妹に撃たれない方法   作:Brooks

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なんとなく円安のニュース見てたら出来てしまいました。


第195話 SS ララァ、はじめてのFX

 

 ニュース端末の下に、数字が流れていた。

 

 緑と赤の矢印が、数秒ごとに入れ替わる。

 

「連邦通貨と宇宙通貨の交換レートは、本日より市場で決定されます」

 

 アナウンサーは落ち着いた声で言った。

 

 声だけが落ち着いていて、画面は落ち着いていなかった。

 

 連邦通貨が下がる。

 宇宙通貨が上がる。

 表示がぴっと変わるたびに、画面の数字がわずかに跳ねる。

 

 アムロは、机の上に置いた紙幣の束を指で押さえた。

 

「これ、そんなに大ごとなのか?」

 

 ミライが答える。

 

「給料の価値が変わるのよ」

 

 セイラが続ける。

 

「同じ額でも、買えるものが違ってくる」

 

 アムロは少しだけ顔をしかめた。

 

「……それは、困るな」

 

 ララァは端末を見ていた。

 

 数字の動きではなく、その奥にある流れを見るように。

 

 それから、ぽつりと言った。

 

「まだ、始まったばかりです」

 

「何が」

 

「お金の動きです」

 

「お金を動かすな」

 

 アムロが言う。

 

 ララァは気にしない。

 

 画面が切り替わった。

 

 アナウンサーが、少し硬い笑顔で横を向く。

 

「それでは、この連邦通貨安と宇宙通貨高について、エコノミストのアサクラさんに解説していただきます」

 

 画面の中で、見慣れた男が大きくうなずいた。

 

 ララァが、少し嬉しそうに言う。

 

「オジキです」

 

 アムロが天井を見る。

 

「エコノミストのアサクラさん、だろ」

 

 ミライが笑う。

 

「本人より呼び名の方が強いわね」

 

――――――――――

 

「いいですか皆さん!」

 

 オジキは、最初から全開だった。

 

「連邦通貨が弱い理由、金利差だけだと思っている人は何も分かっていない!」

 

 アムロが小さく言う。

 

「もう嫌な予感しかしない」

 

 ミライが肩を揺らす。

 

「でも聞いちゃうのよね」

 

 オジキは続ける。

 

「問題は“信認”です!」

 

「連邦政府は膨大な債務を抱えている!」

 

「それをどうするか! インフレで薄めるしかないんです!」

 

 セイラが端末の別の画面を開く。

 

 食料の価格。

 燃料費。

 輸送費。

 全部、じわじわ上がっている。

 

「つまりどういうことか!」

 

「連邦通貨を持っているだけで、あなたの資産は静かに削られている!」

 

 ララァが言う。

 

「薄くなります」

 

「だから言い方!」

 

 アムロが突っ込む。

 

 ミライが頷く。

 

「給料そのままで、買える量が減るってことよね」

 

 セイラが補う。

 

「購買力が落ちている」

 

 オジキはさらに続ける。

 

「いいですか皆さん! 株が上がっているのではない!」

 

「通貨が下がっているんです!」

 

「だからこそ強い通貨です!」

 

「宇宙通貨は、成長している場所の通貨!」

 

「資源があり、人が集まり、開発が進む!」

 

「黙って宇宙通貨を持ちなさい!」

 

 アムロが顔を覆う。

 

「また言った」

 

 ララァが静かに言う。

 

「宇宙のお金の方が、先に行きます」

 

「だから金を走らせるな」

 

――――――――――

 

「安いお金で、高いお金を買います」

 

 ララァが言った。

 

「言い方が雑!」

 

 アムロが叫ぶ。

 

 セイラが説明する。

 

「連邦通貨を売って、宇宙通貨を買うの」

 

「宇宙通貨が上がれば、その差が利益になる」

 

「為替取引よ」

 

 ミライが腕を組む。

 

「つまり、ララァちゃんに触らせちゃいけないやつね」

 

「少しだけです」

 

「その言葉は禁止!」

 

 アムロが即答する。

 

「話は聞いたよ」

 

 エドワウが入ってくる。

 

「いつからいた」

 

「“黙って宇宙通貨”のあたりからだ」

 

「一番だめなところじゃない」

 

 ミライが言う。

 

 エドワウは端末のレートを見た。

 

 数字は、さっきよりも宇宙通貨側に傾いている。

 

