妹に撃たれない方法   作:Brooks

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第17話 夜会はだいたい本音を薄める

 

夜会というものを私はあまり信用していない。

 

昼の会議で言えば反対されることが、夜の酒と照明の下では「今後の検討課題」に変わる。正面から言えば露骨すぎる欲望が、音楽と給仕の間をすり抜けて「ご縁」という顔になる。人間は暗くなると少しだけ本音に近づくが、同時に責任からも半歩ほど遠ざかる。つまり、夜会とは真実と卑怯の中間くらいの場所なのだろうと思う。

 

その夜、父はその中間に私を引きずり込もうとしていた。

 

朝の時点で、その予告は出ていた。食堂で父がゆで卵を半分に割りながら、「今夜は顔を見せろ」と言った時点で、私は嫌な予感がしていた。父の言う「顔を見せろ」は、だいたい二つの意味を持つ。一つは本当に顔を出して挨拶をしろという意味。もう一つは、私がまだ国家の表側に立てる人間なのかを、他人の目で確かめたいという意味である。たいてい後者の方が面倒だ。

 

しかも今夜は、顔ぶれが悪くなかった。悪くないということは、つまり悪い。

 

マハラジャ・カーン。

ユーリ・ケラーネ。

情報局の古い連中。

港湾管理と議会実務の中堅。

それに、父が最近「まだこちらに引き寄せきれていないが、捨てるには惜しい」と感じている家々の名が数件。

顔の悪くない人間ばかりが集まる会というものは、だいたい最初から腹の探り合いでしかない。

 

食堂では、父の頭頂部がいつもよりほんの少しだけ艶やかだった。グレイトグロウの塗布量が増えているらしい。ここ数日で私は、政治の会話と育毛剤の塗布量の間に、薄い相関があるのではないかと本気で疑い始めていた。父が不安を抱くほど、希望の液体は頭皮へ厚くなる。

 

「今夜は遅れるな」と父が言った。

 

「どの顔で行けばいいのです」

 

「息子の顔だ」

 

「それは便利すぎる指定です」

 

「便利でなければ家族は使えん」

 

キシリアがそこでカップを置いた。今日も妙に静かな朝だった。静かなキシリアは、だいたい人の不幸をまだ口に出さずに温めている。

 

「兄上」と彼女は言った。「今夜はきっと良い夜会になるわよ」

 

「お前がそう言うと不吉だ」

 

「大丈夫。今夜は誰も撃たないもの」

 

「その時点でかなり基準が低い」

 

ドズルがパンをちぎりながら言った。

 

「夜会って必要か?」

 

「必要だ」と父が即答した。

 

「会議じゃ駄目なのか」

 

「会議は反対を言いやすい。夜会は保留を言いやすい」

 

私は父を見た。たまに、この人は嫌になるほど要点だけを言う。

 

ガルマが、父の頭頂部と目を合わせないようにしながら訊いた。

 

「今夜って、楽しい会なんですか」

 

「お前は来なくていい」と父が言った。

 

「なんで」

 

「楽しいと思って出ると、たいてい失礼を言う」

 

ガルマは本気で傷ついた顔をした。私は少しだけ同情したが、同情したところで彼の善意に護衛がつくわけではない。

 

食後、執務室へ戻ると、セシリアが夜会の席次案を用意していた。私はそれを見て、まず左右の配置から確認した。席次というのは国家の縮図である。誰の隣に誰を置くか。誰に視線をぶつけさせ、誰の間に給仕を入れ、誰をわざと遠ざけるか。それだけで半分くらいは決まる。

 

「カーン殿は父上の右です」とセシリアが言った。「左が港湾管理長。あなたはユーリ・ケラーネの斜向かい。シンシアは議会実務官の列に紛れます」

 

「アサクラは」

 

「後方です」

 

私はうなずいた。小さい男は、前へ出すと小さいことが目立つ。後ろに置いておくと、時々信じられないほど役に立つ。そこだけは便利だ。

 

「ユーリはなぜ斜向かいだ」

 

「正面に置くと、互いに会話が早く終わります。斜向かいなら、間に一度だけ別人を挟めます」

 

「嫌な配慮だな」

 

「夜会向きかと」

 

