ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
また定期に戻れるかはわかりません。
青野はプレイヤーという何者かに操作されていた。神様のこの言葉を飲み込むには、いささか情報が大きすぎた。全然実感を持てないけれど、とりあえず話を進めるしかない。
「神様が、プレイヤーって人が青野を操れるようにした、って事ですか?」
「うむ」
「えっと……。じゃあ、青野が高校から突然おかしくなったのって……プレイヤーが勝手に青野を動かしていたから……?」
身もよだつような話だけれど、彼のこれまでの行動を思い返すと腑に落ちる。自分の意志と関係なく動くなんて、恐ろしすぎる。もしかして青野は、ずっと苦しんでいたのだろうか。救えなかった事がちょっと悔やまれ——。
「いや、嫌われたのは全て青野自身の行動によるものだ」
「あ、そうですか」
全然悔やまれる話じゃなかった。同情してちょっと損した。神様はため息交じりに説明を再開する。ため息をつきたいのは俺の方なのだけれども。
「青野は、プレイヤーの操作を跳ね除け続けていたのだ」
「そんなこと、可能なんですか?」
「普通は無理だ。だが彼の場合は、儂でも止められるかわからぬ」
「えぇ……」
神様にも無理って、青野はもしかしてすごいやつなのではないだろうか。そんな奴を俺が止められなかったのは、ある意味当然とも思えて、謎に安心した。
「青野については、完全に想定外だった。おかげで、プレイヤーがクソゲーじゃねえかと怒り狂ってしまった」
操作するキャラクターが、自分の言うことを聞かずにバッドエンドへ直行する。ゲームをやる側としては確かに怒っても仕方がないとは思う。
だけど、そもそも青野だって生きている人間なのだ。自分を勝手に動かされて、それでハッピーエンドになったとして。それは果たして、幸せと呼べるのだろうか。青野にだって、自分の人生を生きる権利が——。
「ちなみに、だが」
『マジ? 俺ヒロイン4人と結ばれんの!? ラッキー! じゃよろしく!』
「……これが、最初に青野へ話を持ちかけた時の返答だ」
これ以上、青野に同情しないようにしよう。そう心に誓った。
それからしばらく、それはもう色々と説明を受けた。まだ飲み込めていない事はたくさんあるけれど、意識が自分の身体へと戻っていく。目を開けると、なんてことのない自分の部屋の天井。一晩しか経っていないのに、長い出張から帰ってきた気分だ。
「……なんか、疲れる夢だったな」
本来なら寝ている時間は脳が整理されるはずなのに、神様から情報を詰め込まれすぎた。おかげで寝る前よりも頭の中がごちゃごちゃだ。眠気と朝日の眩しさに目を開けられずにいると、寝ている俺の上から声が降ってきた。
「へー、どんな夢だったの?」
「いきなり現れた神様に、映画1本分の設定資料集をずっと読み聞かせされてた……」
「なにそれ……ほら、ご飯できてるから早く起きてよ」
「マジか」
起きたら朝食が用意されているなんて、いつ以来だろう。言われてみればいい匂いがしてきた。ちょっと朝にしては香辛料が強い気がするけれど、お腹の音が食べたいと言っている。
……。
「って、あれ? 優紀?」
「そうだけど……まだ寝ぼけてる?」
体を起こして目を開けると、制服の上に見慣れたエプロンをつけた優紀が俺の部屋に居た。
「……ここ、俺の部屋で合ってるよね?」
「え、もしかして自分の部屋忘れちゃった?」
「違くて」
別にボケをかましているわけではない。これまで何度も家に来てはいる彼女だが。朝起きたら部屋にいたのは初めてである。
優紀に腕を引っ張っぱり起こされて、リビングにつく。何故か、俺がいつも使っているキーボードを叩く音がしている。目を向けると、俺のPCでかどつよをやっている人物が居た。
