見舞いというものは、だいたい二種類ある。
本当に相手の体を案じて行く見舞いと、自分の都合を礼儀紙で包んで持っていく見舞いだ。後者の方が花が立派で、果物の籠も大きい。しかも持って行く本人は、たいてい自分を前者のつもりで扱う。政治家の見舞いはほとんど例外なく後者である。私はそのことをよく知っていたし、知っている以上、せめて籠の編み目くらいは丁寧にしておくべきだと思っていた。
その朝、私の机の上には本物の果物籠こそなかったが、それにかなり近い書類の束が載っていた。サハリン家への見舞いと接触、その双方を兼ねた訪問計画書である。紙の上で見ると、気味が悪いほど礼儀正しかった。
健康配慮。名家への敬意。旧知の家門との連絡再開。若手有望株への将来支援。
言い換えれば、病んだ家に手を差し込み、傷の深さを測り、将来こちらへ引き込めるものがあるかを見る。ずいぶん嫌な仕事だと思ったが、国家というものは嫌な仕事の積み上げでしかできない。きれいな国家はたいてい物語の中にしか存在しない。
食堂に入ると、父はすでに席にいた。
そして、頭頂部の周辺には今日もまた、わずかながら希望の光沢があった。グレイトグロウ。最近、あれは毛髪よりも先に家族の会話を支配し始めている。誰も明言しないが、全員が意識している。国家の中枢が微妙な頭頂部を抱えているというのは、不安と言えば不安だが、人間味と言えば人間味でもある。
「今日はサハリンか」と父が言った。
「はい」
「若いのを見に行くのか、古い名家を見に行くのか」
「両方です」
父はうなずいた。
そのとき、無意識を装って一度だけ頭へ手をやった。最近の父は、本当に無意識と演出の境目が曖昧だ。
「ギニアスは年若い」と父が言った。「だが、若いから扱いやすいとは思うな」
「思っていません」
「よろしい」
ガルマが慎重にパンを置いた。
「サハリン家って、そんなに重要なんですか」
「今すぐは、そうでもない」と私は言った。「だが、こういう時期に傷んだ名家がどう倒れるかは、後でかなり効く」
「家が倒れるとか、そういう言い方を朝からするのね」とキシリアが言った。
「お前は朝から父上の頭頂部を見ているじゃないか」
「失礼ね。見てないわ」
「見ていない人間は、そういう速度でバターを塗らない」
キシリアは少し笑った。
ドズルは卵を切りながら、ふんと鼻を鳴らした。
「見舞いなら見舞いで行けばいい」とドズルは言った。「そんなにややこしく考える必要があるのか」
「お前は本当に幸福だな」と私は言った。
「うるさい。俺はただ、病んでる家に行くなら、病人の前で計算するなって言ってるんだ」
私はそこで、少しだけドズルを見直した。
この男は言葉を磨かない。だが時々、磨かないまま正しいところへ置く。
「計算はする」と私は言った。「ただし、見せない」
「同じじゃないだろ」
「ほとんど同じだ」
「兄貴は嫌な奴だな」
「知っている」
会話はそこで切れた。
父は何も言わなかったが、少しだけ満足そうだった。たぶんザビ家の長男と次男が朝から品よく仲違いしていることが、どこか健全に見えたのだろう。
執務室へ戻ると、セシリアが先に立っていた。
今日はいつもより明るい色の紙を使っていた。見舞い関係の外向き書類は、色が少し柔らかい方がいいらしい。官僚の美意識というのはよくわからないが、時々実務に勝つ。
「同行は私とアサクラさん、それからシンシアです」とセシリアが言った。
「ユーリは現地で合流か」
「はい。表向きは偶然居合わせる形です」
「便利だな、偶然は」
「かなり」
アサクラが紙束を持って入ってきた。
相変わらずよく整った口髭である。国家が傾いても、この男の髭だけはきっと水平を保つのだろうと思うと、少しだけ腹が立つ。
「閣下」と彼は言った。「見舞い品ですが」
「手配したのか」
「はい。果物は月面産を避け、サイド3産のものを中心に。あまり高価すぎると買収に見えますので、控えめな格でまとめました」
