出力し直しました。
小型小惑星帯は、遠目にはただ黒い粒の群れにしか見えなかった。
だがザンジバル改の前方映像へ拡大すると、それぞれに癖がある。表面が滑らかなもの、採掘跡の筋が走っているもの、角が欠けて歪んだもの。どれも黙って浮いているだけなのに、使い道のある石と使い道のない石が、見ているうちに少しずつ分かれてくる。
ガルマは立ったまま前方を見ていた。
艦橋の照明は抑えられ、計器盤の青白い光が顔の下半分を照らしている。副官席のマレーネは端末を二つ開き、各艦の積載と工兵班の人数を確認していた。艦内通信が短く入っては切れる。
「一番艦、熱核エンジン七基。固定具二十一。工兵二個班。各艦で七つの石へ振り分けます」
マレーネが読み上げる。
「二番艦、推進剤容器と補強材。三番艦、予備固定具と切断器。四番艦、シーマ少佐隊向け爆薬と吸着具」
ガルマは視線を前から外さない。
「候補は」
マレーネは前方映像の右側へ印を出した。
「主に見るのはこの三つです。一つ目は補給デッキへ当てる質量があります。二つ目は係留区画へ寄せやすい。三つ目は右舷外殻へ押し込む厚みがあります。ほかの四つは中央、上部、下部、左側へ回せます」
ガルマはそこで初めて少し考えた。
前へ押すだけなら、もっと大きい石の方がいい。だが今回は、それを補給デッキへ向け、係留艦の並ぶ側へ寄せ、さらに外壁の別々の場所へ同時に入れなければならない。大きければ強いわけではない。
「一つ目はそのまま使う。二つ目も使う。三つ目は尾の部分を少し削れ」
マレーネが即座に命令文へ直す。
「工兵一班を三つ目へ回します」
「ほかの四つは予定位置のまま。中央、上部、下部、左側で使う」
「はい」
マレーネはそこで、わずかに口元を緩めた。
「若様、今日は艦橋に立ったままでは済みませんよ」
「分かってる」
ガルマは短く返した。
「見て決める」
――――――
作業艇が七つの石へ散った。
工兵たちは三人一組で降りる。先頭の工兵が打音棒で岩肌を叩き、二人目が亀裂の深さを見る。三人目が白い塗料で固定具の位置に印を付ける。打音の鈍い場所は避け、芯の詰まった部分へ補強梁を当てる。
ガルマは艦橋から下り、作業区画の映像卓へ移った。マレーネもその横へ来る。七つの端末が並び、それぞれに別の石の表面が映っている。
一つ目の工兵が声を上げた。
「固定位置、三か所確定。補強梁入ります」
二つ目。
「左面の亀裂、浅い。使用可」
三つ目。
「尾部切断始めます」
火花が走る。削り落とされた岩片がゆっくり外へ流れた。
ガルマは五つ目の映像を見て言う。
「そこは深く削るな」
工兵長が振り向く。
「上部へ入れる分です。面を平らにした方が――」
「平らにしすぎると滑る。段差を残せ。取り付いた後に足場になる」
マレーネが横でその意図を拾う。
「五つ目、切断位置を三十センチずらして下さい」
「了解」
作業は止まらない。次々と固定具が打ち込まれ、補強梁が噛み合い、熱核エンジンの基部が下ろされていく。もとの石の形は残っているのに、見ているうちに用途が変わっていく。
マレーネが読み上げる。
「一つ目、固定開始。二つ目、固定開始。三つ目、尾部切断終了。四つ目、岩盤良好。五つ目、補強梁搬入。六つ目、固定位置確定。七つ目、表面砂層除去中」
ガルマは一つ目の映像を見ていた。白い印の付いた岩肌へ、金属の固定具が食い込んでいく。工兵が体ごとハンマーを振り下ろし、その振動が画面越しにも伝わった。
「一つ目の試験点火は最後だ」
彼が言う。
マレーネがすぐに確認する。
「全石の固定が終わるまで点火を待ちますか」
「そうだ。一つだけ先に前へ出しても意味がない」
「承知しました」
マレーネの声は落ち着いていた。七つの端末、七つの作業、七つの時間差。それを一つの列へまとめているのは彼女の手だった。
――――――
一つ目の石へ、熱核エンジンが据えられた。
補強梁が締められ、推進剤配管が接続される。工兵が最後の固定ボルトを叩き、手を離れた工具が命綱の先で小さく揺れた。
「試験点火、入ります」
マレーネが告げる。
端末の向こうで、工兵が身を伏せる。短い噴射。岩肌の砂と小片が後方へ流れ、表面の影がわずかに揺れた。
「推力確認」 「固定保持」 「配管漏れなし」
マレーネは数字を追いながら言う。
「前へ押すことはできます」
「向きは」
「変わりません。推進器は前進だけです」
ガルマはうなずいた。
「ラル中佐の隊とシーマ少佐の隊には、第一から第七の取り付き位置を先に伝えろ。外殻へ着いた後は、そのままエンジン側へ押し上がる」
「はい」
ここで大事なのは、前へ押すだけでは足りず、取り付く位置まで含めて向きを作らないと使えないと、ガルマが実感することだった。
エンジンを付ければ終わりではない。 石を当てるだけでも終わりではない。 外壁へ取り付き、そのままエンジン側へ上がれる向きまで作らなければならない。
――――――
ラルのザンジバル改が小惑星帯の縁へ寄る。
艦橋の中は静かだ。余計な声がない。必要な確認だけが短く走る。
「第一操舵隊、一つ目後方へ」 「第二操舵隊、二つ目へ」 「第三操舵隊、三つ目へ」 「第四から第七、待機線維持」
