翌朝、屋敷の空気はいつもより整いすぎていた。
整いすぎた空気というのは、たいてい誰かが徹夜で隠し事をしたあとの空気だ。絨毯はきれいで、給仕は静かで、廊下の歩幅まで揃っている。そういう朝は、だいたい誰も昨夜のことを最初に口にしたがらない。
私は食堂へ入る前に、セシリアから一枚だけ紙を受け取った。
確認事項は三つ。子どもたちの所在は不明。アストライアは昨夜から自室を出ていない。使用人の間では、まだ「静養のための移動」という理解で止まっている。
「よく止めたな」と私は言った。
「止められるところまでは」とセシリアは答えた。「問題は、今日の午前以降です」
「父上か」
「はい」
「キシリアは」
「もう気づいています」
それはそうだろうと思った。あの女は、家の中の温度が一度変わると、だいたい先に気づく。
食堂へ入ると、父はすでに席についていた。ドズルはまだ来ていない。ガルマはいつもより静かで、キシリアは静かすぎた。そして父の頭頂部には、昨夜のうちにもう一度グレイトグロウが塗布された気配があった。希望というのは、危機の翌朝ほど補充したくなるものらしい。
「遅いな」と父が言った。
「書類を見ていました」
「便利な返事だ」
「実際に便利です」
父は新聞の代わりに報告書を折りたたみ、私を見た。その目は、すでに知っている目だった。完全ではないにせよ、朝の時点で相当のところまで察している。
「子どもたちが見当たらんそうだな」と父は言った。
ガルマが顔を上げ、ドズルがちょうどそのタイミングで入ってきて、足を止めた。キシリアだけがパンにバターを塗っていた。その手つきがやけに丁寧で、私は嫌な予感がした。丁寧な手つきのキシリアは、だいたい人を追い詰める。
「そうです」と私は言った。
父は短く息を吐いた。
「説明しろ」
私は席につかず、そのまま立っていた。こういう話は、座って始めると長くなる。
「昨夜、港湾側の監視記録から二名の小柄な影が消えています。偽装は花屋の搬送。補助はクラブ・エデン側。ルートの整備には港湾実務者が関与。ジンバ・ラルは別ルートへ流され、同行していません」
ドズルが低く言った。
「止められなかったのか」
「止めることはできた」と私は答えた。
「じゃあ、なぜ」
その問いはまっすぐだった。ドズルの問いはいつもまっすぐだ。だから時々いちばん厄介だ。
「大声を出すな」と父が言った。「まだ何も決まっておらん」
「決まってるだろう」とドズルは言った。「逃げられたんだ」
「違う」とキシリアが言った。「兄上は逃がしたのよ」
食堂の空気が一度止まった。ガルマが驚いてキシリアを見た。ドズルは私を見た。父は表情を動かさなかった。つまり、父も同じ疑いを持っていたということだ。
「そうか」と父が言った。「その方が早いな。ギレン、どうだ」
私は父を見た。こういう時、嘘はだいたい無駄だ。家族は証拠より、顔で判断する。
「半分はその通りです」と私は言った。
ガルマが息を呑んだ。ドズルは顔をしかめた。キシリアは笑わなかったが、満足そうではあった。
「半分?」と父。
「止め切らなかった。ただし、全面的に見送ったわけでもない。私は、ここに閉じ込める方が将来高くつくと判断しました」
ドズルが言った。
「将来って何だ」
「神話だ」と私は言った。「檻の中の遺児は、いずれ誰かの旗になる。丁重に扱えば扱うほど、美しく育つ。私はそれを避けた」
「外へ出したら、もっと危ないだろう」とドズル。
「そうだ」
「じゃあ何だそれは」
「選んだ失敗だ」
ドズルは私をしばらく睨んでいたが、やがて椅子へ乱暴に腰を下ろした。彼は理解しきれない時、まず座る。立ったままだと殴りたくなるからだろう。悪くない習慣だ。
父は指先でテーブルを一度だけ叩いた。
「捜索はどうする」
そこが本題だった。
「公には大きくしません」と私は言った。「アストライア夫人の意向で、子どもたちは静養先へ移された。移送先は非公開。そう扱います」
「それで通るか」と父。
「通します」
「追跡は」
「水面下で最低限。ただし、連れ戻しを目的にはしません。所在確認と、誰の手に渡るかだけを見る」
キシリアがそこで初めて口を開いた。
「兄上、ずいぶん綺麗にまとめるのね」
「まとめなければ汚く広がる」
「追わないの?」
「追う。だが捕まえるためではない」
彼女はそこで、やっと少し笑った。「気に入らないけど、嫌いじゃないわ」
それは最悪に近い褒め言葉だった。
ガルマが小さく言った。
「アストライア夫人は……知っていたのかな」
誰もすぐには答えなかった。そういう時、たいてい答えたくない者ほど答える。
「知っていたでしょうね」とキシリアが言った。「全部ではなくても」
私はそれに反論しなかった。昨夜のアストライアの言葉を思い出していた。残ることでしか守れないこともあります。あれは、そういう意味だったのだ。
父はしばらく黙っていた。それから言った。
「よろしい。ならば騒ぐな。騒げば、こちらが神話を作る」
私は少しだけ驚いた。父は時々、こちらが最も言ってほしくない時に、最も正しいことを言う。
「ただし」と父は続けた。「カーンには伝えておけ。議会の外側で余計な物語を作らせるな」
「承知しました」
「あと」
父はそこで自分の頭に手をやった。無意識の仕草だった。だが、あの瞬間だけは、国家も遺児も育毛剤も、同じくらい彼の頭の中に並んでいる気がした。
