ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
一ノ瀬さんの頭上にあった、白い数字。思い返すと、クラスメイトの頭上にも白い数字があったのを思い出した。その人たちに共通しているのは、青野の事を知らない、或いは話したことが無いという点だった。
(青野の事を知らないから、好きでも、嫌いでもない……ってことなんだろうな。多分だけど)
こういう時に、誰かに相談ができないのはすごくもどかしい。例えそこそこ話せる相手を頑張って増やしている俺でも、こんな意味不明なことまで相談できる人はいない。……親友や恋人なんてのがいたら、話は変わるのかもしれないけれど。
初対面からの翌朝。1時間目が始まる前に、俺の教室に倉敷さんが訪ねてきた。青野は寝坊しているため、まだ教室にはいない。倉敷さんは俺を見つけるとすぐに歩み寄ってきた。
「友田様、お嬢様があなたに頼みがあるとの事です。放課後、またお迎えに上がります」
「は、はい……」
何故か、倉敷さんからの態度がまるで違っていた。昨日は不審者扱いに近かったのに、今はまるでお得意様のようだ。俺が不審に思っていると、倉敷さんはそれを察したのか言葉を続けてきた。
「……お嬢様から、お前を丁重に扱えと言われた。それだけだ」
「えぇ……」
失礼します、と倉敷さんが教室を出ていく。すると教室が少しざわついた。クラスメイト達から「友田ー、今の誰なんだー?」と声がかかるも、俺は曖昧な返事しかできなかった。
放課後、青野には用事があると言って先に教室を出た。待ち合わせ場所である空き教室には、すでに一ノ瀬さんと倉敷さんが待っていた。
「志穂……ボディガードの倉敷からお名前を聞きました。友田さん、ですね。先日は大変お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
「は、はぁ……」
淑女の礼をする一ノ瀬さんは今、倉敷さんを挟んだ状態で話しをしていた。そのうえ、今声に出しているのも倉敷さんである。一ノ瀬さんがボソボソと話した事を、拡声器のように俺に伝えてくれている。
「やっぱり、聞いてた以上なんだね。目を合わせるのは、やっぱり無理そう?」
「……あぅ」
「ええ、お恥ずかしながら……」
代弁する倉敷さんの後ろで、一ノ瀬さんの肩が震えている。本当なら、男と会話するのも難しいのかもしれない。
「で、倉敷さんは何で泣いてるんですか?」
「いえ、お嬢様の成長に感涙しておりまして」
「これで成長した結果なんですか……」
「うぅ……」
倉敷さんを挟んで会話することが、成長。これまで一体どうやって生活していたのだろうか。想像がつかない。俺が一ノ瀬さんの様子を伺っていると、彼女はゆっくりと小さな口を開いた。
「……彼は、他の男性ほどの怖さを感じないのです」
「喜べ。お前は全然男らしくないそうだ」
「え、そんなこと言ってるんですか?」
なんか急に貶してきた。後ろで一ノ瀬さんが首をかしげている。
「……普通であれば、生徒手帳の手渡しすらも叶わなかったはずなのです」
「本来ならその腕を切り落とす所だが、今回は特別に許す。次は無いと思え、とのことだ」
「絶対通訳おかしいですよね!?」
一ノ瀬さんが倉敷さんの背中をポコポコ叩いている。かわいい、じゃなくてやっぱり言ってることと違うんじゃないか。叩き終えた彼女は、軽くため息をついてから真剣な表情で倉敷さんと相談を始めた。
「……志穂、あなたから見て彼はどうですか?」
「……下心を見せたり、強引に距離を詰めてこない。他の男子と比べれば、マシかと」
「まあ……それなら、わたくし自らお願いしてきますわ!」
「お嬢様!?」
俺に聞こえないように2人でコソコソ話した後、一ノ瀬さんが倉敷さんの脇をすり抜けて俺の方に来た。そして彼女は、意を決して頭を下げた。
「友田様! 私の、練習相手になってくださいましっ!」
「っ!?」
そう、これが俺を呼び出した理由だった。練習相手とは察するに、男嫌いを克服するための相手という事だ。彼女は、この一言のためにどれだけ勇気を振り絞ったのだろうか。俺の位置からでもわかる足の震えが、覚悟を表している。
「俺で良ければ、喜んで」
「っ……! よろしくお願いしますわ!」
俺の二つ返事を聞いて、彼女は満面の笑みを浮かべた。俺が受け入れた理由は、彼女との距離を縮めて、数字が見えるようにするためというのがきっかけだった。けれど、俺の中では、純粋に彼女を支えて応援したいという気持ちの方が大きかった。
俺はまたしても、青野の役目を奪ってしまったのではないか。そんな不安が脳裏によぎる。だが、そんな気持ちは目の前で喜ぶ一ノ瀬さんを見ていたら吹き飛んでしまった。どうにかなるだろう、と軽く考えることにした。
「はうぅ~……」
「一ノ瀬さん!?」
お願いを言い終えた一ノ瀬さんは、ぷしゅう、と空気が抜けたように後ろに倒れこんでしまう。倉敷さんが抜け目なくキャッチした。
「お嬢様が限界のようだ。明日もまた、この時間に頼むぞ」
「あ、はい」
一ノ瀬さんを抱えて、倉敷さんがさっさと教室を出ていく。明日もまたこの時間にって、これじゃ面会みたいだな、と乾いた笑いが出た。
数字が見えるようになったことで、どっと肩の荷が下りた。数字は30、まだ好き嫌いのどちらにも傾いていない白。どう転ぶかは、青野次第だ。
……別に、一ノ瀬さんが倒れた時にちらりと見えてしまった下着の色は、数字の白とは関係ないと思う。断じて。