「上がるな」

 

 ララァが頷く。

 

「上がります」

 

「普通に言うな」

 

「理由は?」

 

 エドワウが聞く。

 

 ララァは少し考えてから言った。

 

「若い人が上に行きます」

 

――――――――――

 

 ニュースが切り替わる。

 

 宇宙移住者増加。

 技術者募集。

 整備士、建設、輸送。

 宇宙通貨払い。

 

 若い顔が並ぶ。

 まだ不安そうで、それでも少しだけ期待している顔。

 

 ミライが言う。

 

「地球に残る親世代と、宇宙へ行く子ども世代で分かれるのね」

 

 セイラが頷く。

 

「若い者ほど、条件のいい方へ動くわ」

 

 ララァが言う。

 

「宇宙の方が、若い人が増えます」

 

 アムロが顔をしかめる。

 

「人口統計をそんな感じで言うな」

 

 少しだけ間が空く。

 

 エドワウが窓の外を見る。

 

 コロニーの光が、ゆっくりと流れている。

 

 ぽつりと。

 

「……アクシズを落とさなくても良かったな」

 

 空気が止まる。

 

 アムロが少しだけ視線を落とす。

 

「……そうだな」

 

 ミライが首をかしげる。

 

「何の話?」

 

「いや、なんでもない」

 

 アムロが答える。

 

 エドワウは視線を戻した。

 

「人口の話だよ」

 

 ララァが言う。

 

「上に来ます」

 

「だからまとめ方!」

 

――――――――――

 

「やります」

 

 ララァが言った。

 

「何を」

 

「FXです」

 

「やるな!」

 

 アムロが即答する。

 

 ララァはもう端末を操作していた。

 

 連邦通貨を売る。

 宇宙通貨を買う。

 

 小さな額。

 

 ほんの少し。

 

 だが、タイミングが良すぎた。

 

 直後、宇宙通貨がまた一段上がる。

 

「増えました」

 

「またか!」

 

 アムロが叫ぶ。

 

 ミライが頭を抱える。

 

「もう“増えました”が怖いのよ」

 

 ララァは続ける。

 

「宇宙のお金が強くなりました」

 

「人格を持たせるな!」

 

 アムロが言う。

 

――――――――――

 

 その頃。

 

 連邦側では報告が上がっていた。

 

 同じ予算で買える部材が減っている。

 宇宙通貨建て契約を要求される。

 技術者が宇宙通貨払いを希望する。

 

 机の上の見積書。

 昨日より高い。

 同じものなのに、高い。

 

 理由は一つ。

 通貨。

 

――――――――――

 

「家族に送ります」

 

 ララァが言った。

 

 アムロが端末をのぞき込む。

 

「額を見ろ!」

 

 ミライが続く。

 

「普通のお小遣いじゃないわよこれ」

 

「少し多いですか」

 

「少しじゃない!」

 

 アムロが叫ぶ。

 

 ララァは少しだけ考える。

 

「でも、宇宙のお金なので」

 

「その説明で納得すると思うな!」

 

――――――――――

 

 エドワウは、静かに端末を閉じた。

 

 宇宙通貨建ての契約を増やす。

 部材。

 輸送。

 給与。

 

 人が動く道を作る。

 

「お前、これ、操縦してないか?」

 

 アムロが聞く。

 

「市場が選んでいるだけだ」

 

 エドワウが答える。

 

 セイラが言う。

 

「その市場に道を敷いているのは誰かしら」

 

「道がないと人は歩けない」

 

「言い方!」

 

 ララァが言う。

 

「宇宙のお金の道です」

 

「乗るな!」

 

――――――――――

 

 端末の中で、オジキがまた叫んだ。

 

「いいですか皆さん!」

 

「強い通貨を持ちなさい!」

 

「黙って宇宙通貨を買っておけば大儲け!」

 

 アムロが頭を抱える。

 

「一番だめなところだけ実現した!」

 

 ララァが言う。

 

「オジキは、まっすぐです」

 

「うるさいけどな!」

 

 外では搬送車両が短い警告音を鳴らして通り過ぎた。

 

 居間の中では、ララァが静かに端末を見ていた。

 

 その静かさが、誰よりも騒がしいのだと、アムロはもう知っていた。




嫌がらず政治家になってたら、アクシズ落とす必要なかったことに気づいてしまったエドワウ。
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