ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
第39話 久々の帰り道
青野がここまで必死に頼み込んできたのは、理由があった。
誘田くんをきっかけとして男同士の繋がりが増えてきたある時、誰かが何気なく言った一言に青野は衝撃を受けた。
『青野ー、お前が来ると女子が来たがらねーんだけどー?』
冗談か、はたまた本気混じりだったのかはわからない。けれどその一言を誰も否定しない状況を見て、青野はようやく気づかされた。……今の自分じゃ、女の子にモテることが出来ないのだと。
『これまでのやり方が良くなかったのはよーくわかった。だから友田、今度はちゃんと聞くから色々と教えてくれ!』
『……そこまで言うなら、信じるよ。ただ、俺にそこまで期待はしないでくれ』
それでもいい、という青野の言葉で行動が始まった。その時、初めてちゃんと青野と目が合ったような気がする。
もしかしたら、本当に状況が変わるかもしれない。彼女たちに好かれるため、青野はようやく主人公らしく行動していくのだろう。好感度が上がって、俺の能力は役目を終える。つまり、彼女たちと接点を持つ必要が……。
「……あれ?」
……良いことのはずなのに、俺の心に黒い物が渦巻きだしていた。
好感度チェックを早めに切り上げて、青野は席を立ち上がる。
「まずは優紀だ。最近は全然構ってなかったから下がっちまった。だから今日は一緒に帰る」
「……青野、一緒に帰るだけじゃ多分好感度は上がらないぞ?」
「分かってる。だから友田、アシスト頼むぞ」
これまでなら青野が勝手に突っ走って失敗していたところだ。しかし、今はグッとこらえて俺の話を聞いている。これはもしかすると、もしかするかもしれない。
「よし、優紀と話してくる」
「……名波さんは2つ隣のクラスだぞ」
「……わ、分かってるさ」
冗談だと言いながらも、引きつった口の端が全てを物語っている。……まだ変わろうとしている最中なのだし、きっとこれから直していくだろう。
早足で先を歩く青野が、優紀のいるクラスに着いた。彼女を見つけて、席に向かっていく。俺は教室の扉辺りから様子を見守る。
「優紀! 一緒に帰ろうぜ!」
「え……?」
予想していなかった相手が突然来たせいか、優紀は目を見開いて驚いた。幼馴染なのだから当然乗るだろう、と謎に自信を持っていた青野だったが、優紀の返事は全く異なっていた。
「……どういうつもり?」
「どういうつもり!?」
おおよそ仲の良い幼馴染みの答えではなかった。一緒に帰ろうとしただけで腹を探られる始末。俺は内心、まあそうだろうなと思った。それだけ優紀の不信感がたまっていたと、俺は散々聞かされてきたのだから。
「なんでそんなしかめっ面してるんだよ!? ただ帰りに誘っただけだぞ!?」
「そりゃ疑うでしょ。春吉が私のクラスに来るなんて今までなかったじゃない」
「た、確かにそうだけどさ……」
遠目からでもわかるくらい、優紀は不機嫌そうだ。その上トドメと言わんばかりに、はぁとため息をついた。このままだと断られそうだと判断した青野は、そうだと切り出した。
「友田も一緒なんだけど、どうだ?」
「……えー?」
優紀が『どういう状況?』と俺に目線で訴えかけてくる。ごめん、俺もわかんない。3人で帰る流れにするとは、俺も思っていなかった。これ以上な変な空気になるのはマズイと思い、2人に近づいた。
「ねえ、春吉の目的はなんなの?」
「青野が『これまで蔑ろにして悪かった』って言ってたからさ。俺が提案したんだ」
「……ふーん、ちょっとは反省したってことかしら?」
「あ、あぁ!」
一応青野は行動を改めようとしているのだし、後押しをしてあげた。その時、優紀の好感度が40から42に上がった。どうやら、上手くいったらしい。
「……まあいいわ。どうせ断ってもついてくるんでしょ? ほら、さっさと行くわよ」
まだ青野への不信感は拭いきれていないみたいだけれど、とにかく一緒に帰るところまではこぎつけられた。ここからは青野次第だ。
しかし、青野は思い知ることになる。一度生まれてしまった不信感、蔑ろにされたという苦い経験は、そう簡単に埋め合わせできるものでは無いのだと。
「な、なあ優紀。歩くの早くないか?」
「……一応バスケ部だし。あんたが遅くなったんじゃない?」
優紀はスマホに何か打ち込みながら、どんどん先へ歩いていく。青野は息を切らしながら追いかけるものの、運動部の彼女に帰宅部の彼が追い付けるはずもない。まるで2人の心の距離が、物理的に現れているようだ。
明らかに一緒に帰ろうとしている人のペースではない。優紀のフォームが競歩みたいになってる。そしてついに、曲がり角で優紀の姿が消えた。
「はぁ、はぁ……。優紀に、ちぎられた……」
「そんなことある?」
優紀の背中が完全に見えなくなってしまった。レース以外でちぎるって言葉聞いたの初めてだよ。俺と青野は完全に息が上がってしまい、追いつくのは不可能に近かった。
「……一度失った信用を取り戻すのは大変だからな。諦めずに明日も一緒に帰ってみよう」
「ぜぇー……はぁー……。だ、だな……」
肩で息をしながらも真面目に話を聞くようになった青野に、正直感心している。トボトボと帰っていく背中を見送った後、スマホに着信があった。
『先に義人の家に行ってるからね』
さっき優紀が何かメッセージを打っていたのは、俺相手だった。彼女はいち早く帰ったのではなく、俺の家に向かっていたらしい。だから青野をちぎったのか。いやそうはならんだろ。
そしてメッセージの通り、俺の自宅前で彼女は涼しい顔で待っていた。
「あ、来たわね。……ほら、鍵開けてよ」
青野はもう終わったと思っていた今日だけれど、俺と彼女の今日はまだ終わらないらしい。