ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
こちらが正しい30話です。
『友田ってさー、いろんなやつとつるんでるじゃん? なんか悪口とか全部バラされそうじゃね?』
『わかるわー。八方美人っつーの? 悩みとか打ち明けたら終わりだぜ』
俺が中学の時に偶然聞いてしまった、クラスメイトの心無い言葉。彼らとはそこそこ仲良く出来ていたと思ったのに、陰ではそんな風に思われていた。そんな事実に、俺は人知れず深く傷ついたのだった。
「……夢か。はぁ、嫌なことを思い出しちゃったな」
何の脈絡も無く訪れる、過去を思い返させられる嫌な夢。授業終わりの疲れに意識を持っていかれた俺は、寝たはずなのにどっと疲れてしまった。
「結局、あの後は話すのを避けて……自然消滅したんだったかな」
あんな本音を聞いた後に普通に接するのは、まあ無理だった。俺が避けているのを知ってか知らずか、相手もこちらに近づくことも無くなっていった。
広く浅い関係。会った時は楽しく話をしたり遊んだりする関係。ただ休みの日に誘うほどではない、そんな距離感。かつて別の高校に行った友人たちは皆疎遠になった。
きっと全員、本当は好感度がそんなに高くなかったんだろうな。……彼らの数字とか、全然見たくないけど。
乾いた笑いが溢れかかった時、突然俺の肩に手が置かれた。
「義人ー。なーにぼんやりしてんの?」
「へっ!?」
後ろから優紀に声をかけられて、肩がビクッと震えてしまった。俺の前に回り込んできた彼女は、心配そうに顔を覗き込んできた。
「って、目の下。クマが出来てるわよ。ちゃんと寝てるの?」
「え、あぁ……今寝てたから多分大丈夫」
「いや、そういう問題じゃないでしょ」
さっきの夢見が悪かったせいか、どうも心配されているようだ。彼女の世話焼きは、最近より一層俺に向けられている気がしている。それはかつて、青野に向けられていたものだったのだけれど。
現在、青野への好感度は40でギリギリ踏みとどまっている感じがする。何かと選択を間違え続けている青野をかろうじて嫌いになっていないのは、幼馴染としての温情なのだろうか。
「ねえ、さっきから私の頭になんかついてるの?」
「い、いや! なんでもない!」
つい、数字を見すぎてしまっていたらしい。思わず声が裏返ってしまった。慌てて否定したせいか、余計怪しくなってしまった気がする。
「……まあいいか。それより義人さ、生徒会の手伝いやりすぎじゃないの? 生徒会ってあんたがいないと機能しないわけ?」
「そんな事は……ない、はず。多分」
「そこは言い切ってよ……」
会長しかいない生徒会室を思い出してしまい、言葉尻がすぼんでしまった。なにせ今の生徒会は実質会長1人でやっているようなものだと知っていたからだ。未だにさ……副会長や他の役員たちが一緒にいる所を見たことがない。
「ね、もし大変だったら私も手伝うから。手伝いもほどほどにね!」
じゃあまたね、と優紀は教室から出ていく。俺もそろそろ行くか、と鞄を持って廊下に出る。生徒会室へと向かう俺の後ろには、ある人影が立っていた。
「名波さん、だったっけ。最近トモと距離近すぎん? ……どーゆー関係なんだろ」
青野への好感度が30にまで落ちている誰かの呟きに、俺は気付かなかったらしい。
夕暮れの日差しに包まれている生徒会室。そこにいる瀬戸会長の姿は、まるで肖像画のようだと生徒たちに称されている。そのせいか皆、扉を開ける事を躊躇っている。
「なっ、あいつ……なんの躊躇も無く聖域に入っていったぞ!?」
「一体何者なんだ……?」
遠巻きで眺めていた男たちが何か言っているが、正直アホらしい。何だ聖域って。瀬戸会長は別に人を遠ざけているわけじゃない。周囲が勝手に距離を感じているだけなのだ。
「あれは、友田さん? 生徒会所属ではなかったはず……」
「お嬢様、この辺りは男子生徒が多いのでとっとと離れ……お嬢様どこへ!?」
俺が閉めたドアに誰かが張り付いていたらしいけど、その時は瀬戸会長と話していたので気づかなかった。
「ようやく、下駄箱にラブレターが届かなくなったんですね」
「ええ。先日告白に来た相手に『ペーパーレス化による経済効果』をみっちりと説明した成果かしらね」
「された相手、呆然としてましたけどね……」
そんな哀れな講義相手は、2度目の挑戦だったサッカー部キャプテン。次は絶対に落とすと、告白のセリフを何十通りも用意していたらしい。
『やあ、来てくれたね氷織ちゃん。それで、話しなんだけど――』
『その前に、貴方がこれまでにくれたラブレターについて、この資料を見てもらえるかしら?』
『えっ』
しかしいざ本番になったら、会長が彼のメモを軽く上回る量のプレゼン資料を渡してきた。受け取るときの彼からしたら、さぞ理解不能だったことだろう。
『……という理由から、貴方の行為が資源を無駄にしているか。理解していただけたでしょうか?』
『あ、え。はい……』
『もう休み時間も終わりますね。では私はこれで失礼します』
『あ、うす……』
サッカー部キャプテンは結局理解が追いつかないまま、告白は失敗に終わった。この『告白をSDGsされた事件』が噂として広まり、ラブレターは止めておこうという流れになったのだった。
「……今更ですけど、あのプレゼン資料を紙で作ってたら話がおかしくないですか?」
「……! やっぱり、友田君なら私のボケに気づいてくれると信じていたわ」
「信じ方がちょっとズレてません!?」
最近、会長が少しユニークな方向に走りすぎている。微力ながら雑談力の成長を手伝ってきた俺としては、少し心配になってきた。
「そういえば電子化って言ってましたけど、誰も会長の連絡先知らないんですよね?」
「ええ、……友田君以外には誰も教えていないわ」
「八方塞がりじゃないですか……」
それはつまり、誰からも告白を受ける気がないと言っているも同然だ。頭上の17という数字は、最早青野だけでなく全ての男子生徒に向けられているのではないだろうか。そう考えていたら、会長が突然ため息をついた。
「……こういう事には、気づいてくれないのよね」
「え、なんですか?」
「なんでもないわ。ほら、手が止まってる。無駄口は一度止めてちょうだい」
「なんか急に厳しくないですか!?」
何故か会長の目つきが少し厳しくなってしまった。これも何かのボケかと考えたけど、どうやら違うらしい。ひとまず作業を終わらせるため、目の前の書類に目を向ける。
ふと、さっき見た夢と今の状況が脳内に並ぶ。今の彼女たちとの交流は、中学までの浅い関係とはどこか違う感じがする。
けれど、自分から踏み込むのは怖い。彼女たちも裏では、嫌っているのかもしれない。そんな考えが脳裏を過ってしまう。
その上で、俺の中には今の関係を壊したくないという思いが強く芽生えていた。だから尚更、踏み込むことなんて出来ない。
会長には申し訳ないけど、今日はあまり戦力にはなれなそうだった。
「生徒会長さんと、楽しそうにお話を……羨ましいですわ。私も、あんな風に話せたら……」
「お嬢様、私とのお話しでは不満なのですか……? あの、お嬢様……?」
「それに何だか、距離も近いような……やはり次から練習場所を私の部屋に……」
「お嬢様。目が怖いのですが……あ、でもその目で睨まれるのも悪くないな……」
一方で繰り広げられていた一ノ瀬さんと倉敷さんの会話は、生徒会室の扉が阻んだために俺の耳には届かなかった。