私が死んだとき、最初に気づいたのは、キシリアの銃が意外に小さかったことだ。
あれほど大げさな憎悪の決算にしては、音はずいぶん事務的だった。乾いた金属音、短い閃光、胸に空く穴。歴史というものは、もっと大げさなオーケストラを用意すると思っていたが、実際には机の端でグラスを倒したときみたいな、取り返しのつかなさだけがあった。キシリアの仮面の奥の目は冷えていて、私の演説を最後まで聞かなかった人間の目をしていた。
私は床に崩れ落ちながら、たぶん自分は演説で世界を動かすには向いていたが、妹を怒らせない才能には恵まれなかったのだろう、と考えた。血の匂いは鉄というより、長く使っていないエレベーターの中の空気に似ていた。人は死ぬ間際にもっと深遠なことを考えると聞くが、少なくとも私はそこまで上等な人間ではなかった。
次に目を開けたとき、私はサイド3の官舎にいた。
窓の外ではコロニーの人工朝焼けが、安物のオレンジを薄く剥いたみたいな色で広がっていた。壁の時計は宇宙世紀0068年を示していた。寝室の空気は若く、シーツは血ではなく洗剤の匂いがした。私は半身を起こし、何かの冗談だろうと思った。だが、こういう種類の冗談を言える人間を、私は知らなかった。
廊下から急いだ足音が聞こえ、侍従のひどく若い声がした。
「ギレン様、大変です。ダイクン議長が……演説中に」
その続きを私は聞かなくても知っていた。
私はベッドから降り、鏡を見た。そこにいた私は、まだ死んでいない頃の顔をしていた。頬はこけておらず、目の下の影も薄い。未来で積み上げた疲労が、まるで精算されていた。だが、中身だけはそのままだった。私は一度、自分の妹に撃ち殺されている。
そして今、ジオン・ダイクンが死ぬ。
それが、すべての始点だった。
私は制服の襟を整えながら、ひとつだけ明確な目標を立てた。国家だの理想だの人類の革新だのは、とりあえず棚上げでよかった。まずはキシリアに殺されないこと。その一点だけで十分だった。宇宙を作り変えるより、妹に撃たれないほうが、私にはむしろ難しい課題に思えた。
車で議事堂へ向かうあいだ、サイド3の街区はいつもよりざわついていた。通路の天井灯は白く、群衆の顔を病院の待合室みたいに平等に照らしていた。商店のシャッターは半分下り、街角のモニターには混線した速報が流れている。空調の風に、消毒液と安いコーヒーの匂いが混じっていた。動乱はたいてい、壮大な音楽ではなく、こういう雑なノイズから始まる。
議事堂の前は、人いきれで曇っていた。私は最短の通路で奥へ向かった。護衛たちはまだ私の機嫌の危険度を正確に知らず、通路を空けるタイミングが少し遅かった。若いというのは、他人の恐ろしさを測る尺度がまだ育っていないということだ。
医務室に運び込まれたダイクンは、もう半分ほど向こう側にいた。顔色は灰色で、口元にうっすら泡がついていた。何人かの医師が不器用な焦りを手に持っていた。私はそれを見て、まずい、と思った。未来を知っていることには利点がある。しかし、死にかけた人間を前にすると、その利点はだいたい役に立たない。
「助かるのか」と私は訊いた。
医師は私を見て、答えを選びかねていた。私がまだ未来ほど怖くなかった時代でも、彼らは権力者に対して上手に嘘をつけなかった。
「難しいかと」
「難しい、は便利な言葉だな」と私は言った。「可能性があるのか、ないのか」
「ほとんどありません」
ダイクンは薄く目を開けた。焦点は合っていなかったが、それでも私の方を見たように思えた。何かを言いかけて、咳き込み、そのまま糸が切れるみたいに静かになった。
私は彼を救えなかった。歴史の歯車というのは、思っている以上に手垢を嫌うらしい。
医務室を出ると、廊下にキシリアが立っていた。若い。まだ仮面はつけていない。だが目だけはすでに完成していた。鋭く、乾いていて、人を箱詰めして棚に並べるのに向いている目だ。
「兄上」と彼女は言った。「珍しく急いでいらしたのね」
「人が死にかけていたからな」
「それだけかしら」
私は彼女を見た。彼女も私を見た。会話というより、刃物の見本市みたいな沈黙が数秒あった。
「お前は何を疑っている?」
「まだ何も」と彼女は微笑んだ。「でも、兄上が何かを隠している顔をしているのは確か」
「私はいつも何かを隠している顔だ」
「ええ。そこが兄上のわかりやすいところ」
