『最初にポイントを獲得したのはケイス選手!初参加だというのに序盤から凄まじい戦いを繰り広げてくれました!!』
実況に合わせて観客席から歓声が広がる。試合開始前の熱気は落ち着くどころか、この数分でさらに熱く、激しいものへと変貌していた。
「くっ……!行けっロズレイド!!」
「キュ〜キュキュ!」
『青コーナー、次に繰り出したのはロズレイド!さて、ここからの巻き返しはいけるのでしょうか?!』
ボールから飛び出したロズレイドに傷が入る。先にばら撒いたココガネのステルスロックだ。しっかりと仕事を果たしている。
(とはいえロズレイドか……。ココガネはあまり特殊攻撃を受けるのは得意じゃないからな……。)
倒されないことも重要であるこのバトルロイヤルというルール。攻防両方において特殊系が得意なロズレイドの相手をココガネにさせるのは避けたいと考え、すぐさま方針転換を行う。
「マニューラまで誘えれば御の字だ……行ってこいレイ!」
『ここで緑コーナーのケイス選手、ボスゴドラを引っ込めてエルレイドを繰り出した!』
即ち、エスパータイプのポケモンに交代することでロズレイドからのヘイトを減らし、あくタイプを持つマニューラを誘い込む作戦である。
現在、青コーナーのケンゴの手持ちは残り2体。そしてバトルロイヤルはいずれかのコーナーの手持ちポケモンが0になった時点で終了する。つまり理論上、ケイスとケンゴ以外の2人はケンゴの手持ちポケモンを全員自分が倒し、尚且つ自身のポケモンが一匹も倒されなければ勝てるのだ。
(まぁそれができるようなバトル形式でもないのが現実だが。)
だからこそ実際に最も狙われやすいのは1ポイントリードしている自分。故に手負いのボスゴドラは引っ込めておき、ロズレイドからのヘイトだけでも自分から逸らすことを選んだ。漁夫の利を狙う程度まで減ってくれればケイスにとって十分である。
「さぁ行くぞレイ。『つるぎのまい』。」
エルレイドというポケモンはそこまで素早い種族ではない。故に普段は『つるぎのまい』なんて技を使えばすぐに倒されてしまうのだが、今回はまだこちらへ攻撃が向かっていない。素早く指示を下して強化を行い、戦いの準備を行う。
そして強化が終わるや否やロズレイドから距離を取るように駆け出し、攻撃を放つ。
『サイコカッター』。サイコパワーによって具現化した斬撃を飛ばして攻撃する。
「ガアッ!?」
不意に撃ち込まれた攻撃に驚くドサイドン、さらにその隙だらけな体に向かってマニューラの『つじぎり』が炸裂する。
「……横取りですか?」
不意に声が聞こえる。そちらを向けば、黄色コーナーの謎のトレーナーがこちらをサングラスの奥からケイスのことをじっと見つめていた。
「……卑怯くさいのはそうかもしれないがこのルールにおいては立派な戦術の一つだろう?咎められる謂れは無いと思うが。」
「えぇ、間違ってはいません。が、そちらがその気ならもちろん相応の覚悟はしてもらいますよ。」
その返事を聞き、内心でガッツポーズをするケイス。マニューラはその高い俊敏性と攻撃力で相手を翻弄しながら戦うのが得意なポケモンである。ケイスの手持ちにはそこまで素早いポケモンがいないため、なるべく早く手を打っておきたいのであった。
(ただ問題なのが……)
ケイスはマニューラを見つめる。正確にはマニューラの体に巻きつけられている赤い帯を。
(きあいのタスキ……面倒な道具を持っているな。)
きあいのタスキ。自身がダメージを受けていない場合に限り、一撃で倒れてしまうような攻撃を受けてもギリギリで耐えることができるようになる道具。これがある限り、レイは『インファイト』を絶対に放つことはできない。放ったが最後、つ『じぎり』を打ち込まれて綺麗に調理されて終わりである。
とはいえ、なにも無策のまま「倒せれば良いな」程度の考えでマニューラに狙いを定めたわけではない。
「レイ。
その言葉の意味を理解したレイはとっさに動きを変え、機を見計らうようにマニューラとドサイドンの周りを回り始める。
と、そこへロズレイドが乱入。「アレも狙うのか?」と問いかけるような眼差しでこちらを見るレイに対して首を振って答える。
とはいえ、ロズレイドの乱入によってマニューラの動きがさらに不規則になったのは否めない。
「……レイ。少しテコ入れできるか?」
「エルっ!」
「OK。次点の組み立てまで任せるぞ。
その声を聞くなりすぐさま行動を再開する
再びレイの腕が怪しく光りだし、そこから』サイコカッター』が放たれる。それを軽々しく回避するマニューラとロズレイド。もちろん避けられた『サイコカッター』はそのまま動きが鈍いドサイドンへとヒットする。
そしてさらなる傷が増えたドサイドンを見た2人のトレーナーには必ずある考えがよぎる。
片方には「これはチャンスであるが同時に獲物を奪われかねないピンチでもある」と。
そしてもう片方は……。
「ロズレイド!『リーフストーム』!これ以上ポイントをあいつに与えるな!」
ロズレイドの周りに風が吹き始める。同時に生成された鋭い葉が風に導かれるように吹き荒れ、それが指向性を持ってドサイドンに襲いかかる!
