ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
『うぃーっす。おちかれー』
パソコンのスピーカー越しに独特な挨拶をぶっこんできた主は、青野のネトゲ友達であるサワチーである。平日の夜や、会長と会わない休日はほぼサワチーと過ごしている気がする。
『なんかアオがさー、血眼になって誰かを探してるみたいなんだけど。もしかしてうちの事だったりする?』
「サワチーも探してはいるけど、今は他のヒロイン候補を優先してるらしい」
『えー、それはそれで目つきが怖くて嫌なんだけどー。トモなんとかしてよー』
「と言われてもな……」
サワチーとは、青野抜きでゲームをすることが多くなった。話し方もだいぶ砕けている気がする。多少の寝不足をこらえてでも、この関係を続けていて良かったというものだ。
あと、青野は未だにサワチーの正体に気付いていない。同じ学校と感づいてはいるのだが、まさか同じクラスにいるとは思っていないらしい。灯台もと暗し、というやつだ。
『やっぱり、アオは下心ヤローだったか。このまま卒業までバレずに済みますよーに』
「今の様子じゃ、大丈夫だと思うけどな」
『いやいや甘いよトモ、奴の執念を甘く見ちゃいかんぞい。なにせ、うちが同じ学校ってとこまで当ててきてるからね』
「た、確かに……」
サワチーが桜花高校に通っていることを青野は何故か知っている。何でも、サワチーから学校の特徴や行事の話を聞き出し、その情報を元に特定したとのこと。青野が自慢気にそう語った時は、普通に怖くて引いた。
『アオめ、敵ながら恐るべし。トモも背中に気を付けなー? いつ刺されるかわからんよー』
「いや、俺はもう全部知られてるからな……」
ここで俺が、アオに人の好感度を見る能力を植え付けられていると言ったらウケるだろうか。いや、流石に信じてもらえないだろうし、止めておこう。
『そっか、うちのために自らを盾に……。この犠牲、無駄にはせんぞ!』
「死んでないぞー」
死んではないけど、すごく厄介なことにはなってます。……とは言わずに、クエスト開始の手続きを済ませた。
サワチーと2人で期間限定のクエストをやる機会はかなり増えた。少なくとも週3日ぐらいでゲームを起動している。俺のレベルもだんだん追いついてきたし、息もそれなりに揃ってきたと自負している。
『じゃあ、さんにーいちのカウントで攻撃開始だよん。……はい今!』
「カウントはっ!?」
会話でも時折冗談を挟んだりと、初対面の時にあったサワチーからの警戒心はすっかり消え失せていた。前みたいなバカップル量産クエストはもう勘弁だけど、一緒に敵を倒す時間は結構楽しめていると思う。
休憩中、サワチーがふと俺の話を始めた。
『トモはさ、リアルのうちを見ても目の色変えなかったよねー。リアル姿を見ても下心を出さない男、実は初よー』
「え、初って流石に嘘だよな……?」
『ほんとほんと。ほれ、見てくれはけっこーイケてたっしょ?』
「確かにクラスで一番可愛いなーとは思ったけど」
何か詰まったような声が聞こえた後、少しの間静かになった。マイクがミュートになっているのかと思ったが、違うようだ。どうかしたのか、と聞く前に持ち直したサワチーの声が復活した。
『ふ、不意打ちとは卑怯なり……。トモ、中々やりおるな……』
「え、何が?」
『自覚なしかー、こいつマジかー』
そこまで動揺させることを言ってしまっただろうか。自分でイケてると言うくらいだから、てっきり言われ慣れていると思ったのだが、違ったようだ。
『こほん、とにかく。うちがそこそこいー女だと知った途端、掌返してくんのよ』
「そういう噂は聞くけど、本当にあるんだな……」
『実際、ほんとに笑えんからね。だからリアルとサワチーは切り離してるのさ』
そう笑いながら言う彼女はどこか、哀愁のような乾いた空気を帯びていた。なんと声をかけようか迷っていたら、ともかくさ、とサワチーが切り出した。
『ありがとね。うちのリアルを普通に受け入れてくれて』
「……ど、どういたしまして」
『今後も1つ、よろしく頼むよー?』
サワチーからの真っ直ぐな感謝の言葉に、胸が暖かくなった。けど、俺の胸の奥には引っかかっている事がある。
サワチーは何故、俺とリアルで会う事は許してくれたのか。以前、彼女は「トモは大丈夫そうだったから」と言ってくれたけれど。俺にそんな特別な何かがあるとは、到底思えなかった。
俺が彼女と接触したのは、サワチーのアバター頭上にある数字が目的だったというのに。だから俺の中には、常に罪悪感がつきまとっている。こんな俺は、果たしてサワチーを受け入れていると言えるのだろうか。
『にしてもさー。ここまで一緒にいてもウチになびかないって、それはそれでなーんか癪なんよねー』
「えー……」
俺が考え込んでいた時に、変ないちゃもんを付けられてしまった。じゃあどうすりゃいいの、という俺の疑問に返事はなく、何かを企むような小さな笑い声だけが聞こえてくるのだった。