ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている   作:こなひー

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第26話 余所行きモードの唐沢さん

 今日も、青野へ好感度の報告を終えた。相変わらず、誰も上がっていないままだぞ。そう忠告しているのだが、今日の青野はずっと何か考え事をしているようだった。

 

「今日も好感度は、皆昨日と同じだぞ……って、どうした青野?」

「……なあ友田。サワチーの正体ってさ……」

 

 穏やかな時間は、突如終わりを告げた。

 

 

「同じクラスの唐沢千紗さん、なんじゃないか?」

 

 

 いきなり心臓をつかまれた気分だった。思わず視線を周囲に巡らせる。今この場には、俺たちしかいない。誰かに聞かれてはいないようだ。

 

「……な、なんで、そう思ったんだ?」

「いや、ふと気づいたんだけどさ……」

 

 サワチーが彼女である、と青野は一体どうやって結びつけたのか。ハッキリさせて、それを否定しておかないとマズい。

 

「唐沢さんって、下の名前が千紗だろ? カタカナにしたら……ほら! サワチーと超似てるぞ!」

「……ぐ、偶然じゃないか?」

 

 確かに、単純に考えたらそこに辿り着くのは当然のことだった。思わず額に右手をあてて項垂れてしまう。俺の苦し紛れの声は、青野に全く届かない。

 

 

 ガツンと椅子をどけて席を立つ青野。背筋に強烈な悪寒が走る。冷や汗が一気に噴き出した。

 

「よし、さっそく唐沢さんに聞いてみるか!」

「お、おい!」

 

 やはりこうなった。これまでリアルバレの事を何度窘められても、言う事を聞かなかった青野。彼はきっとこの後、彼女と会うだろう。

 

『唐沢さん! 君ってもしかしてサワチーなのか!?』

 

 そして、周囲にも聞こえるような声量で、彼女の正体をバラしてしまう。もしそうなったら、彼女にとっては不快どころの騒ぎじゃない。下手すれば、彼女が守り抜いてきたリアルを、ぶち壊してしまいかねない。

 

「まて、青野――」

 

 

「あら、友田さん。まだ教室にいたのですね」

「え……?」

 

 

 教室に入ってきたのは、なんと唐沢さんだった、のだけれど。俺の知っている唐沢さんとは、立ち振る舞いが全然違っていた。勢いを失った青野は、ただ立ち尽くしていた。

 

「あれ、唐沢……さん?」

「ええ、そうですよ。……何やら顔色が優れませんが、どうかされたのですか?」

 

 スカートから取り出した白いハンカチを、ふわりと俺の額に当てる。今の唐沢さんは、誰が見ても淑女と言える姿だった。

 

 ふと、俺は入学直後の事を思い出した。俺が最初に唐沢さんと挨拶した時、彼女はあの様子で返事をしてくれていた。そうか、だからサワチーとして会ってくれた時に気づけなかったんだ。

 

「えっと、君が唐沢さん?」

「ええ、青野さんと同じクラスなのですが……話したこともありませんから、忘れているのも致し方ないですよね」

「い、いや。その……」

 

 浮世離れしたような彼女の礼儀正しさに、青野はタジタジだ。正直、俺も困惑していて次の言葉が出てこない。

 

「ご友人とのお時間を、これ以上邪魔をしてはいけませんね。私はこれで失礼致します。友田さん、また明日」

「あ、うん。またね」

「お、おぅ……」

 

 彼女が教室を去り、静寂な空気に包まれる。ようやく思考が戻ってきたけれど、今のは何だったのか、未だ整理がつかないままだった。

 

「……友田」

「ど、どうした?」

「唐沢さんの好感度が今どうなってるか、教えてくれ!」

「えぇ……」

 

 どうやら、唐沢さんとサワチーは別人だと認識したようだ。但し、ヒロインに追加しても意味がないだろう。何せ、頭の数字はサワチーと全く同じなのだから。いや、正確にはまた下がっていて、40を下回りそうな勢いなのだけれど。

 

 

 

『うぃーっす。うちの余所行きモード、どだったー?』

 

 その晩、かどつよで会った彼女は元通りだった。余所行きモード、という言葉を聞いて納得した。同時に、素直に感心する。

 

「ああ、凄いな。あれでサワチーだとは全く思わないぞ」

『ふふん。でしょー? あれも対策の1つよー』

 

 サワチーの喋りを聞いていると、なんだか安心する。教室で出会った唐沢さんと同じ人間とは、正直今でも信じられない。

 

「あ、ただ……青野には違う意味で目をつけられたかも。ぜひお近づきになりたい、とか言ってたぞ」

『げっ、マジか。うちって何て罪な女……』

 

 あの後、好感度記録帳に唐沢さんの追加はしなかった。青野がかなりゴネてきたが、『好感度を見るのは4人が限界だ』という、自分でもよくわからん言い訳で通した。

 

 

 今日予定していたクエストを終えて、そろそろ寝るかという時間になった。固まった体をほぐしていると、サワチーのアバターが俺に向かって礼の動きをしてきた。

 

『……ありがとね、トモ。やっぱり、君と会って正解だったよ』

「へ?」

 

 サワチーの不意な優しい声に、俺の心臓が少し跳ねた。どうして、お礼を言われたのだろうか。

 

『実はさ……2人の会話、途中から聞いちゃってたんよ。アオがうちのリアルを言い当てそうになってたのを、ごまかそうとしてくれてたでしょ?』

「それは、まあ。でも、俺には止められそうになかったし……」

『そこはいーの。本気で焦ってくれてたの、わかったし』

 

 だから、ちょっとご褒美。そう呟いたサワチーは、少し間を置いてから囁いた。

 

『ありがとうございました、友田さん。いずれ、恩返しをさせてもらいますね』

 

「っ!?」

『……やっぱトモ、こういうタイプに弱いんだー。いーこと知っちゃった』

「う……」

 

 図星だった。悪戯に笑うサワチーに、俺は何も返せなかった。俺は彼女に、弱みを握られてしまったような気がした。

 

『あ、ところでさ。……こないだズミさんと2人きりで会ってたって噂聞いたんだけど』

「え? あー……会ったには会ったよ」

『へぇー……何やってたん?』

 

 いきなり声のトーンが下がった。何か機嫌を損ねてしまったのだろうか。

 

「会ったけど、ズミさんがすぐに悪酔いし始めちゃったんだよ。だから全然クエストとかやらずじまいだったんだ」

『あのズミさんが悪酔い、ねぇ……?』

 

 ズミさんのサワチー好きすぎる発作が出たから、クエストどころじゃなくなった。とは言いづらかったので、別の理由にしておいた。しかし、サワチーの疑いは晴れていないらしい。

 

『……トモ、次会うときは覚悟しとけよー?』

「え、何を? 何で?」

『自分の胸に聞いてみろー。そんじゃおやすみー』

 

 彼女はそう言って、さっさとログアウトしてしまった。次に会った時、何をされるのだろうか。わからないけど、覚悟はしておかないといけないようだ。

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