妹に撃たれない方法   作:Brooks

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第14話 空いた椅子の使い方

 

人がいなくなると、部屋はその人の形にへこむ。

 

それは家具の話ではない。空気の話だ。人間は椅子に体重を残すだけではなく、会話の順番や視線の置き場や、誰が何を言ってはいけないかという種類の見えない窪みまで残していく。キャスバルとアルテイシアが出ていった翌朝、私はそのことを改めて知った。

 

朝食の食堂は静かだった。静かというより、音がうまく居場所を見つけられないような静けさだった。ドズルは新聞を読んでいるふりをしていたし、ガルマはパンをちぎる速さがいつもより遅かった。キシリアはカップの縁を見ていた。あの女が誰かの目を見ないときは、だいたいその誰かについて考えている。

 

父はいつもの席にいた。いつもの席にいたが、いつもより頭頂部の周辺にだけ微妙な意志の気配があった。昨夜のうちにグレイトグロウを増量したらしい。政治的危機の翌朝に育毛剤の塗布量が増えるというのは、世界がどれだけ不穏でも人間は人間であることの証明みたいなものだった。

 

「報告は聞いた」と父が言った。

 

「はい」

 

「静かなものだな」

 

「騒いだ方が不利です」

 

父はうなずいた。最近の彼は、私の答えがあまりに冷たい時だけ少し嬉しそうに見えることがある。たぶん前世の私に近い成分を嗅いで安心するのだろう。困った趣味だと思う。

 

ドズルが言った。

 

「兄貴、結局どうするんだ。探すのか、探さないのか」

 

「探す」と私は言った。「ただし捕まえるためじゃない」

 

「まだそれか」

 

「まだそれだ」

 

「俺にはよくわからん」

 

「わからなくて結構だ。お前に必要なのは理解じゃなくて、今は口を閉じていることだ」

 

ドズルは不満そうな顔をしたが黙った。

ガルマはまだ何か言いたそうだったが、父に先回りされた。

 

「お前もだ」と父は言った。

 

「はい」とガルマは答えた。

その素直さは時々、家の全員を少しだけ疲れさせる。

 

キシリアがようやくこちらを見た。

 

「兄上、昨夜の件で一つだけ良かったことがあるわ」

 

「聞きたくないな」

 

「あなたが半端に優しいという評判が、家の中で確定したことよ」

 

「それは悪評だ」

 

「ええ。でも便利な悪評でもある」

 

私はコーヒーを飲んだ。まずかった。たぶん味の問題ではない。まずい朝には、だいたい飲み物の方が合わせてくる。

 

食堂を出る前、父が私を呼び止めた。

 

「今日は評議会の前に寄れ」

 

「何の用です」

 

「国家の話だ」

 

「髪の話でないなら喜んで」

 

父は私を見た。ほんの一拍だけ沈黙があり、やがて言った。

 

「お前は最近、私に対して少し遠慮がなさすぎるな」

 

「家族ですので」

 

それを聞いたキシリアが、小さく笑った。あの女は、本当に人の火傷をよく観察する。

 

執務室へ戻ると、セシリアはすでに今日の予定表を整えていた。彼女の整えた予定表には、無駄がない。無駄がないものというのは時として息苦しいが、国家運営に関しては息苦しいくらいがちょうどいい。

 

「本日の第一議題は、港湾再編と外向き説明文の最終調整です」と彼女は言った。「第二議題は、父上との私的会談。第三議題は、マハラジャ・カーンとの非公式打ち合わせ」

 

「順当だな」

 

「順当です」

 

「順当すぎる日ほど、どこかで順当じゃないことが起きる」

 

「ですので、第四議題もあります」

 

彼女は一枚の紙を差し出した。

各サイドの有力者一覧だった。

 

私は眉を上げた。

 

「先回りが早いな」

 

「今やるべきことは、失踪した子どもたちを追い回すことではなく、子どもたちがいなくなったあとにできる空白を、誰にどう見せるかです」

 