私はそのとき、未来の銃声を思い出した。人間は自分を殺す相手の若い顔を見ていると、妙な種類の郷愁を覚えることがある。少なくとも私はそうだった。
ダイクンの死後、サイド3はひどくよく回る時計みたいに壊れはじめた。誰もが正しい時刻を主張し、誰もが他人の針を折ろうとした。父、デギン・ザビはその空白を見たとたん、目の奥に小さな計算機を起動させた。彼の政治感覚はいつも脂っこかったが、よく働く種類の脂だった。
数日のうちに、人々は哀悼よりも継承に興味を持つようになった。これはどんな時代でもそうだ。棺の蓋が閉まると、次に気になるのは財産目録と座席表である。
私は早い段階で、自分の未来の失敗をいくつか整理した。第一に、妹を舐めないこと。第二に、妹の前で勝ち誇った顔をしないこと。第三に、できれば大量虐殺を連想させる名演説を控えること。人類の革新について熱く語るのは気持ちがいいが、その種の快楽はたいてい晩年の生存率を下げる。
そこで私は、もっと地味な方向から国家に手を入れることにした。
食糧配給の安定。空調設備の更新。老朽化した搬送路の補修。医療区画への予算増額。革命の前に配管だ、と私は思った。国家は思想で動くように見えて、実際にはかなりの部分を配管が支えている。
父は私の案を見て眉を上げた。
「ずいぶん控えめだな、ギレン」
「控えめなものほど長持ちします」
「お前らしくない」
「長生きしたくなりました」
父は笑ったが、その笑い方は、相手の言葉を面白いと思ったのではなく、計算外の石ころが靴に入ったときのものだった。
キシリアはもっと露骨だった。
「兄上が急に福祉に目覚めるなんて、毒の味がしないスープより不気味だわ」
「人は変わる」
「人は変わるわ。でも、本性は変わらない」
「お前はずいぶん若いくせに、老人みたいなことを言う」
「兄上よりは若いわ」
その言い方が気に入らなかったので、私はその日のうちに秘書官へ通達を出した。ザビ家の夕食会を週に一度、必ず開くこと。議題のない私的会食とすること。銃器の持ち込みは禁止すること。席順は固定しないこと。
秘書官は困った顔をした。
「ギレン様、家族会議という理解でよろしいでしょうか」
「違う」と私は言った。「会議ではない。会議にすると全員が勝とうとする。夕食だ。人は口にスープを入れている間は、少しだけ殺意が鈍る」
その晩、ドズルはローストの皿を見て機嫌を直し、ガルマは最初から機嫌がよく、父は誰がどれだけ食べるかを見ていた。キシリアだけが、食前酒のグラスを光にかざしていた。
「毒を警戒しているのか」と私は訊いた。
「礼儀よ」と彼女は言った。「光に通した方が色がきれいだもの」
「疑い深い礼儀だな」
「この家で長生きするには必要よ」
ドズルが大声で笑った。
「おいおい、まだ家の中で殺し合う話は早いだろう」
私はナイフを置き、ドズルを見た。彼は冗談のつもりだったのだろうが、私には笑えなかった。未来から来た人間にとって、冗談というものは時々、ひどく予言めいて聞こえる。
それでも夕食会は続けた。三回目にはガルマが菓子を持ち込み、五回目には父が議題を持ち込もうとして私に止められ、七回目にはキシリアが無言のまま三人の護衛を外に待機させた。少しずつだが、家族は家族のふりを覚えていった。少なくともテーブルの上では。
私は仕事も変えた。演説の回数を減らし、資料の行間を増やした。情報局との距離は近づけたが、顔には出さなかった。誰かを消すより、誰かを異動させるほうが効率的な場合が多いことを、私は未来で学んでいた。暗殺は派手だが、書類仕事には及ばない。
そうして数ヶ月が過ぎた。サイド3はまだ不安定だったが、すぐに火を噴く感じではなくなっていた。人々は相変わらず不満を持ち、理想を語り、陰謀を好んだ。だが、エアフィルターが新しくなったおかげで、少なくとも役所の空気は少しだけましになった。
私はそれをささやかな勝利と見なしていた。
愚かだった。
転換は、ある日ひどく静かな場所で起きた。議事堂の上層にある温室区画だった。そこには古い地球種の植物が少しだけ保管されている。人工重力の調整が甘く、葉の揺れ方がどこか遅い。私はそこで一人になるのが好きだった。植物は拍手をしないし、反論もしない。政治家にとって、たいへん好ましい聞き手である。