「よくそんなことを思いつくな」
「思いつくというより、古い家への礼は安すぎても高すぎても嫌われます」
「お前は本当に、嫌なところだけ詳しい」
「実務であります」
私は紙を受け取り、ざっと見た。
果物。花。保存のきく菓子。薬効のある茶葉。
完璧に腹が立つ。
こういう男は絶対に信用してはいけないが、こういう男がいないと古い名家への接触が妙に生々しくなるのも事実だった。
「シンシアは」と私は訊いた。
「すでに待機しています」とセシリア。
「情報局側の古い照会記録を持ってきています」
シンシアはほどなく入ってきた。
きょうは昨日よりも明らかにユーリ側の空気をまとっていた。人間は不思議なもので、所属先が変わる前から立ち方だけは変わる。情報局の補助官としての硬さは残っているが、その表面にもう一枚、私的な忠実さの膜がかかっている。
「シンシアです」と彼女は言った。
「昨日ぶりだな」
「はい。昨日より、今日は少しだけ私的です」
「それは良くない」
「良くないことほど、後で強く働きます」
私は彼女を見た。
セシリアは静かな有能さで私の背後を固める。
シンシアはもう少し湿り気がある。情のある官僚は便利だが、便利だからこそ、線を見誤ると面倒だ。
「今日は記録だけしていろ」と私は言った。「余計な助言はするな」
「承知しました」と彼女は言った。
だが、その返事には「必要ならします」という音が少しだけ混ざっていた。
サハリン家の屋敷は、古い家特有の衰え方をしていた。
外壁はまだ見栄えを保っている。門も立派だ。紋章も磨かれている。だが近づくとわかる。磨かれているのは見える範囲だけで、石の継ぎ目に疲れが溜まり、庭の手入れに微妙な手抜かりがあり、窓の下の金具に新しい修理跡がある。名家というものは、完全に崩れるより先に、まず維持の比率が崩れる。正面だけは守り、裏手から傷む。
車を降りると、ユーリ・ケラーネが玄関前の階段で待っていた。
陽に当たると、この男の軽さは少しだけ薄く見える。室内や会食では滑らかに見える人間でも、外光の下では案外表面の薄さがわかることがある。だが、薄いから悪いわけではない。橋は、重厚な石橋だけではない。軽くてもしなるものの方が長く保つこともある。
「ギレン殿」とユーリは言った。
「待たせたか」
「待つのは得意です。来ない人を待つよりずっと楽ですから」
「橋らしい返事だな」
「橋と呼ばれるのは嫌いではありません」
「私は嫌いだ」
「でしょうね」と彼は笑った。「渡る人はたいてい、橋を好きになりません」
その後ろで、シンシアがほんのわずかに咳払いをした。
たぶん笑いを飲み込んだのだろう。
私はそれを見て、やはりこの二人はすでに一組なのだと思った。公的な辞令などより先に、人間の方が勝手に組になってしまうことがある。
屋敷の中へ通されると、空気が少し薬臭かった。
宇宙線障害の治療薬と消毒液、それに古い木の匂い。
私はその匂いを嗅いだ瞬間、ああ、ここは本当に「見舞い」が必要な家なのだと思った。もちろん、だからといって私の見舞いが急に純粋になるわけではないが、少なくとも事実としての病はそこにある。
応接室の調度は立派だった。
立派だが、一つ二つだけ新しい椅子が混じっている。もともとの一式が欠けた時に、同じものを揃えられなかったのだろう。そういう細部は嫌でも目に入る。私は細部を見るのが好きではないが、見えてしまうものは仕方がない。
「ギニアス様は少し気分に波があります」とユーリが言った。
「今日は比較的良い方ですが、それでも……」
「機嫌が悪いのだろう」と私は言った。
ユーリは少しだけ笑った。
「簡潔で助かります」
「病人の機嫌はだいたい悪い。特に、頭の良い若い病人はな」
そのとき、扉が開いた。
ギニアス・サハリンは、思っていたより細かった。
年齢は若い。だが若さそのものより、若さに腹を立てている顔だった。宇宙線事故の後遺症がどの程度残っているのか、私は医学的には知らない。ただ、体のどこかに常に不快がある人間の目は、だいたい似る。彼の目はその種類だった。
