ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
第55話 例え長い関係でも
放課後、1人教室の席でボーッと座っていた。しばらく時計を眺めてから、ふと気づいた。
「あ、別に残る必要無いのか」
青野の放置は、好感度チェックの時間すらも含まれていた。記録帳も手元に無いし、青野もここしばらく会話すらしていない。
思えば、ヒロイン関係の話以外で青野とまともに話したことが一度もない。友人って、そんな淡白な関係じゃないと思うんだけどな。
「……義人、もしかしてあいつを待ってたりする?」
教室の外から、優紀が顔を覗かせてきた。扉から首と両手の指だけ見えている姿はちょっとだけシュールだ。
「いや、ただボーッとしてただけだよ」
「はいはい。もう
「あぁ、わかっ——」
彼女の言葉に、なにか違和感を覚えた。いつも一緒に帰るのも、サッと俺の手を掴んできたのも別にいつも通り。じゃあ一体なんだ。
席を立ち、ふと彼女の頭上を見た。……そうか、ついにこうなってしまったのか。
好感度が、0。数字が、真っ黒だった。
「……? どうしたのよ?」
「いや、そっちこそ、何かあったのか?」
恐る恐る、理由を聞いてみることにした。相当な言葉足らずだった気がするけど、優紀は察して口を開いた。
「……別に、廊下で青野がただ挨拶してきただけ」
「挨拶……」
それなら、これまで幼馴染みだった2人には普通の事だ。おかしなことはない。けれど、今は状況が全く異なるのだと、次の言葉で思い知らされる。
「でもさ……今まで私の事を勝手にヒロインにして、義人に好感度を探らせてたのよ? そんなの知ったらさ、もうこれまで通りに話すなんて……無理よ」
彼女の手から、震えが伝わってきた。言われてみれば、もっともな事だった。自分の事を人を使って探られたら、例え親しい仲でも気味が悪いだろう。
暗い空気になったことに、優紀はあーもう、と頭を振って払った。
「ほ、ほんとにそれだけだから! もしなんかされてたら、あいつをゴマ油まみれにしてやるわよ!」
「なんでゴマ油常備してるの」
「とにかく気にしなくていいからね!」
俺を引っ張りながら歩き出す。勢いにつられて足を踏み出すも、足取りが重く感じた。
——それで言うなら、俺はどうなんだ?
彼女の好感度を直接探ったのは、俺なのだ。同罪、或いはそれ以上に悪いじゃないか。
外は暑いのに、体温が一気に下がったような錯覚に陥る。
そっと手を離そうとした。しかし、しっかり掴まれていて離れない。
「ゆ、優紀?」
「人の顔色を気にするくらいなら、誰だってするじゃない。義人のは、そんな感じだったでしょ」
俺が気にしていた事を言い当てられて、ドキッとする。俺の腕が、更に彼女に密着していく。
「そう、なのかな」
「そうなの! 私にとっては、心地良い気づかいだったんだから、いいの!」
そう言ってもらえるのなら、少し救われた気がした。
優紀と青野は確か、幼稚園からの付き合いだったはず。そんな長い関係も、壊れる時は一瞬だ。俺が優紀も含めた彼女との関係が壊れなかったのは、本当に奇跡なんだと思う。
「あーもー、青野のせいで気分悪くなっちゃった! 今夜は油多めのフルコースだから覚悟しといてね!」
「気分悪かったら普通胃に優しいやつにするもんじゃないの……?」
「高校生なんだから大丈夫でしょ! ほら早く買い出し行くわよ!」
この後の料理の事を考え出した優紀は少しだけ笑顔に戻った。しかし、好感度の0はまるで釘でも打ち付けられたかのようにガッチリと固定されているように見える。もう何があっても変わることはない、という意思表示なのだろうか。
とにかく、青野が彼女を放置した結果、幼馴染という関係すらも消え失せてしまったのだった。なお、青野はまだそのことに気づいてすらいない。