『な、なんと!!マニューラ、つじぎりでボスゴドラとエルレイドを同時に撃破!一気に2ポイントを獲得だ!!』
ケイスが一瞬目を離した隙に、ドサイドンと共にレイが倒された。獲得点数を可視化するモニターの方を見やれば、黄色コーナーに表示されている「2」の文字。
(やられた……)
全ての過ちはドサイドンの耐久が普通より高いことに気づけなかったことから始まっていた。
恐らく『てっぺき』を使って防御力を底上げしていたのであろう。だがケイスは何度も『サイコカッター』を当てていたしマニューラが『つじぎり』を放っていたのも見ていた。
しかしケイスはそのことに気づかずにZワザを使用。ギリギリでZワザを耐えたドサイドン。Zワザを放った直後で隙を見せてしまったレイ。マニューラからすれば絶好の獲物でしかなかっただろう。
「……悪いレイ。これは完全に俺のミスだ。ゆっくり休んでくれ。」
謝罪しながらレイをボールに戻し、次のボールを取り出す。
(……これが『覚悟してもらう』って言ってたやつか。いろいろ想定はしてたが、まさかドサイドンまで取られるとはな……。)
「ココガネ……もう一度頼むぞ。」
そう告げてボールを投げ、再びココガネを呼び出す。その雄叫びは観客からの歓声に負けないほど強く、逞しく、ドームを震撼させた。
『ケイス選手は再びボスゴドラを繰り出した!対するレイカ選手が繰り出したポケモンはフライゴンだーっ!』
その実況を聞いて内心で舌打ちするケイス。実はケイスのココガネは飛んでいる敵を相手にするのがあまり得意では無い。理由は機動力が足りないことと、そして何より『ストーンエッジ』や『いわなだれ』のような遠距離攻撃手段が無いことである。
機動力の問題はまだ良い。それをカバーするために『じしん』や『ステルスロック』といった広域を一掃できる技があるのだから。
問題は空中の敵との戦いである。ココガネが持つ4つ目の技は唯一空中の敵をまともに相手できる技ではあるが、当てるのに一工夫必要になる技である。
つまり……トレーナーの指示力とココガネの対応力が重要となる。
「とりあえず……地上にいる奴らを一掃するぞ。ココガネ、『じしん』!」
ココガネがリングを強く踏みしめる。すると地面がグラグラと大きく揺れだし、マニューラとロズレイドがその揺れに巻き込まれてダメージを負う。
タイプ相性で耐えるロズレイドに対し、マニューラは先の戦いで負った傷のせいで耐えることなどできるはずもなく……。
『ここでボスゴドラの『じしん』が炸裂!今度はマニューラにも当たりました!戦闘不能です!』
マニューラが地に伏せる。そんなマニューラへとライラは優しい笑みを浮かべると「頑張ってくれてありがとうございました。お疲れ様です……ゆっくり休んでください。」と労いの言葉をかけ、次のモンスターボールを上へ上へと大きく投げた。
「さぁ、お願いします!フーディン!」
そしてその場に現れるフーディン。サイコパワーで空中に浮かび、場にいる者達を見下ろしながらゆっくりと降下する。
『ライラ選手の2番手はフーディン!強力なサイコパワーを操るとてつもないほど賢いポケモンだ!』
フーディン。タイプ相性的に見ればココガネにとって脅威ではない。素早さはあるものの、体力や防御力は貧弱であり、地に足もついているため『じしん』による広域制圧でなんとかなる相手なのである。
(普通なら、な。)
だがケイスはフーディンのある一点に注目していた。
その手に持つスプーンにはめ込まれた、フーディンを連想させる黄色が用いられた紋様を持つ、白味がかった緑のビー玉のような玉。それがただのアクセサリーでないことをケイスは知っていた。
「いくぞココガネ、準備しておけ。」
――ここから戦いのギアが一段階上がるぞ。
そう告げたケイスは先程とは別の袖をまくり、そこにはめられたシンプルな黒い腕輪を顕にする。それと同じタイミングで、ライラも後ろで1つに纏めた髪……正確にはそれを纏めているリボンに手を掛け、自身の首元までそれを持ってくる。
腕輪とリボン。これらには2つの共通点があった。
1つはその色。そしてもう1つは……そこにはめ込まれた同じ輝きを放つ幻想的な
それを見て互いに互いがどのようなトレーナーであるのかを悟り、そして同じ結論を下す。
即ち、「こいつは己の全力を以て狩らなければこちらが狩られる」と。
「フライゴン!『ドラゴンクロー』よ!」
「ロズレイド!『くさむすび』だ!」
そんな2人のポケモンに迫る2体のポケモン。
そんな2体に対して慌てることもなく、2人のトレーナーは流れるようにその石に振れた。
「ココガネ……」
「フーディン。」
「「メガシンカ!!」」
途端にその石から溢れ出す眩い光。そして同時にココガネの甲冑のような形状の鎧に隠された石が、フーディンのスプーンにはめ込まれた石が、それぞれ共鳴するように同じような光を放ち、2匹を包み込む。
そしてロズレイドとフライゴンの攻撃が当たる、その直前。
2匹を包みこんでいた光の繭が勢いよく弾け飛び、中から膨大なエネルギーが解放される。
そのエネルギーの奔流は迫っていた2匹を吹き飛ばすだけでは飽き足らず、リングを外れて観客席までもその影響を及ぼした。
戦いの次元が変わる。その場にいる誰もがそれを悟った。
『なんとなんとなんと!!!ケイス選手のボスゴドラとライラ選手のフーディンがメガシンカ!!なんて戦いだ!これはバトルロイヤルの歴史に残る戦いが期待できます!!』
