★☆★☆★☆★
「へぶッッ!」
(右揺れっ! ナイス慣性!!)
「ドフッ!? ……ごほっ」
(浮き上がるように前にッ……って、みぞおち!?)
「ぐぬぬぬ……ブヘ────ッ!! 」
(大振りの一撃は引いて寄る波の様……いってぇ!?)
無鉄砲スケベ挨拶野郎がマテヤ校の誇るスケ番から直々の焼き入れを受けることしばらく。
近藤は顔や腹もとの痛みにさいなまれつつ、鼻奥にこみ上げる熱い感覚にただひたすら耐え忍んで……、
「……ぐふ、ぐふふふ……」
(ナオの奴、今日もまた一段と……弾みよるッッ!!)
いや、存外楽しんでいた。
こいつ、マジでシバかれながら乳揺れ鑑賞してやがる。
「はぁ〜……、あ〜〜〜っ、まったく!!」
「アゴぉぅぅ!?」
(ぬぐっ、舌を噛みかけ……あ、指が柔らかい……)
対する奈緒は、しばき相手がまだ懲りずおっぱいに釘付けになっているのを察し、苛立たしげに馬鹿の顎を右手で持ち上げた。強引に相手の視線を切る、腕力にモノをいわせた荒技である。
ただ同時に、相手に触り続けなければならないというデメリットもあるが、そんな不本意ポイントに目を瞑っても一旦落ち着きたい。頑張れ、五十嵐番長。
「……なんでお前よりアタシの方が疲れなきゃなんねぇのよ」
ぎりぎりと顎を掴み上げたまま軽く息をつくと、空いた左手が意識せずに胸元を庇う。
彼女が妙に気疲れを起こしているのは、他でもない近藤の容赦ない観察(おっぱいガン見)に依るものであるのは間違いないだろう……。しばいた分だけスケベ心を萎えさせたいのだが、如何せん改まる気配が無いむしろエスカレートしている節もある。とんだ不条理トレードオフである。素晴らしい谷間を持つというのも考えものだ。
「はぁ……ねえ誰か、スカーフとかタイとか貸してくんない? 袋とかでもいいや、目隠しにしたいんだけど……」
奈緒もこれは仕方なしと、顎を鷲掴みにしたまま振り返る。
右手から伝わってくるだらしない頬の歪みの感覚。これは一旦頭の隅に追いやり握力を強める。そしてそのまま、辺りを見張ってくれていた女子生徒達に助けを求める事にする。
「あ、そっか、タイか……あちゃ〜……」
「ごめん奈緒、ウチら着替えも済ましちゃった後でさ……」
だが都合の悪いことに、周りの女子達は部活の為に着替えを済ませた後。ここに来るまでの道中も、怒れるままに下手人を追い詰める激動の逮捕劇を披露してすぐの連行だった為に鞄や私物等は誰も持ち合わせて居ないのであった。
「いが……らひょ、……首がっ……つらひ……」
「うっせ! 黙ってな!!」
聞こえてくる泣き言を黙らせつつ少し考え込みながら目線を下ろす。
「ん〜……」
目隠しに丁度いいものは無かったかと手頃な位置に目をやるが……、そこにはセーラーシャツのボタンによって窮屈そうに留められた重たいモノのみ。在るべき学校指定の便利なタイは無い。
生憎のこと『こんなん蒸れて邪魔くせぇよ……』と、入学して此の方夏服のタイなど着けた試しもなかった着崩し番長。さりとて手首に物を巻く趣味も無いし、かと言ってソックスを脱いでまで使おうなんてバカらしい……。
「むぅぅ…………」
(もしかして、このまま舌を出せば……!? いや、ソレは流石に……)
なんだろうか……こうしている間にも、右手の方から邪念を感じる。
「……ちっ」
自らの不足に小さく舌を鳴らし、他に何か無いかと頭をまわす。そんな彼女に周りが駆け寄り出し、
「奈緒っ! ……えと、急いで教室からスカーフ持ってこよっか?」
「ウチがコイツの頭押さえとくよ。あれあれ……そう、ヘッドロック?」
「だめだめっ! それじゃあミカまで一緒に倒れちゃうかもでしょ!?」
などと聞いては来るが、良い解決案は飛び出てこない。
「むぐむぐ……!?」
(俺はヘッドロックでも構わんぞ!? むしろどんどん来いだろ、そんなの!)
