妹に撃たれない方法   作:Brooks

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第12話 出ていく前の静けさ

 

人が本当に出ていく前には、たいてい音が減る。

 

それは経験則だった。怒鳴る者はまだ残る。泣く者もまだ残る。だが、何も言わなくなる者は、もう半分ほど去っている。政治でも、家族でも、それはだいたい同じだった。

 

その朝、ダイクン家の住まいから上がってきた報告は、静かすぎた。使用人の出入りに目立った変化はない。医師の往診も予定通り。アストライアの体調はやや不安定だが急変なし。キャスバルは本を読んでいた。アルテイシアは花瓶の水をこぼした。

 

どれも平和な記述だった。そして平和な記述は、こういう時ほど信用ならない。

 

私は報告書を裏返し、窓の外を見た。人工朝は今日もきれいに始まっていた。サイド3の朝は、出来がいい。出来がよすぎて、時々、人間の方が嘘っぽく見える。

 

セシリアが入ってきて、新しい紙を置いた。

 

「港湾夜間通行の再確認です」

 

「増えたか」

 

「わずかに。ですが、正規便ではなく、整備業者の立ち入りが増えています」

 

「整備は便利だな」

 

「ええ」と彼女は言った。「鍵と配線と暗がりに、だいたい正当な顔で触れられます」

 

私は紙を見た。整備。搬送。私的便宜。こういうものが重なるとき、たいてい人は逃げるか、盗むか、壊すかのどれかだ。今回はそのうちの一つだろうと思った。

 

「ランバは」

 

「呼べます」

 

「呼べ」

 

セシリアはうなずき、すぐに動いた。この女は動きが静かだが、静かすぎて時々こちらが先に遅く感じる。有能な秘書とは、つまりそういう圧力でもある。

 

ランバ・ラルは十分もかからずに来た。姿勢は硬く、顔はいつも通りだった。変わったことがあるとすれば、目だけだった。寝ていない目だ。この男は悩んでいる時ほど、顔の筋肉を使わない。

 

「報告しろ」と私は言った。

 

「ジンバ様は今夜動く可能性がある」

 

「根拠は」

 

「人が減った。減った分だけ、決めた」

 

私はうなずいた。いい言い方だった。長く説明しないところも含めて、ランバ・ラルはこうでなければいけない。

 

「どこへ」

 

「まだ確定していない。だが港だ。古いルートが一つ、生きている」

 

「止められるか」

 

「止めることはできる」

 

「お前はどうしたい」

 

ランバはまっすぐ私を見た。余計な感情の入らない、しかし感情がないわけでもない目だった。

 

「子どもたちを守りたい」

 

「ザビ家からか」

 

「全部からだ」

 

それは良い答えだった。良すぎて、少し腹が立つくらいに。

 

「ジンバは」と私は言った。

 

「急いでいる。急ぎすぎている」

 

「だから失敗する」

 

「そうだ」

 

私は椅子にもたれた。ここで決めなければいけないことは単純だった。止めるか。止めないか。ただし、単純なことほど決めにくい。止めれば、キャスバルは檻を知る。止めなければ、外を知る。どちらにせよ、将来の敵を育てることに変わりはない。

 

「ランバ」と私は言った。「お前は今夜、ジンバを見ろ」

 

「子どもたちではなく」

 

「子どもたちは私が見る」

 

ランバはわずかに眉を動かした。

 

「信用するのか」

 

「しない」

 

「では」

 

「だから見る」

 

彼は少し黙った。それから短くうなずいた。

 

「承知した」

 

「勘違いするな」と私は言った。「逃がすために言っているわけではない」

 

「わかっている」

 

「お前は本当にわかっている顔をするな」

 

「そういう顔だ」

 

会話はそこで終わった。必要なことだけが残り、余計なものは落ちた。私はやはり、この男のそういうところを好ましいと思う。好ましいからといって、楽ではないが。

 

昼過ぎ、私はアストライアを訪ねた。

 

公的な理由はいくつでも用意できる。体調確認。住環境の見直し。医療体制の拡充。だが本当は、母親の顔を見たかったのだ。出ていく前の子どもの周りでは、たいてい母親だけが違う種類の静けさを持つ。