「ギレン・ザビ殿」と彼は言った。
敬称はある。
歓迎はない。
そのくらいがちょうどよかった。
「ギニアス殿」と私は返した。
彼は私の持ってきた見舞い品の籠を一瞥し、その一瞥だけでかなり多くの軽蔑を表現した。才能があると思った。そういう才能は大抵、長生きには向かない。
「お見舞いですか」と彼は言った。
「形式としては」
「では本音は」
「顔を見に来た」
ギニアスはそこで、ほんの少しだけ興味を持った顔になった。
正直な答えは、時々相手の毒気を少し抜く。
「それはまた、ずいぶん礼儀正しくない」
「見舞いの時だけ礼儀正しい人間は、だいたい信用されない」
「なるほど」と彼は言った。「あなたは最初から信用されない方を選ぶんですね」
「時々な」
小さな音がして、応接室の隅にいた幼い女の子がこちらを見た。
アイナだろうと私は思った。まだ幼く、髪の一部がうまくまとまっていない。幼い子どもは、家が傾いても髪だけは自由だ。
彼女は私と目が合うと、兄の椅子の背に手を置いた。
その仕草だけで、この家が今どういう均衡で保っているかがわかる。兄が怒り、妹がそこへ触れて戻す。そういう小さなやり方で。
「妹です」とギニアスが言った。
「見ればわかる」
「なら、余計な自己紹介は不要ですね」
「助かる」
会話は滑らかではなかった。
だが滑らかにする気もなかった。こういう家では、滑らかな言葉はたいてい何かを隠して見える。
「医師は足りているか」と私は訊いた。
ギニアスは鼻で笑った。
「足りていれば、あなたが来ますか」
「足りていなくても、私が来るとは限らない」
「正直だ」
「最近よく言われる」
ユーリが横で、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
緊張が一段下がったのだろう。
たぶん彼は、私とギニアスが最初の五分で喧嘩を始める可能性を高く見積もっていた。正しい見積もりだと思う。
私は籠には触れず、テーブルの上の薬瓶を見た。
病人の部屋には本音が落ちている。薬瓶、茶碗の置き方、椅子の距離、通気の具合。私はその手の観察が好きではない。だが国家と同じで、家も弱ると隠し方が下手になる。
「サハリン家は」と私は言った。「今、誰に見舞われるのがいちばん嫌だ」
ギニアスは私をまっすぐ見た。
ユーリは少しだけ身じろぎし、シンシアは記録を取るふりで耳を立てている。
「連邦の医師団」とギニアスは言った。
「次が、可哀想だと思っている古い知人。
三番目が、善意のふりをした投資家」
「では私は何番目だ」
「まだ順位外です」
「それは光栄だ」
彼は初めて少しだけ笑った。
その笑いには好意はない。
だが、完全な拒絶よりはずっとましだ。
「率直に申し上げます」と私は言った。
「ぜひ」
「今のサハリン家に必要なのは、同情ではない。
医療と、出入りを減らさないことと、将来への回路だ」
ギニアスの目が動いた。
若い。
だが、もう十分に賢い。
「将来」という語が何を意味するかを、年齢のわりにすぐ嗅ぎ取る顔だった。
「何を差し出すつもりです」
「今すぐなら、医療と技術見学の名目。
もう少し先なら、若手の教育交流。
その先は、お前の機嫌次第だ」
ユーリが小さく咳払いをした。
やめろ、と言いたいのだろう。
わかる。だがここで綺麗に包むと、逆に壊れる気がした。
ギニアスはしばらく黙っていた。
その沈黙に、幼いアイナが飽きたのか、テーブルの上の果物籠をのぞき込んだ。小さな手が、月面産でないことにきっと何の意味も見出さず、ただ色だけを見ている。人間はそのくらいの年齢が一番健康かもしれない。
「医療」とギニアスが言った。
「技術見学」
「ええ」
「要するに、息をつなげと言っているんですね」
「近い」
「そして、つないだ息で将来こちらへ恩を返せと」
「そう読むなら賢い」
