ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
好感度0。1度なってしまったら最後、2度と上がることがなくなってしまう。優紀と氷織先輩の様子を見ていたけれど、恐らく間違いないだろう。
2人とも嫌いという段階を超えて、明確な拒絶をしているのだ。顔を見るのも嫌というレベルにまで成り果てている。
これで残るヒロインは後2人となった。流石に放置はマズいのかと気づいた青野は、更なる悪手をかますこととなる。
何気ない朝、先に席についていた俺の後ろに、唐沢さんが登校してきた。こっそり俺の肩をつつきながら座った直後に、事は起こった。
「うへぁ……」
よそ行きモードなはずの唐沢さん、まさかの変な声を出した。幸い他の人には聞こえていなかったみたいだけれど、何かあったようだ。後ろを向くと、すごく苦い顔をしている。
「え、どうしたの」
「あ、その……ついにきちゃったんよ」
顔を近づけてコソコソ話す彼女は、苦笑いしたまま机の中から何かを取り出した。それは、一枚の便箋だった。
「ほれ、青野からの手書きスパム」
「うへぁ……」
思わず同じ声を出してしまった。彼女の机に入っていたのは、スパムという名前の恋文だった。前の婚約者がいるという話では、青野は諦めなかったようだ。朝からいきなり胃が重くなってしまった。
「放課後に教室で話がしたい……か。会うのか?」
「すっぽかしても後が面倒だし……しゃーない、この際メタメタにフったるかー」
あまりリアルな人付き合いを好まないサワチーにとって、告白の返事は面倒な事この上ないだろう。しかし、彼女はもう腹を決めているようにも見える。
「えっと、俺はいた方が良い?」
「あー、そうねー。……隣の教室で待機してくれると助かるかもー。臨時討伐クエスト始まるかもしんないし」
「討伐て」
青野はもう、そこまで信用が無くなったのか。冗談めかして言っているけれど、暗に2人きりになったら強引に迫ってくるかも、と彼女に怪しまれているのだ。
「じゃ、後でよろー」
声色はいつものサワチー。だけどスパムから目を離して頭上を見たら、好感度は0になっていた。哀れ青野、お前の告白が成功する可能性も、今0になったぞ。
授業にあまり身が入らず、気づけば放課後になった。俺が隣の教室で待機していると、スマホに電話の着信が来た。唐沢さんが、通話を起動したままにしているのだろう。音量を小さく設定していたスピーカーから、元気すぎる音声が聞こえてきた。
「か、唐沢さん! 来てくれたんだね!」
本気で何かを期待しているような、浮かれた声。青野は本気で、婚約を覆すつもりでいるのだ。良く言えば底抜けの前向き、しかしそこには常識とか配慮とか、抜けている物が多すぎる。
「って唐沢さん、なんか距離が遠いような...…」
「ええ、お話するだけなら十分ですよね? それに私には、婚約者の居る身ですので」
「う……」
当然の配慮である。婚約者という設定が本当なら、だけれども。
「じゃ、じゃあ本題に移るぞ。……あの、俺」
「その前に、一言よろしいでしょうか?」
「え? ど、どうぞ……」
サワチーがピシャリと告げて、話のペースを握る。そして、厳しく問い詰める口調で言い放った。
「青野さん。貴方は私が、婚約者を気まぐれで変えそうな尻の軽い女、だと思っているのですね」
「え」
これまで彼女のよそ行きモードは、波風を立てないたおやかな淑女という設定だとこないだ知った。しかし今の彼女は、どこか一ノ瀬さんのような雰囲気をまとっている。……あ、勿論男が居ない時の一ノ瀬さんね。
「私に婚約者がいると知りながら、こちらを寄越したのです。間違いありませんよね?」
「え、いや、そういうつもりじゃ……」
自分の行動がそういうものだと、まさかわかっていなかったのだろうか。それとも、そこまで考えていなかったのか。青野の性格を考えると、恐らく後者なのだろう。
「それに、貴方は他の方にも言い寄っておられますよね? 瀬戸会長からも話を聞きました」
「なっ……あ、あれは別に」
「何度も押しかけたり、告白もしていたそうではありませんか」
青野の言う努力は、会長からも全て拒まれている。好感度が下がっているからマズいぞと、何度忠告しても彼の行動は変わらなかった。
「最愛の婚約者がいる私が、そんな方を選ぶと。……本気で信じておいでですか?」
「あ……」
ここまで言われて、初めて自分が何をしてきたのかを理解したようだった。上手く言葉が出てこなくなった青野は、小声ですみませんでしたと呟いて教室をふらふらと出ていった。
そして青野の姿が見えなくなったのを確認してから、俺は唐沢さんのもとへ向かった。扉を開けると、清々しい笑みを浮かべたサワチーが両腕を上げて伸びをしていた。
「あースッとしたー!」
「お疲れ様……なんかだいぶ強気にいったね」
「隣にトモがいてくれてるってわかってたからねー。万が一襲われそうになっても、2対1なら勝てるじゃん」
「そういう問題なのか……?」
かどつよをやっているときと同じ空気感に安心した所で、サワチーは俺の方にグッと近づいてくる。
そして、俺の胸元にポスッ、と収まった。
「ちょ、サワチーさん!?」
「えへへー、婚約者なんだからこんぐらいいーじゃーん」
端から見たら完全に抱きついているように見えるだろう。全身が柔らかさに包まれて、緊張と動揺が全身に走る。ちょっと離れてもらおうと彼女の肩に触れる。
少し、震えていた。
「はー……やっぱリアルで話すのめんどいわー……」
きっと、彼女はいつになく頑張ったのだ。嫌いな相手に、ハッキリと気持ちを伝えるのは勇気が必要だっただろう。俺にだって、ああいうのは上手くできた試しがないと言うのに。
無性に、気づけば俺は彼女の頭を撫でていた。
「あ、それヤバいかも……って、なんで手の甲なん?」
「あ。なんとなく」
「……誰の影響か何となくわかっちったから、減点ねー」
「えぇ……」
今は誰も教室に入ってこないことを祈りながら、この時間はもう少しだけ続いたのだった。