「おはー。次の装備強化に必要な素材、全部集めといたよん」
「何してんの本当に」
これまた当然のようにいる、制服の上に薄いピンクのパーカーを着たサワチーである。俺のアカウントでクエストの周回プレイをしていたらしい。……なんでパスワード把握されてるんだ。
「ほら、うちらもさ、そろそろ次のステージに上がる時が来たってわけよ」
「それはいいんだけど、朝にやることじゃなくない?」
「トモは思ったことない? 寝てる時に周回が終わってないかなーってさ」
「あるにはあるけど……」
厄介なボスの周回とかはちょっとそう思ったことはある。けれど、サワチーほど本気で攻略を狙っているわけではない。よく朝からその熱量を出せるな、とちょっと感心した。
サワチーから目を離すと、もう一つ違和感に気づく。いつも掃除をサボってしまっているはずなのに、なんと埃一つすら落ちていない。
「あれ、誰か掃除してくれたりしたのか……?」
「あら、起きたのね」
声の先に居たのは、制服の袖をまくってマスクを装備している氷織先輩だ。右手に羽のハタキを持っている。これは恐らく、先輩が掃除をしてくれていたのだろう。だから何やってるんですか皆して。
「すみません、家の掃除とかずっとサボっちゃってて。だいぶ汚れ溜まってましたよね……」
「ええ、掃除のやり甲斐があったわね。定期的にやらないと、汚れが落ちなくなっちゃうから気をつけてね」
「は、はい」
「……まあ、私が定期的に来れば解決するのだけれど」
定期的に来るつもりらしい。嬉しいけど、先輩の予定をそこまで俺の家の掃除に使わせるのは忍びない。
「あ、そういえば今日ゴミの日——」
「義人様、ゴミ出しなら先程やっておきましたわ!」
「うそん」
玄関から帰ってきたのは、袖に目立たない程度に金色の装飾をつけている夏蓮だった。一般人の暮らしが新鮮で面白いらしく、次は配膳の準備にかかろうとしている。
「義人様、どうやら食器が足りないようです」
「あー、ここまで大人数なのは初めてだから……どうしよっかな」
「直ぐに我が家で余っている銀の食器を取り寄せましょう!」
「待って待って」
それ絶対高いやつじゃん。食卓が一気に緊張に包まれそうだから、普通のやつでお願いします。
「おい友田、名波の料理中々美味いぞ」
「あんたが一番何やってんだよ」
「失礼だな。非番で暇だからお嬢様についてきたんだ」
「もっと悪いわ」
いち早くリビングの席についていたのは、タダ飯食らいの倉敷さんだった。非番だから倉敷さんも制服なんだけど、着こなしが一番だらしない。夏蓮からの目線がちょっと厳しくなっていたから、多分後で怒られるだろうな。
活き活きとしている彼女たちを見ながら、夢で神様に言われたことを思い出す。
『それにしても、なんで俺がヒロイン達と仲良くなれたんだろう?』
『……私は彼女たちに何もしていない。そなたが好かれているのは、そなた自身の行動によるものだ』
『はあ、そうなんですか……?』
『ふむ、あまり信じていないようだな。……ならば、こうしよう』
謎の光に包まれた後、何が変わったのかは特に言われなかった。今のところ、大きく変わったのは、ある一点。相変わらず好感度らしき数字は見えている……のだが。
「ねえ、料理冷めちゃうから早く来てよ!」
94。
「ほら、髪が乱れてるわ。確か櫛が洗面所にあったわね」
98。
「ふいー……素材揃ったし、食べ終わったら装備の新調タイムねー」
95。
「あの、皆様……学校があることをお忘れでは……?」
97。
頭上の数字が、全員0から90点以上の高い数字になっていた。神様、今度は一体何したんですか。
「おーい、早くしないと友田の分も食べちゃうぞー」
40。
あと神様、あの使用人はちょっとつまみ出してもらえませんか。