「賢い若い病人は扱いにくいでしょう」
「かなり」
彼はその返しに、少しだけ口元を動かした。
その瞬間、私は未来のいくつかの線が、この家の空気の中にうっすら見える気がした。
危うい。
だが、手遅れではない。
そういう段階なのだろう。
シンシアが初めて口を開いた。
「情報局の記録上、宇宙線事故後の治療履歴に欠落があります」
ユーリが彼女を見た。
余計なことを言うな、と目で言ったが、もう遅い。
「欠落?」と私は訊いた。
「はい。複数回、診療記録が意図的に簡略化されています。
恥と見栄と費用の三つが重なると、古い家はたいていそうなります」
ギニアスの顔が硬くなった。
ユーリは小さく息をつき、アサクラは心の中でたぶん拍手している。
「シンシア」と私は言った。
「はい」
「今のは正しいが、言う順番が悪い」
「承知しました」
「でも役には立った」
「ありがとうございます」
この女も扱いが難しい。
情のある官僚は、時に書類より先に傷へ触る。
役に立つ。
だが順番を間違える。
私はギニアスに向き直った。
「記録が薄いなら、こちらで作り直せる」
「借りになる」
「なる」
「嫌だ」
「だろうな」
「でも、家が潰れるのはもっと嫌だ」
「そうだろう」
会話はその一点で、ようやく現実へ落ち着いた。
名家は傾いている。
若い嫡子は病んでいる。
幼い妹がいる。
連邦に媚びるのは嫌だ。
ザビ家に恩を売られるのも嫌だ。
だが、嫌でない選択肢はない。
政治というのは、だいたいそういうところから始まる。
「すぐ返事は不要だ」と私は言った。
「そうでしょうね」とギニアス。
「今日は顔を見るために来た。
次は、医師を送る。
その医師を追い返すかどうかは、お前が決めろ」
「ずいぶん権利をくれるんですね」
「選ばせると、人は自分で決めた失敗を少しだけ受け入れる」
「嫌なことを知っている」
「歳の分だけな」
「そんなに年上には見えませんが」
「見た目の話はしていない」
そこまで言って、私はふとアイナを見た。
彼女はまだ果物籠の端を触っている。見舞い品というものは、だいたい病人より子どもに先に効く。
不公平だが、嫌いではない仕組みだ。
帰り際、ユーリが廊下で私に並んだ。
「どうでした」と彼は訊いた。
「思ったより早く火がつく男だ」
「ええ。だから扱いが難しい」
「お前はなぜ、その難しい家にまだ縁を切らない」
ユーリは少しだけ肩をすくめた。
「古い橋は、捨てる時に一番音がします」
「詩人か」
「家訓です」
私はそれを聞いて、ケラーネ家という家は本当に便利な家訓ばかり持っているなと思った。便利すぎる家は、たいてい一度は崩れる。まだ崩れていないのが不思議なくらいだった。
執務室へ戻ると、セシリアが静かに言った。
「いかがでしたか」
「手遅れではない」
「それはかなり良い評価ですね」
「そうか」
「はい。閣下はだいたい、面倒か、かなり面倒か、そのうち裏切る、の三段階で人を見ていますので」
私は彼女を見た。
「最近、お前は少しだけ言うようになったな」
「学習の結果です」
「悪い学習だ」
「環境のせいです」
アサクラが報告書の端を揃えながら言った。
「サハリン家はどう転びそうですか」
「今はまだ、どちらにも」と私は答えた。
「では、支援の形は」
「恩に見せるな。
救済にも見せるな。
将来の交流枠にしろ」
「たいへん嫌らしい形です」
「そうだ」
「良いと思います」
「お前の良いは嫌だ」
「承知であります」
その夜、私は机のメモへ新しい一行を足した。
病んだ家には、同情より出口を見せろ。
その下に、もう一行。
橋の上で急ぐな。急ぐと両岸が同時に嫌う。
書いてから、しばらくその字を見ていた。
文字数の話ではない。
一行が増えるたび、私は少しずつ前世の失敗を別の形に言い換えている気がした。
言い換えたところで、失敗が消えるわけではない。
だが、同じ失敗を別の名で繰り返さないためには、まず名前を付け直すしかないのかもしれなかった。