ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
唐沢さんとの婚約者という噂は、意外にも全然広まらなかった。というか、青野は誰にも言わなかった。
「まだ婚約だろ? 結婚じゃないんだから、俺にもまだチャンスあるよな!」
「よく俺の前でそれ言えたな」
理由がおかしすぎる。一応婚約相手、という体になっている俺に堂々と成り代わり宣言をしてきた。
なんというか、ほんと怖い。何が青野をそこまで突き動かしているのだろうか。しかし噂を広めないのなら、今はそのままにしておこう。
「とにかく次だ! 一ノ瀬さんにはまだ出会えてすらないから、とにかく会いたい!」
相変わらず俺に彼の勢いを止めるすべはなく、まずは倉敷さんに直談判することとなった。そして倉敷さんの開口一番。
「駄目に決まっているだろ。おとといきやがれ」
「ですよねー」
「そんなっ!?」
予想通りの返答である。いや、思っていたよりもより口が悪かった。一ノ瀬さんのいる教室前に来たものの、案の定倉敷さんから門前払いとなった。
「というかお前、何度も投げ飛ばしているはずなのに懲りない奴だな」
「あっ! よく見たらいつも立ちはだかってくるボディガードじゃないか!」
倉敷さんにはとっくに悪い印象を与え続けていたようだ。青野は制服姿の倉敷さんがボディガードだと気づいていなかったらしい。……ほんと、制服姿似合ってないな倉敷さん。
「あんたは俺の超えるべき壁だ!」
「誰が壁だ! 蒲焼きにしてやろうか!」
「なんで蒲焼き……?」
本人にその意識はないんだろうけど、倉敷さんの体を見ながら言ったせいで、何らかの逆鱗に触れたようだ。
「志穂? 急に教室を出ていくなんて、一体何が――」
教室から顔を出した一ノ瀬さん。その瞬間、青野が倉敷さんをすり抜けて運動部みたいな挨拶をかました。
「初めまして俺は青野春吉と言いますとてもかわいらしいですね!」
「ぴゃぁっ!?」
速攻かつ一息で自己紹介と、相手次第ではセクハラになる言葉を詰め込んだ、青野の大声に一ノ瀬さんは腰を抜かしてしまった。出会い頭に今のを食らったら、別に男嫌いじゃなくても腰抜かしそう。
というか大丈夫かな一ノ瀬さん。すぐさま倉敷さんが間に入り、一ノ瀬さんを介抱する。怪我などがないのを確認した後、キッと青野を睨みつける。
「おい貴様! 急に大声を出すな! あとお嬢様がかわいいのは当然だ!」
「その一行いる?」
こんな時にもボケをかかさないのが、ボディガードの努めなのだろうか。いや違うだろ多分。
「あ、ごめ——」
青野が一ノ瀬さんに手を差し伸べて、一ノ瀬さんがビクッと肩を震わせた。届く寸前に倉敷さんが手をはたき落とす。マズい、倉敷さんが本気で怒っている。
「……やはり貴様を認める事は金輪際ありえないな」
「そんな! 今助けようとして……」
「お前の今の行動は、お嬢様への配慮を微塵もしていない証拠だ。そんな危険人物をみすみす通すはずがないだろ」
おお、ちゃんとボディガードしてる。今も一ノ瀬さんの背中を擦りながら、青野との間に体を入れてガードしている。……変な言動がなければ、素直に尊敬できる人だと思う。
「たった1つの行動だけで決めつけるなよ!」
「お前の愚行はそもそも1つでは無いがな……。信頼に足る人格者はな、行動1つ1つにも配慮が行き渡るものだ。逆に心が私欲に塗れている者は、端々に滲み出る」
どうせお前はただお嬢様に触りたかっただけだろ、という倉敷さんの言葉に青野は何も返せなかった。嘘だろ、図星なのか。
「……見た目や第一印象で判断するな、という意見もあるようだが私は違う。たとえ完璧でなくとも、第一印象を整えようと努められる人間であるか、これも重要だ」
身なりを清潔に保ったり、接しやすいように物腰を柔らかくするなど、相手に不快感を与えないよう心がける事は大事だと思う。俺もそこはずっと心がけてきたから、よくわかる。
「ちなみに今のお嬢様はグデグデだが、かわいいから例外だ」
「志穂……」
倉敷さんは多分、一分以上真面目な話ができない病気なんだと思う。青野は倉敷さんのペースにまるでついていけていない。真面目な話の部分も、あまり理解できていない様子だ。
「というわけで、青野だったか。話は以上だ、とっとと去れ」
「くっ……」
倉敷さんに既に何度も負かされているからか、青野は大人しく引き下がっていった。俺もついていこうとするが、待てと引き止められた。
「お前はこの後お嬢様との練習があるだろ。今戻っても二度手間になる。そこで座って待っていろ」
「倉敷さん。指さしてるところガッツリ床なんですけど」
俺には配慮とか無いんですか。さっきまでの話しなんだったんだよ。
「志穂、お待ちいただく必要はありませんわ」
「お嬢様! 立ち直るのが早くなりましたね!」
「ええ、友田さんとの練習の成果ですわね」
誇らしげに髪をかきあげる一ノ瀬さん。なんとさっきまで腰を抜かしていたグデグデお嬢様と同一人物である。
「でも、俺以外の男はやっぱり厳しそうですね」
「そ、それは……」
「やっぱり、他の男も練習に入れたほうが——」
「友田さん」
どこか威圧感のある声が、目の前の彼女から発せられた。思わず全身が硬直する。
「私、もっと良い練習方法を思いついたのです。後で、試させていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい……」
一ノ瀬さんは本気の眼差しで、俺に宣言してきた。断ることはしないけれども、練習相手は変わらず俺なのか。一体何をするのだろうか。
視界の端で倉敷さんがあーあ、って顔してるけど何なの。何か変な事言っちゃったんだろうか。