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聖風紀委員ちょが男子黒魔術部の心の風紀をかき乱してから早数日。
駒手山高校に、普段とは違ったピリついた空気が蔓延していた。
この空気はいったいどうしたものなのか?
元を辿るとすればそう、主に女子生徒達の雰囲気が違うのだと言えるだろう。
右の小柄女子を見れば何やら落ち着きが無く、左のおっとり女子を見れば身体のどこかを意識してモゾモゾ。
目隠れ前髪女子は妙に姿勢が前かがみだったり、頬が赤みがかっていたりもする訳で……中々に想像力を掻き立てさせられる!
廊下で談笑していた女子グループの一人が突然、「きゃっ!?」っと驚いたかと思えば、どこかへ駆け出して行くなんて事態が頻発している次第だ。なんとマーベラス!
……そう! コレは正に、あまたの女子生徒が胸元を……というか下着(ブラ)を意識して学校生活を送っているのだ! コレでは空気が張り詰めるのも当然というもの。やったぜ! 男子黒魔術部!!
さて、コレはそんな校内のとあるクラスでの話。
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昼休みの時間。
「……コレが俺の求めていた桃色スクールライフか」
「え? 急にどうしたの近藤君」
早々に自分の弁当を食い尽くすやいなや、振り向き様に雑談に興じ始めた友人に戸惑うメガネ君。
普段の彼ならばおかずの一品を掠め取る頃合いだと警戒していたのだが、今日に限ってはしたり顔でなんか言ってる。どうしたものか。
「桃色……いや、桃源郷か? 禁断の果実でもあるから楽園がいいかもしれねぇ」
「なんか変なものでも食べたの?」
「いや、なに……理想郷ってやつを俺は今実感してんだよ……」
しみじみと感慨にふける様を不審がられているのはマテヤ高3年生の近藤紫博。科学部……もとい、男子黒魔術部所属のイカれたメンバーの一人である。
ツンツン頭と刈り上げたうなじが特徴的な快活男児だ。細めの眉毛の下には強い活力が溢れる様な瞳。彼を知らぬ人が見ればスポーツでも嗜んでいるだろうと印象付ける雰囲気を持っているのだが、女子を観察するせいで目元はだらしなく緩んで台無しになっている。
こまった快活スケベ男児である。
「……また訳の分からない病気かい?」
メガネ君は唐揚げを口にほおりつつの一言。
なかなかに鋭い、刺すような切れ味が隠れた問いかけ。だが、近藤は普段からこんな感じで気にはしない為どこ吹く風。まあ、互いに気心の知れた仲である。
「いや、分からねえか? 今、俺達は女子が普段見せないような姿を拝む事ができてんだよ……特にこう……胸のデカい奴らのな……わかるだろ?」
「あぁ〜、確かになんか大変そうだね。今日は休み時間に席を立つ女子も多いみたいだし?」
悪魔ちゃん様の能力について知っている近藤はともかく、まったく知らない友人でさえも女子の異変を察している現状に近藤含め他の部員達も大満足であろう。筋肉をイジめた甲斐があったというものだ。
「なっ!? ソレだよソレ! やっぱお前も気がついてんじゃっ──ッ!? イテテテ……」
「あぁ、あぁ、急に動いたりとかして。筋肉痛とか言ってたっけ? そんなに酷いの?」
「見ればわかるだろうに……アテテ」
俺の筋肉の悲鳴のおかげなんだぞ! と、心のなかでごちりつつ身体を擦る。
ともあれ、今は要らぬ感謝よりも恥じらう女子だ。
欲には素直にあれと、新たな女子を求めてキョロキョロと辺りを見回しに戻る。
「ぬぅ……、改めて見ると三輪崎の奴もなかなか……」
目が止まったのは窓際で談笑していたグループの女子一人。
無遠慮に見つめる曇りなき眼、見定めるのは勿論その女子の胸元。なんと邪な心を持った男児だろうか。
「いや、見過ぎだって……。噂が巡り巡ってまたしばかれるよ?」
「何を言うか、それもまた一興だろうが!」
〆の玉子焼きに舌鼓を打つ友人の注告にも耳を貸さない視姦男児は力説する。
「いいか? たとえバレて校舎裏でしばかれようとも、その間は怒りに震えたおっぱいを真正面から鑑賞仕放題なんだ!」
むしろご褒美だろうが! とその勢いは凄まじく、
「平手でビンタなら横に、パンチなら前に、蹴りを入れてこようとすれば予備動作から揺れて2度美味しい。……どうだ? お前も興味が出ててきたんじゃないか?」
「いや、「……どうだ?」じゃないよ。嫌だよ、ボコられるなんて」
メガネ君も呆れながら返す。
殴られながらも乳揺れを楽しむとは大した胆力だと畏敬の念もあったり無かったり。
そうして、ごちそうさまと箱をかたし始めた友には、肩をすくめ「ふっ……お前にはまだ早かったか」とか言ってる近藤。
「まあ、2年の最後に囲まれた時は早々に目隠しをされたのは誤算だったがな……アレはアレで良かったが」
「あー……うん。もう一周回って手が付けられなくなった感じね? 居るんだねぇ……君みたいな人」
もはやメガネ君は珍獣を見る目で近藤を眺め、対する獣は視線を窓際へと戻す。
「……くっ、気が付かれたか」
