ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
4人の好感度チェックが終わったので、ノートを閉じて鍵をかける。勝手に開けられても嫌なので、青野には鍵の番号を教えていない。
先ほどお茶を吹き込んでしまった鞄を渋々拭いている青野は、5歳ほど老けたのではないかと思うほどに意気消沈していた。特に瀬戸会長の好感度が上がるどころか下がっていたことが、相当堪えたのだろう。
「おかしい……俺の予定じゃ一人ぐらいは恋人になっていたはずなのに……」
「青野の行動に予定って文字があったのか……?」
「あるに決まってるだろ! 全員を彼女にするという予定がな!」
それは予定じゃなくて願望だ。青野の真っ直ぐな目を見る限り、ボケで言っているわけでもないようだ。正直、そこはボケであってほしかった。
青野との付き合いが始まった頃は、彼がもっと順調に好感度を上げていくものだと思っていた。だが現実はこうだ、数字が上がったところを一度も見たことが無い。これには付き合わされてきた俺も幻滅してしまっていた。
「それで、この後はどうするんだ?」
「夏蓮ちゃんを探しつつサワチーの正体を探るぜ!」
せめてどっちかに絞るべきだろう。あとその前に、怒り沸騰中の幼馴染をどうにかするのも忘れないで欲しい。でないと俺が、今夜も鬼電されてしまいかねない。教室を飛び出して行こうとする青野を、ちょっと待てと引き止める。
「この3か月、好感度が一度も上がってないんだぞ。何か手をうったほうが良いだろ」
「確かに……何かない?」
「自分で考える気は無いのかよ……」
5秒も考える事なく、俺に丸投げしてきた。これまで何度も提案をしてきたものの、青野の行動が全て斜め下に向かってしまうため、尽く失敗してしまっている。これでは支え甲斐が無いというものだ。面倒に思うが、青野は俺が案を出すまで動く気が無いようだ。
「そうだな、聞き上手な男は好感を持たれるって雑誌で――」
「それだ! じゃあ行ってくるぜ!」
「最後まで聞けよ……」
自称主人公は、一目散に走り去っていった。まるで俺の話をボタン連打でスキップしたかのような疾走感があった。
教室が一気に静かになる。嵐が過ぎた後の静寂に包まれながら、俺は深く一息ついた。硬い学校椅子の背もたれが、やけにひやりと冷たく感じる。
「はぁ……俺、何やってるんだろうな」
俺のつぶやきが四方の壁に反射する。さっき鞄にしまった好感度記録帳をもう一度取り出す。鍵を開けてパラパラとめくると、これまで俺が書いてきた数字とコメントが毎日分書いてある。そろそろノートを買い足す必要がありそうだ。
ふと思った。なんで、青野のためにここまでやっているのだろうかと。
十年来の親友が相手、とかならまだわかる。しかし、青野との付き合いは高校に入ってから。悪いけど、ここまで協力する理由が見つからない。だというのに、俺は全面的に協力していた。
「なんで、こんな能力が発現したんだろうな……」
そう口から出た後に、これも人に聞かれちゃいけない言葉だな、と苦笑する。
俺には、人の好感度が見える能力。但し、対象は自分ではなく青野春吉。そして、発動には条件がある。その数字は、多少なりとも
4人のヒロインは全員、俺と初対面だった。つまり好感度を見るためには、はじめましてよりも一歩踏み込まないといけなかったのだ。
今でこそそれなりに話せる仲にはなったものの、そこまでには紆余曲折あった。全員との出会いは、正直あまり良い印象では無かった。
ある時は教室。
「……ふーん、春吉の友達かー。よろしく」
数字は、見えない。
ある時は生徒会室近くの廊下。
「……私は今、生徒会の仕事で忙しいの。後にしてくれる?」
見えない。
ある時はオンラインゲームでのトーク。
『えー、パーティーメンバー増やすのー? しかも彼、ドがつく素人じゃん、だいじょーぶなん?』
見えない。
ある時は高校の昇降口。
「ひぃっ! ご、ごめんなさい。男の人は無理なのです……話しかけないでくだひゃいっ」
……見えない。
この状態からのスタートだった。ヒロイン達と早急に打ち解けなければ、能力を発揮することができない。青野からの圧と、ヒロイン達との距離感で板挟みになった当時の俺は、心底焦った。
「……いや、俺頑張ったよな? ここから全員、ちゃんと数字が見られるようになったんだし」
俺はヒロインと話せる仲になるため、青野とは別に奔走していたのだ。この放課後のゆったりとしたひとときを使って、俺はここまでの3か月を振り返ることにした。