ポケットモンスター Lost MemoRe   作:めーへむ

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そして炎は巡る

「『灯火』?」

 

告げられた単語を聞いたククイ博士は疑問の声を上げた。

 

『あくまで我々の間ではそう呼んでいるだけですが……えぇ、彼のあの目の光を形容するには『灯火』と呼ぶのが1番しっくり来るんですよ。

『灯火』が宿ったケイスくんのバトルは本当に予測不可能です。我々の知らない戦術やポテンシャルを次々に披露するのですから。』

 

会話の相手はホウエン地方のポケモン博士であるオダマキ博士。ケイスとは12年前にアララギ博士の紹介で知り合ったとき以来の仲であり、ケイスにとって特に親しい人物の1人である。

 

『私はあくまでホウエンでの彼の旅のサポートをしていたに過ぎないのですが、幾度か彼の戦いを見る機会がありまして。少し昔の話にはなりますが、バトルフロンティアをご存知ですか?』

 

「えぇ。確か少し前までのホウエン地方にあったバトルに特化した施設ですよね。バトルリゾートの前身となった施設だとか。」

 

バトルフロンティア。12年前に完成したポケモンバトルに特化した施設。5年前に『とある事故』によって一時閉鎖したものの、数年前に「バトルリゾート」という名に変わって再び運営を再開したと聞く。

 

『その通りです。実は、ケイスくんはそのバトルリゾートに挑んでいたトレーナーの1人でして。そのバトルビデオもいくつか残っているのですよ。』

 

「よくあの規模の事故で無くならなかったものですね……。施設全体がほぼ半壊状態ではありませんでしたっけ?」

 

『そうですよ。残ってたのが奇跡みたいなものです……あ、アップロード終わりましたよ。』

 

オダマキ博士から届いたファイルを開き、動画を再生する。

 

『右側がケイスくんです。この彼の目に注目してほしいのですが……わかりますか?』

 

「……えぇ。言っていることがよくわかりましたよ。」

 

ただの映像でもわかる。全身の細胞が震えだしそうになるような気迫。そしてその源なのであろう、どこか異様な光を宿した目。

なるほど、確かに『灯火』という表現がしっくりくるものだ。似たような目は見たことがある。「とうそうしん」が湧き上がっているポケモンや「じしんかじょう」になっているポケモンなどは似たような目になることが多い。だがこれはそのどれとも違う。どこか恐ろしい、それでいて魅力も感じられる不思議な光。ポケモン博士としての自分ではなく、1人のポケモントレーナーとしての自分が掻き立てられる感じがした。

 

『そして1つ、興味深い事実があるのです。』

 

「興味深い事実?」

 

『えぇ。こっちの対戦相手を見てください……』

 

◇◇◇

 

毒を宿した棘(どくづき)が突き出され、それを竜の力を宿した爪(ドラゴンクロー)が弾く。

放たれた「大」の字を象った炎(だいもんじ)を、半透明の壁(まもる)が打ち消す。

ロズレイドとフライゴン。じゅうりょくの影響下において、それぞれが一進一退の攻防を繰り広げていた。

2匹のポケモンがメガシンカしたのを見て、即座に「より相手にしやすい相手」を選ぶのは流石バトルロイヤルをよく理解しているトレーナーと言うべきか。

だが彼らの選択は極めて正しいと言えるだろう。もしも彼らが今のケイスを見たならば……

間違いなく、しばらくマトモな指示はできない状況になっていただろう。

 

……………………

 

「ココガネ、『ステルスロック』。」

 

ケイスが指示を送り、場に再び尖った岩が散らばる。それを見たライラは困惑していた。

 

(『ステルスロック』?何故今……初めに撒いたものだってまだ残っているはずなのに……?)

 

『ステルスロック』は『まきびし』や『どくびし』と違い、複数回撒くことに意味がある技ではない。せいぜいがポケモンの技などで散らばったり砕かれたりした際にもう一度撒き直すくらいだ。

狙いが分からない。だが間違いなく警戒したほうがいいのはわかる。

 

(……少なくとも『ステルスロック』をばら撒いたことは直接的な攻撃ではない。何かの「仕込み」であると考えるべき……。なら、)

 

「フーディン!距離を取りながら『サイコキネシス』で岩を散らばらせてください!」

 

ライラの指示によりサイコパワーを解放したメガフーディンが周囲にばら撒かれた岩をココガネから遠くの方へと飛ばす。もしこれが何らかの策と言うのであれば、干渉できないところへ飛ばしてしまえばいい。

 

「そのまま『きあいだま』!」

 

畳み掛けるように指示を出す。再び練り上げられた闘気の球がまっすぐココガネへと向かっていき……

 

「ココガネ。『れいとうパンチ』。」

 

