ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
名波さんと2人で帰り出したのは、いつからだっただろうか。気のせいじゃなければ、青野の好感度が下がり始めた辺りからだと思う。
最初は青野も含めて3人で帰り始めていたが、今では名波さんが俺だけを引っ張っていくようになっていた。
「名波さん、バスケ部は良いのか? 前は休みの日もトレーニングとかしてた気がするけど」
「うーん、なんか皆やる気無いのよねー。緩く楽しく、って感じでさ」
別に悪いことでは無いのだけれど、名波さんの気持ちと今の部は、目標が大きく異なっているらしい。大会を意識していた名波さんと違い、部全体は楽しくやれればそれでいいという雰囲気とのこと。
「私一人が頑張ろうって呼びかけたところで、皆が動くとは思えないじゃない?」
「あー、そういう空気あるよな」
全体の雰囲気、この影響力はかなり大きい。まして団体競技ともなれば、一人で目標を変えるのは至難の技だろう。
「だから、もう良いのよ。何か別の楽しみを見つけることにするから!」
「名波さんがそれでいいなら、良いんじゃないか」
「やっぱりそうよね!」
俺が思っていたよりも、名波さんは前向きに考えていた。学生の楽しみは、別に校内で探さないといけないわけじゃない。部活でなくてもバスケをやる手段はある。そう思い肯定したら、名波さんの表情がぱあっと明るくなった。
「なのに青野のやつってば、『シナリオが狂うからそれだけはやめてくれ!』だなんて、ワケわからない事言いだしたのよ!?」
「シナリオって……また意味不明だな」
「そうなの! 私の気持ちなんてぜんっぜん見てくれてないんだから! この前も――」
ああ、彼女にまたしてもスイッチが入ってしまった。以前、これで名波さんとの通話時間が恐ろしいことになったのを思い出す。
「……はぁーっ」
「大丈夫?」
俺の予想とは裏腹に、次の文句は出てこなかった。代わりに、大きなため息をついた。心配になったものの、ただ気持ちを切り替えるためのため息だったらしい。名波さんは、お腹の辺りで両手を軽く合わせながら、申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんね。またこんな話につき合わせちゃって」
「気にしなくていいよ。それより、気持ちは平気?」
「平気。私、決めたの。あいつの言動に振り回されるのは、もうやめにするわ」
「うん、それで良いと思うぞ」
青野の言動は気にするな。青野の友人としては言ってはいけないことかもしれない。けれど、名波さんの笑顔は曇ってほしくない。そんな俺の気持ちが勝った。
「あ、そういえば。どうして私の事、名前で呼んでくれないわけ?」
「え?」
話題を切り替えたと思ったら、俺の接し方についてだった。なんとなく、名前呼びは青野の特権だと思い込んでいた。けれど名波さんとしては、そうでもなかったらしい。
「い、いいのか?」
「私が先に義人って呼んでるのに、自分はダメっておかしいでしょ?」
確かにそうだ、と思わず頷く。しかし、いざ呼ぼうとなったら、すごく緊張する。自分なんかが呼んでいいのかと、肺が縮まったような錯覚に陥る。口の中が急激に乾くのを感じながらも、なけなしの勇気を振り絞る。
「じゃあ、えっと……優紀さん?」
「っ……! さ、さんもいらないから!」
「ゆ、優紀?」
「うん、よろしい!」
彼女のニヤリとした笑いを見た瞬間に訪れた、この心の高ぶりは一体何だろうか。認めてもらえたという高揚感か、それとも、青野に隠し事が増えてしまったという罪悪感か。
「ね、義人ってさ。お昼ご飯、いつも学食よね?」
「え? そうだけど……」
実は俺の両親、基本家にいない。もう今更だし、慣れてきた。……別に嫌われているわけではない、と思いたい。ただ、忙しくて会う時間が全然無いことに、若干のもやつきはあるけれど。
「じゃあさ、今度……」
意を決して、名波さんは言った。
「私の料理、食べてみてくれない?」
「えっ」
青野の好感度は41と、最低記録を更新中なのだけれど。……もし好感度の対象が俺だったのなら、頭上の数字は上がっていたのかな。そうだといいなと、心のどこかで願っている自分がいた。