ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
生徒会室、氷織先輩と馴染みすぎた作業をこなす。佐藤先生は隅で紅茶を飲んでいる。男子たちからの人気を誇っている彼女が、窓辺でリラックスしている姿はとても絵になっている。けれど、俺からするとちょっとぐらい手伝ってほしいとも思う。
淡い期待がペンの音に消えた頃、突然の来訪があった。
「失礼しまーす……」
「え、青野?」
「あらー? ……生徒会の子じゃないわね?」
なんと、数日前に放置宣言をしたはずの青野だった。会長がプレッシャーを放つ中、恐る恐る俺達に近づいてきた。この場合普通ならそっと出ていくもんだけど、自称主人公はやはり違うらしい。
「……もう来なくていいと、前に言ったはずよね?」
「すみません、俺は友田に用があって……」
「なら別の時間にしなさい。目障りよ」
当然、青野の用に俺は全く心当たりが無い。会長の人を寄せ付けないという意思表示を感じ取ったようだから、とっさについた嘘なのだろう。
「……」
眉をしかめつつ机に目を戻した氷織先輩の好感度は、現在1。最初から低空飛行だった会長の壁は、崩れるどころか更に強固になったと言えるだろう。先日優紀の好感度がとうとう0になったのを考えると、まだ1でかろうじて耐えているという見方もできる。
青野が俺と何か話そうとした直前、スマホにメッセージが入った。氷織先輩からだ。
『何か変な事を言われたら、私に共有して』
目が合うと会長は、俺にだけ温かな視線を送ってくれた。青野との関係がバレた日から、俺に対してちょっと、いやかなり過保護になった気がしている。
『両親があまり家にいない、ということは1人の時間が多いということよね。……寂しくは、ないの?』
彼女は1人でいることの寂しさをよく知っているのかもしれない。だからなのか、夜に連絡を入れてくる頻度もかなり上がった。今じゃ優紀と同じぐらい長電話している気がする。
えーと、と青野が苦笑いをしながら口を開く。会長はすぐに笑顔を止める。俺は彼女から仕方なく目を離した。
「それで、なんで急に来たんだよ?」
「……流石に会長の方は放置するとマズいんじゃないかと思ってさ。ほら、単純接触効果ってやつあるだろ? 何度も会った方が好感をもたれやすいって」
「いやいや、どう考えても逆効果だろ……」
青野は何よりも自分の思いついた事を最優先にしてしまう。以前にはヒロインたちを放置すると言っておきながら、数日後には自分の言ったことを破る。不誠実だ、と俺は感じた。
「青野……君、だったかしらー? お仕事の邪魔はしないでねー?」
「あ、すみません! すぐ終わりますんで!」
「ならいいんだけどー……」
様子を見ていた佐藤先生からの忠告に、急に背筋を伸ばして返事をする。男子達は皆、佐藤先生の大人の女性の魅力に堕ちてしまうらしい。ついでに彼女歴0年の田畑先生もその1人である。
……佐藤先生だけ好感度が見えていないのが何故なのかは、結局未だにわかっていない。故に俺は例外、と呼べるかもしれない。嬉しくはないけど。
「はぁ……十分仕事の邪魔なのよね」
佐藤先生を見てニヤついている青野を見て、氷織会長がため息をついた。頭上の1という数字が何だかぐらつき始めた。これは、会長も0になってしまうのだろうか。
けれど、これは時間の問題なのかもしれない。青野の行動は、悉く先輩の不評につながっているのだ。後は何らかのきっかけが起これば、きっと……。
「——なあ友田。こいつ目が怖いんだけど。お前、趣味悪くないか?」
俺の前に置いてあった木彫り梟を指さした青野が、特大のきっかけを放った。
プチッ。バキッ。カチン。
鳴った順に言うと、会長がキレた音、持っているボールペンが折れた音、好感度が0になった音である。
「え。か、会長……?」
あの鈍感すぎる青野でも、流石に氷織先輩の異変に気づいたようだ。今の会長は雪女を超えて、まさに絶対零度と言ったところだろうか。
「佐藤先生。今すぐに生徒会室を、関係者以外立ち入り禁止にしてください」
「え? い、いきなりどうしてですか!?」
ここまで来て状況を理解していない青野に、俺は答えを教えることにした。
「その梟、会長の私物だぞ」
「……な、なんだってえぇ!? え、これ梟なのか!?」
正確には会長が俺にくれた梟だけど、そこは重要ではない。流石に自分の言葉がマズかったと気づいた青野。しかし、一度言った物はもう取り消す事は不可能だ。
「氷織ちゃん、それ採用ー」
「先生!? なんでそんなあっさり!?」
意外にも佐藤先生はすぐに会長の案に賛成した。青野が必死に訴えようとするも、先生は自分のペースを全く変えない。
「私も前々から思ってたのよー。いーっつも男子たちが氷織ちゃんの邪魔してるなーって……」
「そ、それは……」
おっとりしている佐藤先生だが、仕事に対しては真面目だ。その上、こういった生産性につながる生徒の意見はいち早く取り入れる。一部からあざといと言われる先生だけれど、皆から愛されている理由はそこにあった。
「はいはーい、そういうことだから出ていってねー」
「先生、そんな——」
ピシャリ、とあっという間に青野が追い出された。青野が食い下がろうとドアの窓から目線を送るも、佐藤先生はどこ吹く風。何事も無かったかのようにお湯を沸かし始めた。
というか佐藤先生、それ何杯目ですか。記憶を辿る限り、1リットルのポットで3回ぐらい沸かしてる気がするんだけど。
なんて考えていたら、青野は諦めて帰っていき、俺の背後に氷織会長が立っていた。
「全く、もっと早くこうするべきだったわね」
謎に木彫り梟と俺の頭を手の甲で撫でてから、満足気に席に戻っていった。だから俺梟じゃないんですけど。
こうして、氷織会長も好感度が0でガッチリ固定されてしまった。これで青野のヒロインが半数消えたわけだが、彼がほぼ全ての原因なだけに、同情も出来ないのだった。