そこにキシリアがいた。薄い灰色の制服で、鉢植えのオリーブを眺めていた。
「ここは私の場所だ」と私は言った。
「兄上のものではないわ」と彼女は答えた。「せいぜい、誰にも見つかりたくない人間がたまたま来る場所」
私は隣に立った。葉の匂いは乾いていて、少しだけ古い本に似ていた。
「何の用だ」
「確認」
「何を」
キシリアは葉先に指を触れ、言った。
「撃たれるのは、あっけないでしょう?」
私は何も言わなかった。温室の循環音だけが聞こえた。遠くでポンプが回っている。心臓の代用品みたいな音だった。
「兄上、顔に出るわね」と彼女は言った。「やっぱり」
「何を知っている」
「全部ではない。でも、いくつか」
彼女はゆっくり私を向いた。その目には、若い顔に似合わない疲れがあった。
「私は前回、あなたに殺されたわ」
私は思わず笑いそうになった。笑えなかったが、笑いそうにはなった。宇宙は、たまに悪趣味な冗談を言う。どうやら時間は私だけに親切ではなかったらしい。
「どういう状況だ」と私は訊いた。
「毒」と彼女は言った。「あまり美しくない最期だった。兄上はきれいな言葉で周囲を固めるのは得意でも、やることは案外雑なのね」
「私はお前を毒殺した覚えはない」
「私だって兄上を何度も撃ちたいと思っていたわけじゃないわ」
その瞬間、私はようやく理解した。私たちが憎み合っていたのは、単なる性格の相性だけではない。互いの中に、自分とよく似た冷たさを見ていたのだ。鏡はだいたい不快である。しかもその鏡が拳銃を持っているとなれば、なおさらだ。
「つまり」と私は言った。「お前もやり直している」
「たぶんね。少なくとも一回ではない気がする」
「気がする?」
「時間は綺麗に保存されないの。香水みたいに少し残るだけ」
私はオリーブの鉢を見た。こんな場所で、宇宙世紀の命運よりも先に兄妹間の殺し方をすり合わせていることが、妙に可笑しかった。
「お前の望みは何だ」
キシリアは即答した。
「兄上に殺されないこと」
「同じだな」
「ええ。最低限の合意はできそう」
そこで私たちは、誰にも知られない停戦協定を結んだ。文書にはしなかった。証拠を残すのは愚かだし、何より私たちは互いを信用していなかった。だが口頭で、実務的な取り決めだけは交わした。
暗殺の事前準備をしないこと。直属の部下へ家族排除の命令を出さないこと。食事と飲料に余計なものを混ぜないこと。式典の背後に立つときは、距離を二メートル以上空けること。
「まるで企業のコンプライアンスね」とキシリアは言った。
「家族経営ほど危険な組織はない」
「名言だわ、兄上」
私はそこで初めて、彼女が本気で少しだけ面白がっているのを見た。
それから私たちは奇妙な共闘を始めた。父の野心を直接否定せず、けれど単純な独裁の速度は落とす。過激な演説は私が減らし、過激な粛清はキシリアが抑えた。ドズルには軍の整備と士気向上だけを任せ、ガルマには表向きの融和を担当させた。政治の世界では、無害そうな笑顔は一個艦隊に匹敵する。
もちろん、すべてがうまくいくわけではない。人間は歴史から学ばないし、学んでも都合の悪いところから忘れる。サイド3の空気は少し澄んだが、宇宙全体の圧力は高まり続けていた。連邦は鈍く、傲慢で、こちらの不満を理解する気がなかった。戦争はいつも、誰か一人の名案で避けられるほど単純ではない。
だが、家の中の戦争だけは別だ。あれはたいてい、少しの工夫で先送りにできる。
ある夜、父が珍しく私たち兄妹を執務室に呼んだ。窓の外では人工夜景が、黒い布に穴を開けて裏から電球を当てたみたいに点っていた。デギンは重い椅子に沈み、酒の入ったグラスを揺らしていた。
「お前たち」と父は言った。「最近、妙に仲がいいな」
「仲がいいわけではありません」と私は言った。
「ええ」とキシリアが続けた。「殺し合っていないだけです」
父はしばらく黙り、それから腹を揺らして笑った。
「それを仲がいいと言うんだ、この家では」
私はそこで、ひどく疲れた。宇宙世紀の大局よりも、家族というものの基準の低さに。
父は私たちを順に見た。
「だが、油断はするな。ダイクンの残した影はまだ動いている。子どもたちもいる。信奉者もいる。理想は死なない」
「ええ」と私は言った。「厄介なくらいに」