彼女は本当に、こういう場に強い。セシリアの有能さは、紙の整理だけではない。人と人の間に適切な空白を置ける。政治において空白は、ときに言葉より役に立つ。

 

その横で、アサクラが資料箱を抱えて立っていた。こいつは夜会を嫌わないだろう。嫌わないというより、自分のような人間が最も自然に紛れられる場だと理解しているはずだ。

 

「閣下」と彼は言った。「一点だけ」

 

「言え」

 

「今夜、ユーリ・ケラーネ殿はたぶん、月面側の空気を持ってきます」

 

「空気とは」

 

「アナハイムほどではないにせよ、商工会議系統の匂いです。まだ名前のある大物は出てきませんが、資本の側が“こちらを危険物としてだけ見ているわけではない”という程度の匂いは、あの手の男を通じて先に来ます」

 

私は少しだけ眉を上げた。嫌だが、悪くない観察だった。

 

「メラニー・ヒュー・カーバイン本人が来るわけではない」と私は言った。

 

「今はまだ」とアサクラは答えた。「ですが、名前のついた大物が来る前には、必ず名前のつかない空気が来ます」

 

「お前は本当に、空気と風向きの話ばかりだな」

 

「そういうものが人を動かしますので」

 

「お前を見ていればそれはわかる」

 

「恐縮であります」

 

この男はたぶん、死ぬ間際まで恐縮でありますと言うのだろうと思うと、少しだけ腹が立ち、少しだけ安心もした。人間はいつも、予測できる小物に対してだけ不思議と安堵を覚える。

 

昼の仕事は、夜会の前振りとしては不愉快なほど実務的だった。保安権限の整理。港湾区画の出入り記録。キャスバルとアルテイシアの件の公式文面の修正。「静養」「移動」「配慮」「非公開」。紙の上ではあらゆるものが柔らかくなれる。だが柔らかい単語の下には、硬い現実がきちんと横たわっている。

 

マハラジャからは短い返答が一通だけ届いた。

 

承知した。

ただし、夜会で国家を作ろうとする者は信用しない。

 

私はそれを読んで、少しだけ笑った。信用しないが来る。そういう大人はありがたい。信じて来る者より、ずっと使える。

 

午後、父からもう一度呼び出しがかかった。私室寄りの小会議室。最近、父はあの部屋をよく使う。大広間だと髪の艶が目立たないからかもしれないと一瞬思ったが、口には出さなかった。私は時々、自分が命を惜しんでいることを忘れるが、完全に忘れたわけではない。

 

父は鏡の前に立っていた。国家の話の前に鏡を見る元首というのはどうかと思うが、元首もまた人間である。そこを忘れると、たいていあとで政治判断を読み違える。

 

「お前」と父は言った。「今夜、カーンとケラーネを同じ席に置く意味はわかっているな」

 

「橋を二本並べる」

 

「そうだ」

 

私は椅子に座らず、立ったまま答えた。

 

「マハラジャは政治の古い橋です。ダイクン派の残り香と、ザビ家の実務をつなぐ。

ユーリは新しい橋で、他サイドと月面資本への顔になる」

 

「その二本を、どちらもお前の方へ少し傾けろ」

 

「橋は傾けると嫌われます」

 

「傾けないと渡れん」

 

私は少し黙った。父は本当に、たまにだけうまいことを言う。

 

「兄上」と、いつの間にか入ってきていたキシリアが言った。「今夜は橋の値段を量る夜よ。あんまり壊さないでね」

 

「お前は本当に、他人の仕事を賭け事みたいに言うな」

 

「だって家族会議より面白いもの」

 

「品がない」

 

「家族ですもの」

 

この女は本当に、その一言でだいたいの罪を洗うつもりなのだろうか。しかも半分くらい成功しているから腹立たしい。

 

夜会の会場は、旧行政区画の奥にある会員制のホールだった。広すぎず、狭すぎず、窓は高く、灯りはやや落としてある。ピアノが端にあり、料理は多すぎない。こういう場所の趣味は、誰か一人のものではなく、長年の実務者たちが「これなら失敗しにくい」と削った結果に見える。国家の初期に必要なのは、天才の趣味より失敗しにくさの方だろう。

 

