ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
今日も『かどつよ』のギルド拠点にログインすると、聞き慣れた声が飛んできた。
『あれー、今日はサワチーおらんのー?』
「あ、ズミさん」
アオに誘われて入ったギルド。そのリーダーであるズミさんだった。ギルドの中で最もベテランな彼女は、一度たりともシラフなところを見たことが無いといわれている。
『どもー。いつもうちのサワチーが世話んなってますー』
「いやあなたのじゃないでしょ」
この冗談めいた挨拶もおなじみである。ズミさんは以前、サワチーがソロで効率良くクエストを消化していく姿にほれ込んで、ギルドを立ち上げて勧誘したのだとか。それからはもう、親戚の叔母さんみたいにサワチーを構い倒しているらしい。
『あんたはそう言うけどなー? ……最近あたしと全然遊んでくれへんのよ。それもこれもぜーんぶ、トモのせいやからな!』
「えっなんでですか」
『だって最近、サワチー誘っても予定あるからって断られるんよ!?』
あの日も、この日もあかんかった……とズミさんがブツブツ呟いた日付は、確かに俺と2人で遊んだ日だ。別に3人でも『かどつよ』は一緒にできるはず。というかギルドリーダーが省かれるってかわいそう。
『まあええわ。……最近のサワチー、なんや前より明るなったみたいやし』
「え、そうなんですか?」
『そうよー。トモが入ってきた辺りからや。間違いないわ』
ズミさんは確信しているようだけど、俺にはまだ実感がない。一緒に遊んでいただけの俺が、彼女をそこまで元気にさせるような事は出来ていないと思う。
『まさかトモ。リアルサワチーと会うたりしてへんやろな……?』
「あの、アバターグリグリ押し付けてくんのやめてください。怖いです」
ズミさんのトゲトゲした装備が、俺のアバターにグサグサと突き刺さりまくっている。直接刺さっているわけじゃないのに、何故か全身が痛くなってきた。ここは話題を切り替えるしかない。
「そういえば、ズミさんはサワチーと直接会った事ないんですよね。意外です」
『せやろ~!?』
ズミさんは思った以上に食いついてきた。俺のアバターは壁に押し込まれた上、ズミさんとほぼ重なってしまっていた。プレッシャーに困惑していると、ビール缶を置く音がした後急に静かになった。
『……最初に頼まれたんよ。ゲームは大歓迎やけど、リアルは知られたくないって』
サワチーのリアルバレ対策は、かなり徹底している。自分からバラした俺以外には、本当に当てられたことが無いらしい。
『多分やけど、リアルで何か嫌なことがあったんやろうね。そういう拒絶の仕方やったから』
「やっぱり、そうなんですかね」
『……ここだけの話やけどな。最近、アオも似たようなことしてもうてるらしいんよ』
「え……」
つまり、アオは今も彼女のリアルを探っている。やっぱり俺の助言は、全く聞き入れてくれていないようだ。それで好感度をどんどん下げてしまっているのだから、自業自得としか言えない。
もう彼を、助けるのは難しいんじゃないか。そう思ったところでズミさんが机をバンと叩いた音がした。
『だから、ビシッと言ってあげたんよ。……約束守れんやつと、関係を続ける義理なんかあらへんよ、ってな!』
彼女の言葉は、スピーカーの音量以上に重く響いてきた。相手が守ってほしいことは、自分も尊重する。良好な関係を保ちたいのなら、必須と言っても過言ではない。
ズミさんにも、意外としっかりしているところもあるんだなと少し見直した。が、直後に何本目かわからないビール缶を開ける音がしたので帳消しになった。
『……うちかて、サワチーのリアルを知りとうて知りとうてたまらんのを我慢してんのに……リアルの姿を何百通りも妄想して酒の肴にするのがうちの楽しみなんや……』
いや、むしろマイナスかもしれない。なんならアオよりもリアルバレしちゃいけない相手だった。例え同性が相手でも、油断は禁物。嫌な多様性の学び方をしてしまった。
それから雑談が少し入る。アオの話も忘れかけたところで、ズミさんがさらっと質問をしてきた。
『ところでトモ。サワチーって学校ではどんな感じなん?』
「あぁ、昨日もちょっと話して……っ!」
自らの失言に気づいて口を噤んだが、もう遅い。ゲーム越しなのに、背筋が凍った。次に口を開いたズミさんの声は、氷点下のような冷たさを感じた。
『やっぱり。トモ、サワチーとリアルで会うてるんやな?』
「……」
カマかけに引っかかってしまった。グデグデに酔っぱらっている今のズミさんがそんな事しないだろう、とすっかり油断していた。スピーカーから缶を握りつぶす音が聞こえて、喉がヒュッと鳴った。
『ずるい! うちのサワチーが取られてまうー! そんなの認められへーん!』
「あ、お疲れさまでしたー」
ズミさんが身の丈よりも大きく、スローライフと無縁そうな禍々しい光を放つ大剣を取り出し、ブンブンと素振りを始めた。このままだと超一方的な鬼ごっこが始まりそうだったから、すぐにログアウトした。
「……うわっ」
スマホを見ると、ズミさんとの個人チャットにアホみたいな通知数が表示されていた。通知をOFFにして布団に潜る。もしもズミさんに俺のリアルがバレたとしたら。ちょっと想像しただけで、今夜は冷房いらずだった。