ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
会長と約束した週末になった。待ち合わせ場所に行くと、既に彼女が待機していた。スマホで時刻を確認すると、まだ30分前、ま、間違って無いはずだ。
俺の姿を見つけると、彼女は小走りで駆け寄ってきた。……頭上に浮かぶ好感度の「11」という低い数字も、今は軽く流せるようになっていた。
「それじゃあ、行きましょうか」
「今日もはりきってますね……」
今の瀬戸会長は、黒髪のウィッグに野球チームのロゴが入ったキャップ、無地のパーカーにショートパンツという地味よりな姿だ。
「こうでもしないと、よく男の人に話しかけられるから……」
「それは、大変ですね……」
「お出かけを邪魔されてしまうよりは、全然良いわ」
つまり、ナンパ避けである。学校内でさえ、瀬戸会長は周囲の目を引きまくる美貌を持っているのだ。それが街中で披露したら、大人しく出かける事は難しいだろう。
「なんか、お忍びって感じがしますね」
「ふふっ。私は別に、有名人ではないのだけれどね」
学校で見る会長と違って、今の姿は間違いなく1人の可愛らしい女の子である。隣にいる俺は、周囲からどう見られているんだろうか。
「……やっぱり、ちょっとこの服装では暑いわね。近々夏用の服も見に行きたいのだけど、良いかしら?」
「ええ、良いですよ」
次の約束をサラッと取り付けられている事に、俺はまだ気づいていなかった。彼女とのお出かけを楽しんでいる身としては、不満など1つもない。
滞りなくカフェについた途端、会長は梟たちの元へ一直線に向かっていった。
「あら、この子……警戒心が緩いわね。撫でられるのを待ってるわ。あの子は逆に撫でられるのがあまり好きじゃないみたいね。けれど、興味は示してくれている。心を開いてくれるのを、じっくり待ちましょうか」
「お、お客様……? 初めてなのに、どうしてスタッフより詳しいんですか……?」
「あはは……瀬戸会長、本当に研究熱心なんで……」
猛禽類に囲まれてうっとりしつつ、梟ごとの特性を的確に見抜いていく彼女の姿に、店員たちは釘付けになっていた。俺も最初は戸惑ったけど、ようやく慣れてきたところだ。
「ふふ……やっぱり可愛いわね」
瀬戸会長、梟たちに注目を浴びて嬉しそうだ。初対面の白い梟を手懐けている姿は、息を飲むほどの美しさが感じられる。
そんな会長の元に、店員さん達がカメラを持って近づいてきた。
「ま……まるで絵画みたいに美しい」
「あのお客様……お写真を撮らせてください……。そして当店のSNSに、載せさせていただけないでしょうか……!?」
「え、えぇ……?」
彼女の変装も意味を成さず、結局注目を集めてしまうのだった。
時間いっぱい梟たちを愛でた瀬戸会長は、とても満足げだ。学校の無表情な会長とは、まるで別人だ。
そろそろ解散かと思っていた時に、会長は俺に真面目な声で言ってきた。
「ねえ、友田君。生徒会の件、考えてくれているかしら?」
「あ、あの話ってまだ有効だったんですか?」
「当然じゃない。ずっと枠は空けてあるわ」
3ヶ月も空きっぱなしなのはどうなんだろうか。正直、会長がそこまで本気だとは思っていなかった。
「いえ、きっと俺なんかよりもいい人が……」
だから、こう返してしまった。俺の脳裏には、青野の顔が浮かぶ。直接言われたわけじゃないのに、これ以上は俺のものだ、と忠告されているような気持ちになってしまう。
「いないわ、そんな人」
「えっ」
俺のモヤモヤを断ち切るかのように、彼女はバッサリと言い放った。
「ただ純粋に手伝いを申し出てくれたのは、貴方だけよ」
「会長……」
「あとは、友田君の意志だけ。……どう?」
そう言いながら微笑みを見せてくれる瀬戸会長。けれど、俺は彼女に対してうしろめたさを感じている。俺が会長に一歩踏み込んだのは、青野からの頼みと、その頭上の数字を見るためだったからだ。そうでなかったら、きっとこうして関わることは無かっただろうから。
「……あの」
「大丈夫よ、友田君。無理強いはしないから」
「すみません、会長」
俺が答えを出せずに俯いていると、会長は俺の後頭部に手を置いた。そして、ゆっくりと俺を撫でてくれている。彼女の優しさが、胸にしみる。……ただ、一個だけツッコミを入れたくなってしまう。
「……あの、俺は梟じゃないですよ」
「あら、ごめんなさい」
梟を撫でるときと同じように、手の甲でそっと撫でられていた。これはこれでドキドキはしたのだけれど、いろんな意味で貴重な体験だった。
ふと、彼女の手が離れる。名残惜しさを感じつつも頭を上げると、会長は少しムスッとした顔を俺に向けていた。
「……前から気になっていたのだけれど、学校の外では会長じゃないわ」
「え……。瀬戸、先輩?」
彼女は小さく首を振った。どうやら違うらしい。彼女が何を求めていたのか。もしも、俺の思い上がりじゃないのなら。きっとこう呼ぶべきなのだろうか。
「氷織、先輩?」
「っ!?」
名前を呼んだ瞬間、先輩が固まった。そして顔が赤くなっていく。手でパタパタと顔を仰ぎだした。これは、踏み込みすぎただろうか。
「きょ、今日は暑くなってきたから、ここまでにしましょうか」
「は、はい……」
会長の判断で、ここでお出かけは解散となった。会長の夏服を買いに行く日付だけ決めて、会長は早歩きで帰っていった。
嫌われてはいない、と思うけど……次会った時、なんて呼んだらいいんだろう。彼女の頭上にある11を見つめたところで、答えは返ってこなかった。