最初の一時間は、ほとんど挨拶だった。父は思ったより機嫌がよく、しかもグレイトグロウが効いているのか、頭頂部の扱いに妙な自信があった。自信のある老人というのは危険だが、元首としては悪くない。

 

マハラジャ・カーンは予想通り、落ち着いていた。夜会の照明の下でも浮かれない男は信用できる。信用できるが、そのぶん隙も少ない。

 

ユーリ・ケラーネは、予想以上に場に溶け込んでいた。若いのに目立たない。目立たないくせに、誰と誰が話したがっていて、誰が誰を避けているかだけは全部見えている顔だ。軽い。軽いが、その軽さは鍛えられたものだった。

 

シンシアは、今日は完全にユーリの近くにいた。セシリアの静けさとは違う。シンシアは人の会話の端を拾い、それを必要な場所へ持っていく小さな流れのような女だ。役に立つ。だが、放っておくとどこかで私情の土手を壊す気配もある。

 

アサクラは後方で、給仕より少しだけ前、官僚より少しだけ後ろという実に彼らしい位置を確保していた。ああいう人間は、自分の価値を決して過大にも過小にも置かない。小さいくせに、その小ささの使い方だけは洗練されている。

 

私は最初、ユーリと正面から話さなかった。斜向かいに置いたセシリアの配慮は正しく、まずは港湾管理長と議会実務官を一度挟ませた。夜会では、最初に本題へ行くと相手が構える。二枚ほどの柔らかい紙を間に挟んでから読むのがちょうどいい。

 

父が乾杯の形だけ整えたあと、会話は緩く散った。そのタイミングで、私はマハラジャと目を合わせた。彼はほんのわずかに顎を引いた。今夜の本題へ行ってよいという合図だろう。大人は時々、あまりにさりげなく合図を送るので、若い者が見逃す。私はもう若くない。少なくとも中身は。

 

ユーリが、ちょうどよい頃合いにこちらへ歩いてきた。

 

「ギレン殿」と彼は言った。「今夜は人が多いですね」

 

「夜会だからな」

 

「ええ。でも、こういう場の“多い”は、人の数ではなく視線の数です」

 

「橋らしい感想だ」

 

「ありがとうございます。褒め言葉として受け取ります」

 

「受け取るのがうまいな」

 

「橋は、渡されたものを落とさないのが仕事ですから」

 

この男は本当に、その言い方を家訓にしているのかもしれないと思った。

 

「月面の顔はどうだ」と私は訊いた。

 

「今夜はいません」

 

「いないだろうな」

 

「ただし、月面の倉庫番みたいな男は一人来ています。商工会議所の名前は持たず、でも帳簿だけは月面の理屈で見ている男です」

 

「どれだ」

 

ユーリは視線だけで一人の男を示した。背が高く、笑わず、皿の選び方が妙に堅実だった。私は少しだけ感心した。夜会の場で料理の選び方から商人の習性を読むとは、軽い男のわりにちゃんと眼がある。

 

「話す価値は」

 

「あります。

ですが、今夜はまだ浅くでいいでしょう。

深く行くと、あちらは“こちらが急いでいる”と読みます」

 

「その通りだ」

 

「それに」とユーリは言った。「今夜の主役は私ではなく、カーン殿でしょう」

 

私は彼を見た。この男は、自分が橋であることをよく知っている。そして、橋は中央に立たない方が長持ちすることも知っている。嫌になるくらい合理的だ。

 

そのとき、父がマハラジャを連れてこちらへ来た。同時に、給仕が新しいグラスを置き、遠くのピアノが音量を少し落とした。人間は本当に、話し合いのための空気を作るのがうまい。戦争より先に、その技術をもっと磨けばよかったのにと思う。

 

「ギレン」と父が言った。「お前の若い橋だ」

 

「若い橋は壊れやすい」と私は言った。

 

「古い橋は重い」とマハラジャが返した。

 

「その間くらいがちょうどいいのです」とユーリが言った。

 

会話としては綺麗だった。綺麗すぎた。私は少しだけ嫌な予感がした。綺麗にまとまりすぎた会話のあとには、たいてい何か具体的な話をしなくてはいけない。

 

