ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
4人中3人が好感度0、そして残る1人も現在の好感度1と、あまりにも絶望的な状況。しかもその相手は男性恐怖症であり、未だにまともな会話すら出来ていない。
「なんてこった……こうなったら彼女だけは手放すわけにいかない!」
青野が焦る気持ちは、わからないでもない。好感度0となった3人との溝を埋める事は不可能だと、超がつくほど鈍感な彼でも気づいた。だから、彼は大急ぎで動いた。
「ふんっ」
「があああああ」
そして、残る一ノ瀬さんへと特攻し、敢えなくボディガードに返り討ちされる事も、避けられない未来だったのだろう。
倉敷さんが青野の腕を容赦なく固めている。この構図、前に何かの漫画で見たような気がするな。……それ以上いけない、と言って止めたほうがいいのだろうか。
「友田! 見てないでどうにかしてくれよ!」
「ごめん、どこから手をつけたらいいかわからん」
どうにかしなきゃいけないことがあまりにも多すぎる。俺が多少手伝った所で焼け石に水だろう。というか帰宅部2人では、護衛として日頃鍛えている倉敷さんにとても歯が立たない。
「あ、あの志穂。私は大丈夫でしたから……それ以上は」
「いいえ、こいつはわざとお嬢様にぶつかろうとしたのです。寧ろ足りないぐらいかと」
「そ、そんな……」
青野の無策な行動は、2人に悪い方向で誤解されてしまった。
「俺は別にそんなつもりじゃがあああああ」
「うるさいしゃべるな」
最早弁明も聞かない、と倉敷さんは……なんだっけ、柔道のなんとか絞めに変えた。青野は声が出せない状態になってしまっている。
カチリ、と俺にだけ音が聞こえた。これは、見なくてもわかる。一ノ瀬さんの好感度も、0になったのだ。これでとうとう、ヒロイン全員が好感度0になってしまったのだ。
恐る恐る一ノ瀬さんの様子を見ると、アルカイックスマイルを浮かべつつ、男相手だからか少し震えている。しかしながら、青野に何か言ってやろうと少しずつ彼に近づいていく。
そんな彼女を見て、俺は思わずそっと声をかけた。
「一ノ瀬さん。迷惑なら迷惑だって、この際ハッキリ言っちゃおう」
「……!」
俺の行動は、青野にとっては明らかな裏切りだ。けれど、一ノ瀬さんが勇気を振り絞って、苦手な相手に挑んでいるのだ。力を貸したくなるのは、当然だろう。
俺の言葉を聞いてか、彼女は俺に満面の笑みを浮かべた。
「……義人様、ありがとうございます。今なら、ようやく乗り越える事ができるかもしれません」
もう一度青野に立ち向かう彼女に、震えは無くなっていた。これなら、きっと大丈夫だ。コブラツイストをかけられている青野をビシッと指差し、口を開いた。
「青野さん、でしたか。御自分が今、何をしようとしていたのか……おわかりで?」
「か、夏蓮さん……?」
「まあ……親しくもない仲であるにも関わらず、軽々しく名前を呼ぶなんて。無礼極まりありませんわね」
「え、あれ……?」
今ここに、男を前にするとヘニャヘニャになってしまう一ノ瀬さんは存在しない。一ノ瀬グループの立派な一人娘、一ノ瀬夏蓮がそこに君臨していた。
「志穂、もう手心は必要ありません。二度と私に近づくことのないよう、存分に
そして彼女は、青野に対して実質的な終止符を打った。一ノ瀬さんの許可の言葉を聞いた倉敷さんは、それはもうウッキウキで次の技を仕掛けだした。
「よっしゃ許可降りたぁ! 皆、こいつを連行しろ!」
「はいっ!!!」
「ちょ、どこへ連れてかれ……ぎゃああああぁぁぁぁ……」
倉敷さんの号令にからわずか数秒、物陰から数人のボディガードが出てきた。そして青野を担ぎ上げて、どこかへ連れ去られていった。それを見送った一ノ瀬さんは、はぁーと息を大きく漏らした。
「……や、やりましたわ!」
「一ノ瀬さん! 男相手に凄かったね!」
「義人様が背中を押してくださったおかげです。氷織会長にも、アドバイスをいただいた甲斐がありました」
「なるほどね……」
さっきの強気なセリフがスムーズに出てきたのは、そういうことだったのか。彼女の成長が見れて、俺も嬉しい。
「……お嬢様」
青野をコテンパンにして満足気な倉敷さんが、そっと一ノ瀬さんに近づいて耳打ちを始める。
「今こそ、例の作戦を実行する時なのでは?」
「はっ、そうでした!」
何かを思い出した一ノ瀬さんは、すごすごとこちらへとにじり寄ってきた。
「よしっ! ……よ、義人様ー。私、とても怖かったですぅー……」
「えっ」
いきなり棒読みになった一ノ瀬さんが、慎重に俺の胸にもたれかかってきた。さっきまで男相手に全く怯まなかったというのに、今度は慣れてきていたはずの俺に弱々しい姿を見せてくる。
「だ、大丈夫なの? やっぱり怖くなったんじゃ」
「……あ、体調は全く問題ありませんのでご心配無く! ただ、膝に力が入らなくてー……」
その割にはしっかり地に足ついてるな。なんだこれ、と倉敷さんを見ると、目線で言い終わるまで待てという圧を返された。
「これは、義人様が名前で呼んで下さらないと立ち上がれそうにありませんわー……」
「なんじゃそりゃ……」
彼女のわざとらしい催促を聞いて、思い出した。そういえば、次に会った時は名前で呼んでほしいと言われていたんだった。
チラッ、という効果音をつけながら、彼女は至近距離で期待の目を向けてくる。……さて、いざ呼ぼうとなると緊張で声が詰まる。しかし、これは呼ぶまで終わらない流れだ。頑張ろう。
「…………か、夏蓮さん?」
「あ、呼び捨てかつ頭に愛しの、とつけていただかないとダメですー」
「それは流石に待って!?」
いきなり攻めすぎとかいうレベルじゃない。呼び捨てまではまだわかるけど、愛しのまではハードルが高すぎて先が見えない。これ、誰かにいらん知恵を吹き込まれたのだろうか。
「……夏蓮」
「あ……も、もう一度お願いしますぅ……」
「夏蓮」
「えへへ……もう1回……いえ、もう10……いいえ100回ほど……」
「アンコールで桁増やすことある!?」
これ以上名前で呼んでも、更にグデグデになっていくだけな気がしてきた。恥ずかしさが限界なので倉敷さんに助けを求めようと目を向けた。
「はぁー!? そんなん私が言われたいし言いたいんだが!? ……おい友田そこ私と代われ今すぐに!」
「平常運行すぎますって」
隣の倉敷さんがうるさいお陰で、俺の心は平穏を取り戻すことが出来た。
しかし、これで青野のヒロイン攻略の道は、完全に閉ざされてしまった。これから一体、どうなってしまうのだろうか。その結末は、神のみぞ知る。……これが比喩じゃないってのが怖い。ほんとどうなるんだこれ。