。高い命中率が仇となった結果だった。力尽きて倒れる兵士に、窓ガラスが割れる音で異変を察知した他の兵士たちがわらわらと集まってくる。
「敵か? 探せ!」
怒声を響かせながら散開する兵士たちに危機感を抱いた私は、予告状を送るという目的を達成したと判断して一目散に逃げだした。
◇
翌日、領主の館には暗殺未遂事件を捜査するため、多数の守備隊の兵士が詰めかけていた。
「こちらが殺害された兵士になります」
「謎の刃物で頭を一発。かなりの手練れと思われます。おや?」
新米兵士が遺体に刺さった刃物に紙切れが付いているのを見つけ、手に取った。
『七日後の晩、大事なものを頂きに参ります』
血塗れになった予告状に書かれた文面を見た兵士は大きく目を見開き、隊長に手渡す。予告状に二度、三度と目を通し、兵士たちの前に進み出た。
「こ、これは、殺害予告だ」
震える声で絞り出すように言うと、兵士たちの表情が一斉に強張った。血塗れになっていることで死を想起させつつ、実際に手際よく兵士を殺すことでいつでも命は奪えると印象付ける。そこへ来て大事な物とくれば、領主の命以外にはありえない。
「くそっ、舐めたマネをしやがって!」
隊長は怒りのあまり拳を壁に叩きつけた。振り返り、兵士たちの顔をにらみつける。その鬼気迫る雰囲気に、兵士たちも言葉を失っていた。
「絶対に、こいつの思い通りにはさせん! 全力で阻止する。いいな!」
「「「はいッ!」」」
こうして、領主の館には厳戒態勢が敷かれることとなった。
◇
「なーんか、警備が厳重だなぁ」
領主の館の混乱を知らないアークは、予告通りコスチュームに着替えて領主の館へとやってきた。何を盗むかは──決まっていない。
「どんな状況でも臨機応変に対応するのがプロというものだ」
とりあえず、宝物庫に行けば何かあるだろう。そう考えながら、屋敷に潜入していく。警備は厳重だが、主な明かりは蝋燭のみ。闇に生きてきた魔王にとって闇に紛れることなど造作もない。まして、魔王の身体能力はそのままなのだから、ちょっと警備が厳重になったところで意味がない。
難なく進んでいき、あっさりと宝物庫へとたどり着いた。拍子抜けするほど簡単にたどり着いてしまい、逆に警備体制を心配してしまいそうになるほどだ。
「こんな警備で大丈夫か? まあいい、さっそくお宝をいただくと──バカな、鍵がかかっているだと?!」
宝物庫の扉を開けようとして、ドアノブを回したけれども、押しても引いてもビクともしない。本来ならピッキングツールを使って、鍵を開けるのが正解なのだろうけど買っていなかったからな。鍵を持っている人間を襲って鍵を奪い取る方法もあるが、今の私は怪盗。優雅にお宝を盗んでこそだ。人を襲うなどもってのほか。
「やはり、これしかないか。よく考えれば、これが一番手っ取り早いからな」
扉の前に足を肩幅に広げて立ち、腰をゆっくりと落とす。体を捻りつつ、右の拳を思いっきり引く。最後に一気呵成に右の拳を扉に向かって突き出す。
ドゴォォォン、という轟音と共に扉が跡形もなく砕け散った。しかし、周囲から「襲撃だ!」「戦闘態勢!」という声が響いてくる。宝物庫までやってくるのも時間の問題。ゆっくりとお宝を物色している暇はなさそうだ。
「光るものを狙えばだいたい当たりだ!」
宝物庫に入ると、金銀財宝があちこちに置かれていた。中でもひときわ目を引くのは虹色の光を放つ球体だった。少し平べったい形で上の方が尖っている。何かはわからないが間違いなく当たりだと確信した。すかさず手に取ると、ひんやりとして、少しだけ柔らかい。例えるなら餅とかマシュマロのようなもの。
胸の中に入れて形を整えれば、外から見ても違和感はまったくない。
「よし、さっそく撤収だ!」
しかし、急いでいた私は、角で出合い頭に兵士とぶつかりそうになってしまった。
「うおっ!」「きゃっ!」
避けるのは簡単だが、ここはあえて驚いて尻餅をつく。さすがの兵士も、か弱い女の子に酷いことはするまい。
「いったぁぁい!」
「すまねえ、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます」
差し伸べた手を取り立ち上がる。膝をパンパンと叩いて誇りを落とすそぶりを見せながら、兵士の様子をうかがうと心配そうにまなじりを下げている。チョロい。
「メイドさんが、まだ残っていたなんてな。危ないから早く避難した方がいい」
「でも怪盗さんなら、殺されることはないはずですよ」
「怪盗? 何を言ってるんだ。暗殺者だよ。狙いは領主みたいだが、見せしめに兵士を暗殺してみせたことを考えると、誰が殺されてもおかしくない」
この領主も運がない。私が盗みに入るのと同じタイミングで暗殺者にまで狙われるなんて。もっとも、暗殺者の一人や二人など敵ではないけど、巻き添え食らうのは面倒だ。
「ありがとうございます!」
お辞儀をして、館の入口へと走る。他の兵士たちにもメイドに見えているらしく、特に怪しまれることもなく、すんなりと館の外に出ることができた。
『怪盗レディ・パンサー。大事なもの、たしかにいただきました♪』
玄関の扉に予告状を張り付けると、東の空が白み始めている中、悠然とアジトに向かって歩き出した。