突如迫り上がった地面に進路を妨げられそのまま衝突、その壁を粉々に粉砕するも本命のココガネには傷一つ与えられずに終わってしまった。よく見れば砕けた壁がカチカチに凍っている。

 

「……『れいとうパンチ』で地面を凍らせて強度を上げましたか。先程の防御といい、こおり技の扱いが上手いのですね。」

 

「こいつの育った場所が場所だからな。育て親のおかげでこおり技が得意みたいなんだ。」

 

ケイス以外は知る由もないことであるが、このココガネという個体は、ココドラだった時代にとある理由で浅瀬の洞窟のこおりポケモンに育てられていた時期がある。そのときの経験により、ココガネはこおり技の扱いが他のボスゴドラよりも格段に上手なのだ。

 

「行くぞココガネ。打ち上げろ(・・・・・)。」

 

呟くような指示。それでもココガネはその真意を正確に読み取り、力強く地面へとその鋼鉄の拳を叩きつけフィールドを揺らす。だがこの場の全てのトレーナーが違和感を感じていた。

 

「これ、は……!」

 

「このくらいのトンチキがあったほうが、多分アンタは満足しないだろうからな。」

 

普通の『じしん』とは違う、範囲が限定されているかわりに縦に特化した激しい揺れ。わずかに浮遊しているメガフーディンに対しても本来のダメージを与えるため?打ち上げろと言ったのは空中に打ち上げることでポケモンたちに反撃を取らせないため?

 

「……いや違う!フーディン、上に(・・)『リフレクター』を!!」

 

ライラが何かに気づいたようにフーディンに指示を出し、すぐに上を見上げる。

その目線の先にあったのは……

 

『じしん』によって空中に打ち上げられた、『ステルスロック』の雨であった。

 

『な、なんだこれは?!フィールドにばら撒かれた『ステルスロック』が打ち上がって……ものすごい勢いで降ってきました!!』

 

打ち上がった『ステルスロック』は高まった重力の影響を受けて高速で落下する。そのダメージはたとえ一つ一つの岩のサイズは小さくとも、尖っている分より深く食い込んでいくことで見た目以上のダメージを与える。

 

『じしん』で跳ね上がったフライゴンの翼に岩が突き刺さる。伸ばした茨をじめんに突き刺すことでなんとか打ち上げられるのを阻止したロズレイドの花を岩が散らす。なんとか耐え凌いだのは『リフレクター』を張ったことでダメージを抑えたメガフーディンのみ。

 

「『サイコキネシス』で散らばされたときは焦ったが……まぁ防ぐ手段があったのなら結果は同じだったな。

じゃあ畳み掛けようか、ココガネ。」

 

相手に息をつく暇すら与えずに次の指示を出す。メガフーディンに向けて走り出したココガネに対し、メガフーディンは限界まで後退。『じゅうりょく』の効果が切れるタイミングで一気に空中へと浮遊し、そのまま『サイコキネシス』でココガネの動きを妨害する。負けじとココガネもより強く地面を踏みしめてその不可視の力に抵抗する。

とてつもない力の拮抗。互いに反発し合う力は外部にも影響を及ぼし、 広いリングがどんどん崩れていく。まさに強者の根比べ。

だがここはバトルロイヤルのステージ。1on1(タイマン)にだって水を差すことが当然の戦場である。

 

「今よフライゴン!『じしん』で纏めて片付けなさい!」

 

「ロズレイド!『ギガドレイン』だ!」

 

真正面からのぶつかり合いで動きが止まった大物を狩るチャンスだと思ったのだろう2人が指示を出し、それぞれが己の持つ最大の攻撃を行う。

しかし忘れてはいけない。片や相手の奇想天外な攻撃を唯一しっかりと防御してみせたポケモン。そして片や自身と異なるタイプの技を当たり前のように使いこなすことができるセンスを持つポケモン。

そしてそんな者達と心を通わせ、メガシンカに至るほどの絆を育んだトレーナー達。

そんな存在がそう簡単に狩られるわけもなく……。

 

「待ってたぞ……お前が『その技』を使う時を……!」

 

「フーディン。横槍が来ます。」

 

フライゴンは十中八九「じしん」を覚えていると踏んでいたケイス。そして「じしん」は地面に大きな衝撃を与えなければ発動できない技。故にこの技を使用するには地面に降りなければならない。そして地面に降りたということはココガネの「射程範囲」に入ってきたということ。

フライゴンの『じしん』を持ち前の防御力と特性で耐え抜き、その隙だらけのボディへと『れいとうパンチ』が叩き込まれる。フライゴン最大の弱点であるこおりタイプの攻撃。もちろん耐えきれるはずもなく……。

 

