「博士、これって……」
自分の真横をふよふよと浮いている図鑑……もといロトムを見ながら問いかける。
「ロトム図鑑!新しい人間とポケモンのコミュニケーションの形であり、ポケモン図鑑の新時代を告げるものだ!」
「ロトム図鑑……」
自分の目の前までやってきたロトム図鑑を眺めながら、ケイスは自然とその頭……と言っていいのかはわからないが本来のロトムの角のようになっている部分を撫でた。
「まだ開発されたばかりでね、世間的にもかなりレアモノだぜ!」
「まぁ、こんな図鑑が世に出てたら話題になりそうなのに今日初めて聞きましたからね……。まだ試験段階なんですか?」
「いや?実用段階にはあるが、作成に手間がかかるタイプなんだ。何せロトムが入るんだぜ?従来の図鑑じゃロトムには苦しいだろう。そしてポケモンが苦しむということはそのポケモンのゼンリョクが出せないということ!だからボディとなる図鑑本体の作成にかなり力を入れる必要があるんだ。」
なるほど、とケイスは納得した。まだ確定したわけではないが、ロトムは「家電製品」に潜り込むポケモンだ。そのどれもがポケモン図鑑より一回りも二回りも大きいものである(もちろん例外はあるらしいが……)。さらに言えば、ロトムの調子は入り込んだ機械のコンディションにも左右される。ロトムのポテンシャルを最大限まで引き出すにはロトムに合わせた物を作らなければならないというのは理にかなっていた。
「今はまだナビに慣れてはいないが、旅を続ければ必ず君をサポートしてくれるだろう。」
自分のバッグへと飛び込んでいったロトム図鑑を見ながら、博士はそう言って説明を終えた。
「いや……本当に凄いですね。時代の変化を感じます……。」
「世界は常に進んでいるからな。そしてそんな世界を新しいものにしていくのは、君たち若者なんだぜ!」
「若者って……俺はもう22ですよ?」
「十分若いさ!まだ最初の旅から10年くらいしか経ってないんだろう?
いいかい?この世界の未来を切り拓くのは君たち若い世代だ。そして僕たちは、そんな君たちをサポートするのが役目なのさ。」
そう言うと博士はケイスに1つの宝石のようなものを手渡した。
「これは……?」
ケイスからの問いには答えず、玄関の扉を開けてケイスを手招きする。
「ついてきてくれ。君に会わせたい人がいるんだ」
◇◇◇
「ここは一体?」
「リリィタウンのメインとなる場所ってところかな。ここメレメレ島の守り神であるポケモンのカプ・コケコを祀っているんだ。」
守り神と聞いてケイスの脳裏をよぎったのは、彼の故郷であるイッシュ地方のある地域にて同じように祀られているポケモン、ランドロスのことであった。
「イッシュにもポケモンを神様として祀っている場所はありますが……。ポケモンを祀る場所って案外多いんですね。」
「あぁ。何せポケモンは人間にはない不思議な力を持つ生き物だからな。」
そうやって話をしながら2人はある家の前まで来た。
「ここに居るのはそのカプ・コケコに認められたしまキングという人だ。とんでもなく強いトレーナーなんだぜ!」
説明するやいなやドアをノックしてそのしまキングを呼ぶ博士。少しするとドアが音を立てて開き……
「やぁククイ博士、こんな時間に来られるとは珍しい。」
中から少し太った壮年の男が現れた。
「すみません、取り込み中でしたか?」
「なに、遊び疲れたイワンコを寝かしつけていただけですよ。
それで、そちらの青年は?」
ちょっとした世間話を交わす2人。と、そこで話の区切りがついたのか男の注目がケイスへと向いた。
その巨躯に怯んでいたケイスであったがそれを察した博士が彼に助け舟を出した。
「こちらはイッシュ地方からやってきたケイスというポケモントレーナーです。」
「ほう。こんな遠くまでよくお越しくださいましたなぁ。
はじめまして。私はハラと申します。このメレメレ島のしまキングを務めている者です。」
そう言うと右手を差し出すハラ。少し緊張が解けたのかケイスも同じように右手を差し出し、その手を掴んで挨拶する。
「こちらこそはじめまして。ご紹介に預かりました、ケイスと言います。」
ハラの手はケイスの手と比べて一回りほど大きく、どんなものでも包み込めそうに思えるものだった。
「それではククイ博士、本題に入りましょうか。
本日はどんな要件でここに?」
「あぁ。今日はこのケイスに"アレ"を渡したいんですよ。」
そう言って手首をくるくると回して見せる博士。ケイスにはなんのことだかさっぱりわからなかったがハラには伝わったらしい。
「なるほどなるほど……。ケイスさん、貴方のポケモンを見せてもらっても構いませんか?」
「え?は、はぁ……。」
未だに話についていけず困惑しながらも自身のパートナーであるジャローダのツタッコをボールから呼び出した。
「じゃぁ……?」
「ほほう!これは立派なジャローダですなぁ!」
「ありがとうございます……。」
「ふむ……このジャローダとの出会いはいつですか?」
「12年前です。俺が初めて旅をする際に手に入れたポケモンですね。」
「ほほう、パートナーでしたか。」
じーっとツタッコを見つめる。対するツタッコの目は冷酷なものだ。
ジャローダは平均3.3mの巨躯を持つポケモンであり、その大きさは主な生息地であるイッシュにおいて最大級の大きさである。その威厳ある姿と気高い光を宿す瞳から、別名「ロイヤルポケモン」や「森の君主」とも呼ばれており、その鋭い眼光はあらゆる生物の動きを止めてしまう。
