四つ巴
アーカラ島には様々な施設がある。そのどれもが特徴的なものであり、訪れた者はその素晴らしさに優劣をつけることはかなり困難であろう。
だがこのケイスという男は違った。
「……なんでこの店はこの形態で営業できるんだ?」
購入したものをバッグに詰め込みながらケイスは呟いた。
現在彼が居る場所は、ロイヤルアベニューの『スーパー・メガやす』。ここではキャッシュバックしており、入店時に貰えるクーポンを決済時に見せることで決済後、支払金額の半額が戻ってくるのである。
販売されている物品の値段はフレンドリィショップに売られているものと変わらないため、アーカラ島ではここで買い物をした方がかなり安上がりなのである。とはいえ、あらゆる物を売っている分、フレンドリィショップほど1つの商品のジャンルのバリエーションが多いわけではないため、そこは一長一短である。
「まさかシンオウのポフィンが変えるとは思わなかったな……。収穫収穫。」
あとでツタッコ達に食べさせてあげようと思いながらマラサダを一かじり。流石にあくまでも大通りであるここで3m級のポケモンは邪魔で仕方がないだろう……。
そしてもう一つ、ケイスが気になっている施設があった。
スーパー・メガやすの隣、このロイヤルアベニューにおいて最も存在感を放つ建物……
その名もロイヤルドーム。この世界初の、バトルロイヤル専用の施設である。
◇◇◇
『会場の皆さん!アローラ!!
ロイヤルドーム、バトルロイヤル会場にようこそ!!
本日も満員!会場はとてつもない熱気に覆われております!!』
響く歓声。眩いライト。そして震えるロープ。
熱狂的という言葉を体現するかのような空気が、そこには広がっていた。
そしてリングの四隅にある巨大な口。それぞれリザードン、ギャラドス、オノノクス、バンギラスを象ったものであり、そのどれもが迫力満点の出来であった。
『さぁ!皆さんお待ちかね!選手の登場です!!』
さらに歓声が大きくなった。一体どこからあの歓声よりも更に大きな声が出せるのだろうか。ケイスは不思議でならなかった。うるさいのが苦手な者にとってはまだハイパーボイスのほうがマシであろう。アレはアレで体が内側から破壊されそうな感覚があるが。
『赤コーナー!最近連勝を重ねている期待の星!エリートトレーナーのレイカ!
青コーナー!若くても油断は禁物!同じく着実に勝利を重ねているジュニアトレーナー、ケンゴ!
緑コーナー!なんとイッシュから来た今回が初試合のポケモントレーナー、ケイス!アローラ!バトルロイヤルにようこそ!今日の試合を楽しんで!』
なぜわざわざ注目を集めるような宣伝をするのだ、とケイスは若干不機嫌になった。やはり公式戦というのは苦手である。
『そして黄色コーナー!これまた初参戦!謎に満ちた装いだがその実力や如何に!?ポケモントレーナーのライラ!!』
そして最後に現れたのは、黒いスーツの上からベージュのコートを着た紫髪の女性トレーナー。サングラスを掛けているその姿は実況者の言う通り、まさに「謎のトレーナー」という呼び方に相応しいものであった。
『さぁ4人のトレーナーが揃いました!全員、ポケモンの用意をしてください!』
その声を合図に各々がボールを構える。
(バトルロイヤルで使えるポケモンは3匹。そして勝敗は残ったポケモンの数と倒したポケモンの数の合計で決まる……)
単純に見えて中々奥が深いゲームだ。簡単なルールを見るだけでも勝ち方に種類があり、それに合わせたパーティーの編成が重要になる。
『さぁ、それぞれの準備が整ったようです!それでは……
バトルロイヤル、スターーーーートッ!!!!』
「お願い、ドサイドン!」
「いっけぇドクロッグ!」
「ココガネ、頼む。」
「マニューラ、行ってください」
合図と同時に4人のトレーナーが一斉にボールを投げ、リングにそれぞれのポケモンが降り立つ。
「赤ドサイドン、青ドクロッグ、黄マニューラ……ふむ。」
ケイスにとっては悪くない対面である。ボスゴドラのココガネの技がかなり一貫しており、相手からのタイプ一致もほとんどが軽減できる対面。初撃はやりやすそうである。
が、もちろん油断はしない。
「ココガネ。『ステルスロック』。」
「ゴドッ!!」
まずは堅実に場を作り上げることから始める。ココガネがケイスの指示に応じ、尖った岩を生成「ドクロッグ!『ねこだまし』だ!」
パァン!!
