ポケットモンスター Lost MemoRe   作:めーへむ

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詰み

『大熱狂のバトルロイヤル!!激闘も遂に終盤です!

現在、それぞれの手持ちは未だ粘るロズレイドともう一匹の計2匹を残しているケンゴ選手を除き、残り一匹の状況!先にミロカロスを繰り出したレイカ選手に対し、ケイス選手とライラ選手はどんなポケモンを繰り出すのか!?』

 

ふーーっ……と深く息を吐くケイス。その顔にはどう取り繕っても隠せない疲労が見えていた。

 

(Zワザに続けてのメガシンカ……流石に無茶のし過ぎか……?)

 

Zワザもメガシンカも、どちらともトレーナーの存在無しには為し得ないものである。そしてそんな切り札を2つも使った。疲弊するのは当然である。

それでも、今彼が手に持っているボールはカタカタと震えている。それは闘争心からくる震え。激戦の気配にあてられたツタッコが、その闘争心を抑え込みきれずにいることを示す震えであった。

 

「……そうだ、そうだな。お前はまだ満足しきっていないもんな。」

 

自分のポケモンが「早く戦いたい」と声を上げ、それをトレーナーに示している。ならばケイスが取る行動はただ一つ。彼が疲れにへばってしまってはポケモンが戦えくなる。だから膝をついたりはしない。

 

「大トリだツタッコ。思うがままに暴れてこい……!」

 

そう激励を送ると、構えたボールを勢いよく上へと投げた。

 

「ジャアアアアアアァァァッ!!」

 

猛々しさと高貴さを併せ持つ叫び声と共に、ツタッコが戦いの場へと降り立つ。

そして同じタイミングでもう一つ、巨大な影が戦場へと落ちる。

 

『ケイス選手が繰り出したポケモンはジャローダ!そしてライラ選手が繰り出したのは……カビゴンです!』

 

ずしーーん……と腹に響く音を鳴らしながらフィールドを揺らして登場するカビゴン。その巨体は同じく長大な体躯を誇るジャローダと並んでなお、劣るとは思えない存在感を持っていた。

 

(……カビゴン、か。)

 

疲弊しきった脳に、いつかの戦いの景色が浮かび上がる。かつての青春。ケイスが決して忘れることのないとある人物との戦いを……。

 

「ビィっ!!」

 

「っ……!悪い悪い。少し懐かしくなってな。」

 

ツタッコの声にはっと我に返り、そんな回想をしている場合ではないと少し強めに頭を叩いて目の前の戦いに集中する。

 

「やるからには勝ちに行くぞ、ツタッコ!『リーフストーム』!」

 

ケイスの指示にツタッコが吠え、それに応えるように激しい風が木の葉を纏って吹き荒れる。

 

「カビゴン!『かみくだく』!」

 

ライラの指示にカビゴンが大きな口を開け、鋭い()の嵐をものともせずにツタッコへとその牙を剥く。

 

「ミロカロス!カビゴンに『ねっとう』!」

 

「ロズレイド!ジャローダに『どくづき』だ!」

 

他の2人もそれぞれのポケモンに指示をだし、それに呼応したポケモン達が技を繰り出す。

 

『おっと!完全に攻撃対象が割れた!先程から点数を稼いでいる2人へ一気に攻撃が向きました!!これぞバトルロイヤル!強者には相応の試練があるというのもバトルロイヤルの見所です!』

 

ぐつぐつと湯だった激流が『リーフストーム』によって作られた傷に染み渡り、カビゴンにさらなる苦痛を与えるも、その痛みを叫びによって無理矢理抑え込み、ツタッコへと牙を立てる。

思わず仰け反るツタッコ。なんとかカビゴンを振り払おうと暴れまわり、頭を下げて浮き上がった尻尾でカビゴンの頬を打って噛みつきを解除し、さらにその身ごと倒れ込んで床に叩きつける。

