妹に撃たれない方法   作:Brooks

139 / 226
いや、CHARGPTにア・バオア・クーとアクシズ落としとラプラス事変調べてもらってオチにしてもらいました。
ビックリですよ


第139話 帰れる場所

湖の水面は、昼だというのにほとんど揺れていなかった。

 

窓の外に広がるそれを、アムロはぼんやりと見ていた。

 

何度も来ている場所だ。ララァのいるこの家にも、もう慣れたはずだった。来るたびに少しだけ楽になる。頭の奥で引っかかっていたものが、少しだけ形を持つ。

 

そう思っていた。

 

ララァが湯のみを差し出す。

 

「どうぞ」

 

アムロは受け取る。指先が触れた。

 

その温度は、ほんの一瞬だった。

 

けれど、その一瞬で足りた。

 

ララァが静かに言う。

 

「あなたは、まだ帰っていないのね」

 

アムロの視界が揺れた。

 

言葉の意味を考える前に、何かが内側で割れる。

 

帰っていない。

 

どこへ。

 

考えようとした瞬間、順番が崩れた。

 

光。

 

押し返す感覚。

 

白。

 

その次が、来る。

 

来てはいけないものが来る。

 

頭の奥が引き裂かれるように開いて、つながってしまう。

 

「……っ」

 

アムロは椅子の背に手をついた。立っていられない。

 

今までとは違う。

 

断片じゃない。

 

つながる。

 

止まらない。

 

――――――

 

光のあと、終わりじゃなかった。

 

終われなかった。

 

落ちた。

 

音が消えて、意識が歪んで、自分の名前が分からなくなる。

 

何も思い出せない。

 

ただ、体だけが残っている。

 

知らない天井。

 

知らない人間。

 

言葉をかけられても意味が分からない。

 

食べさせられて、寝かされて、歩かされる。

 

「大丈夫だ」

 

何が。

 

何も分からない。

 

そこは明るくなかった。

 

暗い通路。

 

色の悪い灯り。

 

同じ区画。

 

同じ音。

 

外へ出るという発想が、最初からない。

 

閉じている。

 

ずっと。

 

時々、夢を見る。

 

白い機体。

 

誰かの声。

 

届かない距離。

 

だが、目を覚ますと消える。

 

何も残らない。

 

ただ、焦りだけが残る。

 

急がなければいけない気がする。

 

何を。

 

分からない。

 

そのまま時間が過ぎる。

 

何年かも分からない。

 

誰のところへ行けばよかったのかも、思い出せない。

 

それでも、胸の奥にだけ、会わなければならない誰かがいた。

 

名前も顔も思い出せないのに、その不在だけが痛かった。

 

そうして終わる。

 

壊れたまま。

 

何も取り戻さないまま。

 

誰にも届かないまま。

 

――――――

 

アムロは息を吐いた。

 

吐いたつもりで、うまく吐けていなかった。

 

視界が戻る。

 

ララァの部屋。

 

湖。

 

目の前にいるララァ。

 

その横に、エドワウ。

 

アムロの視線が、ゆっくりと動く。

 

エドワウで止まる。

 

違う。

 

違わない。

 

同じだ。

 

あの時、向こう側にいた男。

 

アクシズの向こうで、最後に向き合った相手。

 

シャア。

 

喉の奥から、言葉が出る。

 

抑えられない。

 

「……お前」

 

エドワウは動かない。

 

「お前がやったことは何だ」

 

声は低い。

 

だが、押し殺したものがそのまま乗っている。

 

「地球を巻き込んで」

 

「人を巻き込んで」

 

一歩、近づく。

 

「そのあと、僕がどうなったと思ってる」

 

エドワウは答えない。

 

アムロの声が、そこで初めてはっきり震えた。

 

「終われなかった」

 

「終われなかったんだよ」

 

「壊れたまま、生き残った」

 

「知らない場所で」

 

「何も分からないまま」

 

「誰のところにも帰れないまま」

 

言葉が途切れる。

 

息が乱れる。

 

それでも続ける。

 

「……あれが、お前の行き着いた先か」

 

部屋の空気が固まる。

 

エドワウは、そこでようやく口を開く。

 

短く。

 

「そうだ」

 

それだけだった。

 

否定しない。

 

言い訳もしない。

 

「だから潰している」

 

少し間を置いて、

 

「今度は、そこへ行かせないためだ」

 

アムロは睨む。

 

「それで済むと思うなよ」

 

当然だった。

 

許す理由はない。

 

ここで終わる話ではない。

 

その張り詰めた空気の中に、ララァの声が落ちる。

 

――――――

 

「あなたは迷いに負けたのです」

 

ララァはエドワウを見ていた。

 

その声は静かだった。

 

だが逃がさない。

 

「あなたは選べた」

 

「違う方へ行けた」

 