「ゴッ?!」
響く乾いた音。遅れて生成されていた岩がパラパラと崩れ落ちる。
「……そう言えばドクロッグには『それ』があったな。」
『ねこだまし』。
フィールドに出てすぐにしか使えないという制約がある代わりに速攻を仕掛けながら相手を確実に怯ませることができる優秀な技。
初手から判断を誤ったか……否、だがダメージは相性関係もあってそこまで入っていない。ある意味1番マシな結果となったと言えるだろう。
「なんなら向こうも怯まされてるっぽいしな。」
どうやらドサイドンの方もマニューラの『ねこだまし』に怯まされているようであった。
恐れていたドサイドンからの追撃が無かったのは不幸中の幸いである。ワンテンポ遅れたものの再び『ステルスロック』を指示する。
それに応じたココガネはもう一度空中に尖った岩を生み出すとそれを尻尾で叩きつけることでリング中にばら撒く。するとその岩は徐々に景色に馴染むように見えなくなっていき……完全に姿を消した。
これで交代は牽制できただろう。多少のアクシデントがあったとはいえ、ケイスにとっては好調なスタートである。
が、テンポが狂ったのもまた事実。一つの行動の遅れは相手へ絶大なアドバンテージを与えることになる。
「ドクロッグ!ボスゴドラに『インファイト』だ!」
一瞬で距離を詰めたドクロッグが拳と針を構え、目にも止まらぬ速さでラッシュをしかける。
かくとうタイプの大技、『インファイト』。守りを捨てた超接近戦をしかけることで大ダメージを与える。対するココガネはかくとうタイプが特に苦手な攻撃。この技選択は大変理にかなったものである。
が、
「迎え撃て、ココガネ。」
その言葉に応じるようにココガネの腕が凍っていく。
タイミングを見計らう。刹那の見切り。そして見据えた
そして、ドーム内に轟音が響き渡り、衝撃により煙が巻き起こる。
そこから勢いよく現れる小さな影。
ドクロッグがココガネの『れいとうパンチ』によるカウンターで吹き飛ばされた。
『おっとぉ!!打ち負けたのはドクロッグの方!ボスゴドラもしっかりと経っている!効果抜群の技を受けてもなお立ち姿を示す!なんてタフネスだ!!』
「な、なんで?!なんでボスゴドラがドクロッグの『インファイト』を耐えれるんだよ?!」
「……ボクシングで階級が大事な理由がよく分かるな。」
狼狽えるケンゴ。もちろんココガネが耐えられたのには理由がある。
『れいとうパンチ』は腕に冷気を込めて放つ技である。ではその冷気を用いて腕が凍るほどに冷やせばどうなるか?
即席の氷の鎧の誕生である。
さらにココガネの体格はドクロッグの1.5倍はある。体重に関しては言わずもがな。
その圧倒的なフィジカルと新たに作り上げた即席の鎧でダメージを軽減しつつ、繰り出したパンチで相手を吹き飛ばすことで無理矢理相手の攻撃を中断。
まさに「攻撃は最大の防御」を体現した動きであった。
『おっとドクロッグ!まだかろうじて立っている!狙いをボスゴドラから交戦中のマニューラとドサイドンに変更したようだ!』
流石に分が悪いと判断したのか、ターゲットを変更したらしい。
正しい判断ではある。この試合では生き残ることも大事だがそれと同じくらい敵を倒すことも重要なのだ。さらに運が良ければ、敵の注目が自分以外の相手に逸れるかもしれない。故にその行動自体は理に適っている。
だから敢えてケンゴの考慮が甘かった点を挙げるならば、
「なっ!?」
「ちょっと……?!」
「…………。」
このケイスという人間は、
『あーーーっとこれは!?』
ボルテージが上がって燻っている仲間に別の獲物を狙わせるほど、
「――ココガネ。」
「ゴドォッ!!」
「決めていいぞ。」
甘いトレーナーではないことを想定していなかった点だろう。
『リング全体を大きく揺さぶる『じしん』!!ドサイドンを足場にして空中に飛び上がったマニューラ以外の全員がヒット!ドクロッグに関してはオーバーキルとも言える一撃!耐えられるはずもない!戦闘不能です!!』
「ド、ドクロッグ!!」
『ハードロック』のような耐性を持っているわけでもないドクロッグに、この攻撃を耐える可能性など万に一つもない。
最初のポイントはケイスのものとなった。