3回にわたって⋯。
同時じゃないと被害を与えられないことの説得に小一時間。。。orz
サードルナへ向かう七つの小惑星は、画面で見ても大きさの違いがはっきり分かった。
一つ目は先端が広く平たく、補給デッキを潰すための石だった。二つ目は幅があり、係留区画の骨組みに食い込みやすい。三つ目は厚みが残され、右舷外殻へ押し込んだあとも割れにくい。四つ目から七つ目は中央外壁、上部通路、下部外殻、左側の装甲帯へ散らすために選ばれている。
ガルマは旗艦ザンジバル改の艦橋で、七面に割った前方表示を順に見ていた。
一つだけ追えば済む戦いではない。どれか一つでも角度を外せば、その場所だけ修理班と守備兵が集まって終わる。七つが同じ時間帯に別々の面へ当たって、初めて人も機体もばらける。
副官席のマレーネが、各石の状態を読み上げる。
「一番、線上維持。二番、係留区画へ偏差なし。三番、右舷側修正完了。四番、中央外壁へ。五番、上部通路。六番、下部。七番、左側装甲帯」
通信士が振り返る。
「ブレックス准将、回線つながります」
ガルマは短くうなずいた。
映像の端に、ブレックスの顔が出る。艦橋の照明は低く、後ろの幕僚たちが半分だけ見えた。
「こちらガルマ・ザビ大佐。七つ、前へ出しました。小惑星の進路へ敵を出させないで下さい。横へ回る機だけを押さえていただきたい」
ブレックスは一度だけ目を細めた。
「了解した。正面は石が通る。こちらは横へ流れる機を叩く」
「味方機を進路へ入れないで下さい」
「通達済みだ。そちらはそのまま押し込め」
回線が切れる。
マレーネが、七番石の画面を拡大した。
「左側、わずかに外へ逃げます」
「第二十一号機に一秒足させろ」
「第二十一号機、一秒追加」
短い返答が返る。七番石の後ろで、左のザクがわずかに噴射を増し、石の鼻先が戻った。
「戻りました」
「次」
ガルマは一番石に視線を戻した。
正面にあるサードルナの外殻では、すでに小さな光が幾つも点いていた。迎撃砲火の準備だ。だが正面へ厚く出れば、自分たちが石に潰される。向こうは横へ回らざるを得ない。
そこが勝負どころだった。
――――――
ランバ・ラルは一番石の後ろに張りついた三機を見ていた。
中央にアコース。右にコズン。左にベル隊の古参。三機の噴射角が少しでもずれれば、石は勝手な面を向く。
「中央、保て」
「了解」
「右、押しすぎるな」
「分かってる」
コズンの声は短い。口数が多い男ではないが、危ない仕事になると呼吸が荒くなる。ラルはそこも承知していた。
別の列では、二番石の後ろの三機が係留区画へ向けて鼻先を押さえている。四番石、五番石、六番石、七番石。七列の後ろに二十一機のザクが並んでいるが、広い宇宙ではそれでも細い。
「揃えろ」
ラルの命令はそれだけだった。
一番石の前方で砲火が花を散らす。外殻から撃ち出された光が岩肌を削り、砂と破片が白く流れた。だが石は止まらない。止めるには、小さい。壊すには、足りない。だからこそ数で来たのだ。
「マラサイ、横」
観測役の声が入る。
サードルナの左側から、細い機影が流れ出る。正面へは出られない。横へ回り、石の後ろのザクを剥がしに来る。
ラルは即座に言った。
「前を空けるな。列を切るな」
アコースが短く答えた。
「了解」
コズンが笑いを噛み殺すような息を吐く。
「来るなら来い」
「喋るな」
ラルはそう言って、七列全部の動きを見た。どれか一列を助けるために他を崩せば負ける。だから均等に保つ。押しつけたまま、同時に着ける。
――――――
シーマは外壁に取り付く前の数十秒がいちばん嫌いだった。
ここで飛び出したい。そう思う部下は多い。目の前で石が走り、砲火が散り、向こうの外壁に傷が入る。それを見れば、今行けると誰だって思う。
だが早い。まだ早い。
七つ全部が当たって、補給兵と修理班と守備兵とマラサイが別々の方向へ走り出してからだ。どこか一か所だけを壊しても、向こうはそこへ人を寄せる。それでは推進器の前に壁ができる。
シーマは吸着具の状態を見ていた海兵へ目をやった。
「起爆索、もう一度見な」
「はい」
「切断器は右の班へ寄せる。上の連中に回すと持ち替えが面倒だ」
「はい」
言葉は丁寧だ。だが頭の中はもっと荒い。
七つ。欲張ったな、とまだ思っている。だが嫌いじゃない。これだけ壊せば、向こうもどこへ走るか迷う。若いくせに、そこを見ているのは悪くない。
画面の隅で、ガルマが七つの面を順に追っている。声を荒げない。どれかに見入らない。そこはいい。
ラルの列も切れていない。アコースが中央で踏ん張り、コズンが右から押さえ込む。多少荒くても、あれなら行ける。
「浮かれてない。そこはいい」
シーマは誰に聞かせるでもなく呟いた。
「そのくらいはやってもらわないと困る」
前方で、一番石の鼻先がサードルナ補給デッキの縁へ重なった。
