ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
俺は普段、家では最低限のことしかしていない。掃除は見える所だけ。洗濯も2~3日着られる分を回すだけ。自分だけのために用意するご飯は、すごく面倒なのでやらなくなった。
そんな俺のだらしない様子を、料理好きの優紀に見られてしまったらどうなるか。まあ、予想はつくだろう。
『ああもう見てらんない! 食材買ってくるから、キッチン周り出来るだけ綺麗にしといて!』
これが、最初に俺の家を見た時の優紀のリアクションだった。
「ふーんふふーん……」
青野の幼馴染である彼女、名波優紀。彼女は今、料理を楽しんでいた。小刻みに響く包丁とまな板の音、優紀の鼻歌はちょっと音が外れがちだ。
「あ、義人ー。みりんが切れそうだから買っておいてねー」
こんな言葉が普通に飛んでくるくらい、彼女は家に、というかうちのキッチンに通っていた。彼女曰く『やっぱりコンロは3口必要よねー』と言っていたけれど、料理をしない俺にはわからなかった。
「……もう惣菜コーナーにしばらく行ってないな」
なんて贅沢な独り言を呟いてみる。キッチンまでは届いていないみたいだ。
こうして優紀が来ている事を……俺の両親は知らない。なにせ新学期になってから一度も会っていないのだ。顔も見せてこなければ、連絡も来ない。俺がずっと『かどつよ』にのめりこんでいたところで、何か言われることもない。
嫌われているわけではない。寧ろ『家の事は任せたわ』と言い残していったから、信頼はされているはず。ただ、それが思春期の息子にかける言葉かと言うと違うかもしれないけれど。
先生によく『親と離れていて寂しくない?』と聞かれるけど、大抵大丈夫だと答えている。……さみしい、のかな。よくわからない。
「はい、出来たわよー」
「おお……」
物思いにふけっていたら、料理が完成したようだ。今日はジェノベーゼパスタのようだ。優紀曰く、和洋折衷何でもいけるらしい。こんな事言ったら失礼だけど、彼女は一体どこを目指しているのだろう。
「そういえば、家庭料理的なやつってあんまり作らないのか?」
「うーん、一応作れるけど……やっぱり、作ってあげるなら特別なメニューにしたいなーって」
頬を少し染めながら答える彼女は、白いエプロン姿がよく似合っていた。少しだけ緑色のソースが飛んでいるのは御愛嬌である。
「それよりさ、あんた春吉に何か言われたの?」
「へ?」
「だって明らかに不自然だったじゃない。どうせ春吉が無理言って連れ回したんでしょ?」
帰り道の事を流石に不審に思われていたようだ。そしてその指摘はかなり当たっている。
「嫌なら断った方がいいわよ。あいつの考えることなんてぜーんぶ思いつきなんだから」
思いつき、確かにその時々の行動はそうだ。けれどヒロイン4人はずっと固定されている。そこにだけは、何か明確な意志のようなものを感じる。
「……義人との時間を削られたくないし。次は断ってよね」
「はは……そうだな」
青野の頼みを断ろうにも、俺には青野への好感度を見る能力が発現してしまった。視界に浮かぶ数字達が、断るという選択を許さないような気がするのだ。俺は曖昧な答えしか返せない。
あと、青野への好感度はとうとう40の壁を下回ってしまった。今は38、もう幼馴染の情すらも消え始めている。せっかく青野は良い方向へ動き出したと思ったのだけれど、彼女には逆効果だったのかもしれない。
俺が色々考えていて中々フォークを持たないのを見た優紀があ、と何かを思い出した。
「そういえばさ、義人の好きな料理って何?」
「え?」
自分の好きな料理……あれ、出てこない。食べることは普通に好きなはずなのに、いざ料理名と上げようとしたら、頭が真っ白になってしまった。
「……もしかして、本当に無いの?」
「……」
沈黙が、そのまま答えだった。自分の事なのに、ここまで出てこないものだろうか。これまで求められる事が無かったから、全く考えもしていなかったのだ。
ああ、俺は自分の好みすらわからなかったのか。空気を悪くしてしまって、申し訳ないな。こうなったら何か適当な名前を……。
「それじゃ、これからもどんどん食べさせるから。好きか嫌いか私に全部報告すること!」
挙げようとした所で、優紀がすごい提案を繰り出した。それってつまり、俺の好みを当てるまで料理をしに来る、というなのだろうか。
「……いやいや、そこまでしてもらうわけには」
「いいの! いつも私の話を聞いてもらってる礼だから!」
それは、全然見合っていないと思うのだけれど。彼女にとってはもう決定事項のようで、彼女の意志は揺らぎそうになかった。
自分の都合で相手が動いてくれている、という状況がなんだか慣れなくてムズムズする。初めての感覚だけどど、不思議と頬が緩んだのを感じた。
「……よし、これで堂々と作りに行く口実が出来たわ」
彼女に個人的な企みがあった事には、全然気づかないのだった。