だが次の瞬間、またもやツタッコの顔が苦悶の表情に変わる。見れば、倒れ込んだことによって無防備になったツタッコの体にロズレイドの『どくづき』が突き刺さっていた。

 

「ちっ……!」

 

忌々しそうに舌打ちをするケイス。ジャローダという種族は基本的に防御面において物理特殊双方で高い耐久を誇る。が、ケイスのツタッコはその中でも特殊防御に重きをおいているため、物理防御の方は比較的脆いのである。

ましてやそれが弱点の攻撃と来れば、そのダメージは決して無視できないものとなる。

 

「振り払えツタッコ!一旦距離をとるんだ!」

 

ケイスの声が届くや否や、すぐさまその長い体を大きくしならせ、勢いよく体を震わせるツタッコ。その振動によりロズレイドが空中へと跳ね飛ばされる。

 

「そこよミロカロス!『れいとうビーム』!」

 

その隙を見逃さず、レイカのミロカロスがロズレイドへと『れいとうビーム』を撃ち込む。空中という不安定な場へと打ち上げられたところへの一撃。『まもる』で防ぐより先に、凍てつく一条の光がロズレイドを撃ち抜く。

二度目の致命の一撃。一度はそれを防いだ奇跡(きあいのハチマキ)が再び起きることも無く……。

 

『ここでミロカロスの『れいとうビーム』がヒット!ロズレイド、戦闘不能です!これで全ての選手の手持ちが残り一匹となりました!!』

 

撃ち落とされたロズレイドがケンゴのボールの中に戻される。ケンゴが最後に繰り出したポケモンはシャンデラ。イッシュ出身のケイスにとっては馴染み深いポケモンであり、過去に何度もケイスとツタッコを苦しめたポケモンの一種でもあった。

 

「アローラでもあの顔を見ることになるとは思っても無かったな、ツタッコ?」

 

ケイスからかけられた声に苦々しそうな唸り声を上げて応えるツタッコ。ツタッコ自身、シャンデラというポケモンに対しては苦戦した記憶しかない。

それでも……何とかするしかない。

 

「全力だ、ツタッコ。全部(・・)使い切って勝ちに行くぞ。」

 

その声に応えるように体をしならせるツタッコ。トレーナーが勝ちに行くと言ったのならば、後は彼を信じて戦うのみ。

 

「走れツタッコ!中心に向かって!」

 

体を大きくしならせ、勢いよく加速しながらフィールドの中心へと移動する。

 

「カビゴン!『のろい』!」

 

「ミロカロス!『ひかりのかべ』!」

 

「シャンデラ!『だいもんじ』だ!」

 

ツタッコの行動に対し、それぞれが瞬時に行動を起こす。

3匹のうちの2匹が警戒態勢をとって自己強化や防御を行う中、シャンデラだけが攻撃に移る。

『だいもんじ』。ほのおタイプの技の中でもかなり威力が高い技であり、技を使用した際の目立ったデメリットも無い優れた技である。

だが一つ、この技には欠点がある。

それは……

 

(溜めの時間……『かえんほうしゃ』とは違って速射できない弱みがある……!)

 

「ツタッコ、『リーフストーム』!」

 

ほんの数瞬。されど戦闘においては明確な隙が『だいもんじ』という技には存在している。そしてジャローダという種族の素早さにトレーナーの指示が加わるならば……

 

無傷でのリアクションも、不可能ではない。

 

『速い!!ジャローダ、即座に反応して迎撃を選択しました!!し、しかし……』

 

実況が言うよりも先に、この場にいる選手たちは今の状況を理解していた。

『リーフストーム』という技は一度使うと使用者の特殊攻撃力が低下してしまう技。そしてツタッコは既に一度『リーフストーム』を使用してしまっている。

威力が低下している今の『リーフストーム』では、圧倒的な火力を誇るシャンデラの『だいもんじ』を受け止めることは不可能……誰もがそう考えていた。

その認識は決して間違いではない。普通ならばその考えに至るものなのだから。

……そう。「普通」ならば。

 