――――――
サードルナ司令区画では、報告が重なり過ぎて声の区別がつきにくくなっていた。
「一番、補給デッキへ!」 「二番、係留区画!」 「四番、中央外壁!」 「下部にも来る!」
現地司令官が前に出る。
「正面へ機を出すな! 横だ、横から叩け!」
正面は石が通る。分かっている。だが目の前に迫る質量を見れば、身体は前へ逃げたくなる。補給デッキ側の作業員が荷箱を捨てて走り、係留索の再固定に出ていた兵が手を離す。上部通路の点検班が工具を落とした。
横へ回ったマラサイ隊が加速する。武装輸送艦と巡視艇も、石の後ろへ回り込もうと姿勢を変える。
だが、その時にはもう遅かった。
一番石が補給デッキへ当たる。骨組みが折れ、配管が裂け、燃料容器がまとめて外へ飛ぶ。二番石が係留区画へ入り、索と支持梁をちぎる。三番石が右舷外殻を削り、四番と五番が中央と上部を裂き、六番が下部の装甲板を剥がし、七番が左側の補強帯をひしゃげさせた。
七つの衝撃が、ほぼ同時に別々の場所で走る。
補給デッキへ修理班が飛ぶ。係留区画へ守備兵が散る。上部通路へ別の海兵が登る。司令区画からの指示も一方向に集まらない。
熱核エンジン六基はまだ無傷だ。それでも、外壁の上の人間は一気に薄くなった。
――――――
衝突の陰で、ラル隊とシーマ隊が同時に取り付いた。
一番石の列は補給デッキの裂け目近くへ。二番は係留区画の折れた骨組みへ。三番は右舷外殻の破断部へ。七つの石の後ろにいたザク三機編成が、そのまま外壁へ機体を押しつける。
強すぎれば外壁へ叩きつけられる。弱ければ外へ流れる。その加減を読み切れる者だけが、生きたまま着ける。
アコースは最後の噴射を細く切り、機体を補給デッキの残骸へ沿わせた。コズンは右から押し気味に寄せ、機体を外壁の裂け目へ滑り込ませる。左の機も同時に着く。ほとんど呼吸ひとつ分の差もない。
別の場所では、シーマ隊の海兵たちが石の陰から外壁へ張りついていた。吸着具を打ち込み、爆薬袋を固定し、次の足場へ身体を流す。誰かの後ろからではない。同時だ。そうでなければ、向こうは一列ごとに潰せる。
「出ますよ」
シーマの声は低い。
海兵たちが一斉に散った。
目標は内部ではない。最初から最後まで外だ。外殻の赤道帯へ沿って並ぶ熱核エンジン。その基部へ行く。
補給デッキの折れた梁も、係留艦の外板も、上部通路の骨組みも、全部が足場になる。外壁の上を行くしかない。
「前へ」
シーマが言う。
「右の班は残骸の裏。上へ出るな。見つかる」
――――――
最初にぶつかったのは、一番石の列の横だった。
マラサイが外壁の縁から飛び込み、コズン機の右肩へ盾ごと押しつける。火花が走り、残骸が跳ねる。
「右!」
ラルの声が飛ぶ。
コズンは押し返した。サーベルを振るのではなく、まず機体ごと肩で押し返す。外壁に足を掛けたまま、相手の角度をずらす。そこへアコースが中央から一歩だけ前へ出て、ヒートサーベルを短く突いた。マラサイの盾が裂ける。
別の列では、バズーカ弾が裂け目の向こうで爆ぜた。狙ったのは機体ではなく足場だ。補給デッキの残骸がまとめて崩れ、マラサイ二機が一瞬浮く。その隙にザク隊が前へ出る。
手榴弾が飛ぶ。係留区画の折れた梁の奥で爆発し、守備兵が伏せる。五番石の列では、上部通路の細い足場でザクとマラサイが組み合い、そのまま外壁へ叩きつけ合う。切る、押す、落とす。どれも近い。撃ち合う距離ではない。
ラルは短く言葉を飛ばし続ける。
「中央、保て」 「前を空けるな」 「二番、押せ」 「五番、下がるな」
二十一機いる。だから一列が押されても、隣が寄る。七つ全部を通すために二十一機を出した意味が、ここで出る。
シーマはその戦いを横目で見た。
「一列や二列じゃ飲まれる」
内心でそう言った。
「これでやっと仕事になる」
彼女の前を、海兵が二人、裂けた外壁沿いに走る。吸着具を打ち込み、身体を引き寄せ、次の足場へ飛ぶ。ラル隊がマラサイを押さえているから、その線が開いている。
――――――
熱核エンジンのある赤道帯が見えてきた。
巨大な基部が外殻の上に並び、そこへ配管と固定梁が走っている。片側三基。その下へ行けばいい。
「少佐、見えました」
部下の声に、シーマは顔を上げた。
「見えてる」
その一言だけで足りる。
後ろではまだザクとマラサイが押し合っている。補給デッキ側では燃料の霧が流れ、係留区画では折れた索が宇宙に揺れる。だが、その全部がいまは後ろだ。
前にあるのは、熱核エンジンの基部だけ。
ガルマの艦橋からマレーネの声が飛ぶ。
「ラル隊、各列取り付き成功」 「シーマ少佐隊、推進器帯へ接近中」 「エンジン損傷、まだなし」
ガルマが答える。
「次で落とす」
シーマは口の端を少し上げた。
「それでいい」
彼女は外壁へ吸着具を打ち込んだ。
「ようやく仕事場まで来た」
第175話 終わり