「でも行かなかった」

 

「私がいなかったから」

 

エドワウは視線を逸らさない。

 

ララァは続ける。

 

「あなたは絶望の置き場を失った」

 

「だから、連邦ではなく、地球そのものを憎んだ」

 

そこまで言ってから、今度はアムロへ向く。

 

「あなたも未熟でした」

 

アムロの体が止まる。

 

ララァは同じ調子で言う。

 

「あなたは軍人になるべき人ではなかった」

 

「それでも続けた」

 

「帰るべき時に帰らなかった」

 

アムロの呼吸が詰まる。

 

ララァは、少しだけ目を伏せた。

 

責めるためではない。

 

悲しむような仕草だった。

 

「あなたには、帰れる場所があった」

 

一歩、近づく。

 

「あなたは、帰って来られたのに」

 

その言葉が、怒りより深いところへ落ちる。

 

ララァは続けた。

 

「私は、待っていられたのに」

 

アムロの目が揺れる。

 

「私のところへ、いつでも会いに来られた」

 

「なのに来なかった」

 

声は責めていない。

 

責めていないのに、逃げ場がない。

 

ララァはさらに言う。

 

「最後には、私があなたを呼ぶしかなかった」

 

その言葉で、アムロの中の何かが崩れる。

 

――――――

 

ラプラス事変。

 

極限の圧力。

 

意識の限界。

 

その中で、自分は何かに引かれた。

 

引き上げられた。

 

呼ばれた。

 

自分から行ったのではない。

 

ララァが、呼んだ。

 

壊れきる前に。

 

引き戻した。

 

それは救いだった。

 

けれど同時に、自分は最後まで、自分からは帰らなかったという証でもあった。

 

――――――

 

アムロはその場に立っていられなくなった。

 

視線が落ちる。

 

言葉が出ない。

 

やがて、かすれるように言う。

 

「……あったんだ」

 

それだけで、喉が詰まる。

 

「まだ……なくなってなかったんだ」

 

少し間。

 

「帰れる場所が」

 

静寂。

 

アムロの肩が小さく震える。

 

「君のところに……行けたんだ」

 

「行けたのに」

 

呼吸が乱れる。

 

「僕は、行かなかった」

 

声がそこで切れる。

 

もう一度、言い直す。

 

「戦いの方へ残った」

 

「君の方へ行かなかった」

 

「最後まで……自分では行けなかった」

 

目の奥が熱くなる。

 

「君の方が、僕を見つけた」

 

その一言で、とうとう立ちきれなくなる。

 

怒りだけでは立っていられない。

 

自分にも、責任があったからだ。

 

本当は帰れた。

 

本当は会いに行けた。

 

それをしなかったのは自分だ。

 

その事実が、シャアへの怒りよりも遅れて、もっと深く刺さってくる。

 

――――――

 

しばらくの沈黙のあと、エドワウが言う。

 

「怒りは消さなくていい」

 

アムロが顔を上げる。

 

「消えない」

 

エドワウは続ける。

 

「それでも、お前はまだ間に合う」

 

短く。

 

「今度はそこへ行くな」

 

少し間を置いて、

 

「帰れる方を選べ」

 

その言葉に、アムロは何も返さない。

 

だが、理解はした。

 

怒りは消えない。

 

消す必要もない。

 

だが、その怒りで同じ場所へ行く必要はない。

 

帰れる場所を、自分の手でまた失う必要はない。

 

――――――

 

アムロはエドワウを見る。

 

「前のお前は許さない」

 

はっきり言う。

 

「アクシズも、その後の僕も消えない」

 

エドワウは何も言わない。

 

アムロは続ける。

 

「でも今度は」

 

一度、息を吸う。

 

「僕も、お前も、そこへ行かせない」

 

それが答えだった。

 

許しではない。

 

なかったことにもしない。

 

怒りを持ったまま、それでも同じ終わりへは行かない。

 

そのための答えだった。

 

――――――

 

ララァの方へ向く。

 

少しだけ距離を詰める。

 

今度は逃げない。

 

「今度は、会いに来る」

 

静かな声だった。

 

呼ばれるのではない。

 

失ってからではない。

 

自分から行く。

 

ララァはそれを見て、微笑む。

 

待っていた人の顔だった。

 

「はい」

 

それだけで十分だった。

 

――――――

 

湖の水面が、わずかに揺れる。

 

アムロの中で、ばらばらだったものが、ようやく一つの形になる。

 

戻っていたのは、壊れたあとの自分が最後まで手放さなかったものだった。

 

怒りも、痛みも、帰れなかった時間も、全部消えない。

 

それでも今度は違う。

 

呼ばれるまで壊れきるのではなく、自分で会いに行く。

 

失ってから悔やむのではなく、失う前に帰る。

 

その選択だけは、もう間違えない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。