執務室を出たあと、廊下の先で小柄な少年が侍従に連れられていくのを見た。キャスバルだった。父を失ったあとの子どもは、しばしば驚くほど静かになる。泣き喚く子もいるが、彼はそうではなかった。彼は世界を記憶している顔をしていた。
彼と一瞬、目が合った。
その目の色は、冷えた火だった。
私はそのとき、自分がようやく一つの死を回避しようとしているだけで、もっと長い未来の恨みは別の場所で育っているのだと知った。歴史は一本の刃ではない。無数の細い刃の束だ。一本を避けても、全部は避けられない。
「見た?」とキシリアが隣で言った。
「見た」
「将来、厄介になりそうね」
「お前は何でも厄介に見える」
「兄上ほどではないわ」
それでも、私は少し笑った。彼女もほんの少しだけ口元を緩めた。
最終的に私たちがやったことは、とても地味だった。父の下で権力の移行を急がせない。ダイクン派の残党を一気に潰さず、逃げ道を用意する。大衆に対しては英雄ではなく管理者として振る舞う。国民を興奮させる言葉は麻薬みたいなものだ。気持ちはいいが、あとで必ずもっと強い量が要る。
私は大きな演説を一本、捨てた。
未来でなら私は熱狂を生んでいたはずの演説だ。優性だの淘汰だの、人類の革新だの、そういう危険な蜜でできた言葉をぎっしり詰めた原稿だった。私はそれをシュレッダーにかけた。紙片は白い雪みたいに落ちたが、あれで宇宙は少しだけ救われたかもしれないし、何も変わらなかったかもしれない。
代わりに私は、議会で短い話をした。
空調、医療、輸送、教育。派手さのない四つの柱についてだけ。
演説が終わったとき、拍手はまばらだった。人々は英雄を期待していたのだろう。私は期待外れの管理職に見えたはずだ。それでよかった。英雄はたいてい早死にする。管理職も早死にすることはあるが、少なくとも妹に劇的に撃たれる確率は少し下がる。
議会場の出口で、キシリアが私を待っていた。
「ずいぶんつまらない演説だったわね」
「褒め言葉として受け取ろう」
「群衆は失望していた」
「失望は便利だ。熱狂より掃除しやすい」
彼女は肩をすくめた。
「兄上がそんなことを言う日が来るなんて」
「お前に撃たれてから、多少は学んだ」
「私も、兄上に毒を盛られてから少しはね」
私たちはしばらく歩いた。廊下の窓から、サイド3の人工海が見えた。ほんものの海ではない。波も風も、照明のタイミングも、すべて管理されている。それでも人はそこで海を思い出し、喪失を感じ、明日を夢見る。たいしたものだと私は思う。虚構はしばしば現実よりよく働く。
「兄上」とキシリアが言った。「次に私を出し抜こうとしたら、今度はもっと上手にやることね」
「お前もな。毒は趣味が悪い」
「拳銃よりは静かよ」
「静かなものほど怖い」
「それは兄上の得意分野でしょう?」
私は返事をしなかった。彼女もそれ以上は言わなかった。
その夜、私は執務室で一人、古い書類を整理した。不要な計画を破棄し、必要な予定だけを残す。机の脇には、次回のザビ家夕食会の議題メモが置いてあった。議題のない夕食会のための議題メモというのも変な話だが、この家ではそういう矛盾が人命を救う。
一、着席前の武器検査。
二、飲料の共有禁止。
三、弟たちの前で露骨な牽制をしないこと。
四、必要であればデザートを増やすこと。
私はペンを置いた。誰が見てもくだらないメモだ。だが、宇宙の片隅で戦争を一歩遅らせる方法なんて、案外そんなものかもしれない。
窓の向こうで人工夜明けが始まりかけていた。サイド3の朝は、いつも少しだけ本物の朝に似せてある。人間は偽物だと知っていても、朝の光を見ると安心する。おかしな生き物だ。
私は椅子にもたれ、目を閉じた。まだ戦争は来ていない。まだキシリアにも殺されていない。だからといって、未来が明るいとは限らない。ただ、少なくとも今回は、前より少しだけましな地獄を選べる気がした。
廊下の向こうで足音がした。規則正しく、ためらいがなく、いかにもキシリアらしい歩き方だった。
私は目を開け、机の上のメモを裏返した。彼女が入ってきたら、まずコーヒーを勧めるべきか、それとも先に武器検査を求めるべきか、少し迷った。たぶんその両方が正しい。
ドアノブが回る直前、私はふと思った。
人類の革新というのは案外、もっと壮大なものではなく、兄妹が朝一番に相手を撃たないことから始まるのかもしれない。
もちろん、そんなことを演説で言うつもりはなかった。