「続けろ」

 

「サイド3だけの問題に見せると、他サイドは『内部抗争』として距離を取ります。逆に、ダイクン議長の死後の統治安定をスペースノイド全体の課題として見せれば、少なくとも表向きの敵意は下がります」

 

私はその紙を見た。サイド1、サイド2、サイド4、月面、交易商社、港湾管理、若手実務者、資本側の橋渡し役。名前の並びがまだ粗い。だが方向は正しい。

 

「誰の案だ」

 

「八割は私です」

 

「残り二割は」

 

「アサクラさんです」

 

私は思わず天井を見た。

小さい男は、時々こういう時だけ有益だ。だから嫌いだ。

 

ちょうどそのタイミングで、本人が入ってきた。

 

「閣下」とアサクラは言った。「昨日ご命令いただいた、口頭指示だけで動く人間の洗い出しですが」

 

「多かったか」

 

「思った以上に」

 

「嫌になるな」

 

「はい。実務としては大変健全な嫌さであります」

 

「その表現が嫌だ」

 

「恐縮であります」

 

彼は紙束を机に置いた。分類が細かい。港湾、整備、搬送、保全部、私的便宜、夜間通行。さらにその下に、「金で動く者」「恩で動く者」「空気で動く者」と欄が分かれている。

 

「最後のは何だ」と私は訊いた。

 

「空気で動く者です」とアサクラは答えた。「誰かが『これは上の意向らしい』と一度言うだけで、自分で確認せずに動く者たちです」

 

「いちばん厄介だな」

 

「数も一番多いです」

 

私は紙を閉じた。

国というものは、結局そういう者たちで動く。大義でも信念でもなく、空気で動く人間の総和が、後で歴史と呼ばれる。気に入らないが、否定はできない。

 

「追跡線は」と私は言った。

 

「民生ルートを中心に残しています。花屋、医療搬送、食材便。捕捉は可能ですが、無理に触ればこちらの方が汚く見えます」

 

「見え方を気にするようになったか」

 

「閣下の近くにおりますので」

 

「小さいな」

 

「身の丈に合っております」

 

私はそれ以上何も言わなかった。こいつに長く話をさせると、得るものと同じだけ疲れる。

 

午前の終わりに、父との会談があった。

場所は私室寄りの小会議室だった。妙に照明が柔らかい。誰かが「家族の相談」という雰囲気を出したかったのだろう。こういう部屋ほど、たいてい最も家族的でない話をする。

 

父は一枚の地図を広げていた。サイド3周辺と、主要搬送線、それに月面航路の簡略図。彼は私が入ると、その地図の端を指で押さえた。

 

「ギレン」と父は言った。「お前は公国をどう作るつもりだ」

 

私は椅子に座らず、立ったまま答えた。

 

「独裁では作りません」

 

「理想論か」

 

「失敗談です」

 

父は少しだけ笑った。

それから、わざとらしくない仕草で一度だけ頭に触れた。グレイトグロウはここ数日で家の中の新しい句読点になりつつある。

 

「続けろ」

 

「今のままザビ家が前に出すぎれば、他サイドはサイド3の独立ではなく、ザビ家の私有化だと見ます。そうなると、ダイクン派だけでなく他サイドの穏健派も敵になる」

 

「だから議会を残すか」

 

「残します。残したうえで、機能を再配置する。議会は残す。行政は強化する。防衛と外交の統合権限は別枠で持つ。だが名目としては、スペースノイドの共同安定機構に見せる」

 

父は私を黙って見ていた。

年老いた熊のような目だった。鈍く見えて、実際にはかなり速い。

 

「ザビ家独裁の方が速い」と父は言った。

 

「知っています」

 

「ではなぜ回り道をする」

 

「速い国家は、だいたい後で壊れるのも速い。私はそこを知っている」

 