「具体的に申し上げます」と私は言った。「サイド3は、今後数年のうちに国体を変える。ただし、ザビ家独裁の顔では行きません。議会を残し、行政を強め、外に対しては共同安定の顔を出す。その時、サイド3だけで閉じた枠組みに見せたくない」

 

マハラジャはうなずいた。ユーリはそのうなずきを横で見ている。つまりこの場では、年長者の反応を若手へ見せること自体が意味を持つ。

 

「他サイドは」とマハラジャが言った。「最初から賛同はせんでしょう」

 

「賛同は要りません」と私は答えた。「中立でいい。少なくとも、“サイド3が他を踏み台にして独立した”と思わせない程度で」

 

「そのための橋ですか」とユーリ。

 

「そうだ」

 

「では、橋に何を積むかが先ですね」

 

「言え」

 

「まずは防災です」と彼は言った。「戦争や独立を嫌う商人でも、事故と停電と配給の乱れは嫌います。その次が港湾。その次に若手交流。軍事の匂いは、まだ後ろに置いた方がよろしいかと」

 

マハラジャが言った。

 

「同感です。理念から入ると、理念に反感のある側を刺激する。だが、物流から入れば生活の顔が立つ」

 

私は少しだけ安堵した。やはり、この二人を同席させたのは正しかった。古い橋と新しい橋。どちらも別の方向から同じ結論へ来る。そういう場面は国家の初期にはかなり貴重だ。

 

だが、夜会はだいたいそう簡単に整わない。

 

不意に、議会側の古参実務官が話へ割り込んできた。年老いた男で、長年の書記仕事で背中が少し曲がっている。こういう男は侮れない。大きな政策を作るわけではないが、大きな政策をどの紙へどう載せるかを知っている。

 

「失礼」と彼は言った。「今の話、共同安定の顔を出すのは結構。だが、その顔の裏で誰が武装を握るのかを、他サイドは必ず見ますぞ」

 

父がそれを聞き、グラスを少しだけ置いた。今夜最初の本当の石だった。

 

「武装は要る」と父が言った。「要らぬと言う時代ではない」

 

「ええ」と老実務官。「ですが、その武装がザビ家の私兵に見えれば、議会を残しても意味は薄い」

 

キシリアが少し遠くからこちらを見ていた。あの女はわざわざ近づかない。近づかなくても、会話の温度だけで必要な部分がわかるからだ。

 

私は老実務官へ向き直った。

 

「その通りです」と私は言った。「だからこそ、武装は家ではなく制度に乗せる」

 

「制度とは」

 

「国防隊の拡張。港湾警備と保安の統合。将来的には、議会承認を通した共同防衛枠組みです」

 

老実務官は眉を動かした。

 

「理想的ですな」

 

「理想ではありません。理想なら、私はもっと嫌いな顔で話しています」

 

ユーリが小さく笑った。マハラジャは笑わなかったが、口元だけがわずかに緩んだ。

 

老実務官は引いた。夜会での押し引きはこのくらいで十分だ。勝ち負けをつける場ではない。後で「あの時、ああいう話が出ていた」と各自の頭に残せばいい。

 

だが、本当に不意打ちだったのは、その次だった。

 

父がマハラジャへ向かって、まるで思いついたように言ったのである。

 

「そうだ、カーン殿」

 

私は嫌な予感がした。父が「そうだ」と言って会話を曲げる時、ろくなことが起きない。

 

「何でしょう」とマハラジャは答えた。

 

「そろそろ、あなたももう少し明るい席へ出るべきだ。いつまでも一人でいると、周りが気を遣う」

 

私はグラスを持つ手を一瞬だけ止めた。キシリアが遠くで目を閉じた。ああ、来たな、と思った。これが例の、父の奇妙な善意だ。

 

マハラジャの妻を失ったあと、父は彼を夜会へ招き、時々こうして女性を紹介しようとする。本人はそれが人間的な配慮だと思っているらしい。国家建設と育毛剤と世話焼きは、どうも父の中で同じ引き出しに入っているようだった。

 

「父上」と私は低く言った。

 

「何だ」と父は本気で不思議そうに言った。

 

「今、そこをやる必要がありますか」

 

「必要とは言っておらん。配慮だ」

 

「配慮が余計な時もあります」

 