しかし気がつけば既に談笑グループはそこには居らず、ターゲットを逃したと歯噛みする近藤。
「ふふふ、残念だったねぇ」
吊られた餌を取り上げられたイタチの様な顔の友人に笑うメガネ君。とんだ人間サファリパークが存在したものだ。
「ぐぬぬ……、ぐぬぬぬぬぅ……アタタッ……」
「はは、唸るのにも一苦労だね」
「う、うるへぇよ!」
唸る手負いの獣……もとい、筋肉痛の小物になってしまった近藤に一頻り笑った後、メガネ君はそう言えばと続け、
「でもまあ、購買の人も大変だよね。昼間は人が多いってのに最近は特に騒がしいみたいだし……」
「……ん? どうしてまた購買の話なんだ?」
「なんでも、普段は売れもしない安全ピンを皆こぞって買いに来てるらしくてさ」
「在庫だって大した数が無いものだから、物が安い分少ない安全ピンの取り合いになっててんやわんやだったそうだよ?」
「はぁ? 新作のパンとかドリンクじゃなくて、安全ピン?」
「そうだよ、安全ピン」
まだピンと来てない近藤にメガネ君は続ける。
「……だって、使うでしょ? それで校内の女子が押し寄せたんだよ」
「安全ピンを使う……?」
ウンウン唸って首を捻る推定珍獣の近藤。
おピンクな脳内回路がフル回転して答えを導き出そうとするが……、
「むむ、むむむむ? 安全ピンを女子達がこぞって……??」
「近藤君?」
ボコられ過ぎてちょっとアホになったのかとメガネ君は心配し始めるも、
「…………ッハ!!!? そういうことかっっ!!」
ようやく答えが弾きだされたのか、驚愕に目を見開く科学部部員! 頬に汗をたらり。
「奴ら……肉体言語に飽き足らず、針で刺す拷問にシフトするつもりなんだな!?」
類稀なる頭脳が導き出した答えは中々にディープでダークでバイオレンス!
「いや、ソレ傷害事件だから!? しばかれるどころの話じゃないし、どれだけ女子に恨みをかってると思ってるんだい!?」
そんな珍回答にはメガネ君から盛大なツッコミが送られる。
「だが五十嵐のやつは前回「……そろそろマジで刺してやんぞ?」とかメンチ切りながら言ってたしなぁ……」
「えぇ……? 流石の五十嵐さんもソレは脅し文句だろうし……」
前回というのは2年の終わりにしばかれた時の事。
終わり際に胸ぐらを掴まれ、目隠しを外された目先にあった鋭い眼光を思い出すと……今でも少しちびりそうになるのは秘密だ。
「は、はり灸なら親父に連れられ体験したことがあるが……いや、しかし……」
壮絶な想像に身震いしながら肩を震わせる珍獣、流石に凶器を用意され始めたとなれば恐ろしいらしくサッと顔を青くして口元を隠した。
「いやいや、間違ってるからね!? 応急処置だから、ホックが外れても大丈夫なように安全ピンで留めるんだよ!」
ここでメガネ君のネタばらし。というか、模範解答。
「えっ? ……あぁ……そういうことか」
そう、校内で頻発しているブラホック破損に対して女子生徒は安全ピンで止めてその場を凌ぐ術を持っていた。
今日も連れぞってトイレに立つ女子達を何の気なしに見送っていたが、早々にホックが駄目だと見切りを付けた女子がピンで止めるのをお願いしていたのだろうと合点がいく。
「くそっ! こうしちゃいられねぇぞ!?」
だがソレを聞いた途端にむしろ奮い立ち始める近藤、
「ピンで止められたらホックが外れてもぱいは無事! つまり、恥じらう女子を拝めねぇってことじゃねぇかっっ!!」
彼は確信したのだ。
この安全ピンによる対処法は、男子黒魔術部の素晴らしい計画のわずかな穴を突かれた、いわば『神の一手』であると!
購買部に人が溢れかえる程の盛況具合となれば、ブラぷちっ☆そして、いやんっ♡が対処されるのも時間の問題だろう。
折角築き上げた桃色スクールライフが、ガタガタと足元から崩れさる幻想を憶えながら彼は席を立つ。
「あ、ちょっ!? どこ行くの近藤君〜」
「そんなの決まってらぁ! こっからは強行作戦だ!」
勢いのままに出口へ向かう独断専行部員。
「校内のブラ全部にピンが留められる前にっ! 片っ端から女子の背中を叩いてブラぷちする瞬間をこの目に焼き付けんだよおぉぉぉ──!!! 」
「よおぉぉ──」
「ぉぉ──」
「…………ありゃりゃ、行っちゃった」
戯言を辺りに響かせながら廊下へ消えた友人を見送るメガネ君。
他クラスメンバーも何事かと静まりかけたが、駆け出したのが近藤だと気がつくとクラスは元の喧騒へと戻っていく。
マテヤ校に再び解き放たれた珍獣。
情熱と青春と暴走の果てに、いったいどんな景色をみることになるのか……見たいのは恥じらう女子の胸元ではあるが。
(……一応黒田君に連絡しといたほうごいいかな?)
スマホを取り出しメガネ君は少し悩む。
だが「まあ、いっか」とやっぱり連絡することをやめ、適当なSNSアプリを開いて残りの昼休みを過ごすのであった。
崩れゆく桃源郷と痛む筋肉痛! 哀れ近藤、君の明日はどっちだ?
────続く!
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メガネ君のお弁当防御率は約1.20
なお、近藤は帰りの買い食いで肉まんとか奢ってくれるので特に恨んでない。