父はうなずき、地図の月面側を指でなぞった。

 

「月はどうする」

 

「今すぐ取り込みにはいきません。資本と輸送だけを先に結ぶ」

 

「アクシズは」

 

「まだ早い」

 

父はその答えに満足したようだった。

少なくとも、今の私が興奮していないことには満足したらしい。

前世の私は、たぶんこういう話をするとき、もっと速くて硬かった。

 

「よろしい」と父は言った。「なら、顔を作れ」

 

「顔?」

 

「ザビ家だけではない顔だ。

ダイクン派を消しきらず、他サイドとも話ができ、しかもこちらに敵対しない顔。

お前一人では足りん」

 

「マハラジャ・カーンですね」

 

「そうだ。

それと、もっと若い橋もいる」

 

私はその言葉を聞いて、少しだけ興味を持った。父が誰かを名前でなく“橋”と呼ぶ時は、本気で使う気がある時だ。

 

「候補は」

 

「ケラーネ家だ」と父は言った。

 

私は目を細めた。

ユーリ・ケラーネ。

遠縁。

サハリン家との古い縁。

そして、人に近づくのがうまい男。

 

「悪くない」と私は言った。

 

「悪くない、で済ますな。

会え。

今すぐではなく、自然な形でだ」

 

「自然な形は、たいてい後ろで誰かが不自然に作るものです」

 

「その役目はお前の秘書がやるだろう」

 

私は少し笑った。

父はやはり父だった。

見ていないふりをしながら、必要なことはだいたい見ている。

 

午後、マハラジャ・カーンが来た。

今日は会議ではなく、もっと短い打ち合わせだった。彼は昨日と同じく落ち着いていた。こういう人間を見ていると、落ち着きとは技術なのだと思う。生まれつきの性格ではない。

 

「子どもたちの件、文面を見ました」と彼は言った。

 

「問題は」

 

「きれいすぎます」

 

「そうでしょうね」

 

「だが、今はそれでいい。

政治は時々、真実より先に体裁を整えないと人が死ぬ」

 

私はその言い方が好きだった。

好きだが、信じすぎない方がいいとも思った。

 

「カーン殿」と私は言った。「他サイドとの共同安定会議のようなものを考えています」

 

「名目は」

 

「物流、防災、治安、教育交流」

 

「本音は」

 

「決起の時に敵を減らす」

 

彼は少しだけ笑った。

 

「若いのに、あまり若くない本音ですな」

 

「若い頃の失敗が長引くこともあります」

 

「便利な言い方です」

 

「そちらも同じでしょう」

 

マハラジャは窓の外を見た。

人工午後の光が、彼の横顔をわずかに薄くした。

 

「サイド3は、ダイクンの死で一度空いた」と彼は言った。「今は誰もが、その空白をどう埋めるかを見ている。

ザビ家だけで埋めれば、他は反発する。

放置すれば、神話が埋める。

だから“共同”という言葉は必要でしょう」

 

「だが共同だけでは国家にならない」

 

「ええ。だから、裏の骨も必要です」

 

「誰がその骨になると思いますか」

 

彼は私を見た。

「それを私に言わせますか」

 

「言葉にしていただけると助かる」

 

「あなたです」とマハラジャは言った。

「ただし、前に出すぎない形で」

 

私は少しだけ嫌な気分になった。

当たり前だ。こういう言葉は、嬉しい時ほど危ない。

 

「他には」と私は訊いた。

 

「若い橋を」と彼は言った。「古い大人だけでは回らない。

ケラーネ家のユーリは使えるでしょう。

家柄の割に、あれは人に近づくのがうまい」

 

「サハリン家との線もありますね」

 

「あります。

ただし、サハリンは今、扱いが難しい。

名家の看板はまだ使えるが、中身はもうかなり傷んでいる」

 

ギニアス・サハリンの顔を私は知らない。

だが、知っている未来はある。

だからこそ、今の「まだ傷んでいる途中」という言葉は重かった。

 