「ドサイドン!『ロックブラスト』で迎え撃って!」
対するドサイドンもただやられっぱなしでいるわけではない。特性のハードロックを活かし、さらに『ロックブラスト』による相殺でダメージをカット。なんとか一命をとりとめる。
だがその背後にちらつく1つの影。
「マニューラ、決めてください。」
『リーフストーム』への対抗によってガラ空きになった背後へとマニューラが迫る。
攻撃の余波によって発生した風を切り裂きながらドサイドンに接近……
……そこでライラは不意に、嫌な風を感じた。
「レイ。」
「……!マニューラ!攻撃を外してもいいです!すぐに駆け抜けて……!」
突然の指示に驚きながらも反射的にその指示に従い、移動に重点を置いた攻撃方法へとシフトするマニューラ。
するとマニューラが通りすがったその背後から……
「ドサッ?!」
不気味さを感じずにはいられない紫炎が、ドサイドンの体を焦がした。
『あーっと!エルレイドの『おにび』がドサイドンにヒット!踏んだり蹴ったりとはまさにこのことか!恐らくマニューラ狙いだったのであろう『おにび』が、マニューラの回避によってドサイドンに当たってしまったぁー!!』
半分正解、半分間違いだとケイスは心の中で答える。
あのときレイに伝えた「一直線に並べろ」という指示。その真の目的はマニューラとライラに対する「選択の強要」である。
不意討ちとして撃てば確実に当たる距離から撃たず、敢えてギリギリで回避可能な距離から『おにび』を撃つことでほぼ確実に「回避」という選択肢を取らせることができる。するとどうなるか。
全力で回避行動を取ったマニューラ。その隙だらけな姿へと迫るエルレイド。
気づくも時既に遅し。その無防備な体へ、渾身の『インファイト』が叩き込まれた。
「ニ゛ュウッ!?」
つるぎのまいによって強化された『インファイト』。小柄ななマニューラはなんとか受け身を取ったものの、体を大きくバウンドさせながらリングの端へと吹っ飛んでいく。タスキによって耐えることができたとしてもこれだけの連撃を一度に受けては立ち上がるのにも時間がかかるだろう。今すぐに反撃される心配をする必要はない。
そしてもちろん、もう一匹の獲物のことも見逃したわけではない。
「レイ。
初めはすごく弱気だったお前が、今ではここまで立派なエルレイドになった。
だから過去の自分に示してやれ。もう自分はお前のように怯えてばかりの坊やなんかじゃないってことを。
『全力』でな……!」
両腕を顔の前でクロスさせ、両手の人差し指で頭を指し示す。そして力を込めるようにして腕を前に……溢れ出すパワーをレイに送り込むように力強く腕を前に押し出して足を揃える。
まるで超能力者のように、Zリングにはめ込まれたクリスタルから眩い光が流れ出し、それがレイへと集約していく。
「普段とはちょっと違うが……お前なら扱いきれるって信じてるぞ……!」
『ケイス選手とエルレイド!ここで『マキシマムサイブレイカー』を発動!相手はダメージが蓄積しているドサイドン!確実にトドメを刺しに来た!!』
ケイスから送られたパワーによって強化されたサイコパワーによって浮遊するレイ。
対するドサイドンは一か八か、『ストーンエッジ』で空中に道を作り上げ、『つのドリル』で発動を阻止しにかかる。
だがそんなことで止められるはずもなく。圧倒的なサイコパワーによりドサイドンの体は空中に浮き始め……空中を凄まじい勢いでバウンドし始めた。
ドサイドンの平均体重は約280kg。それがいとも簡単に空中を跳ね回る光景はこの状況を作り上げたケイスですら夢でも見ているのかと思わずにはいられないものであった。
そして激しい激突音と共にドサイドンが勢いよく地面へと叩きつけられる。
フィールドに大きな砂埃が立ち込めた。
(これで2ポイント目……。次はあのマニューラを……。)
次のターゲットを探すケイス。
――そこで彼は気づいた。
ポイントが、増えていない。
なぜ?つるぎのまいで攻撃力が上がったエルレイドのZワザを受けてまだ耐えているなど……。
(……『つるぎのまい』?)
そこでケイスの中の何かが引っかかった。
そう、『つるぎのまい』で強化されたのはなにもZワザだけではない。それまで叩き込んでいた『サイコカッター』などもつるぎのまいの強化を受けているのである。そしてドサイドンはその攻撃を何度も受けており、さらに言うならばその前にマニューラの攻撃も受けていたのだ。それで倒れなかったということはつまり……
「……『てっぺき』?」
――ケイスが答えに辿り着くのと、隣のコーナーに立つライラが