相談事を聞き拾う奴からまた邪念がする。なんだか嫌な気配だし、放置する気にはなれない。もうさっさと済ましてしまいたい。
「あ〜、いや、いいよ。アタシの髪留め使うわ」
奈緒はひらひらと手を振り周りに断りを入れると、その手を頭の横へ。シュルリと髪をほどき、即席の目隠しを手にコレでよしと頷いた。スケ番五十嵐、即決即断の乙女である。
「あ、ちょっと奈緒!?」
傍に寄っていた女子の一人が驚き止める声をあげるが……それもかなわず、流れ落ちる艶髪を追うように頼れる番長は睨みを利かせに戻ってしまった。
「おら、紫博。ちょっとかがみな!」
右手を顎から離し、両手でピンッ! とスカーフを伸ばす。
『話は聞こえてたよなぁ?』 と、布越しに見える眼光が暗に告げてくる。
「……うっす!」
顎をかち上げたお次は逆に屈めという横暴な命令だが、近藤は素直に応じる。特に手櫛を入れたわけでもないのに綺麗な撫で髪を見せる女子を前に、なんでかちょっとテンションが上がっていたりもする。男近藤、美人にはなんだかんだで弱いのだ。
「ったくよぉ……いくらシバこうがてんで薬にもなりゃしねぇ……」
ブツブツと文句を言いながらも髪留めにしていたスカーフを広げる勝ち気な美少女は、よいしょと少し背伸び。
ああ、目先に掲げられた淡色の布からする良い香りは彼女のヘアクレンジングに依るものだろうか? と、半目で意識を持っていかれかける近藤。
男子黒魔術部の面々が目撃すれば「おい近藤、そこを変われ! むしろその目隠しだけよこせッ!!」と、非難轟々は必至。
それでも何とか意識を保ちつつ処刑台の段を昇る意志で目を開くが……、
「……うぃしょ……んんっ?」
「……ゴクリッ」
(くっ、上目遣い!? ……こいつ、胸以外にもこんな凶器をっ……!)
「ああ、クソっ……紫博お前、髪がチクチクしやがんな」
路端のゴミでを見つけた様にしかめられた眉間のシワと殺意マシマシの眼光程度は脳が勝手に処理してしまうのか、今度はガチ恋距離での一幕にドキドキの近藤である。
……ひらひらと舞う薄布がチラつく視界に息のかかる程近くの美女の顔。
高まる鼓動は否応無しに胸を打ち、頬のひりつきもどこかへ引いていってしまう様。
(ああ……、俺はこのまま光を奪われ……死ぬのか)
(悪魔ちゃんさま……俺はもう疲れましたよ、なんだかすごく眠いんだ。すまねぇ……黒田……みんな……)
なんか良い匂いもするし、ここが天国か。柔らかな香りに包まれ再び意識が朦朧としだす。……勿論、彼の感じている眠気は連日の筋トレ由来のモノである、殴打による痛みの限界ではない。よって死なない。
(……せめてみんなに、ナオの乳揺れの素晴らしさを……伝えて……)
自己診断での死に際になっても仲間の為にスケベを思う見下げた根性。これには神も仏もため息ものだろう。もっと家族に感謝とか他にあるだろうに……。
「ぬがぁぁっ! 頭下げすぎんなっ、手に刺さるんだよ、お前の髪ぃ!!」
そうしてふらふら揺れ動く近藤のチクチク頭に苦戦していた五十嵐番長が切れ散らかしたその瞬間ッ!