「直接触るより、橋を挟めと」

 

「ええ」とマハラジャ。「今はまだ」

 

会談は短く終わった。

長引かせる必要はなかったし、長引かせると互いに余計なことを言う。大人の会談は、足りないくらいでやめるのがちょうどいい。

 

夕方前、ランバ・ラルが来た。

 

「報告する」と彼は言った。

 

「言え」

 

「ジンバ様は消えた。

見失ったというより、自分で消えた」

 

「そうか」

 

「追うなら追える。

だが深追いは勧めん」

 

私は彼を見た。

いつも通り、短く、硬い。

それでいい。

 

「追わない」と私は言った。「今はな」

 

「了解した」

 

「ランバ」

 

「何だ」

 

「お前はしばらく表に出るな。

子どもたちの件で、お前まで物語に入ると面倒だ」

 

彼は眉一つ動かさなかった。

 

「命令なら従う」

 

「助かる」

 

「助けるつもりはない」

 

「知っている」

 

そこだけは、少しだけ口元が動いたように見えた。

気のせいかもしれない。

この男に関しては、そのくらいでいい。

 

日が落ちる頃、セシリアがもう一人の女性を伴って入ってきた。

背は高くない。顔立ちは派手ではないが、目がよく働く。官僚の目だ。机と人と出口を一度に見る種類の目。

 

「情報局からの一時補佐です」とセシリアが言った。「シンシア。記録と照会の扱いに長けています」

 

女は一礼した。

 

「シンシアです」

 

「今はまだ情報局所属か」と私は訊いた。

 

「はい」

 

「それでいい」

 

彼女は少しだけ意外そうな顔をした。

たいていの権力者は、使えそうな官僚を見るとすぐ手元に引きたがる。

だが、私はその手の欲張りが後でどういう面倒を呼ぶかを知っている。

 

「必要なのは今、囲うことではなく線を知ることだ」と私は言った。

 

シンシアはそれ以上訊かなかった。

これもよかった。

優秀な官僚というのは、時々好奇心を飲み込める。

 

アサクラがその後ろで、ほんのわずかに嫌そうな気配を出した。

同業のにおいが気に入らないのだろう。

私は少しだけ愉快になった。

 

「アサクラ」と私は言った。

 

「はい」

 

「お前は彼女に仕事を取られるとでも思っているのか」

 

「まさか」と彼は答えた。「私は常に上位の意向で動く末席であります」

 

「小さいな」

 

「身の丈であります」

 

シンシアはそのやり取りを無表情で聞いていた。

この女も悪くない。

悪くないということは、たぶん後で面倒だ。

 

夜、執務室に一人になると、私は机のメモを読み返した。

 

善意には護衛をつけろ。

感じのいい人間ほど、荷物と肩書きを先に調べろ。

アサクラは机の近くに置け。壁の中に入れるな。

風向きで動かぬ男は、風向きを変える。

檻が美しいほど、鳥は飛びたがる。

神話は、追えば育つ。

残る母親は、去る子どもより強い。

 

そこへ、今日の分を足した。

 

国家は、空いた椅子の使い方で決まる。

 

書いてから、しばらくその字を見ていた。

キャスバルの椅子はもうない。

アルテイシアの足はもう床を蹴らない。

だが、その空席は消えない。

空席は、埋めようとするとかえって目立つ。

ならば使うしかない。

空席として残し、その不在をどう説明するかで国の形を作る。

 

窓の外では、サイド3の人工夜がゆっくり朝へ向かっていた。

まだ公国ではない。

まだ独立もしていない。

そのくせ、逃げた子どもたちの不在を組み込むことで、国家の骨組みだけは先に固まりつつある。

 

不格好だと思った。

だが不格好であることは、時として生き残る条件でもある。

美しく閉じたものほど、壊れる時は一気だ。

私はもう、それを知っていた。

 

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