ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている   作:こなひー

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第46話 初めての男性だから

 翌日、俺は一ノ瀬邸へと招かれていた。彼女の言っていたもっと良い練習方法とは何なのか、わからないまま使用人の後ろについていく。

 

 足が疲れてきたところで到着したのは、なんと一ノ瀬さんの部屋。ドアノブに「男性絶対お断り」ってどでかく書かれたプレートがかかってるから多分そう。

 

「お嬢様、友田様がお見えになりました」

「……ええ、ありがとう」

 

 表情の読めない使用人が扉をノックすると、一ノ瀬さんが出てきた。……なんか顔が赤いけど、どうしたんだろう。

 

「では友田さん。……ご覚悟はよろしいですか?」

「これっぽっちも」

「……始めますわね」

「聞いた意味」

 

 緊張でガチガチな一ノ瀬さん、俺の言葉が全然入っていってない。ほんとになにされるんだ、怖くなってきた。

 

「……ごゆっくりどうぞ」

 

 使用人によって部屋の扉が閉まり、覚悟を決めた一ノ瀬さんの特訓が始まろうとしていた。

 

 

 一般的な女の子の部屋、とは言い難い高級感に満ちた空間。これまた高そうなソファに座る一ノ瀬さんはとても様になっている。

 

 ただ、俺はそんな光景を悠長に見ている場合では無かった。

 

「……あの」

「ななななな、なんでしょうか?」

「俺はなぜ膝枕をしてもらいながら、頭をひたすらに撫でられてるんでしょうか?」

 

 まるで恋人のような状態に、一ノ瀬さんは顔が茹で上がっている。俺もうまく喋れてるか自信がない。

 

「その、男を自らの手で制圧している感覚を得ると良いわよ! というお母様からの教えで……」

 

 またよくわからん事を吹き込まれたようだ。あの人は娘を帝王にでもしたいのだろうか。

 

 それよりも、一ノ瀬さんが心配だ。体調もあるけど、一ノ瀬グループの令嬢が男と2人きり。ましてここまで密着していたら、色々と危ない。主に俺の命があの超親馬鹿マンに取られちゃう。

 

「一ノ瀬さん。こんなにくっついちゃって、大丈夫?」

「……たくさん、イメージトレーニングを積んできましたから。先程までも、ずっとです」

 

 だから、部屋に入る前から顔が赤かったのか。今の体勢だと顔が見えないけれど、撫でる手は止まっていないから大丈夫、なのかも。

 

「……実は先日、友田さんのご両親にお会いしました」

「え!?」

「あら、一ノ瀬グループの子会社に勤めてらしたのですが、ご存知無かったのですか?」

「いや、そういう話全然しないから……」

 

 飛び起きそうになるくらい衝撃の事実だった。いつもどこかに出張している2人が、なんの仕事をしてるか知らなかった。まさかそんな繋がりがあったとは。

 

「息子に全然構ってあげられなくて、なんだか申し訳ないと言っておられましたよ」

 

 一人息子の俺を気遣う言葉。ここは喜ぶところなのだろうけど、俺の気持ちはどうも違っていた。

 

「そう言われても……直接言ってくれないんだもんな」

「友田さん……」

 

 俺の答えに、一ノ瀬さんの声が少し沈んでしまった。

 

「貴方は、周囲の都合に合わせすぎではないでしょうか。私の思い付きには必ず付き合ってくださりますし……」

 

 かつて中学の頃、担任にも同じことを言われたことを思い出す。自分でそうしようと思ってるだけだから、問題ない。あの時はそう答えられたのに、今は何も返すことが出来ない。

 

「もし私がママ……こほん、お母様としばらく会えないとしたらとても寂しいですもの」

「……」

 

 お仕事が忙しいから、会えなくても仕方ない。どうしようもないのだから、考えたって仕方がない。一ノ瀬さんの言葉は、それは違うと言っているようにも思えた。

 

 いや、今は彼女が特訓をする時間だ。俺の事は気にしないで欲しい。だから、話題を変えさせてもらおう。

 

「って、お母様だけなのか?」

「はい。ご当主様は別ですわ」

「まだ許してなかったの……」

 

 やはり、露骨に父の話が出ていなかったのはそういうことだった。娘からの拒絶がこれ以上続いたら、流石にかわいそうに思えてきた。……この前出されたプロテイン、意外と美味しかったし。

 

 

「……会えるうちは、仲良くしてたほうが良いと思うけどな」

「っ!?」

 

 息を飲む声が聞こえて、俺の頭を撫でる手にグッと力が入った。そ、そんなに変なことを言っただろうか。

 

 手が止まり、しばらく考え込んだ後。一ノ瀬さんは深くため息をついた。

 

「わかりました。今度話し合うことにします。……まあ、自分でもどうしてここまで引きずっていたのかわからないですし」

 

 そんな感じで冷戦を続けられていた宗一さんかわいそう。

 

 と憐れんでいたら、彼女の熱い両手が俺を包み込んできた。そして今までで一番顔が近い状態で、こう言った。

 

「私に助言をしてくださった男性は、初めてです。……やはり、貴方は私にとって欠かせない存在であると確信しましたわ。()()()

「さ、さま……?」

「これまでたくさん手伝っていただきましたから、今度は私の番、ですよね?」

 

 目の前にいるのは、本当にあの一ノ瀬さんなのだろうか。男嫌いだなんて嘘だったんじゃないか、と思えるほど積極的だ。

 

 これ、本当にただの特訓なのか? チラリと見えた好感度は15。自分向けじゃないとわかってるけど、その数値に思わず冷静になる。

 

 

 俺はただの友人だ。そう釘を刺されたようで。温かい筈の彼女の手が、とても遠くに感じた。

 

「あぁ……げん、かい、ですぅ……」

「一ノ瀬さーんっ!?」 

 

 というか物理的に遠くなっていた。ソファにパタリと倒れた直後、倉敷さんが扉を蹴り開けて駆けつけた。

 

 倉敷さんが一ノ瀬さんを介抱しながら、なんか色々と俺に文句を言っていた気がするけれど、内容は全然覚えていない。

 

 ……なんというか、とにかく刺激だらけの特訓だったな。

 

 

「友田……夏蓮との仲直りを提案してくれるとはいい奴じゃないか……。しかしやはり娘とのあの距離感は……ぐがが……」

「宗一さん……? 夏蓮の部屋の前で聞き耳を立てるなんて、親として恥ずかしくないのかしら……?」

「げっ! 咲枝!?」

 

 余談だけど、この時の会話を盗み聞きしていたことが、咲枝さんづてで娘にバレてしまった宗一さん。仲直りは更に延期にされたそうな。かわいそう。

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