神も仏もそっぽを向いてる最中……唯一、悪魔は笑った。
────ぷちんっ☆
「……えっ?」
屈んでもなお上にある近藤の頭、その身長差を埋める為に伸ばした背。布を一巻するに、ツンツン髪に刺さらぬように反った背中から小気味よい音が響いた。
「……あぁん?」
────ミチミチッ……
窮屈な締め付けから解き放たれたされたモノが、本来の重量と張りを発揮する。
その重圧の割を食うのは……ほどよく薄い白布の前を頼りな下げに留めていた小さな防波堤のみだ。
────ミチチ……ビッ……
ソイツは今の今まで頑張っていた……!
発育のいい纏い主が『閉めるとムレるしキツイからいいや……』と、第一、第二の兄弟をろくに働かせずにいる毎日ッ!
今日に限ってはパンチにビンタなど、激しい動作につられて揺れ動くブツ! ソレをなんとか押し留めようと、内なる仲間と共に必死にッ! その役割を全うしようと努力していたのだッ……!!
────ミチミチッ!!
……だが、その頼れる仲間も急所を何者かに撃たれ、絶命してしまった。
大切な仲間を失ったモノに、限界以上の力は……出せる通りなど……無い。
────…パツッ♡
「「「あっ」」」
最後の差支えを失ったバストは、自らの存在感を存分に押し出して主張する。
邪魔な白布を張り退け、開いた部分からぽよんっ♡と顔を覗かせると、「なんだ? なんか文句あんのかよ!?」と生意気にも相手を威圧して距離を詰める。
前へ前へと突き溢れる柔肌。
それを押しとどめるはずだった華をあしらったレースの生地は、要の留め具が用を成さなくなって以来、ただ添えかぶさる位にしか役にたっておらず……。
勇んだ二つの山がシャツを張り退ける勢いは強く、自然と前に浮くように薔薇の装飾もズレ、下にあった肌原を置き去りに晒しだす。
「──オォぉっっ!?!?」
歓喜の雄叫び。
一瞬で意識を覚醒させると、魅惑の震源地の存亡を一瞬すら見逃すまいとする男。かなしきかな、その集中力はここ一番とまできた。
目が飛び出る程にカッぴらく様は清々しいまでに直情的で、気まずそうに目を逸らしたり、ましてや目を瞑って見ないようにするなどという選択肢をこの男ははなから持ち合わせて居ない!
「えっ? ……きゃっ!?」
そんな見事な山の持ち主も、上体の重心が急にズレる違和感に気がつくと視線をおろし、素にかえってかわいい声をあげてしまう。だが、弾ける様にお目見えする魅惑の双山はそう簡単には止まってくれない。
「ぬぅぅぅおぉぉぉぉっっ!?」
近藤の研ぎ澄まされた集中力が、まるで時がゆっくりと流れ行くように錯覚させる!
少しばかり先へと押し出された白い薔薇園と、それを追う艶のよいみずみずしい肌。
ハーフアップの守り手が重力のいたずらで浮き、僅かに生まれる陰、隙間。
その奥地には日の遮りとはまた違った色合いの、肌色から一線を画す境界が確かにその姿を見────「キャァァァアアアアアッ!!!?!?」
「ち……く……ブフ────ッ!!!! 」
──拳の残像、襲い来る衝撃、……舞う鮮血。
……そこで近藤の意識は途絶えた。
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放課後の慌ただしさから少し壁を隔て、物寂しさを感じさせる理科室にて。
「いやー、あの時はマジで焦ったっすよ〜」
たまたまホームルームが早く終わった二人が、他の皆を待つ間に暇を持て余して話をしていた。
「俺達が駆けつけた時、最初に見えたのは顔面血だらけの近藤先輩と、同じく返り血で真っ赤の五十嵐先輩なんすもん……プフッ」
見た光景を思い出すように語る彼は……なあ、早川、なんで最後笑った?