ユーリが横で、たいへん上手に視線を逸らしていた。シンシアは無表情を保っている。アサクラはおそらく内心で死ぬほど面白がっている。セシリアだけが、完璧に何も聞いていない顔をしていた。あの女は本当に強い。

 

マハラジャは少しだけ笑った。困っているが、真正面から拒絶すると場が壊れると理解している大人の笑みだった。

 

「お気遣いはありがたい」と彼は言った。「ですが、今はまだ、政治の方で手一杯でして」

 

「そうだろうな」と父は言った。「だが、政治だけでは人は痩せるぞ」

 

私は心の中で、もう十分痩せている人間にその言い方はどうなのだろうと思ったが、さすがに黙っていた。家族の面子と国家の面子は、こういう時だけ奇妙な形で結びつく。

 

キシリアがいつの間にか近づいてきて、穏やかに言った。

 

「父上、その話はまた別の夜に。今夜は国の髪型を整える方が先でしょう」

 

父は一瞬、意味を測り損ねた顔をした。その一拍で私は少しだけ救われた。家の中に、私以外にもこういう火の消し方をする人間がいるのはありがたい。

 

夜会が終わる頃には、かなり多くのものが薄く決まっていた。

 

表向きは共同防災と港湾協力。

内側では、各サイドの若手実務者交流。

さらにその先に、教育と保安。

軍事の匂いはまだ外へ出さない。

議会は残す。

ザビ家独裁の顔は避ける。

ただし、制度の骨にはこちらの手を入れる。

 

完全な合意ではない。夜会で完全な合意などできるわけがない。だが、「そういう流れがあり得る」と複数の頭に残せた時点で十分だった。

 

帰路の車の中で、セシリアが言った。

 

「今夜は成功ですか」

 

「七割だ」

 

「残り三割は」

 

「父上が政治と世話焼きと育毛剤を同じ箱に入れていることだ」

 

彼女は一瞬だけ黙り、それから「確かに」とだけ言った。その短い同意は、下手な慰めよりずっとよかった。

 

アサクラが向かいで書類箱を抱えながら言った。

 

「ユーリ・ケラーネ殿は、思ったより上手く働きます」

 

「お前がそう言うと警戒する」

 

「橋として、という意味です」

 

「橋は嫌いだ」

 

「でも渡る」

 

「知っている」

 

シンシアは窓の外を見ていた。やがて、独り言のように言った。

 

「サハリン家への第二便ですが、医師の選び方でかなり意味が変わります」

 

私は彼女を見た。

 

「どう変わる」

 

「本当に治したい人間を送るか、こちらの言うことをよく聞く人間を送るか」

 

「両立しないのか」

 

「たいてい、少しだけ」

 

セシリアがそれを聞いて、静かに言った。

 

「では両方の条件を半分ずつ満たす人を探しましょう」

 

「そんなに都合のいい人材がいますか」とシンシア。

 

「探すのが仕事です」

 

私は二人を見て、しみじみ思った。有能な女が二人いると、国家はたぶん少しだけ前へ進む。同時に、男の方は余計な幻想を持つ余地を失う。それは健康的だが、楽ではない。

 

屋敷へ戻ると、夜はかなり深かった。それでも父の私室の灯りはまだついているだろうと思った。グレイトグロウの再塗布か、あるいは単に鏡を見ているのかもしれない。国家というものは、案外そのくらい個人的な営みの横で進む。

 

自室へ戻り、私は机のメモへ新しい一行を足した。

 

夜会は、橋の耐荷重試験である。

 

その下に、もう一行。

 

世話焼きの善意は、時々国家機密より危ない。

 

書いてから、私は少しだけ笑った。笑えるうちはまだましだと思った。笑えなくなった時、人はたいてい独裁へ近づく。私はもう、それを知っている。

 

窓の外では、サイド3の人工夜がゆっくりと朝へ向かっていた。まだ公国ではない。まだ独立もしていない。だが橋はかかり始め、空いた椅子は空いたままで、遠くでは出ていった少年が別の名を探し始めているかもしれない。

 

国家は急いで作ると壊れる。だが遅すぎても、誰かに先に名前をつけられてしまう。私はその中間を歩かなければならない。橋の上を、落ちない速度で。

 

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