ツタッコもまた、そんなジャローダの一匹であり、自分が認めた相手に対しては割と心を開くものの、そうでない相手には容赦なくその威容と威厳に満ちた姿で以て相手を睥睨するのである。
「………………」
「………………」
睨み合い(と言っても睨んでいるのはジャローダだけであるが)が続く。
一触触発と言っても過言ではない空気が流れる。ケイスは黙って2人を冷静に眺めていたが博士はその威圧感に思わず苦笑いを浮かべていた。
そうして騒がしい静寂が続き……
不意にジャローダが目線を逸らし、ケイスの元へととぐろを巻きながら戻っていった。
「……いやはや。いざ体感してみると中々恐ろしいものですな、ジャローダ目というものは。」
「いや本当……自分も睨まれていないのに体が震えましたよ。流石は森の君主と呼ばれるだけあるといいますか……。」
「……凄いですね、ハラさん。ツタッコにあれだけ見つめられても目を逸らさなかったのは今までチャンピオンや四天王くらいしかいなかったのに……。」
それを聞いたハラは豪快に、されど少し誇らしげに笑った。
「わかりました、早速作業に取り掛かるとしましょう。明日の朝にはできますが、お渡しするのはいつがよろしいですかな?」
「ふむ……ケイス。明日からのスケジュールを聞いてもいいかい?」
「えっと……明日は7時半頃の連絡船に乗ってアーカラ島に行く予定です。」
「では明日、7時頃に港で会いましょう。そのときにお渡しします。」
そう言ってハラは奥の部屋へと入っていった。
「……博士。俺はいったい何を渡されるんですか?」
「うーん、そうだな……」
全く話が理解できていないケイスからの疑問に対し、博士はもったいぶるような答えを返した。
「一番近いものとしては……ロトム図鑑、かな?」
◇◇◇
翌日、朝の7時の乗船場……
「おはようございます……」
「おはようケイス!よく眠れたか?」
「まぁ……ただ波の音が想像以上に響いてて……。あと時差が……。」
「ハッハッハッ!時差ボケですかな?まぁ仕方のないことではあるでしょうな。
ではケイスさん、これを。」
そう言ってケイスに手渡されたのは……黒いブレスレットのようなもの。ベルト部分に複数のひし形の凹みがついており、ブレスレットのてっぺんにも同じような凹みがついていた。
「これは……?」
「それはZリング!トレーナーの想いをポケモンに重ね、互いの全力を発揮することで使える技、『Zワザ』を使うのに必要なアイテムだ!」
「Zワザ……」
「Zワザを使うには専用のポーズを取る必要がある!時間がないからそっちの方は後でメールで一覧を送っておこう。とりあえず、昨日渡した石をはめてみてくれ!」
言われるがままに昨日渡された宝石のようなものを取り出し、Zリングにはめ込んでみる。
「それはエスパーZ!エスパータイプのZワザを使用するのに必要なZクリスタルだ。技の名前はマキシマムサイブレイカーだぜ!」
「ちなみに、Zワザは一回の戦いで一度しか使えませんので、使う場面はよく考えるのですぞ。」
2人は一通り説明を終えるとケイスに1つの紙袋を差し出した。
「これは?」
「選別です。アローラのマラサダは絶品ですぞ!」
自慢するようにその「選別」を渡すハラに続いて、博士も彼に言葉を贈る。
「さぁケイス。改めて、新しい旅立ちの時だぜ!
この先、君には想像もできないような困難が待っているかもしれない。それでも、同じくらいの出会いと素晴らしい経験もまたきみを待っている!
いいか?どんなときでも全力で一歩を踏み出していけ!世界は君を待っている!」
「……ありがとうございます。
それじゃあお二人とも、行ってきます!」
◇◇◇
「いやー!やっぱり旅を始める者を送り出すのは胸が踊るものですね!」
「…………。」
「……ハラさん?」
「……いや。少し、不安を感じましてな。」
「不安ですか?」
「彼のパートナー……ジャローダの目には確かな光が宿っていた……漲る闘志と、眩い高貴さが合わさった光が。
だがあのケイスという青年の目は……あれはまるで日食や月食と言ったほうが近いと言いますか……。」
「暗い影に覆われている、と?」
「えぇ……。確かな闘志の炎は灯っている。されど、その光を隠してしまうような『何か』がありました。
きっとその『何か』を探るべきではないのでしょうな。我々にできるのは……。」
「……彼の旅の無事を祈ること。」
「……えぇ。
……どうか、守り神の御加護が、彼にあらんことを。」
◆◆◆
――おめでとう、君の勝ちだ。
――本当に変わったね、君。出会った頃とは表情が全く違う……すごくいい顔を見せてくれるようになったよ。
――ねぇ。
――ぼくたちは、きっと金のシンボルを賭けてまた戦うことになるだろう。
――それがいつになるかはまだわからないけど、少なくとも1年やそこらで取りに来ることはないだろう。……君はこれから遠くに行ってしまうからね。
――だから約束してほしい。また、必ずぼくと戦うと。
ーーそしてぼくが勝ったら、そのときは……
ぼくを、君の旅に連れ出してほしい。
Zワザの説明いるかな……と思ったけどサン・ムーンって発売からもうすぐ10年立つんだよな……と思ったので一応入れておきました。
くどいと思った方は申し訳ございません……
10年か……時が経つのは早い……