『ここでフライゴンが戦闘不能に!最初に残り一匹に追い詰められたのはレイカ選手です!』

 

体の一部が氷結したフライゴンがボールに戻り、同時にメガフーディンの『サイコキネシス』によってロズレイドが壁に叩きつけられる。が、なんとフラフラしながらではあるが立ち上がってみせた。

 

『なんと!ロズレイドの方は耐えました!一体なぜ……?!』

 

実況や観客は驚きの声を上げるが当のライラは気付いていた。

きあいのハチマキ。低確率で相手からの攻撃を耐えることができる道具。何度ダメージを受けていようと発動するチャンスが無くならないという強みがあるとは言え、発動する確率は驚異の10%。勝負をかけるにはあまりにも頼りない数字である。

その結果を「相手の運が良かった」という思考で切り捨て、目線を先程まで戦っていた相手へと向ける。

相手と目線が交差する。その瞬間、直感ともいえる声が脳内に響く。

「先手を取れ」と。

 

「フーディン!『サイコキネシス』で引き剥がしてください!」

 

「ココガネ、『れいとうパンチ』。」

 

ココガネが冷気を纏わせて放つパンチを先に先手を取ったメガフーディンが『サイコキネシス』で無理矢理距離を取らせることで回避する。そこへさらに5本のスプーンを飛ばして追い打ちを仕掛けるも、『れいとうパンチ』のラッシュによって捌かれ続けて思うように攻撃が通らない。

 

「それなら……。フーディン!『サイコキネシス』で振り回してください!」

 

ライラの指示により、メガフーディンが『サイコキネシス』でココガネを浮遊させ、そのまま壁にぶつけたり地面を引きずらせたりしめ一方的にダメージを与えに行く。

 

(エスパータイプははがねタイプに今ひとつですが……)

 

相性以上に一方的に攻撃できるということに意味がある。そしてこうやってフィールドを荒らせばまた先程のように横槍を入れられる心配も減る。巻き込まれるのを恐れて動きが鈍くなるからだ。

このまま仕留める……そう決意し、さらに激しく振り回すよう指示しようとしたときだった。

 

(……あれは?)

 

キラキラと光る地面が、ライラの目に留まった。

否、それはただ光っているのではない。凍った地面(・・・・・)が光を反射していたものであった。しかも地面だけではなく、壁にも氷結した跡が。

 

(まさか……激突するタイミングに合わせて『れいとうパンチ』を?)

 

だが何のために?メガフーディンは自身に攻撃が当たらないようにココガネを振り回している。故にメガフーディンへの攻撃でないことはほぼ確実のはず。ならばロズレイドに攻撃が当たる可能性に賭けて技を振っているのだろうか。

 

(いえ、彼はそんな愚鈍な戦い方をするような人ではない。必ず何かを仕掛けてくる……)

 

「フーディン!壁に押し付けながら上へ飛ばしてください!」

 

現在のココガネの体には幾度もの激突によって装甲にかなりの傷がついている。一気にトドメに繋げるため、サイコパワーをより強めながら抵抗が困難になる上空へとココガネを打ち上げる……。

その時であった。

 

「なっ……!?」

 

「……凍った壁は加速による慣性を失わないため。」

 

ライラが見たのは、先程までとは比べ物にならない速度で上空へと打ち上がるココガネの姿。

まさかサイコパワーを強めた結果?と考えたものの、そのメガフーディンの顔に浮かんだ驚きの表情がその可能性を否定する。

 

「そしてその加速はアンタのメガフーディンの『サイコキネシス』で引きずられることで得ることが出来た。ならあとは一工夫すれば……」

 

「……っ!そういうことでしたか!フーディン!上です!!」

 

ライラの叫びに反応しとっさに上を向いてスプーンを引き寄せてガードを作る。

そこに暗い影が落ち、次の瞬間……

 

「『ヘビーボンバー』。」

 

「『リフレクター』!!」

 

轟音と共に上空から降ってきたココガネが勢いよくメガフーディンにヘビーボンバーをお見舞いし、その圧倒的なパワーにリフレクターを張ったメガフーディンが大きく後退する。

 

「……『サイコキネシス』に抵抗しなかったのは動きが鈍重なメガボスゴドラに自力で『サイコキネシス』から抜け出すための勢いを得るためでしたか。」

 

「そして『れいとうパンチ』で壁や地面を凍らせていたのはカウンターの『ヘビーボンバー』に『サイコキネシス』で得た加速を乗せるため。仕込みをするまでは良かったがその後から一向に地面や壁を引きずろうとする気配がなかったからかなり焦ったがな……。」

 

