ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
1人になった教室で、俺は座ったまま呆けていた。
『友田君って、手のかからない子よねー』
つい最近、佐藤先生に言われた言葉だ。何故か昔からよく言われてきた気がする。俺はただ、周囲に迷惑がかからないように過ごしているだけなのだけれど。
自分からは何もしないけれど、助けを求められたら手助けをする。そうしていれば、相手は笑顔になる。日々を平和に過ごす事ができる。
だから、人からの頼みは大人しく従ってきた。けれど、最近それが少し疑問に思えてきたのだ。その悩みのタネである、一冊のノートを鞄から取り出す。
「……これ、本当に助けになってるのか?」
好感度記録帳。青野からの頼みでつけ始めたこの鍵付きのノートも、だんだん残りの白いページが少なくなってきた。新しいノートを買うのが面倒で、毎日記入する文字を小さくしていってる。
何せ青野は見事なまでにヒロインたちと進展しない。結果が悪いから、俺が伝えると不機嫌になっていく。これまで一言だって感謝されずにいる。
関係が進まなくても、ページは減っていく。まるで俺の心がすり減っているのが、形として現れているかのように思えて、ため息をついた。
記録帳をしまい、予定表のアプリを開く。そういえば、俺の予定についても大きな疑問を抱えていたのを思い出す。
4色でびっしり埋まったスケジュール。広く浅い繋がりしか無かった自分に、こんな景色は存在してこなかった。一体どうしたというのだろう。誘われた時の事を思い返してみる。
『またご飯作りに行くから! 包丁研いで待っといてよね!』
『もうちょっと物騒じゃない言い方無かった?』
俺より台所の配置に詳しくなった、幼馴染みたいな距離感の優紀。
『次は鷹と触れあえる場所を見つけたの。注意事項は厳守よ、でないと鉤爪の餌食になってしまうわ』
『えっ。……今から入れる保険ってあります?』
冗談よと笑う、ジョークがすっかり板についた氷織会長。
『そだ、ズミさんが今度オフ会したいって誘ってきたんだけどさー。うちは顔バレたくないし……トモ、一緒に来て人柱になってくんない?』
『嫌すぎるんだけど……』
当たり前のように俺を死地へ誘ってくる、未だ俺以外にリアルバレしていないサワチー。
『お嬢様がお前と同じ部屋に居続ける練習をしたいと言ってたぞ。……一ノ瀬会長の監視付きたが』
『それ一ノ瀬さんのじゃなくて俺がプレッシャーに耐える練習じゃないですか……』
もう慣れてきたはずなのに、倉敷さんの後ろでモジモジしている一ノ瀬さん。
……なんで身が震えるような予定ばかり思い出すのだろうか。偶然だよな、多分。
皆と話している時、彼女たちは友好的に接してくれていると思っている。本心がどうなのかはわからない。好感度は見えなくてもいいけれど、良いか悪いかぐらいは知りたい。
「……皆、いつかは飽きて会わなくなるのかな」
彼女たちには悪いけど、これまでの経験からそんなことを思ってしまう。気づけば疎遠になっていく友人と呼んでいた人たち。良い子だねと褒めてくれただけの担任。次いつ会えるかわからない両親。
……結局は、独りに戻る。このままだと、また同じように……。
「このままじゃダメだーっ!」
「っ!?」
教室の外から聞こえてきた大声の主は、なんと青野だった。もしかして、口に出ていたのだろうか。聞かれてしまっただろうか。青野がズンズンと詰め寄ってくる。
「友田!」
「な、なに?」
青野は鬼気迫る顔で、俺の肩をガシッと掴んでくる。一体、何を言われるのか全く想像がつかない。全身が固まったまま、次の言葉を待つ。
「やっぱ男だけじゃ味気ねぇよぉ!」
「いやそっちの話かい!」
思い切り力が抜けた。肩を掴まれていなければ席からズッコケていたかもしれない。青野はやっぱり自分の話しかしない男だった。
「ん、そっちの話?」
「なんでもない。……というより、楽しそうなのに不満なのか?」
「何というかさ、やっぱり俺の思い描いていた青春には女の子が必要なんだよ!」
青野の勢いにはいつも押されっぱなしになってしまう。この熱量がもう少しいい方向に転がればいいのだけれど、生憎俺の助言は聞いてくれないから希望がない。
「優紀は最近一緒に帰ってくれないし、会長も一ノ瀬さんもまともに取り合ってくれない! そんでもってサワチーにはかどつよでブロックされてたし!」
「ちょっと待て、ブロックされた?」
これは初耳である。中学から続いていたネトゲ友達だったというのに、ブロックされたとなればそれはもう好感度とかそういう次元の話じゃない。
ただ内心、自業自得だと納得もできてしまう。サワチーがリアルバレを嫌っていると、何度も言われてきたはず。それを聞かなかったのは、他の誰でもない青野自身なのだ。
『約束守れんやつと、関係を続ける義理なんかあらへんよ』
いつか聞いたあの言葉が、脳裏に流れる。約束を守らない相手を好きになる事は、俺は無いと思っている。そう思うから、自分の事よりも人の事を優先してきたのだ。
「だから友田! 一生のお願いを使う! お礼なら何でもする!」
そんな自分の信念が、今だけは揺らぎ始めている。彼の頼みを、このまま聞いても良いものなのだろうかと。
「俺とヒロイン達の関係を取り持ってくれ!」
自称主人公の無茶なお願いが、俺の葛藤なんか関係なく響き渡った。そして俺は……。
「……わかった」
人からの頼みを断る勇気なんて、持ち合わせていなかった。