「ガルマ」
「はい」
「お前は今日は何も言うな」
「わかりました」
その返事は素直だった。だがガルマは、言わないと決めた時ほど顔に出る。それもまた善意の一種だった。
食堂を出ると、キシリアが並んできた。
「兄上」
「何だ」
「昨日のうちに、どこまで読んでたの」
「七割くらいだ」
「じゃあ残り三割は、本当に失敗ね」
「そうなる」
彼女は満足そうでも不満そうでもない顔で歩いた。要するに、珍しく少しだけ本気で考えている時の顔だった。
「アストライアは残る」とキシリアが言った。
「そうだろうな」
「母親って面倒」
「お前が言うと怖いな」
「褒めてるのよ。残ることで子どもを守るなんて、私にはあまり思いつかないもの」
私はそれに返事をしなかった。返せば余計な方向へ会話が伸びる。
執務室へ戻ると、セシリアとアサクラがすでに動いていた。
セシリアは新しい公式文面の草案を作っていた。「静養」「移動」「安全配慮」「関係各位への非公開要請」。たいへん綺麗な言葉ばかりで、読んでいると逆に罪悪感が湧いてくる。有能な秘書の文章は、時に人間の恥を薄く伸ばしてくれる。
アサクラは追跡の線を別紙へまとめていた。
「閣下」と彼は言った。「捕捉目的でないのであれば、監視線を三層に分けるべきかと」
「言え」
「第一層は港湾。第二層は民間搬送。第三層は、旧ダイクン派と無関係に見える民生ルートです」
「なぜ第三層だ」
「本当に逃がしたい時、人は政治色のない道を好みます。花屋や医療搬送が典型です」
「ずいぶん詳しいな」
「実務であります」
「お前の実務は時々嫌に具体的だ」
「ありがとうございます」
「褒めていない」
「承知であります」
私は紙を見た。整っていた。小さい。だが整っている。だから嫌だ。だから使う。
「一つだけ確認だ」と私は言った。「もし所在が掴めても、先走るな。回収班みたいなものを勝手に組むな」
アサクラは顔を上げた。
「そこまで信用がありませんか」
「絶対にない」
彼は少し考えてからうなずいた。「それは、たいへん健全な評価かと」
「お前のそういうところが腹立たしい」
「恐縮であります」
セシリアが草案を一枚差し出した。
「これで外向きは通せます」
「読ませろ」
私は文面を読み、二箇所だけ直した。「保護」ではなく「配慮」。「移送」ではなく「移動」。言葉の温度は大事だ。あまり厚く塗ると、かえって下の傷が見える。
昼過ぎ、マハラジャ・カーンから短い返書が来た。
承知した。騒がぬことが今の政治に資する。ただし、騒がぬことと忘れることは違う。
その文は、彼らしかった。大人の書いた文だと思った。忘れない。だが今は騒がない。そういう人間が政治の場に一人いるだけで、国は少し持つ。
夕方、ランバ・ラルが再び来た。
今日は報告だけだろうと思ったが、彼は立ったまま言った。
「礼は言わん」
私は顔を上げた。「何のだ」
「昨夜のことだ」
「言われる筋合いはない」
「そうだ」
それだけだった。私は少し黙ってから言った。
「ジンバは」
「怒っている。だが、今は手が届かん」
「追うか」
「追わん」
「そうか」
「子どもたちは出た。それでいいとは思わん。だが、昨夜ここで止められるよりはましだったかもしれん」
私はそれを聞いて、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。この男は簡単にこちらへ寄らない。だからこそ、その言葉には値段がつく。
「ランバ」と私は言った。「今後もお前を完全には信用しない」
「それでいい」
「だが現場は任せる。お前が現場で筋を通す限りはな」
彼は短くうなずいた。「承知した」
それで会話は終わった。短く、乾いていて、必要なものだけが残る。ランバ・ラルはやはりこうでなければいけない。
夜、私はダイクン家の住まいへ行った。
アストライアは、昨夜と同じ窓辺にいた。それだけで、私はこの人がすべてを知っていたわけではないにせよ、最後の瞬間には知ったのだと思った。
「二人は出ました」と私は言った。
「そうでしょうね」と彼女は答えた。
「驚かないのですか」
「母親ですもの」
その言い方は穏やかで、少しだけ疲れていた。
「止めなかったのですね」と彼女は言った。
私は少し考えてから答えた。「止め切りませんでした」
「その違いを、あなたは大切にするのですね」
「時々」
「子どもにはわかりませんよ」
「知っています」
彼女はしばらく黙った。それから、小さく言った。
「でも、いつかはわかるかもしれません」
私は返事をしなかった。いつか。そういう言葉は、政治家には向かない。だが母親にはよく似合う。
自室へ戻る前に、私は机のメモへ一行足した。
神話は、追えば育つ。
その下に、さらに一行。
残る母親は、去る子どもより強い。
書いてから、私はしばらくその字を見ていた。字はいつも、自分が思っているより正直だ。疲れている時ほどなおさらだ。
窓の外では、サイド3の人工夜が静かに回っていた。まだ公国ではない。まだ独立もしていない。それでもすでに、未来の敵は外へ出て、母は残り、家の中にはグレイトグロウの匂いが残っている。
国家というものは、たぶんそのくらい不格好な材料でできるのだろうと思った。