ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
いつも瀬戸会長しかいない生徒会室。しかし今日は様子が違った。
「友田君、来たわね」
「お待ちしておりましたわ」
「あれ、一ノ瀬さん?」
なんと一ノ瀬さんと倉敷さんがいた。いつも空いていた席が埋まっている事に、違和感を覚えた。……いや、いつもいないほうがおかしいんだけどね。
「その、私も生徒会に入りたいと思いまして。会長にご相談をと」
「え、一ノ瀬さんが生徒会に?」
一ノ瀬さんが生徒会に入りたいなんて初耳だ。何より、生徒会には男もいる。……確かいたはず。
「他の方はどうされているのですか?」
「いる…………はずよ」
「しっかりしてください会長。確か3人くらいいますよ」
会長にそう言ったものの、俺も全然知らないからあまり人のことを言えない。役職的にはあるんだけど、他の人は本当に存在しているのだろうか。俺の疑問に、倉敷さんが答えてくれた。
「1人は留学中、もう1人は家庭の事情で転校してしまっているようですね」
「えぇ……」
「そうだったのね……どうりで見かけないと思ったわ」
「会長???」
なんでそんな大事な情報を把握していなかったのだろうか。情報網がまるで機能していない、風通しどころか完全密閉である。これも会長が周囲の人を遠ざけすぎてしまったせいなのか。
「……もういっそ、代理に梟を置いちゃったりして」
「ぜひそうしましょう」
「会長、冗談ですよ。飼えそうな梟調べ始めないでください」
俺の冗談が超食い気味に採用されかけていた。なんか最初の会長の麗しいイメージが、今や欠片も見当たらなくなってしまった。彼女が生徒会梟を見つける前に、一ノ瀬さんが右手をピシッと上げた。
「では、私と志穂がその代役という形でいかがでしょう?」
「あなた達が……?」
「え、私もですか?」
ここで話が一ノ瀬さんの生徒会加入に戻ってきた。というか、倉敷さんもなのか。本人は知らされていないみたいだけど。護衛が生徒会に入るのは、流石にどうなんだろうか。
「……友田。勘違いしているようだが、私も一応生徒だぞ」
「えっ」
えっ。
……えっ。
「お嬢様の護衛を優先しているから、授業はほとんどそっちのけだけどな」
「……生徒会長として、聞き捨てならない言葉が聞こえたのだけれど」
ちょっと話が入ってこない。いつもスーツ姿の倉敷さんが同じ生徒だったなんて、あまりにも衝撃的だ。飲み込むまでまだ時間がかかっている。
「すみません、私も授業には出てほしいと言っているのですが……」
「その間にお嬢様の身に何かあったら、私は一体何のために学校へ通っていると!?」
「学業のためでは」
「やかましいぞ友田!」
なんか怒られた。あまりにも理不尽。ちょっとショックを受けていたら、一ノ瀬さんの目が少し鋭くなった。
「志穂? 言葉遣いがよろしくありませんわよ?」
「はいっ! 申し訳ありません!」
「……梟みたいに細くなったわね」
男に触れる練習に付き合い始めてからというもの、一ノ瀬さんの強かな一面を見る機会が増えてきた。そういえば怯んでいる姿を最近見ていない気がする。
「友田さん、すみません。志穂には何度も言っているのですが……」
自覚があるのかはわからないけれど、最初からは考えられないぐらい自然に、軽く手を伸ばせば触れられてしまうほど俺に近づいている。
もしかして、実はもう克服してたりするのだろうか。何らかの理由で、その事を俺に言っていないだけだったりして。……ないか、一ノ瀬さんにメリットないし。
彼女のお嬢様らしい笑顔を見ていたら、ガラッと生徒会室のドアが勢いよく開いた。
「会長! また1人で仕事を――」
「ひゃわぁっ!?」
副会長が入ってきた途端、腰が抜けて床に転げ落ちてしまった。なんだ、全然克服出来てなかったみたいだ。俺が初めて会った時と同じような反応が、何だか懐かしい。
「貴方、入室前にノックをするのがマナーよ。……えっと、生徒会室に何か用かしら?」
「やっぱりまた忘れられてる!?」
ガックリと肩が落ちて、メガネが思い切りずり落ちた。彼が副会長だというのはわかるのだけれど、どうしてか名前が出てこない。確か……。
「会長、彼は佐伯副会長ですよ」
「なっ!?」
「……なんだ?」
そうだ、佐伯先輩だ。なんで毎回忘れちゃうんだろう。……あれ待て、倉敷さん今普通に副会長の名前を呼んでいたような。副会長も驚きで目を見張っている。
「き、君……僕の名前がわかるのか!?」
「護衛として鍛えられているからな。生徒全員の名前は当然把握している」
鍛えていないと覚えられないってどういうことなんだ。ともかく、今の副会長には倉敷さんが女神のように見えているのか、彼が両手を合わせて拝み始めた。
「うっ、嬉しい! 君、ぜひ生徒会に来てくれ!」
「ええい寄るな鬱陶しい!」
倉敷さんにジリジリと歩み寄る副会長という、妙な構図が誕生した。あの2人もしかしたら相性いいのか、と思ったけど副会長が顔を足蹴にされてるからそうでもなさそう。
「……と、とにかく。多数決で勝つためには、あと友田さんの一票が欲しいのです! どうか!」
「えっ」
「っ!?」
俺の右手を両手で包みこんできた一ノ瀬さんに驚いた。練習以外で触れてきたのは初めてだったから、呼吸がグッと乱れた。視界の外で、会長が息を飲んだ音がしたような気がした。
「あの、俺生徒会じゃないから関係ないと思うけど……」
「……あら?」
この反応、もしかして俺が生徒会に入っていると思っていたのだろうか。そして今、一ノ瀬さんと顔がとても近い。
「……全員、騒ぐのなら他所でやってもらえないかしら?」
「「「「すみませんでした」」」」
雪女モードの瀬戸会長が、久々に出現した。なんかものすごく怖いんだけど。さっきまで普通に会話していたのに、何か気に触る事をしてしまったのだろうか。
「……あんなに堂々と手をつなぐなんて。私ももっと踏み込まないといけないみたいね」
彼女の小さな呟きは、静まり返った生徒会室に溶けていった。