 

アストライアは窓辺にいた。少し痩せて見えた。それでも姿勢には、まだ崩れきらない気品が残っている。こういう人を丁重に扱うのは難しい。礼を尽くしすぎると檻になるし、雑にすると復讐になる。

 

「体調はいかがです」と私は言った。

 

「良いとは申せません」と彼女は答えた。「ですが、悪いとも言いたくありません」

 

「正確な返答です」

 

「正確でなければ、生き残れませんもの」

 

私は少しだけ苦笑した。ダイクンの妻だった人間に、言葉の扱いが下手であってほしいと思う方が無理だろう。

 

「キャスバルは賢い子です」と彼女は言った。

 

「ええ」

 

「賢い子は、守られていることと囲われていることの違いに敏感です」

 

私は何も言わなかった。この家の大人たちは、どうも私に同じことを違う口で言いたがる。

 

「あなたは以前より親切に見える」とアストライアは続けた。「ですが、親切に見える檻ほど残酷です」

 

「私は檻を作るつもりはありません」

 

「つもりでないことと、そう見えることは別です」

 

私はその言葉を受け止めた。反論するだけ無駄だった。この人はもう、私を信じる気はない。ただ、それでも子どもたちに刃が向かっていないことは認めている。そういう中間地点にいる人の言葉は、妙によく刺さる。

 

「あなたは残るべきです」と私は言った。

 

「私は残ります」

 

その即答に、私はわずかに驚いた。

 

「意外ですか」

 

「少し」

 

「母親ですもの」と彼女は言った。「残ることでしか守れないこともあります」

 

私はその意味をすぐには測れなかった。だが、あとでわかるのだろうと思った。たいていそういう言葉は、あとでわかる。

 

帰り際、廊下でキャスバルと会った。

 

彼は何も持っていなかった。何も持っていない人間ほど、出ていく準備を終えていることがある。

 

「こんばんは」と彼は言った。

 

「こんにちはだろう」と私は答えた。

 

「この家は、時間の感じが少し変です」

 

「そうかもしれない」

 

彼はしばらく私を見た。少年の目だった。だがもう、ただの少年の目ではなかった。記憶して、比べて、どこに嘘があるかを探す目だ。

 

「あなたは」と彼が言った。「止める時と、止めない時を選んでいますね」

 

私は少しだけ笑った。

 

「ずいぶん大人びた言い方だな」

 

「大人のやることは、見ていれば少しわかります」

 

「わかった気になるだけだ」

 

「そうかもしれません」

 

それでも彼は視線を逸らさなかった。いい。やはりこの子は、ただ運ばれて神話になるだけの器ではない。自分の足で出ていくなら、その方がまだましだと私は思った。まし、というだけだが。

 

「キャスバル」と私は言った。「大人はな、親切そうに見える時ほど、自分の都合で動いている」

 

「知っています」

 

「それでも、全部が同じ都合ではない」

 

「あなたは、どっちです」

 

私は答えなかった。答えられなかったのではない。答える価値がないと思ったからだ。今の彼に必要なのは、私の自己弁護ではなく、出口の位置だろう。

 

夕方、クランプという名の男の報告が上がってきた。

 

クラブ・エデンの裏口に、見慣れない整備箱が二つ運び込まれた。箱は軽く、だが扱いは妙に丁寧。それから、タチ・オハラが港の予備ゲートを一つ、必要以上に確認していた。さらに、ハモンが昼のうちから顔を見せている。歌手が昼間から動くときは、たいてい夜に何かがある。

 

私は紙を見ながら思った。ずいぶんきれいな線だ。ハモン。タチ。クランプ。ランバ側の人脈が、あまりに自然な顔でつながっている。こういう偶然の重なりは、だいたい最初から段取りされている。

 

セシリアが言った。

 

「どうなさいますか」

 

「追跡は」

 

「できます」

 

「止めるのは」

 

「できます」

 

私は少し黙った。

 

アサクラが横から言った。

 

「閣下、今なら確実に摘めます」

 

「知っている」

 

「子どもたちを外へ出せば、後日、より大きな面倒になります」

 

「知っている」

 

「では」

 