「その血が全部、興奮して吹き出した近藤先輩が出したただの〝鼻血〟だったなんて! プククク……」
「うるへーよ。いいだろ、鼻血の一つや二つ!」
含み笑いを堪えきれない後輩に、ちょっとムキに返すのは〝顔面血塗れだった男〟鼻血太郎、改めて近藤であった。
「〜〜ッ……ぶはっ! アレから五十嵐先輩は下級生に『血みどろ番長』って呼ばれてさらにビビられて、近藤先輩も顔面粉砕で今も入院中って噂されてるっす!」
「はぁ〜〜?」
事の発端と顛末を知っており、おまけに元気でピンピンしている近藤を目の前にしている彼とって、あまりにネジ曲がったその噂が可笑しくて堪らないのだ。噂って不思議。
「……くふふっ。……あ! そういえば、あの鼻血を拭ってた布って五十嵐先輩のだったんすよね? ちゃんとお礼言ったんすか?」
「……あん? 血でベタベタになった物なんて洗って返されても嫌だろ。あいつには別の髪留めを買って返したよ! ……その時クリーニング代も巻き上げられたんだがな」
珍しくキッチリ制服を着こなしていた彼女に頭を下げて髪留めを手渡したもついこの前の事。
染み抜きに苦労した方も一緒に差し出しはしたのだが「……それはお前にやるよ」と返され、今も鞄の奥で所在なげに容量を圧迫している。
「その髪留めも噂がネジ曲って〝痴漢退散の御守り〟って事になつてるらしいっすよ? 番長リスペクトの髪留めブーム到来っす! ……アハハハッ!!」
「だぁぁ〜!? なんじゃそりゃ!」
新たな令和のスケ番伝説が尾ひれを付けて巡り巡ってる。
「くっそ〜っ! コッチはまだ鼻の奥がジンジンしてんだ、勘弁してくれよまったく!!」
あの髪留めが視界にチラつく度に鼻筋が痛みそうだと、鼻をおさえてイヤな顔になる鼻血太郎。それは自業自得ですよ、近藤君。
「……あ! いっそ今度の儀式の時に、悪魔ちゃん様に鼻血を捧げてお願い聞いてもらうっすか?」
「…………おっしゃ、なら先ずはお前の鼻っ柱を捻じ曲げて鼻血を捧げさせてやら〜!」
「あっ! ちょっと、今のは冗談っすから、まっ、ギャ────!!? 」
「──おーす、お疲れ〜……って、お前ら何やってんだよ……」
「み、みんな!? ヘルプ、ヘルプみーっす!!」
「お? 喧嘩か!? いや、後輩への教育かぁ!?」
「おっしゃ! 加勢するぜ早川っ、ねらうは下剋上だ!!」
「なっ!? まて! なんで全員が早川の援護に回るんだよっっ!?」
後から理科室に来出したメンバーも加わり、途端に騒がしくなっていく理科室。今日もまた、愉快な男達の部活動が始まる。
「うるせー! 五十嵐と女子メン相手に楽しみやがってっ!」
「なんか最近『スケ番がしおらしくなった』って噂はお前のせいだろ!? くたばれっ!!」
「てめぇの血で俺達の筋肉の痛みを慰めてやらぁ! 覚悟しろ──!」
「やめっ! 俺は男に殴られる趣味はねぇんだっ!! やめろ────ッッ!! 」
その後の儀式で悪魔ちゃん様に『そんな血はいらない。なんか汚いし』と断られる部員が居たとか、居なかったとかとか。
────続くっっ!!
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五十嵐奈緒(いがらしなお)
近藤とは家がご近所さんで幼稚園前からの腐れ縁。
入学してすぐにまたスケベな事をしだした近藤をいつものノリで捕まえシバいたら、翌日からマテヤ高校のスケ番なんて噂が広まって今に至る。
最近ちゃんとシャツのボタンを閉めるようになった。