大興奮といった様子の実況。それを掻き消すメガシンカしたココガネの雄叫び。
その体は元からあった鎧が全身に広がっており、頭部には新たな角が生成されている。その威容はまさに「要塞」という呼び方に相応しいものであった。
対するメガフーディンの体は、異常なほど四肢が細くなっており一見すると以前よりも弱体化したかのように見える。だがその立派な顎髭を蓄え、増えたスプーンを乱れること無く空中に浮遊させているその姿はさしずめ老獪な魔術師と言ったところか。何より以前と違うその宙に浮かんだ姿からは膨大なサイコパワーが練り上げられていることが一目瞭然であった。
メガシンカ……それはトレーナーとポケモンの絆の証。
トレーナーの持つキーストーンとメガストーンが共鳴することによって生まれるエネルギーを利用することにより、一部のポケモンを一時的にさらなる次元の強さへと引き上げることができるというもの。
ただしその変化はポケモンに対しても無視できない負担をかけてしまう。それを緩和するのがポケモンとトレーナーの絆によるエネルギー。キーストーンとメガストーンを介してポケモンへと絆のエネルギーを流し込むことでその負担を軽減することができる。この2つのエネルギーの交わりによる変化こそがメガシンカなのである。
故に、メガシンカを扱うトレーナーとポケモンは心の底で深く結びついており、以心伝心のやり取りが可能である者が多い。
そしてケイスもまた、そんなトレーナーの一人である。
「ココガネ。周囲の警戒は俺がする。危なくなったら声もかける。
……思いっきりやってこい。」
「フーディン。相手はかなりの実力者です。焦らず、的確に戦ってください。」
両者共にそれぞれの激励を行い、相手を見据える。
観客席は静寂に満ちているものの、今か今かと激しい戦いを待つ熱気に覆われていた。
そして、
「ココガネ!『ヘビーボンバー』!」
「フーディン!『じゅうりょく』!」
ケイスの指示をゴングにボスゴドラが突撃し、フーディンが重力を操作してその歩みを阻害する。それに巻き込まれた他の2匹も地に伏せ、トレーナーたちも膝を折りかける。
……まっすぐにフィールドを見つめる
「『きあいだま』!」
「防御だココガネ!『れいとうパンチ』!」
フーディンから放たれる橙色のエネルギー弾。それに対してココガネはドクロッグと戦ったときと同じように腕を凍らせ、全力でそのきあいだまへと拳を叩きつけた。
だが重力が高くなったことによる氷の鎧への負荷とパンチ速度の低下という悪い影響が重なったことによってその体はジリジリと押されていく。そしてついには……
「ゴドッ!!」
「ココガネ!」
炸裂。氷で保護していたとはいえ、フーディンの特殊攻撃力がメガシンカによって強化された一撃。しかも弱点をついてきた攻撃とあればいくらボスゴドラとはいえ無事では済まない。ココガネの腕の鎧に無視できないヒビが入っていた。
「ちっ……!」
一応、メガシンカによるタイプと特性の変化によってダメージは想定より少ない。が、それは決して無視できるダメージ量であるというわけではない。
「……匙を投げる、という言葉があります。」
不意にライラからそんなことを語りかけられるケイス。
「簡単に言えば諦めるということです。今のままでは間違いなく、貴方のボスゴドラはフーディンに勝てません。もちろん、他のポケモンはわかりませんが……その前に私が貴方のボスゴドラを倒します。
匙が欲しいのなら……うちのフーディンが貸しますが?」
倒せないと言い切る何かがある、と『ちょうはつ』されながらも冷静に分析するケイス。
だが……何も煽られっぱなしを良しとするほど、ケイスにプライドが無いわけではない。
「……だそうだココガネ。どう思う?」
俯きながら静かに問いかける。込められた感情は怒りではない。かと言って純粋な疑問というわけではない。
「確かにあのフーディンは強い。俺が戦った中でもきっと一番強いな。カトレアより強いかも。」
よく聞けば、その声が震えているのがわかるだろう。
ならばそこに込められた感情は恐怖なのか?
否、
「……懐かしいなぁココガネ。」
闘志だ。
「っ?!」
ライラの体が震え上がる。慌てて周囲を見るも氷ポケモンの気配やゲンガーの気配はしない。それでも、「何かが変化した」ということは感じた。
そして視線を戻して気づく。その変化が何なのか。自分が今、何に震えたのか。
顔を上げたケイスとココガネ……その「目」。その瞳の奥に、小さな、小さな、されど確かな「灯火」が見えた。
とても恐ろしい、されどどこか引き込まれそうになるような魅力を持つ……そんな光を放つ「灯火」が、彼らの瞳に宿っていた。
「7年……いやそれ以上ぶりじゃないか?この感覚……まだお前がココドラだったときだよ。」
拳を握りしめるケイス。それとシンクロしているかのようにココガネもまた、その歯をガチガチと鳴らす。
ふと目を向ければ、腰に下げたモンスターボールもカタカタと揺れていた。
「そうか……!お前もそうかツタッコ……!」
闘志は伝播する。そしてその闘志は宿った者に小さな、小さな「灯火」を灯す。
そしてその灯火が集まったとき、それは大きな、
「ライラ……だったか?
匙を投げるなんて寂しいことを言うなよ。」
まだ、炎は燃えきっていないのだから。