ラルは前方表示から目を離さない。
「中央、位置を詰めろ」 「右、外へ流すな」 「左、逃がすな」
一つ目の後ろへ、ザク三機が揃う。
中央にアコース中尉。右にコズン中尉。左に別の熟練機。三機の距離が詰まるたび、岩肌の後ろに機影が吸い寄せられるように収まっていく。
アコースの声は淡々としていた。
「中央、位置良し」
コズンは少し早口だ。
「右、もう少し詰める」
ラルは短く返した。
「詰めすぎるな」
二つ目、三つ目、その先の四つ目から七つ目まで、同じように三機ずつが後ろへつく。全部で二十一機。七つの石の後ろに、七列の小さな影が並んだ。
ラルはそこで一度だけ、全列を俯瞰表示へ切り替えさせた。七つの石、その後ろに二十一機。ここでどこか一列でも噴射が乱れれば、同時突入は崩れる。
「揃えろ」
それだけだった。
アコースが短く答える。
「了解」
コズンも言う。
「分かってる」
ラルは無駄に頷きもしない。
――――――
別の区画では、シーマの隊も位置に入っていた。
海兵たちは吸着具、爆薬、切断器を確認している。戦闘艦の中というより、工事現場のような散らかり方だった。だが誰も文句を言わない。今回の仕事は最初からそういうものだった。
ラル隊のザクも、シーマ少佐の隊も、石の陰で外壁へ取り付くために出る。違うのは持っている道具だけだった。ラル隊はザクの数で押し、シーマ少佐の隊は吸着具と爆薬を多く持つ。ガルマの工作隊はエンジンと固定具を積んでいる。
シーマは外の映像を見ていた。
七つ。随分と欲張ったものだと、彼女は思う。三つでも足りるかどうか怪しい仕事を、七つ同時に押し込む。若いのに思い切ったものだ。
だが画面の中で、ガルマの艦橋は落ち着いている。あちこちの作業へ目を移しても、声は跳ねていない。順番と位置を見ている顔だ。そこは認めるしかない。
次にラル隊を見る。アコースは中央を外さない。コズンは少々荒いが、押しどころは分かっている。ラルがそこにいるなら、列は簡単には切れない。
シーマは隊を先走らせない。七つが同時に当たる瞬間に合わせて取り付き、そのままエンジン側へ押し上がるつもりだった。どれか一つだけ先に当たっても、人も火点も散らない。
「若様、今日は浮かれておりませんねぇ」
シーマは小さく笑った。
「結構なことで」
傍らの海兵が目を上げるが、彼女はそれ以上何も言わなかった。
――――――
サードルナ司令区画。
観測班の報告が少しずつ強張っていく。
「推進反応、三……五……七」 「同方向ではありません。散っています」 「目標は一点ではありません」
現地司令官が表示盤へ近づく。七つの熱源が、別々の角度からサードルナへ向かっている。
「七つだと」
監察局の将校が顔をしかめる。
「正面だけでは止められん」
補給デッキ、係留区画、右舷外殻、左側外壁、上部通路、下部外殻、中央外壁。どこへ入るかまではまだ分からない。だが一点だけは確かだった。正面へ厚く出れば、小惑星の直撃を受ける。横へ逃げて迎撃すれば、今度は別の面が薄くなる。
「マラサイを横へ回せ」
司令官が命じる。
「補給デッキ側は最低限でいい。横だ。石の後ろを叩け」
武装輸送艦と巡視艇にも同じ命令が飛ぶ。外へ出る守備兵の数が増える。補給デッキを守る者、係留区画へ走る者、上部外壁へ登る者。人の流れが一つにまとまらない。
それでもティターンズ側は、この時点ではまだ「七つ同時にぶつけて、同時に取り付いてくる」とまでは読んでいなかった。
――――――
ガルマの艦橋で、マレーネが秒を読む。
「全石、固定完了」 「全石、配管接続確認」 「第一から第七、前進。全隊、取り付き位置を確認。着いた後はエンジン側へ寄せる」
七つの返答が重なる。
「第一、了解」 「第二、了解」 「第三、了解」 「第四」 「第五」 「第六」 「第七」
ガルマは七つの映像を見渡した。
「一つ目から七つ目まで、点火準備をそろえる」
マレーネが復唱し、各艦へ流す。
「一つ目から七つ目まで、点火時刻を同期。遅らせるな」
七つの石の後ろで、熱核エンジンの試験灯が順に点く。岩肌の砂と小片が流れ、黒い質量が少しずつ前へ出る。同時に、二十一機のザクがバーニアを揃えて噴いた。七列の光が、黒の中で一斉に伸びる。
「一つ目、補給デッキ線上」 「二つ目、係留区画維持」 「三つ目、右舷外殻へ偏差なし」 「四つ目、中央外壁」 「五つ目、上部通路」 「六つ目、下部外殻」 「七つ目、左側外壁」
マレーネの声は、数字だけを読む声ではなかった。今どの石がどの線に乗っているか、どこに僅かな癖があるか、全部が混じっている。
ガルマは短く命じる。
「三つ目、右を少し締めろ。六つ目、中央を保て。七つ目、押しすぎるな」
通信士が飛ばす。
アコースの返答、コズンの短い返事、他の隊の了解が重なった。
七つの小惑星が、同じ時間帯にサードルナへ向かう位置へ入った。
そのうち中央の画面では、一つ目が先に大きく映っている。アコース中尉、コズン中尉を含むザク三機が後ろで向きを作る。別の画面では、残り六つの石にも同じようにザクと取り付き班が付いていた。
シーマはそれを見て、ようやく口の端を上げた。
「……さて。これでようやく、七つそろいましたねぇ」