私は彼を見た。この男は自分の正しさを信じているわけではない。ただ、自分があとで責任を問われにくい方を本能で知っている。そこが嫌だ。そして役に立つ。

 

「アサクラ」と私は言った。「お前は、失敗の可能性が低い方を選ぶ」

 

「はい」

 

「私は時々、失敗の形を選ぶ」

 

彼は答えなかった。答えると危ないとわかったのだろう。その沈黙だけは賢かった。

 

夜になる少し前、私はランバへ一通だけ短い指示を送った。

 

ジンバを見ろ。子どもたちは見るな。

 

それから港湾側へは、別の指示を流した。

 

第七予備ゲートの監視を一段薄くしろ。ただし記録は残せ。

 

これは止めるためでも、逃がすためでもない。少なくとも、私はそう自分に言い聞かせた。人は大きな判断を下す時、たいてい先に言葉の方を整える。整った言葉の後ろに、だいたい少しだけ汚い本音がいる。

 

キシリアが夜更け前に来た。

 

「兄上」と彼女は言った。「もう決めたのね」

 

「何をだ」

 

「そういう顔をしてる」

 

私は答えなかった。この女は時々、答えがいらない質問をする。

 

「止められるでしょう」とキシリアは言った。

 

「ええ」

 

「でも、止め切らない」

 

「そうかもしれない」

 

「甘いわね」

 

「違う」と私は言った。「管理の失敗だ」

 

彼女は笑った。

 

「それを甘いって言うのよ」

 

私は机の上のメモを見た。檻が美しいほど、鳥は飛びたがる。その下に、新しく一行を書き足した。

 

飛び立つ鳥の行き先まで檻にするな。

 

キシリアはそれを見て、少しだけ顔をしかめた。

 

「ずいぶん親切」

 

「親切じゃない。遠くで見えるところへ出すだけだ」

 

「それ、兄上が一番嫌う言い方じゃない」

 

「知っている」

 

夜半を過ぎた頃、最初の報告が来た。

 

クラブ・エデンの裏口から、花屋の搬送車が一台出た。花屋。宇宙港で花を動かすというのは、実に良い偽装だ。人は別れと出発の前に花を持ちたがる。そのせいで、誰も花屋の箱を深く見ない。

 

第二報。タチ・オハラ、予備ゲートを通過。記録は正規。ただし確認は甘い。

 

第三報。ハモン同行。子どもらしき小柄な影、二。

 

私はその紙を静かに置いた。ついに始まったのだと思った。始まるときはいつも、意外に静かだ。

 

「追いますか」とセシリアが訊いた。

 

「記録だけ残せ」

 

「確保命令は」

 

「出さない」

 

彼女は私を見た。初めて、ほんの少しだけ、理解しきれないものを見る目だった。それでよかった。秘書にすべてを理解されると、たいていろくなことにならない。

 

さらに少し遅れて、ランバから短い報告が届いた。

 

ジンバは別ルートへ流した。子どもたちは見ていない。だが、行った。

 

その文の短さに、私は少しだけ救われた。余計な感情がない。だからこそ、そこにある感情の重さがわかる。

 

私は椅子から立ち上がり、窓辺へ行った。もちろん本物の港は見えない。人工夜と照明だけだ。それでも私は、どこかの暗いゲートから、小さな二人分の影が出ていくのを想像した。

 

キャスバルは、振り返っただろうか。アルテイシアは、花の箱を覗いただろうか。ハモンは平然と歩き、タチは必要以上に緊張し、クランプは表に出ないまま酒場に残っただろうか。そういう細部ばかりが妙に思い浮かんだ。

 

「兄上」とキシリアが、いつの間にか後ろで言った。「あなた、今夜のことを一生引きずるわよ」

 

「そうかもしれない」

 

「でしょうね」

 

私は振り返らなかった。窓の外では、サイド3の人工夜が何事もなかったように広がっていた。

 

まだ公国ではない。まだ国の形すら決まっていない。そのくせ、国を作るはずの男は、今、未来の敵になるかもしれない少年を見逃している。

 

それは愚かだったかもしれない。だが、前世と同じ愚かさではなかった。そこだけが、今夜の救いだった。

 

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