ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている 作:こなひー
名波さんと打ち解けるきっかけは、思ったより早く訪れた。
「くっそー! 今日提出だったのすっかり忘れてたぜー!」
「それで、名波さんに土下座してノート借りてたのかよ……」
青野は学校が始まってから出された、最初の宿題を忘れていた。そして名波さんに泣きついたという。本当に好感度を上げる気があるのか、と俺は呆れていた。
「勘違いしないでよね。いつまでも廊下で土下座されてたら、変な噂が立っちゃうでしょ。だから仕方なく貸してあげたの!」
名波さんは一体、誰に言い訳をしているのやら。青野は聞いている余裕もなく、ガリガリと宿題の部分を書き写している。急いでいるから仕方ないとはいえ、字がかなり汚い。これから提出するのに、大丈夫なんだろうか。
その一方で、名波さんのノートを見た俺は、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
「名波さんのノート、めちゃくちゃ綺麗にまとまってるな……」
ただ黒板の内容を移しただけではない。要所に用語の解説や自分なりのまとめまでが詰め込んであり、しかも見やすい。見せる事を意識した一種の作品のようだった。
「ふっふーん。友田はこいつと違って、見る目があるみたいね!」
「おい優紀! 見てないで手伝ってくれよ!」
「嫌! ノート見せてあげてるんだから、文句言わないでよ!」
俺が感心している中、青野はノートを見せてもらった挙句にブーブーと文句を言う始末。名波さんが小さくため息をついたことに、隣にいた俺は気づいてしまった。
「なあ友田! お前は宿題どうなんだよ!?」
「あぁ、俺は友達にノートを貸してるところだぞ」
提出の直前まで友達にノートを貸している、すなわち俺も宿題を終わらせてあるということだ。青野は道連れを作れなかったことに肩を落とす。残り時間は5分、手を止めてたら間に合わないぞ。
「えっ、友田もそうなの?」
俺の言葉に、意外にも名波さんが食いついてきた。確かに、ノートを貸している状態は、彼女と同じと言える。それに気づいた名波さんは、俺に向ける表情が一気に柔らかくなった。
「なーんだ、あなたも私と似たようなことしてたのね」
「あはは、そうみたいだね」
なんだか、彼女の本音を見せてくれているような気がした。
「あんたも、こいつに振り回されないよう気を付けたほうがいいわよ」
「気を付けるよ」
「素直でよろしい。友田は春吉とは大違いね!」
今度こそ、数字がはっきり見えるようになった。数字は60、桜のような薄いピンクで彩られている。名波さんの無邪気な笑みが自分に向けられて、少しドキッとした。
……待て。その数字は青野に向けられたものだ。
浮足立った気持ちが、急速に冷めた。今の彼女の笑みは、あくまで青野の友達として信頼を得ただけだ。俺の方に向いている数字に、思わず勘違いしてしまった。
いつの間にか、友人キャラであることを受け入れ始めている自分がいる。それに気づいた時、胸がチクリと痛んだ気がした。どうしてかは、わからないけれど。
「……どうしたの? なんだか顔色が悪くなったわよ?」
「あ、あぁ。ちょっと昨日夜更かししちゃったからね」
表情には出さなかったつもりなのだけれど、名波さんに心配されてしまった。彼女は世話焼きが得意だ、と青野から聞いてはいたが、想像以上のようだ。ごまかすために、適当な理由を述べる。
「ははっ、俺が誘った『かどつよ』にすっかりハマっちまったみたいだな!」
「いや、宿題忘れるほど熱中してた青野には言われたくないからな」
青野の軽口には、流石に異議有りだった。そもそも昨日は一緒に『かどつよ』をやっていたはずなので、宿題をやっていないなどという言い訳は通用しないのである。
「そうよ! あんたは友田を見習いなさい!」
「くっ、くそぉ……」
青野はしぶしぶ宿題に意識を戻した。名波さんと目が合い、やれやれと同じ気持ちになった気がした。
数字は、1つ減って59になった。