『この押し合いはシャンデラが圧倒的に有利!このまま押し切られてしまうのでしょうかジャローダ…………あ、あれ?』

 

実況の声が静まる。それに応じるように観客席もざわめきだし、選手たちも違和感を感じてその様子を見ている。

当然だろう。彼らの目の前で2匹のポケモンの攻撃が拮抗(・・)しているのだから。

 

『これは一体どういうことでしょうか?!ジャローダの『リーフストーム』は威力が下がっているどころかその勢いを増している!!周りのポケモンも干渉できずにいます!!』

 

会場のほぼ全ての人間達がざわめいている中で、一部のポケモンについてある程度の知識がある者はそのタネに気づいていた。

 

「まさか……特性か?」

 

「はぁ?いやジャローダの特性って確か『しんりょく』だろ?一発も貰ってないジャローダが発動できるわけ無いだろ。」

 

「馬鹿!お前スクール行ってなかったのか?ポケモンはたまに変異個体が生まれることがあるってスクールで習っただろ!」

 

変異個体。その種において普通では無い能力や特徴を備えた個体のことであり、文字通りの「特別なポケモン」である。例えばそれは通常の個体と体の色が異なっていたり、普通は覚えることのない技を覚えていたり、特性が通常とは全く異なるものであったり、などである。

 

「じゃああのジャローダの特性はなんなんだよ?」

 

「『あまのじゃく』だ!あのジャローダの特性は『あまのじゃく』だ!!」

 

ジャローダ種の隠れ特性、『あまのじゃく』。効果はその名の表す通り、技による自身のステータスの変化を真逆にするというものである。

 

「てことはあのジャローダ……『リーフストーム』を撃つだけでパワーが下がるどころか逆に上がっていくのか?!」

 

「そういうことだ……いけ兄ちゃん!全員まとめてやっつけちまえ!!」

 

湧き上がる観客席。それとは対照的にバトルを行っているトレーナー達はかなり頭を悩ませている様子であった。

当然だ。ポケモンの技は大抵の場合「強力であるほどにその分何らかのデメリットがついている」といったものが多いのである。それを踏み倒せるばかりかメリットに転換できるというのは当然のことながら相対する者にとっては相当な障害になり得るものである。

……ただ一人を除いて。

 

「……なるほど。確かに厄介ですね。ですが、まだ負けたわけではない。」

 

ならば取れる手はいくらでもある。そう告げるライラの目は確かな勝ち筋を見出していた。

 

「カビゴン!もう一度『のろい』です!」

 

再び自身のステータスを底上げするカビゴン。だが『のろい』で上昇するのは物理的なステータスのみであり、ツタッコの『リーフストーム』を軽減することは不可能である。

 

(耐久を上げることが目的じゃない?攻撃力を上げて一撃で決めきるつもりか?だがそうだとしても素早さが下がる『のろい』を積むにはデメリットが無視できないはず……。何が狙いだ……?)

 

思案するケイス。そんな彼とツタッコへもう一度シャンデラが『だいもんじ』を放つ。

そのときだった。

  

「今ですカビゴン!『あくび』!」

 

その指示に合わせてカビゴンの大きなあくびがフィールドに響き渡る。その音は聞く者全ての眠気を誘うような響きを含んでおり……そこでケイスは理解した。

 

(しまった……眠らせてしまえばどれだけ足が遅くなろうが攻撃は必ず当たる……!!)

 

足が遅くなるデメリットを受け入れてまで攻撃力を上げようとするわけである。さらに今のケイスは控えのポケモンがいない。つまり入れ替えで眠気を取ることもできない。待っているのは回避不能の確実な眠りである。

……今のケイスの脳裏にはただ二文字の単語しか浮かんでいなかった。

 

『敗北』と。

 

その瞳の灯が、かすんでいく。

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