ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
『……さて、お仕置きはこのくらいにしといてやるかー』
「あ、はい……」
サワチーの私怨による高難度クエストマラソンがやっと終わった。スローライフもできるはずのゲームなのに、全く生きた心地がしない5時間だった。
「というか、結局何のお仕置きだったんだ……?」
『……別にー』
「いやいやいや」
全然別にーの内容量ではなかった。正直しんどすぎて、このゲームを何度か止めたくなった。けれどもクリア出来た時の達成感のおかげで、変な快感に目覚めかけるところだった。
『ってごめん、流石に嫌になったかね。……かどつよ止めるー、とか言い出したりしない、よね?』
疲労感でぐったりとしていると、いつもより気が弱くなったようなサワチーの声がした。
『なんていうかさ、普通のネット友達だと次会えなくなるかもしれないじゃん? だから、結構遠慮とかするんよ。けど、トモとはリアルでも会えると思って、つい……』
「つい……?」
正直な所、あの鬼のようなクエスト連投をつい、でやってきた事の方が怖い。かつては青野とこのぐらいプレイしていたのだろうか。好感度が30まで下がった今は、もうやっていないのだろうけれど。
『……あの、本当に謝るから。かどつよやめるとか、言わないでね……?』
初めて聞いた、彼女の縋るような声。自分との繋がりをここまで願われたのは、初めてだった。こんな状況で申し訳ないけど、内心では嬉しい気持ちが浮かんできていた。
「……おかげで装備がガチガチに揃ったことだし、次はもっと楽にクリアできそうだな」
『……! と、当然ウチの目論見通りだからね!』
元々小心者なだけに、人の頼みを断る勇気は持てない。ただそれとは関係なく、今のサワチーからのお願いを断るつもりは全然なかった。
『なんや、まーた2人でクエストやってたんかいなー』
「あ、ズミさんだ」
『……どもー』
ぷはー、とズミさんがいつものやつを呑んでいる声が聞こえた。なんか明らかにサワチーのテンションが下がったんだけど、気のせいかな。
「あれ、ズミさん。今日は休肝日って言ってませんでした?」
『色々悩んだんやけどなー。今日は肝臓を休ませる事を休む日にしたんよ』
「ちょっと何言ってるかわかんないです」
元より月一の休肝日を守っているのを見たことがないんだけどね。酔っ払っている人の言う事をまともに聞いちゃいけないんだなあ、と思った。
『うちから楽しみを奪うなんて真似、何人たりとも許されへんよー。……ま、もしうちが入ってこなくなったら、異世界で無双しとる頃やろうから、気にせんでもええからなー』
『……あの、そういうのシャレにならないんで止めてもらえますー?』
ズミさんは軽く言うけれど、正直そういうブラックジョークは笑いづらい。サワチーも割と本気で心配しているのだけれど、伝わっていなさそうだ。
『さて、この後はどこに行くつもりだったんやー? 抜け駆けは許さへんで〜?』
『あ、うちらそろそろ終わろうかと思ってましてー』
『えーまたぁ!? もう数え切れんほど断られてるんやけどー!?』
「毎回ズミさんが俺達の寝る時間に入ってくるからでは……?」
サワチーはよそ行きモードを崩さないため、夜ふかしはできる限りしないと決めている。俺も夜遅くまではやらないので、社会人のズミさんとはそもそも時間帯が合わないのである。
「……ん、電話か?」
俺のスマホに電話の着信があった。優紀からだった。かどつよも一区切りついたし、そろそろゲームを終わることにした。
「じゃあ俺はそろそろ寝ますねー」
『ほーい。またよろしくー』
『サワチ〜置いてかんといてぇ〜! 後生やからぁ〜!』
『あーはいはい、ちょっとだけ付き合いますから』
サワチーは少しだけ酔っ払いギルマスに付き合ってあげるらしい。俺は呼ばれていないとわかったので、安心してパソコンの通話を切る。そのまま膝下で鳴り続けていたスマホの通話に出た。
『あ、遅くにごめんね? ちょっと色々聞いてほしくて……』
これはきっと青野絡みだろう、と声でわかる。夜はもう少しだけ続くらしい。
『……まさか、春吉が私のクラスも知らなかったなんて思わなかったわ』
「はは……」
俺が青野に、優紀が落ち込んでいるから慰めに行けとアドバイスした。アドバイスというか、警告に近かったかもしれない。
何せ、青野はその事を全く知らなかったのだ。つまりそれは彼女にとって、青野の存在が限りなく小さくなっているという証拠だからだ。
流石に青野もそれを感じたのか、すぐに優紀のもとへと向かった。しかし結果はまたしても予想の斜め下だった。最早優紀の好感度が上がることはないのだろうか。
『……まあ、気にかけてくれた事はちょっとありがたいけど』
と思いきや、好感度が40から41に上がった。こうして上がったの見たのは初めてで、眠気が少し覚めるほどの衝撃だった。
「おぉ……こんな感じなのか」
『何が?』
「いや、なんでもない」
これまで下がった分を考えると、あまりにも少ない進歩だ。ただ、青野の行動が初めてプラスになった。これは非常に大きい。
もしかしたら、ここから青野が挽回していくのかもしれない。熱意だけは大きいから、可能性はある。
そう思ったら、何故か少しだけ俺の心が痛んだ気がした。
意外と短めに終わった優紀との通話が終わり、背伸びをする。パソコンの画面をまだ切っていなかった事に気づき、マウスに手をつける。
すると、何十件もかどつよに未読のメッセージが表示された。
『トモー、ログアウトし忘れてるぞー』
『あれ、既読つかない。寝たんかな』
『え、ちょっと大丈夫なん?』
『もしかして倒れた? 一旦返事ちょーだいよ』
スマホを見ると、不在着信2件。いつもらしからぬ、サワチーからのメッセージ連投。どうやら、かなり心配かけてしまったみたいだ。すぐに返事を書いて送った。
「ごめんごめん、切り忘れたまま寝てたよ」
送った直後に既読が付き、返信が来た。
『もー脅かすなよー』
と、それだけ帰ってきた後は特に動きがなかった。しかし直後、ズミさんから個人でメッセージが飛んできた。
『サワチーを泣かした罪は重いで』
「えっ」
なんと、サワチーを泣くほど心配させてしまったらしかった。彼女からのコメントからはわからなかったけれど、まだ一緒に通話しながらクエストを続けていた自称サワチーガチ勢のズミさんが言うのだから、間違いないだろう。
泣かせてしまって申し訳ないと、罪悪感が一気に込み上げてきた。次に会った時、謝っておこう。
『次泣かしたら、飲ますからな』
「何を???」
ネット付き合いっていろんな意味で怖い。……そう思わされた夜だった。
なんか突然大勢の方に見てもらえて、とても嬉しいです。
今のところは続きを書く意欲につながっています。