ここまで一方的にやられるだけの状況を、積み上げた策によってイーブン(あと一撃)にまでひっくり返してみせたケイス。お互いのポケモンの体力は残り僅か。レイカが新たに繰り出したミロカロスやロズレイドの攻撃程度であればギリギリ耐えられるかもしれない。だがメガフーディンの『きあいだま』、ココガネの『ヘビーボンバー』……互いにこのどちらかの技が当たった時点で確実に倒れるだろう。

睨み合いが続く。ただの横槍ですら隙を生み出してしまう。メガフーディンはスプーンを周囲に向けながら、ココガネは唸りながら『ステルスロック』を蹴って周りを牽制する。

勝負は一瞬。先手を取った方の勝ち。

 

 

そして決着の時というのはいつだって突然訪れるものである。

 

 

「ココガネ!!」

 

「フーディン!!」

 

全身全霊の力で地面を踏みしめ、突撃するココガネ。対して最大効率で練り上げ、気合が込められたエネルギーの球を作り上げるメガフーディン。

だが一瞬早く動いていたのはココガネの方である。このまま『きあいだま』が炸裂するより先にココガネがその体重を以てしてメガフーディンに引導を渡すほうが先……

 

「まだです!後ろに下がりながら『きあいだま』を!!」

 

ライラの指示を頭で理解するより先に体で理解し、咄嗟の後退でココガネとの間に絶妙な空白を作り出すメガフーディン。ココガネの攻撃が当たるには遠過ぎであり、メガフーディンの攻撃を当てるには近過ぎる……それでも2匹はその攻撃を中断することなく闘志に満ちた眼差しで相手を見据え……

 

 

ズドォォォォォォォォォン―ーーー!!

 

 

轟音。そして続けてリングに広がった衝撃波が、この場にいる全員の視界を封じた。

 

『す、凄まじい激突!リングの状況が全くわかりません!最後に立っているのはメガフーディンか!それともメガボスゴドラか!』

 

実況が騒ぐ中、ケイスとライラはその煙の中をじっと見つめていた。

そして時期に煙が晴れる。そこにあったのは……

 

『おっとこれは……?ふ、フーディンとボスゴドラが共に倒れている!!W.K.O(ダブルノックアウト)!!W.K.O(ダブルノックアウト)です!!』

 

これまでで一番の歓声がドーム内に湧き上がる。その歓声を無視してケイスとライラが互いのポケモンに一言労いの言葉をかけてボールへと戻した。

 

肩で息をするケイス。それでも腰に下げたボールが揺れるのを見て覚悟を決め、最後のボールを構える。

彼は見た。視線の先にいるライラというトレーナーの目……ほんの少し、サングラスの隙間からちらっと見えたその目に

 

全身が震えるような、輝きが宿っていたことを。

 

「……大トリだツタッコ。思うがままに暴れてこい……!」

 

堪えがたいその体の震えを、それでも無理矢理抑え込みながら最後のポケモンを繰り出した。

 

◇◇◇

 

『こっちの対戦相手を見てください。』

 

そう言うとオダマキ博士は動画に映されている相手の紫髪の少女(・・)を指し示して告げた。

 

『この少女はかつてのバトルタワーのブレーンです。』

 

「えっ、女の子?!」

 

『まぁ一目見ただけでは少年に見えるのも無理はないでしょうね……。それよりも、彼女の『目』を見てください。』

 

言われた通りにその目を見ると……驚くことに、映像に映るケイスと

同じ光がその瞳に宿っていた。

 

『いいですかククイ博士。これが特に興味深い点なんです。』

 

――彼の灯火は「伝播」するんですよ。




・レイ(♂)
ケイスがシンオウ地方で手に入れたタマゴから生まれたラルトスが進化を重ねたポケモン。実はケイスがメガシンカさせられるポケモンの一匹であり、メガストーンはシンオウ地方の預け屋からタマゴが孵ったお祝いとして渡されたお守りの中に入っていたもの。クールな佇まいであるが実は意外と熱血。

・ココガネ(♂)
ケイスがホウエン地方の浅瀬の洞窟で捕まえたココドラが進化を重ねたポケモン。本来、進化元であるココドラは浅瀬の洞窟には生息していないはずだが、何らかの理由によって浅瀬の洞窟に一匹だけ生息していた。どうやらこおりポケモンと協力して生きてきたらしく、こおりタイプを持っていないのにこおり技の扱いがかなり上手である。実は平均より若干体格が小さい。メガストーンはホウエン地方のとある人からもらった物。

・ツタッコ(♀)
ケイスがイッシュ地方で旅立ちの日に貰ったツタージャが進化を重ねたポケモンであり、彼のパートナーポケモン。非常にプライドが高いものの、一度認めた相手には割と好意的に接するため友人からは意外と可愛がられていることが多い。実は結構なバトル好きであり、戦闘狂一歩手前の節がある。
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