ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
昨日の青野の頑張りも虚しく、帰り道で優紀にちぎられるというかなり悪い事態が発生した。もし俺が優紀にされたら、その場で関係を諦めるレベルだ。
しかし、自称主人公である青野は違った。
「優紀にはもう何度か一緒に帰ってアピールするとして……次は氷織会長だな!」
「よく持ち直せるな……」
足に熱冷ましシートを貼っている青野は、自信満々にそう宣言した。俺にとって数少ない、青野のちょっと尊敬できる点である。
「友田、今日は生徒会室に行っても大丈夫なんだよな?」
「一応会長には話を通してあるから、大丈夫だ」
「よし、じゃあ行くとするか! これまで下がった分を一気に挽回してやるんだ!」
「一気には無理だろ……ってやっぱり聞いてないし」
今日は元々、俺が手伝いに行く約束をしている日だった。一ノ瀬さんは家の用事で不在なため、今生徒会室には会長1人だ。早足で向かう青野に俺はついていく。
「ちなみにだけど、会長と話したことは?」
「三顧の礼ってやつを試したんだけどさ、まるで駄目だったぞ」
「そういえば会長が前に愚痴ってたな……変な男が3回突撃してきたって」
その手段が通用するのは相手が諸葛孔明の時ぐらいである。ちなみに会長曰く『3回仕事の邪魔をされただけなのよね……』らしい。
そんな話をしている間に、生徒会室に到着した。扉を開けると、真顔の会長がこちらを一瞥する。あれ、会長の数字が10って、もう会う前から最低記録を更新していないか。一体何があったんだ。
「……そういえば、彼ともう1人来ると言っていたわね」
いつも俺が来た時は少し固い表情を崩し、手を止めて挨拶をしてくれる。しかし今はそんな素振りも無く、直ぐに眼前の書類に目線を戻してしまった。
「それで、貴方のお願いって何かしら?」
「はい、会長の手伝いがしたいです!」
鼓膜によく響く青野の言葉に、会長は少し眉をひそめる。俺と目を合わせてから少し考えた後、書類を5枚だけ青野に渡した。
「なら、この仕事をやってみて。ただ内容を見て仕分けてもらえればいいから」
「はい!」
初めて追い出されなかったぞ、と情けない感動をしている青野。嬉々として近くの席にドカッと腰掛けた。そして様子を見ること2分、早速問題が発生した。
「出来ました! どうですか!」
「……貴方、書類を握りつぶす癖でもあるのかしら?」
「あ、それはちょっと力みすぎただけで……」
「もしかして、先祖はゴリラか何かだったのかしら? いえ、これはゴリラに失礼かしら」
何故かしわくちゃになってしまった書類を見て、会長は冷たい目と言葉を青野に投げかける。青野は気まずそうに両人差し指をちょいちょいと突き合わせている。全然かわいくない。
当然仕事はやり直し。渋々青野に別の紙を渡して再開するが、またすぐに中断する事となる。
「……青野君、私の方を見て鼻の下を伸ばすなんて随分余裕なのね?」
「い、いえっ!」
こういうときにも下心を隠せない青野。ジロジロと会長を見ていたのがバレて、好感度は9になる。非常にマズイ流れだ。
「青野、まずは左上の分類ってところを見て――」
「手助けしては駄目よ。あくまで彼が手伝いとしてふさわしいかを見ているのだもの。……もっとも結果は見えているけれどね」
俺にはしたことのない、ハッキリとした切り捨て。千尋の谷に落とすどころか、氷の海に全裸で落とされているように見える。
「……何度やっても覚えられないなんて。これなら宇宙人にでも渡した方がまだ捗るわ」
「うぐっ!?」
そしてトドメの言葉。彼女の雑談力が、皮肉の切れ味に直結している。これには流石の青野もノックアウト、頭を机に打ち付けた。
「期待はしていなかったけれど、やっぱり駄目だったわね」
「……」
「貴方が諦めないのは自由だけれど、その分だけ周囲に迷惑をかけていることも考えてちょうだい」
「うぅ……」
青野がしおしおになってしまった。以前生徒指導の田畑先生に絞られた時よりもしぼんでいる。
「それに、ここに貴方の席は無いわ。人員の補充は既に間に合っているのだし」
「え、そうなの?」
知らなかったと俺の方を向く青野に、俺は言ったぞと目で訴え返す。人の話を聞かない癖は、一朝一夕では治らないようだ。
「帰りなさい。これ以上邪魔をするようなら、こちらにも考えがあるわよ」
「っ!?」
これ以上粘った所で、全て逆効果になる。全身で悟った青野は、トボトボと生徒会室から出ていった。扉がしまった後、会長がため息をついた。
そして会長は立ち上がり俺のもとに来た。厄介事を持ち込んでしまった俺も、突き放されてしまうだろうか。目を閉じて歯を食いしばる。
「……義人君、あんな変な男に巻き込まれて災難だったわね」
「えっ?」
「貴方は優しいから、断れなかったのでしょう? 私が代わりに突き放しておいたから、もう安心よ」
目の前にいたのは、雪解けの慈愛に満ちた氷織会長だった。俺の頬を両手で包みこんできた彼女は、まるで梟を愛でている時のような笑顔を向けている。……この先輩、ほんとにさっきまでの超厳しい人と同一人物なのだろうか。